第五話 笑うしゃれこうべ 十一
十
午前二時。指定された墓地は、住宅街から少し外れた場所に位置している。周辺には個人経営らしき小さな飲み屋が点在しているものの、人通りがない。平日だからだろうかと国定は一瞬思ったが、椿が言ったように、誰もが無意識に避けているのだろう。この件に関わっていなかったら、自分もここを避けていただろうか。
墓地を囲むブロック塀に車を着け、楡は開けた窓から顔を出した。生ぬるく、ねっとりと絡み付くような空気が車内に流れ込む。心なしか生臭いように思えるのは、国定の気のせいだろうか。
「椿ちゃん、まだいないね」
頭を外に出したまま、楡は車内の二人に声を掛ける。その声を受けて、杉里が首を捻った。
「遅れてるんでしょうか」
「そう言ってると突然出て来るのがあいつだろ」
「よく分かってるじゃない」
その声はやけに鮮明に、車内に居る国定の耳に届いた。
「杉里君だけ出て、ついて来て」
「俺らは?」
「あなた達は邪魔だから出て来ちゃダメ。車で入り口塞いで頂戴」
楡が肩を落とす。杉里は素直に車外へ出て、墓地の入り口へ向かう椿の後に続いた。
固く閉ざされた門を、椿は軽々と開く。ピッキングし放題だなと、国定はぼんやり考える。
「何あれ、カラス? でか」
門の前まで車を動かした楡は、門柱の上にとまった影を見て目を凝らす。
国定は窓を開けて車外へ顔を出した。片方は確かに烏のようだが、もう片方は雪のように白いメンフクロウ。烏は烏で、それとは思えない程大きい。鳥の事などよく分からない国定も、流石に烏の大きさが異常である事には気が付いた。
白と黒。対照的な羽色を持つ二羽は、椿が墓地へ足を踏み入れると同時に空中へ飛び立った。羽音を聞いて始めてその存在に気が付いた杉里が、驚いた様子で身を反らす。
「猫もいたのか」
国定が入り口で畏まった猫を見付けて呟くと、椿が足を止めて振り返る。
「紹介してあげましょうか」
「いや別に……」
「これが夜」
断りかけた国定の言葉を遮って、椿は猫を指差した。国定がなんと答えようと、彼女は連れを紹介しただろう。
猫はふいと顔を背けた。
「そっちが夕」
梟が、ほう、と鳴いた。こちらは猫と比べると、大分愛想がいい。
「カラスが朝五郎」
「昼は?」
楡が問う。やけに呑気だと国定は思うが、わざわざ突っ込む事もしなかった。
「秘密。この子達も手伝ってくれるの」
「……友達いないんだな」
椿は鬼のような形相で国定を睨んだ。ひ、と小さく悲鳴を上げた国定に、楡が噴き出す。
ころりと表情を変えた椿は不気味な静寂を保つ墓地へと向き直り、更に石畳を進む。通路のすぐ脇にずらりと墓石が並び、一番奥にこぢんまりとした本堂が建っていた。
「さ、始めましょう」
静寂に響く声が合図であったかのように、微かな笛の音が杉里の耳に届く。あの時と同じ音だ。しかしあの時より遥かに、不気味に聞こえる。
心細い気分になって後ろを振り返ると、車の窓から顔を出す楡と国定が見えた。それだけで、杉里は安堵する。
烏が一声鳴いた。随分とどすの利いた声だなと、杉里は考える。考えている間に、椿が何かを指差した。華奢な指は真っ直ぐに本堂へ向いている。
車の中から墓地を見ていた国定はその光景に、我が目を疑った。いつの間にか開け放たれていた観音開きの扉から、人影がぞろぞろと出て来る。暗い上に国定の位置からでは遠すぎてまともに確認出来ないが、それでも異様である事は分かる。ふらふらと覚束ない足取りで向かって来る人々の顔には、生気というものがまるで感じられなかった。誰もが皆虚ろな表情で、どこを見ているのかさえ分からない。
「知能がない分、死ぬ事に対しての恐怖がないから、何するかわかんないわよ。気をつけてね」
「もう死んでますが」
椿は呆れた顔で杉里を振り返ったが、すぐに向き直る。
「……傷つけられる事に対する恐怖心がないって事よ。ほら、ぼさっとしてないで」
うう、と呻いて、杉里は薄手のジャケットの懐から包みを取り出した。愛用の出刃包丁。それと屍とを交互に見比べる杉里の目の色が、徐々に変わって行く。包丁の刃を包んでいた布を取り払った時、杉里が纏う空気までもが明確に変化した。
車内から見ていた国定は、杉里からそっと視線を逸らす。彼は死体を見るのは好きだが、殺戮シーンを見たいとは思わない。それらは微妙だがしかし、国定にとっては大きな相違だ。
「殺し溜めしとけば、杉さんしばらくは落ち着くかな」
「さあな。相手は死体だからな。微妙なんじゃないか?」
国定と楡が下らない会話に勤しむ間にも、屍は杉里と椿を徐々に取り囲んで行く。彼らに団体行動を起こすだけの知能はないから、耐えず微かに響き渡る笛の音によって、操作された行動だ。屍によって構成された円の中で、杉里は唇の両端を吊り上げて笑う。彼にしてみれば、こんなに楽しい事は二度とないだろう。同じく椿も、目を細めて微笑を浮かべていた。
「さあ杉里君」
烏の低い鳴き声が響く。
猫が姿勢を低くする。
梟が舞い上がる。
杉里が包丁の柄を握り締める。
椿の目が、金色に輝く。同時に、人間には到底達する事が出来ない程の高さまで飛び上がって、すぐに降下する。そしてあろうことか、屍の頭上へ着地した。バランス感覚以前の問題だ。
「存分にどうぞ」
椿の体が地に落ちた。否。ブーツのヒールが屍の脳天に食い込み、一気にその体を縦に引き裂いたのだ。彼女はヒールに毒薬を仕込んでいる。裂けた屍が白煙を上げて、地面に崩れ落ちた。
「なんだろあれ、毒? 反則だろ」
「多勢に無勢な時点でフェアじゃないと思うがな」
呑気な会話を続ける二人が見守る中、人垣が組む円陣が徐々に窄まって行く。
「やあね、ババァ潰す前に疲れちゃうじゃない」
一斉に飛びかかってきた屍から身を低くして逃れ、椿はぼやいた。杉里は爛々と目を光らせて、屍の額に包丁の切っ先を次々に突き立てている。掴みかかる屍一人一人の頭へ確実に刃を埋めて行きながら、杉里は鼻歌まで歌っていた。
国定には内の様子が全く窺えない。目がいいとは言え、楡も見えないだろう。ただ、円の中心から赤い肉片が飛び出すのが時折見える程度だ。
これでは見に来た意味がない。うんざりと逸らした国定の視線の先に、梟が映った。夕という名だったかと考える間もなく、森の暗殺者は音もなく滑空し、その鋭い鉤爪で外側にいた屍の頭を掴む。果たしてあれは本当に梟なのかと、国定は疑念を抱いた。
鉤爪が食い込んだ途端、屍の頭が骨を失ったかのように、急速に崩れて行く。梟が離れると同時に、屍の髪が頭皮ごとずるりと地面に落ちた。露出した頭の骨が溶け、それに包まれた脳までもが一緒くたに流れ出して行く。
「今度はちゃんと、毒盛って来たわよ」
微かに聞こえた椿の声に、どんな毒だ、と国定は心中突っ込んだ。それよりも、円の内側にいる彼女に何故梟の所行が見えたのか。疑問に思いはしたが、落首花の事など考えるだけ無駄だと、国定はそう結論づける。
猫が屍の首に食らいつき、その首を次々に引きちぎって行く。猫の顎の力で、人の首など噛み千切れるものなのか。地面に転がり落ちた頭に、烏が大きな嘴を突き刺す。どちらの傷口からも白煙が上り、傍目にも組織が溶け出している事が分かる。
国定は、本当にあれは動物なのかと些か呆れた。連携プレイと言うべきなのだろうか。滅茶苦茶だが、確実に一体一体を仕留めているようだ。杉里の助けなど必要なかったのでないか、という気さえする。
「数が多いわね」
呟いた椿はどこからか取り出した大鎌を一振りし、周囲にいた屍の頭蓋を纏めてすっぱりと切り裂いた。屍の群れの上に頭皮が張り付いたままの頭蓋と、脳髄の一部が降り注ぐ。少女の力では人の頭など切れないので、こちらにも劇薬が仕込まれている。
最早動いている屍の数は、最初の半分に満たない。
椿は屍が倒れた事によって開いたスペースから高く跳躍し、軽々と屍の山を越えて円の外側へ着地する。地面に転がった頭部を蹴り飛ばし、椿は本堂を仰いだ。
「無駄よ糞婆ァ。さっさと出て来なさい」
静かだが、強い声が暗闇に響く。継続的に続いていた笛の音が、ぴたりと止んだ。国定は突如として場に落ちた静寂に、怪訝な面持ちで辺りを見回す。硬質な物同士がぶつかり合うような打撃音だけは、相変わらず聞こえていたが。
「……な、なんか出て来たよ国さん」
楡の声が珍しく緊張している。国定には何も見えない。
「何がだよ」
胡散臭そうに呟きながらも、国定は目を細める。じっと目を凝らす内に、その姿が朧気に見え始めた。
国定は息を呑む。目を凝らしたから見えて来たのではない。それは徐々に、入り口に背を向けた椿の向こう、何もない空間に姿を現し始めている。
何かが一斉に倒れたような音が、国定の耳に届く。慌てて屍の山の方へ視線を向けると、そこには杉里だけが立ち尽くしていた。背中を向けている為、その表情は窺えない。
屍の上に、烏と梟がそれぞれとまっている。猫は山から離れて尻尾をぴんと張り、毛並みを逆立てていた。
包丁を取り落とし、ぼんやりとした様子で突っ立っていた杉里は、ふと車の方を振り返って苦笑いを浮かべた。白かった筈の開襟シャツが、まだらに赤く染まっている。
今の今まで動いていた筈の屍達は、一様に地面へ倒れ伏していた。笛の音が止まったせいだろうか。
「杉さん戻って!」
椿は何も言わなかったが、楡は流石にまずいと感じたのだろう。怒鳴るような声を聞いた杉里は、屍の山の中に落ちた包丁を手探りで拾い上げ、のこのこと車へ戻った。流石に汚れたまま乗り込むのは気が引けるのか、門柱に体を預け、車を背にして墓地へと向き直る。瞬間、杉里の表情は驚愕に歪んだ。
「あら。そんな可愛くないの、まだ飼ってたの?」
椿の声が、完全に静寂に包まれた墓地の隅々まで響き渡る。そんなの、と言われたもの。その巨大な姿はようやく全貌を現し、不気味に蠢いている。
国定は凍り付いた。眼前に突如として現れたもの。それはつい一ヶ月前あの研究所で見た、九頭の大蛇であった。絡み合う裸の男女の死体によって構成された巨大な蛇の姿は、艶めかしくもおぞましい。国定は、知らず鳥肌を立てる自分に気が付いた。
「お気に入りのペットだからね。お前さんこそ、脆弱なモンばっかり三匹も飼ってどうするつもりだい」
椿の声に答えたのは、あの研究所で国定が聞いた、嗄れた老婆の声ではなかった。
「目立たないに越した事はないわ。……随分めかしこんじゃって。無駄な努力ね」
椿が見上げた先。高々と鎌首をもたげた大蛇の頭上に、人影があった。黒のロープを纏ってはいるものの、その姿は遠目に見ても老婆ではない事がはっきりと分かる。
濡れたような艶を放つブルネットの巻き髪。緩やかに弧を描く赤い唇。日本人では到底有り得ないような、つんと高い鼻。切れ長の目。
日本人ではないのだろうと、国定は考える。老婆とばかり思っていたので、少々拍子抜けした。
「若い男の子が大勢いるからねえ。身だしなみは礼儀ってものだろ」
「何が身だしなみよ、シワシワのババァのくせに」
椿の口振りから、大蛇の頭上に座った女が笛吹であるのだと、国定には察しが付いた。随分と変わってしまったものだ。
「歳食っても見た目が変わらない、お前さんのような化け物とは違うのさ。それにお前、アタシより歳は上だろ」
風に乗って聞こえて来る会話に耳を澄ましていた楡が、俄かに凍り付いた。国定は哀れむような視線を向ける。
「歳なんていちいち数えてないわ。あたしは永遠に十六歳なの」
「阿婆擦れがカマトトぶってんじゃないよ。死んだ旦那が泣くよ」
椿は馬鹿にしたように鼻で笑う。
「カマトトぶったアバズレがいいって男なんて、いくらでもいるのよ」
嘘だ。国定は眉を顰めながら、心中で突っ込む。そんな男がいるものか。
「まあ、アバズレ婆よりはマシだけどね」
笛吹は眉間に皺を寄せてすっと手を上げ、人差し指を前に突き出した。大蛇の頭が一斉に動き出す。相変わらず動きは鈍いが、この巨体で素早く動けと言われても、土台無理な話だろう。
「ちょっとそこの観客に、教えてあげて欲しいんだけど」
椿は迫り来る土気色の蛇頭に向かって、鎌の刃を突き出す。長い柄の先端に、干からびた手がいくつも取り付けられていた。菊の花かイソギンチャクでも生えているようかのようだ。
「あなたの目的は何? どうしてこんな事してるの?」
「そうさねえ」
笛吹きの声は、些か強張っているようにも思われた。椿の発言が癪に障ったのだろう。
「お前さんが気に食わないからさ」
「そうでしょうね」
別の首が二つ、左右から椿に迫る。彼女は小さく笑って、正面から迫る頭に宛がった刃を一気に押し進めた。銀色に輝く刃が蛇の頭にめり込んで行く。それを見た笛吹きの表情が、憎憎しげに歪んだ。
「この化け物……!」
ヒステリックな声が、墓地に木霊する。
国定の位置からは、大蛇の首が縦に引き裂かれたように見えた。しかしそれは研究所で見た時のように、修復される事もない。蛇の頭は二つに分かれたまま呆気なく力を失い、その場に崩れ落ちる。絡み合った死体がぼろぼろと地面に落ちて行き、見る間に山となって積み上がった。
同時に漂って来る、鼻を突く異臭。血の臭いと肉が腐った臭い。それから死体に染み付いてでもいるのか、甘いムスクの香り。それらが混じり合って、恐ろしい悪臭へと変化している。
椿は後ろへ飛びのいて、迫り来る首から逃れた。
「あたしが何の策も無しに二度も挑むと思った? 対抗術ぐらいちゃんと得物に施してきたわよ。諦めなさい」
笛吹きは最早何も言わなかった。鬼のような形相で、椿を睨みつけている。
「アタシを殺すのかい」
「ええ、殺すわ。あたしもあなたが気に食わないんだもの」
梟が音もなく、上空から舞い降りる。鋭い鉤爪を前に突き出し、椿へ迫った蛇の首に向かって急速に降下した。白い毛並みを真っ赤に汚した梟が離れると同時、その首が分解されて行く。
「どうしてだい」
笛吹きの声に、椿は顔を上げないまま首を傾げた。舞うような動作で鎌を繰り出し、突き出された首を跳ね飛ばす。また一つ、大蛇の首が失われる。
「あなたがあたしを嫌ってるからよ」
黒猫が大蛇の背面を這う尾の一つに喰らいつく。烏が嘴を蛇の頭部に突き立てる。一つ一つ確実に、彼らは大蛇のパーツを破壊して行った。
「アタシはね、お前さんのその顔が憎い」
大蛇の動きが止まった。死体の山から放たれる強い異臭に鼻を摘みながら、国定は怪訝に眉を顰める。風に乗って聞こえて来る声は、静かだった。
「妬んでいるのさ、格上のお前さんを。どれをとっても、アタシはお前さんにゃ敵わない。だから憎いのさ。女ってな、そんなモンだろ」
「だから死者の町にしようとした? あたしとは全然関係ないのに?」
「そうさ。理由なんざ、ないに等しい。みんな死体になっちまえばいいのさ。そうすりゃお前はいずれ死ぬ」
「自分勝手ね」
椿はそれだけ言って、高く跳躍した。降下する途中で、大きく鎌を振り被る。笛吹の首目掛けて刃が迫ったがしかし、その首が落ちることはなかった。椿は目を見開く。鋭い刃は、笛吹の首の皮すら通らない。
首の皮一枚すら切る事が出来ず、大鎌を振り抜く事も出来ずに、椿は着地する。
笛吹が笑った。耳につく高笑いは、確実に椿の神経を逆撫でする。少女は目を細め、笛吹を見上げて睨んだ。漆黒であった筈の双眸が、金色に輝いている。
「お前が憎い憎いと言ってるアタシが、お前さんに易々殺されてやると思うのかい?」
動きを止めた大蛇の頭上から飛び降りた笛吹は、軽々と地面に着地した。
「お前さんの毒はアタシには効かない」
笛吹が一歩、椿に歩み寄る。
「その鎌の刃もお前さんのペットも、アタシには傷一つつける事なんて出来やしない」
椿は動かない。真っ直ぐに笛吹を見つめたまま、無造作に下ろした右手で鎌を握り締めている。その整った無表情からは、感情の欠片さえも窺えない。
「さあ、どうするんだい毒姫。お前さんはまだ、オロチを壊しただけだ。アタシを殺さない限り、お前さんの可愛い息子はいつかアタシの傀儡になる」
笛吹は更に詰め寄る。
「それでもお前は、アタシを殺せない!」
殆ど怒鳴り声だった。狂気に歪んだ顔は、最早美しいとは言えない。
国定は、煩いまでに響く己の鼓動の音だけを聞いていた。このまま椿が負けたら、どうなってしまうのだろう。椿が負けたら、誰があの女を止めるというのか。このまま黙って、世界が屍で満ちるのを見ているしかないのだろうか。そんな悲観的な考えばかりが頭の中を巡る。
しかし椿は、ゆっくりと微笑を浮かべた。
「嫉妬に狂う女って、ババァじゃなくても醜いものよ」
笛吹の表情が歪む。怒りではない。目を見開き両の眉を上げたその顔は、驚愕を示していた。
椿の左手が、笛吹の胸に伸びていた。その漆黒の袖口から、真っ白な蛇が顔を出している。蛇は笛吹の黒衣を突き破り、その胸に牙を突き立てていた。
「この子の毒は、天然モノなの。流石に効くでしょう?」
笛吹の表情が、段々と弛緩して行く。何か言いたげに、酸欠の金魚の如くぱくぱくと口を動かした後、その場に崩れ落ちた。
「オロチ使いが蛇の毒で死ぬなんて、滑稽ね」
呟きながら、椿は入り口を振り返った。辺りを漂う異臭に閉口して一様に鼻を摘んだ三人は、思わず身を竦める。
「これが昼。昼子よ」
にっこりと微笑んで、椿は三人に向かって左腕を突き出した。赤い口を開いた白蛇は、ちろちろと赤い舌を出す。まるで挨拶でもするかのように。
「……もうどうでもいいよ、そんなの」
脱力したように肩を落とし、楡は疲れた声で呟いた。