邂逅
「おい、明日香。今日も、あれ頼むよ」
いつもと同じ光景。
憂鬱な時間。
目の前に立つ、制服姿の茶髪に染めた女子高生は、毎日私にあるものを要求する。
金である。
金を要求するような関係はひとつしかないだろう。
そう、いじめだ。
中学の時からずっと同じクラスであり、先生からも仲が良いと思われているため、助けを求めても無駄。
親にも相手にされず、先生はおろかクラスメイトのいじめを知っている人ですら助けてくれることは無い。
「は、はい。今日は何円なの?」
自分でもいつからなのか分からないが、声は掠れるかのように小さく、体は常に怯えて震えている。
そんな姿に耐えられなかったのか、茶髪の女子高生は私の頬を思い切り叩く。
「何円なの?だって?何円ですか?でしょうが!?」
同級生であるはずなのに敬語を強要する。
完全な上下関係が生まれていることが実感出来る。
「す、すいません...」
またもひ弱な声で返答してしまう。
しかし、次は呆れたのか、普通に返事をした。
「1000円。それでいいよ今日は」
いつもに比べ、倍近く少ない金額に一瞬驚愕を浮かべてしまう。
だが、毎日こんな風にお金を取られてはお金はすぐに尽きてしまう。
1ヶ月のお小遣い、1万円に毎日の昼食代を足しても遥かに足りない。
そのため、あるバイトのようなものをしているが、学校にバレたら恐らく退学だ。
そこまでの危険を冒してまで、払わされているが、こうしなければならない理由は2つある。
1つは、中学一年から毎年無理やり撮られている裸の写真のせいだ。
払わなければ拡散する、と脅されては従う他ない。
そしてもう1つは────────
都内でも有数の名門高校として知られる、麗美学園は、学力第1主義であり、私────海野明日香は受験をトップで通過した。
だが、何故か中学の時のいじめっ子グループも受験を通過し、同じ高校になってしまった。
不幸中の幸いか、幼なじみの須郷海斗も受験を通過した。
最初は海斗と、一緒に通学をしていたが、徐々にいじめっ子グループの行動はエスカレートしていき、今に至る、という訳だ。
最近では最早慣れてしまい、苦でもなんでもない時間だが、内面ではかなりストレスが溜まっているのかもしれない。
自然に涙が出ることが多いのだ。
夢も何も無く、ただいじめっ子の指示に従うだけの高校生活。
感情は一切無くなり、目から光も消えた。
元々、中学の時から目立たないように眼鏡をかけていたのだ。
1人でいることには慣れた。
昼食の時間は1人でほんの少しのおにぎりを食べる。
その後はひたすら予習。
何の娯楽もなく、何の楽しみもない。
そんな日々を変えたのは、やはり現代的なもの────SNSであった。
SNSで「病み垢」なるものを知ったのは1年生の二学期の始まりであった。
何気なくフォロワーを見ていたら見つけたのだ。
病み垢の人達はみんな自分と同じく、不遇な境遇にあった。
試しに病み垢を本名と違う「美帆」名義で作り、今の境遇をツイートすると、すぐにいいね、やリツイートが溜まり、なんだか理解者が出来たようで嬉しかった。
病みツイートをする度に返信してくれるフォロワーも出来た。
家にも、学校にも逃げ場がなかったが、SNSに逃げ場はあったのだと、この時気づいた。
病み垢を使っていくうちに、いつも返信をくれる、病み垢界隈で「闇様」と呼ばれる、「陸也」というフォロワーが気になってきていた。