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化粧師  作者:
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第五話 笑うしゃれこうべ 一

・スプラッタ描写があります。

・性的行為を連想させる描写があります。お気をつけ下さい


 頬に貼り付いた桜の葉を剥がして忌々しげにアスファルトへ打ち捨て、娘はブロック塀に手を付いた。途端によろけて体ごと勢い良くぶつかるが、彼女は一瞬目を閉じただけで、元々歪んだ表情をそれ以上変える事はない。

 荒い呼吸に合わせて、華奢な肩が忙しなく上下している。外傷は見当たらないが、白い顔が痛々しいほど青ざめていた。眉を顰めた苦しげな表情は外見の年齢にそぐわず、どこか妖艶にも見える。

 白い羽を真っ赤に染めた梟が、弱々しくほうと鳴く。薄汚れて毛羽立った体毛が痛々しい。それを背負った黒猫が、不安げに主人を見上げた。娘の頭上遥か上空を、鳶ほどもある巨大な烏が旋回している。

 しくじった。何十年に一度あるかないかの惨敗だ。否こんな事は、今までになかった。如何にこちらが強かろうと、数で来られては流石に太刀打ち出来ない。碌に準備をしないまま、吹っ掛けてしまった。相手を見くびりすぎていた自分の落ち度だ。その事実がプライドの高い彼女の神経を逆撫でする。

 まともに歩けない程消耗している。この時期でさえなければ、こんな事にはならなかっただろう。青々と若葉を茂らせる桜の木に、精気を奪われて行く。

 塀に寄りかかるように、彼女はゆっくりと歩を進める。しかし途端に目眩が襲い、歩く事すらままならない。塒までの道程が恐ろしく長い距離のように感じた。せめて休める場所があれば、少しは違っただろう。けれどこの街に、誰の目にもつかぬ場所などない。人通りの少ない事が、彼女にとって唯一の救いだった。

 娘はぐらりとよろけ、その場に膝を付いた。そのままアスファルトへうつ伏せに倒れこむ。猫が民家に向かって長く鳴いた。


 笑うしゃれこうべ


  一


 杉里登は吊革に掴まったまま、開いたノートを眺めていた。ずんぐりとした体はどんなに電車が揺れても、重心が振れる事はない。見た目以上にしっかりとしているのは、太めな体を構成する殆どが脂肪ではないせいだろう。相撲取りと似たようなものだ。

 杉里は大きなカメラバッグを肩から提げている。見た目にも重量感のあるそれはずるずると滑り、杉里は肩から落ちてくる紐を時折かけ直す。網棚に乗せればいいのだが、杉里は特に重たいとも感じない。彼にしては珍しく眉根を寄せた神妙な面持ちで、ノートに書かれたミミズがのたくったような文字を目で追っている。ノートの中身は、書いた杉里以外は誰も解読することが出来ない。

 隣で俯く青年もまた、優男然とした顔に思い詰めたような表情を浮かべていた。セルフレームの黒縁眼鏡と相俟って、貧乏苦学生といった印象を見る者に与える。沼津誠一は、出来る事なら付いて来たくなどなかった。しかし今回こうして電車に揺られているのは、彼が任された事件の取材の為だ。本来ならば杉里が同行してくれただけ、有り難いと思うべきだろう。頭では理解しているのだが、それでも沼津は気乗りがしなかった。

 車内アナウンスと共に、扉が開いた。乗り込んで来る者はそう多くない。吊革を掴んで肩を落としただらしない体勢のまま、沼津はドアの向こうを眺める。

「……杉里さん、この駅ですよね」

 顔を上げた杉里が眼鏡の奥の丸い目を見開いて駆け出した。相当慌てている所を見ると、沼津の指摘は正しかったのだろう。沼津も不本意ながら後を追い、閉まりかけたドアからホームへ滑り出た。

「ああ、驚いた。もっと早く言って下さいよ」

「す、すいません」

 杉里は改札を抜けて、桜並木を横目に進む。その背中を追いながら、沼津は辺りを見回す。花は散ってしまっているが、色鮮やかな葉桜もまた、いいものだと彼は思う。毛虫は苦手だが。

「でもやっぱり、安直に過ぎると思うのです」

 頭を傾けた杉里が、背後の沼津に言った。短い首はシャツの襟に隠れて全く見えないので、頭が肩の上へ転がっているように見える。青年は少々むっとしたような表情になる。

「僕は楡さんが犯人だと決めつけているワケじゃありません」

 沼津とて、そうと断定している訳でない。寧ろ違うと思いたい。それでも彼は疑ってしまうのだ。安易に知り合いを疑いたくはないが、万が一という事もある。頭からそうと決めつけて確証を取りに行くのではなく、そうではないと確認しに行くのだ。杉里はそこをよく理解してくれていない。

「はあ。いえ、沼津君がそう確信していると思っているのではないのです。仮定するにしても、安直すぎると」

「ああ」

 早合点しすぎたようだ。沼津は頭を掻いて杉里に頭を下げた。

「でも、彼を知る人は真っ先に疑うでしょうね。彼の知り合いも皆が皆、あの趣味を知っているわけではないですが」

 住宅街に入った杉里は、二階建ての一軒家の前で立ち止まり、カメラバッグを担ぎ直した。古くはないが新築にも見えないこの家には、三十前後の姉弟が二人で暮らしている。それにしては豪華に見えるのは、元々彼らの祖父母が住んでいた家を改築してあるせいだろう。決して彼らの生活水準が高いという訳ではない。

 インターホンを鳴らして暫くすると、鍵が開く音がした。事前に連絡を入れておいた為だろうが、訪問者が誰であるのかさえ確認しないまま鍵を開けるとは、無用心にも程がある。

 開いた扉から青年が顔を出した。緩いウェーブのかかった茶髪が風に靡いて揺れている。杉里はパーマなのかと思っていたが、どうやら天然のようだ。

 眠たげな二重だが、大きな目はくっきりとして強い印象を与える。縁取る睫毛は女のそれのように長い。少し上向き気味の鼻は外国人かと思う程高く、ハーフのような甘い顔立ちを、凛々しい眉が引き締めていた。

 楡宗一郎は杉里に向かって僅かに笑いかけた後、その後ろの沼津を見ると、子供のような仕草で首を傾げた。

「それ誰?」

 沼津は動揺したが、杉里は慣れた様子で彼を紹介した。一度会っただけの関係ではあるが、凄惨な事件に巻き込まれた事で勝手に仲間意識を持っていた沼津は、少々残念に感じる。

 楡は男の顔を中々覚えない。覚えられないのではなく、記憶しようとしない。実際、女の事なら顔はおろか生年月日すら一度聞いただけで簡単に記憶する。同性に嫌われるタイプだが、性格的なものもあってか、嫌味な印象を受ける者もそういない。得な性分なのだ。

「……覚えてないや。上がって」

 名前を聞いても思い出せなかったようだが、興味もない素振りで楡は玄関へ引っ込んだ。彼には対人関係に於いての一般常識というものが欠けている。

 杉里はお邪魔しますと言いながら玄関に上がり、沼津も微妙な表情でそれに続いた。疑われる楡がかわいそうだと思っていた彼の心境も同じく、微妙なものとなる。人を嫌う事をよしとせず、誰にでも好かれたいと思う沼津などにとって、楡のような人間は苦手とするタイプだった。それすら楡にとってはどうでもいい事なのだろうが。

「勝手に座って。麦茶でいいよね」

 台所へ入った楡は、カウンター越しに客人たちへ声を掛けた。杉里は片手を軽く挙げて応える。

「お構いなく」

 楡は業務用のものらしき大きな冷蔵庫を開けて、作り置きの麦茶を取り出した。無論、彼がそんなまめな事をしている訳ではない。楡というのは生来怠惰な性格だ。

 作り置きの麦茶は、彼の姉が作ったものだ。炊事を一切受け持っている彼女は、今時の若い女性といった見た目に反して家庭的である。その気になれば、すぐにでも嫁の貰い手がつくだろうと杉里などは思う。性癖が特殊でさえなければ。

 杉里は床にカメラバッグを置いて、ダイニングに着いた。その隣の椅子を引いて、沼津が腰を下ろす。灰皿に何本か吸殻が残っている以外は、綺麗に片付いたリビングだった。散らかった汚い部屋で一人暮らしをする沼津は、見習わなければならないと思う。思うだけで、態度を改めるかどうかはまた、別の話だが。

「あったかいねえ。杉さん花粉症、もう大丈夫?」

 二人の前に麦茶を置きながら、軽い調子で楡が問う。

「去年突然治ったです。国定警視が身代わりになってくれました。ついこの間電話したら、死にそうな声だったですよ」

「あれ、今度は国さんが花粉症か。やだねえ、まだ花粉飛んでるのかな。沼津君は?」

 テーブルに頬杖を付いた楡が視線を流す。グラスに口をつけていた沼津は、徐に拳を握った。

「高校のとき、気合で治しました!」

 楡は声を上げて笑った。無邪気な男なのだ。彼の行動や外見からは、年齢の判断がつかない。

「それで楡君、単刀直入に申し上げますが」

 突然真剣な表情になった杉里が、唐突に切り出した。楡は大きな目を丸くして、彼を注視する。常に物腰の柔らかな杉里の表情の変化に驚いたのだろう。

「最近、火葬場に出入りしてませんよね?」

 あまりに直接的な物言いに、沼津は内心冷や汗をかく。楡は濃い眉を顰めて、渋い表情を作った。

「それ、あれだろ。連続遺体略取事件」

 すぐに合点が行ったようで、楡は嫌そうに返した。

 ニュースで散々報道されている事件だ。幾ら楡の頭が悪いとは言え、火葬場と言われて、それと結び付けない筈がない。

 火葬場から死体が盗まれるという、意図の分からぬ盗難事件なのだが、その規模は並大抵のものではない。日本中の至る所で起きており、今までに盗まれた遺体の数も、公表されているものだけで三十は下らない。また盗まれるタイミングが、全て火葬炉に入ってからという点と、その方法が不明である点から、同一犯によるグループ的な犯行と見做されており、近年稀に見る怪奇事件と、連日耳にタコが出来る程執拗く報道されている。杉里の会社も、ここ最近はその話題で持ちきりだった。

 随分とフットワークの軽い変態集団もいたものだと、杉里は連日大々的に報道されるニュースを見ながら思っていたものだ。変態か否かは不明だが。

「俺じゃないよ、義近にも言われたけど。ニヤニヤしながらサ。むかつく」

 楡は憤慨した調子で言いながら、テーブルの引き出しから煙草を取り出して一本抜き取り、火を点けた。うんざりしたような表情を見る限り既に何人かに勘繰られているようだが、無理もない。

「それにさ、一週間に一体は死体見つけるのに、わざわざリスク犯してまで盗む必要ないから」

「そ、そうですよね」

 沼津は少しでも疑心を抱いていた自分を恥じた。杉里も安堵したように肩の力を抜いている。本人に直接否定されて安心したのだろう。

「その事件追ってるの?」

 横を向いて煙を吐き出し、楡は問い掛けた。横着な人形師と違って一応気遣いはするのだ。

「はい!」

「なんで?」

「自分がバーンとこう、犯人を挙げられたらかっこいいからです」

 沼津の表情は、真剣そのものだった。彼の熱意だけは杉里も認めているが、動機が不純に過ぎる。記者の仕事は調査して記事を書く事であって、事件を解決する事ではない。

 楡は大きな目で暫く沼津を見ていたが、ふうんと鼻を鳴らした。

「まあ、頑張ってね」

 意外とドライな人種なのだ。

「楡くん、突っ込んでもいいんですよ」

「なんで?」

「変でしょう、この人」

 杉里は隣の沼津を指差して言った。当の本人は不思議そうに首を捻っている。

「変じゃないよ。不純な動機じゃなきゃ、人って頑張れないもんだろ」

 事も無げに言った楡の整った顔を、杉里は目を円くしてまじまじと見た。

「悪事を暴きたい! とか言われたら変だと思うけど。ウソ臭いじゃん、そーゆーの」

「ですよね、変じゃないですよね!」

 言葉の意味をどこまで理解しているのか不明だが、同意されて、沼津は明るい声を上げた。真面目そうな見た目に反して、能天気な男なのだ。

 反対に楡は無邪気な性格の割に、時折冷淡な面を覗かせる。性格から来た冷たさと言うよりは、胸に大きな歪みを抱える倒錯者ならではのものなのだろう。楡や国定に言われるとなんとなく納得してしまうのは、その為だろうかと杉里は考える。

「変なのは犯人だよね。そんなに死体集めてどうするんだろ」

 それはその通りだと、杉里は思う。既に各所で議論が成されているが、残念ながら万人が納得するような理由には至っていない。死体蒐集家のグループ説が濃厚だが、それも腑に落ちない。しかしながら、殺人を犯さないだけマシであるとは言える。

 人を殺さないだけで、それが犯罪である事に変わりはない。罪は罪であり、須らく罰せられるべきものだ。罪の重さ軽さが世間一般の判断基準だけで分けられる筈もない。

 それでも殺人と言う罪が何よりも重い事を、杉里はよく理解している。理解しているからこそ、殺人という行為自体を恐れない代わりに、その罪を恐れる事もしない。いずれ必ず罰を受ける。そんな事は杉里自身分かっている。だから何の気兼ねもなく人殺しが出来る――というのも、変な話ではあるのだが。

「死体を盗んでどうするんでしょう」

「臓器売買とかですかね」

 流石の楡も呆れた視線を沼津に向けた。理由が解らず彼はきょとんと目を丸くするのみだが。

「それは無理です」

「え、どうしてですか」

「大胡博士のとこの研究員かな」

 驚いた声を上げる沼津を無視して、楡は言う。伏せた睫が邪魔そうに見える程長い。視線を落としたその表情は、何か思い起こしているようにも見えた。

 楡は指先で煙草を摘んで灰皿へ押し付ける。指がすらりと長く、女好きのしそうな手だ。何にせよ性癖があれでは、と同性の視点から見る限り杉里はそう思うが、女の方は気にならないようだ。隠しているような風でもないがわざわざ向こうが聞く事もないだろうし、楡自身聞かれない限りは言わないだろう。事実、杉里が知る限りでも、彼の恋人が代わったのは一度や二度ではない。ばれてふられた、といった所だろうと、杉里は勝手に判断している。

 その彼はつい先月、天才サイコキラーの被害に遭った。あの狂化学者をサイコキラーと呼ぶのかどうかは謎だが、少なくとも世間ではそう言われている。あの時は流石の楡も、かなり参っていた。死ななかった事が奇跡と言える。

「博士の意志を継いだ者……ですか」

 杉里が呟くと、沼津が目を輝かせた。

 沼津は先の事件について書いた記事で、世間的には一躍脚光を浴びた。警察ですら知り得ない真実を、いの一番に公にしたのだ。今や社内では神と崇められる程だが、それも偏に杉里らのお陰と言える。

 杉里は損な性分なのだ。沼津にネタを提供したのは、沼津が先に記事を任されていたからで、杉里が自分で書こうと思えば幾らでも書けた。だから杉里に少しでも他者を出し抜く狡猾さがあったなら、今社内で持て囃されているのは、杉里だった筈だ。沼津の代わりに儲けていた筈なのだ。

 それをしなかったのは彼に欲がなかったからではない。杉里にも記者として有名になりたいという気持ちはあるし、今より少しでも稼ぎたいという俗物的な欲求もある。

 杉里は正直に過ぎる。一つの事しか考えられない不器用さ故に、自分で記事を書くという所まで、考えが及ばなかった。それだけの事だ。

「あんな研究に付き合うくらいだから、大体皆、研究内容に賛同はしてたんじゃないの?」

 沼津が何か言い出す前に、楡は早口で言い切った。短い腕を組み、杉里は首を捻る。

「あそこの研究員は多くて五、六人だった筈です。仮にその全員が大胡博士の意志を継ごうと画策していたとしても、遺体が盗まれるペースが早い事や、地域が広範囲に渡っている事などを考えると、難しいと思います」

「物凄くフットワークが軽いんじゃないですかね」

「物凄く軽くても無理です。それこそ全国に何人かずつ、協力者でもいない限りは」

 杉里は考え込むような姿勢のまま決然と言い切った。杉里にしろ楡にしろ、最早沼津の意見をまともに聞くつもりはない。しかし沼津がそれを気にする様子はなかった。

 背中を丸めて、両手で頬杖をついた楡が唇を尖らせる。彼の行動に意味はない。

「じゃあ協力者がいたんですね」

「単純だね、まことちゃん。生きてて幸せだろ」

 楡は冷たく突っ込んだ。思った事をそのまま口に出しているだけなのだが、その響きは辛辣だ。更にいつの間につけたのか、勝手にあだ名で呼んでいる。私服のセンスは変わっているだけで悪くはないのだが、ネーミングセンスだけは最悪だ。

「なんですかそのまことちゃんて」

「誠一だから」

 意味が解らない。

「そういえば、勝訴しましたね」

 脈絡がない。

 杉里が発言したにも関わらず、沼津は真剣な表情で、身を乗り出して楡を見た。気の抜けた視線が、上目遣いに沼津を見返す。

「それより愛ちゃんですよ。自分主演AV集めてたのに」

「マジで? 貸して、焼くから」

 お互い真剣な表情だったが、発言の内容は下らない。楡などそんなもの見る必要はないだろうと杉里は思うが、それとこれとは別の問題だ。逸れた会話に枯れた杉里が入る余地はなく、彼は視線を二人から外す。

 インターホンの音が、玄関から届いた。男子高校生のような会話に没頭していた楡が、顔を上げて玄関を見る。

「誰かな」

 楡が立ち上がったが、玄関へ向かう前に、鍵が開く音がした。姉の美佐子は水商売の為この時間は寝ているから、鍵を持っている人間は後一人。

「宗! お前何やってんだよ!」

 血相を変えて飛び込んで来たのは楡三姉弟の真ん中、楡孝太郎。変食の姉と変態の弟に挟まれる哀れな長男である。

 日本人離れした顔立ちの宗一郎と兄弟であるとはとても思えない程凡庸な男で、似た所と言えば天然パーマと眠たげな二重ぐらいのものだ。母親が凡庸な人であるから、孝太郎は母に似たのだという事で、兄弟の間では落ち着いている。

 もっとも楡の両親は、揃って変人なのだが。

「あ、すいません。杉里さんもいらしてたんですね」

 孝太郎は杉里の姿を認めて軽く頭を下げた。いいえ、と杉里は曖昧に笑って返す。弟の方は不満げに口を突き出していた。沼津は不思議そうに孝太郎を見ているが、彼に説明してやる程心優しい人間など、この場には存在しない。

「……それ、連続遺体略取事件の事?」

 濃い眉を片方だけ歪めて、楡は兄にそう聞いた。

「お前以外に誰があんな事するんだ」

 肉親にまで疑われては流石の宗一郎も肩を落とすしかない。恐らくずっとこの調子で疑われ続けているのだろう。

 杉里は憮然とした表情の楡を、哀れんだ目で見詰めていた。

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