行き過ぎたプレートメイル信仰に歯止めを! ――現実的な防御力の考察
まず最初に人の表面積から計算してしまいましょう!
身長170センチ、体重72キロの成人の場合、おおよそ1.85平方メートルです。
……そういう表がネット上にあります! いまは何でも調べれば判る時代ですねぇ……。
ちなみに170センチは中世だから控えめにした結果。当時から180センチ越えの人はいたそうです。
また72キロの論拠はボクサーのミドル級から。ミドルって中間という意味ですから、西洋人の普通はその辺なんでしょう。
一応あげとくと、179センチで90キロの場合は2.09平方メートルです。
ガタイの良いアニキだと最低でもこれぐらい。プロレスラー級だと、もっと必要になります。
しかし、調べたいのはレオタードや全身タイツではなく全身鎧です。
170センチ72キロの人物なら、装備品は一回り大きくなるとして……175センチで80キロぐらいでしょうか?
その場合、表面積は1.96平方メートルです。
最後は厚みの決定ですが……とりあえず1センチ厚ぐらいから?
1.96×0.01=0.0196立法メートル
これが厚さ1センチ時の体積です。
あとは重さを掛ければよいわけで、鋼は1立法メートルで7.85トンとなります。キロに直すと7850キロです。
0.0196×7850=153.86
………………約154キロ!
『一体成型で関節などのギミック無し、重なった部分もなし』で、です!
少なくとも一割、おそらく二割程度は増えてしまいますから……推定180キロ?
いや、昔の日本人女性は300キロを担いだといいますけれど……流石に? 重量級の相撲取り一人分ですし?
また、現存するプレートメイルは20~30キロ。
現代の兵隊が背嚢を降ろしての装備重量が20キロ。
実際にプレートメイルなどを装備して戦う遊び(そういうのがある)のも20キロぐらいといいます。
ようするに20キロ強が限界でしょうか?
そして厚さ1ミリあたりで15.386キロですから、20キロだと――
理論値では1.2ミリ!
でも、これは関節などのギミック部無し、ヘルメットや小手、ブーツなど補強したい部分を考えていません。
まあ、それらは総重量を25キロとすることで解決しても――
『プレートメイルは厚くても平均1.2ミリが限界』
となります。
25+ギミック分5で総重量30としても、1.6ミリです(ガタイを良くせずパワーだけ上げるという矛盾!)
そして筋肉もりもりマッチョマンな変態の場合、当然に表面積も広くなりますから、パワーに頼って分厚い鎧を着せることはできません。いたちごっこです。
また16世紀にはマクシミリアン様式となりますが……あれは合金とハニカム構造を利用した高度科学の産物だったりします。だいぶ時代が進まないと作れません。
(相当に強いのはいうまでもなく、これなら強いプレートメイル論にも合致。しかし、すでに銃の全盛期となりつつあり、実戦投入はされずじまいの作品が多かった)
まあ、総論するとプレートメイルは1ミリ程度(厚み用に15キロ、ギミック用に5キロ)ぐらいでしょう。
なぜならプレートメイルの下にシャツ上のチェインメイルも着込んでいたらしいからです(これが5~10キロとして、鎧重量25~30となる)
で、ここからは厚さ1ミリのイメージです。
日常にあふれているもので軽自動車の鉄板が0.65ミリだそうです(嘘かホントか、これより薄いと作り難くなるそうです。0.5ミリ説もあり)
しかし、車というのは塗装が厚塗りされています。
そうやって耐火性や強度を稼ぐそうで、おおよそ0.15ミリ。
裏は省略されているとしても、あのボヨボヨと曲がる鉄板ですら0.8ミリの厚さがあるということに!(しかも工学技術の差で、車用鉄板の方が強い)
低い方の参考データでも0.6ミリぐらい?
これは一般車でも大きくは変わらなくて、0.8ミリ+0.15で0.95ぐらいだとか。
……軽めのプレートメイルだと、一般車の扉より貫通しやすいということに。
そして車の扉というのが、実は大して当てにならない防御物で――
普通の拳銃(9ミリ程度)で撃ち抜けてしまいます。
ここで撃ち抜けるというのは、貫通して後ろに隠れている人にダメージを――場合によっては死亡するダメージを叩き込めるという意味です。
「嘘だゾ。アメリカの映画でポリスメンが盾にしてたゾ」
などと仰る方もいるでしょうが――
「あれは拳銃弾を防げるようパトカーには分厚い鉄板を仕込んであるから」
だったりします。
一般の車でやったら、相手はゲラゲラ笑いながらドアごと撃ち抜いてくるでしょう。
万が一にでも拳銃から身を守るのなら、エンジンブロックを盾にしてください。さすがに拳銃でエンジンは撃ち抜けれませんから。
また、実のところ9ミリと45口径に大きなパワー差はないので……45口径じゃないと云々かんぬんも、前もって否定させてもらいます。
そして9ミリの拳銃より三匁筒(火縄銃)の方がハイパワーです。
ジュール換算比較をそのまま貫通力とするのは良くありませんが……三匁筒は一般兵士用で、火縄銃界では一番の小物(苦笑)
ほぼほぼ火縄銃は防げなかったと思われます。
(スプリング鋼にまで進歩すると、少し話は変わります。簡単にいうと鋼の倍ぐらい強いですから、耐えれたかも? ……三匁筒までなら)
さらにクロスボウも、火縄銃と同等かハイパワーの物がありますから撃ち抜けます。
強弓に限り準クロスボウ級と見做せますから、やはり貫通可能でしょう(こちらの研究は後日に。八割書き終わってます)
そして接近戦武器も、一般的なイメージほどは防げそうにありません。
いや日本刀のような刃物なら、シャットアウト可能だと思われます。達人でもなければ傷を負わせれないでしょう。
しかし、どこまでいっても1ミリ程度です。
想像してみて下さい。『バールのようなもの』の尖った方で大男に車のドアを叩かせた結果を!
「穴も開かないへっちゃらだ」
と仰る方は、だいぶ夢を見過ぎです。
思いっきりポッコリ行きますし、尖った方もめり込んでしまいます。下手したら数センチも!
槍でも渾身の突進なら、かなりの確率で貫通を許してしまいます。使い捨てるのを覚悟すれば、戦闘用ダガーでも可能でしょう。
戦闘用の斧とか、プレートメイルキラーだった可能性すら?
けっして万能ではありませんし、あたかも個人要塞のような運用も不可能です。
どんな攻撃方法だろうと、クリーンヒットされたら負けます。それが1ミリの鉄板という防御力です。
(ちなみに、ここでフレイルの話を持ち出すのは素人です。フレイルなんて使うぐらいなら、ハンマーにしましょう。これまた好き者が、どっちが強いか検証してます。扱いが難しくてエネルギー伝達力に劣るフレイルは、決して優れた武器ではありません)
しかし、クリーンヒットさえ許さなければ、ほとんど全ての攻撃を無効化できるのも間違いありません。
よほど魔法文明でも進んでない限り、プレートメイルは十分に脅威的でしょう。
……ちなみに全身鎧へ電撃は逆にNGです。
やはり好き者がスタンガンで実験してまして、やばいくらいに高圧でもノーダメージだったとか。
(相手が一瞬で黒焦げクラスだと、さすがに防げない。というか、そんな威力だと鎧あるなしに関わらず、掠っただけで死ぬ)
あまり火も効かないでしょう。
ベトナム戦争で火炎放射器というのが使われましたが、あれは凄い短い時間しか当てていません。
なんというか……生身の人間って高熱の空気を1秒吸うだけで、ほぼ死亡確定なんですよね。肺が焼かれてしまいますから。
つまり、数十秒に渡って広範囲に火を噴き続けれる魔法とか、ほぼほぼ対人系最強魔法になってしまいます!
ファイヤーストームとか正味のところ、抵抗の余地なく即死確定な虐殺魔法ですから!
なのでファイヤーボール系は爆発でダメージ、ファイヤーアロー系なら顔面に当たることは稀、ファイヤーストームは伝説の凶悪魔法……とでもしておかないと非常に拙いことに!
ですが、そうしてしまうと短時間しか焙れないとなり、鎧を加熱してダメージとかも起きない訳です。むしろ熱を吸ってくれる分だけ無効化すら?
最後にプレートメイル不要論を!
実のところ我々日本人は、国民的漫画でプレートメイルが駄目だと思い知らされています。
仮にプレートメイル着た悟空が、劣勢になったら脱いだとします。
「お、重い!(全部で30キロ) ご、悟空……お前こんなの着て戦っていたのか!?」
と鼻のないお父さんは叫んでくれるでしょう!
30キロのウェイトは、本当に戦闘力を下げないのか?
同じ戦闘能力の戦士がいたとして……ウェイト背負ってない方が強いんじゃないか?
なんて疑惑はあって当然でしょう。
ですが、その解答が得られる前にプレートメイルは現役引退してしまいました。
まさに「達人は守られているッッ!」ならぬ「伝統は守られているッッ!」です。
だって皆も感覚的には、「重い服は脱いだ方が強いはず」と思っているんですから!
そして色々な作品で上半身裸で戦う筋肉戦士がいますけれど……あれは本当に不合理なんでしょうか?
実はあっちの方がリアルで賢い可能性すら!?
……いや、さすがに上半身裸はやり過ぎですね。転んだだけで血だらけになるし。
でも、プレートメイルだって逆方向へ振り切れちゃってると、作者は思います。
まず手足――手甲と脚甲、それにヘルメットは妥協するべきではありません。
頭は狙われやすいですし、急所でもあります。
そして手首から先は無くなったら不便ですし、たいていは一番外側にあるので、相手から見ると狙いやすい位置です。
足元を狙うのは心得ている相手だろうし、頻繁に遭遇はしないと思われますが……万が一にでも歩けなくなったら、死亡確率は跳ね上がります。
ですが腕や腿まで鉄板で覆う必要はあるでしょうか?
もちろん怪我しないのが一番ですけれど……腕や腿は切断さえ防げれば、致命傷にはなりにくいでしょう。
妥協してチェーンメイル系統で賄えば、突きには弱くなるけれど軽量化もできます。
また軽量化した分だけ、胸と腹を厚くも(内臓はどれでも急所です)
そして厚さ2ミリぐらいからは、そうそう攻撃も抜けなくなります。
もしくは手甲と脚甲、ヘルメットに分厚い服として、最軽量とか?
とにかく動き回れるでしょうし、走ることすら可能なはずです。
相手は30キロの服着た変態ですからね。一方的な速度差に持ち込めるでしょう。
……それでもプレートメイル着るかな、自分なら。
やっぱり命懸けの人体実験は嫌だぁ!(苦笑)
少なくとも回復魔法。万全を期して蘇生魔法がないなら、試すのは無謀かも!?
見た目的にプレートメイルの方が安心感あるし!
でも、世界的にはプレートメイルのない地域の方が多かったんですよね。
日本人は貧弱で向かない云々ありますけど……全員が非力だったわけでもありません。特殊兵科用に力自慢を用意すれば済む話です。兵器マニアの日本人が作らなかった理由としては薄すぎます。
それに合理主義者な信長も、プレートメイルは量産しませんでした。
評価の高い当世具足も胸と腹に重点を置いていて、全身鎧とは真逆のコンセプトです。
そしてヨーロッパの軍には何千人もいたようなイメージですが、プレートメイルを着れたのは騎士や貴族のみ。
ほんの少ししかいない、高貴な身分のユニットを、惜しげもなく前線に投入できたとは思えず……「プレートメイルの戦士は、べつに戦場を左右しなかった。少なくとも主力ではない」とも?
さらに兵器として許しがたいことに、完全なる個人専用です!
考えてみれば当たり前の話で……具足とか、ようするに鉄でできたオーダーメイドの長靴です! 他人に合う訳がありません!
胸と胴の部分、ヘルメットは辛うじて流用できたものの、手足の部分は絶望的だったとか(それが理由で南蛮胴の手足は日本式だったそうです)
しかし、そんなのプレートメイルじゃありません。全身鎧の美味しいところがなく、欠点だけ背負うことに。
量産もダメ。流用も無理。戦力として気楽にも使えない。
さらに敵の立場で考えると……万難を排して中身を殺せば、もう再出撃してこない?
………………うーん?
本当にプレートメイルは必要だったのかなぁ?
なんだか部分的なプレートメイルや当世具足の方が合理的に思えてきました。
が、まあ……その辺は個人の好み。
今回結論として――
プレートメイルの厚さは平均1ミリ程度。無理しても1.6ミリが限界!
としておきましょう!