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からくり娘 あいぽん

作者: 双郷いまり

眠っていた間にどうやら雨が降っていたようだ。

ばたばたと荒れ寺の屋根に振り付ける雨の音に目を覚ますと、むせ返るような雨の日特有の匂いで

なんとも言えない気持ちになった。


あれからどれくらいの時間が経ったのだろう。

今この国は敵国の猛攻に晒されており、存亡の危機に陥っている。

国内の支城や砦は尽く落とされ残すは本城を残すのみであった。

状況の打破をはかるべく当主である針谷筑前守は特別部隊を編成してきの本陣への奇襲を命じたのだが、

今朝見事に失敗した。

まあ、そりゃそうだろう。

特別部隊とは名ばかりの急ごしらえの部隊で、編成された兵たちの殆どが老いぼれた老人と戦の経験のない若者ばかりだった。

寄せ集めの急造部隊は行軍する事もままならず、暗い早朝のうちに奇襲をかけるはずが朝になっても敵の本陣に到着出来ず逆に敵の斥候に捕捉され返り討ちにあってしまったのだ。

足の遅い老人や戦の経験がない若者たちはあっという間に囲まれ逃げる間も無く殺されていった。

「にもかかわらず敗軍の将はいの一番に戦場から逃げ出し命ながらえている。」

今でもまだあの時の皆の悲鳴が耳にこびりついて離れない。

その時、眩い閃光とともに大地を揺るがすかのような激しい音が鳴り響いた。

「近いな」

外に出て確認するため立ち上がろうとしたその時、右の足に激痛が走った。

逃げる時に受けた傷だ。幸い深い傷ではなかったので応急的な止血で血は止まったが、やはり痛む。

足を引きずりながら表へでると、境内にあった巨木が真っ二つに避け激しく燃えており、燃える木の根元に人が立っていた。

「おい、そこは危ないぞ!こっちへ来い」

声をかけるも返事はなく、雨が降る中ジッと燃える木を眺めている。

「おい、きこえてないのか?」

再度声を掛けながら相手の方へ近づく。

離れていた時は暗くて見えなかなかったがどうやらそこにいたのは少女のように見えた。

「おい、君、そこは危険だ、こっちへ来なさい」

さらに近ずくと少女の姿が少しずつだがはっきりと見えてきた。

その姿をみた私は声を上げて驚いてしまった。

「何者だ!」

そこにいた少女は見たことのない着物を身にまとっており、肌は異常なまでに白く腰の長さまで伸ばした髪は金色に輝いていてその瞳は吸い込まれそうな青色をしていた。

「面妖な、鬼かそれとも妖の類か」

少女はこちらをジッと見たまま動かない

「おい!返事をしろ!」

その時、少女が急に動き出しこちらを見つめて話し始めた。

「起動準備完了しました。ユーザー登録を御願いします。」

「何を訳の分からない事を」

「虹彩登録、声紋を完了しました、ユーザー登録完了です。初めてまして、マスター私はアイポン8と申します。よろしくお願いします。」

そう言うと少女は私の手をにぎった。

「さっきから何を言っているのだ、まあいい、とりあえず中に入るぞ。」

そう言って少女を荒れ寺の中へ連れて行く。


小一時間少女の話を聞いたがほとんど理解出来なかった。

とりあえずはっきり分かったのは、私が彼女の主人になったと言う事と名前はあいぽんという事くらいだ。

「それにしても父上や城にいた者は皆大丈夫であろうか・・・。」

奇襲が失敗に終わった今、敵が城を攻撃するのは時間の問題であった。

「はい、皆様ご無事のようです。」

「なんと!そなた分かるのか⁉︎もしかして忍びか何かか?」

喜びと驚きのあまり思わず声が裏返ってしまう。

「いえ、ネットで検索かけて調べました。父上とは鉢屋家当主、鉢屋筑前守様の事ですよね?その方でしたら本日の午前中、丁度マスターが戦をなさっている頃に家族と家来を連れて隣国の村野家を頼って逃げられました。どの文献を確認してもそう書いてありますね」

どうやら父上・鉢屋筑前守に計られたらしい。私と死んでいった者たちは、時間稼ぎのための捨て駒にされたようだ。

「まあよい、これでせいせいしたわ。正直武士は性に合わんと思っていたのだ。これからは死んでいった者達を弔うため坊主にでもなるかな」

「いえ、それは出来ないかもしれません。実はお父上の事を調べた時マスターの事も見てしまったのですが、マスターはこの戦で死ぬ事になっております。」

訳の分からない事をいう

「なぜだ?死ぬ事になっているというのはどう言う事だ」

「今夜この荒れ寺に落ち武者狩りの農民がやってきます。マスターはその農民たちの農具や竹槍で惨殺された挙句身包み剥がされるそうです。」

意味のわからない怪しい話しとはいえ、流石にその死にかたはいやだ。

「どうやら来たようですね」

外を見てみると、ゆらゆらと松明が揺れている。見たところ数は5〜6人といったところか。

死にたくは無いが、逃げようにもこの足では逃げきれない。

「どうしたものか」

「ここは私に任せてもらえませんか?」

あいぽんは立ち上がるとそう言った。

「さっき脅かすような事を言ったお詫びともう一つ。マスターは今一つ私の事を信用してないようなので」

そう言いながらあいぽん雨が降る中農民達の方へ歩いていく。

「正直あれくらいなら一息で終わらせることが出来るのですが、なるべく手荒な真似はしたくないので少し小細工をします」

などと言っていたが何をするつもりなのであろうか。

農民達のもとについたあいぽんは何か農民に話しかけようとするが突然農民が襲いかかる。

雨音が激しくよく聞こえないが、なんとなく「鬼」だか「化け物」だか言っているようだ。

これも計算のうちなのだろう。

心なしかあいぽんは焦っているように見えるが気のせいだろうか。

雨音でよく聞こえないが何か今「もういい」と言った気が・・・。

あいぽん農民が持っていた竹槍を強引に奪い取ると両手で長く握り思いっきりブンブン振り回した。

農民達は面食らったように驚き少し距離を取る。

あいぽんが両手を地面につけると青白い光とともに雷のようなものが周囲に広がる。

その姿を見た農民達は怯えたように逃げて行く。

荒れ寺に戻って来たあいぽんは自慢気に言う。

「まあ、こんなもんです。これでしばらくは安全です」

本当はききたい。どこまでが計算通りだったのか。明らかに焦っていた事。最後のあれは手荒な真似では無かったのかとか。

「ちなみに最後の雷は私の中の電気を外に流したのです。」

それも気にはなるが・・・。

「とりあえず今は安全と言えますので、今のうちに休みましょう」

確かに今はそっちが優先だろう。


翌朝目が覚めると足の傷がふさがれていた。

「眠られている間に縫合しました。応急的なものですがやらないのとは大分違うとおもいます。」

それよりも

「これからどうしようか」

あいぽんの話だと私は表向きには死んだ事にしておかないといけないらしい。

「それなら目的の無い気ままなふたり旅というのも面白いかもな。」

「はい、マスターがそれを望むのならそうしましょう。」

昨日から降っていた雨は止み、高く青い空には虹がかかっていた。

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