ありそうでなかった話
つまらなかったらごめんなさい。
わからなかったらごめんなさい。
でも書きます。
書きたいです。
自分勝手な私の文章をもし読んでくれる方がいたら、ありがとうございます。
その方のために、と言いたいけど、やっぱり1番は自分のために書きます。
よろしくお願いします。
ふと、何故俺は今生きているのかを考えることがある。
それは、今まで親が育ててきてくれたことだったり、今日も朝ご飯を残さず食べたことだったり、数少ない友人と呼べる人間がいてくれるからだったりが要因である。
理由になり得る欠片を数えだすと、限りなく湧き出る水のように溢れてきた。
考えは人それぞれで、少なくとも俺はそう考えているというだけのことだ。
しかし、俺は日常的にその疑問が頭に浮かぶ。
電車に揺られる時や眠る前、はたまた誰かとの会話中にまでよぎることもある。
最近まで、俺は何度も同じ疑問を抱き、何度も同じ考えに落ち着く反芻の行動を疑問に思ってこなかった。
その行動こそが疑問視するべきだと、一昨日1人でラーメンを食べていた時に気が付いた。
それは、数学で同じ問題を何度も解くことと似ていた。
俺は、自分で導きだした考えに納得出来ていなかったのだ。
俺は幼い頃から周りの同年代の人間を見下して生きてきた。しかし、人間を始めてから17年も経ってようやく自分も今まで見下してきた彼らと大差のないことを自覚した。
改めて、17年という期間を無駄に過ごしてきたと思い知る。
そして同時に焦った。
これからの一生を全て使ったとしても、生きることとは何かを知ることが出来ないんじゃないか、と俺は思った。
しかし思っただけだ。
それを表情に出したり、ましてや他人に言うなんて考えもしなかった。
「ねぇヒビキくん、生きるってなんだろうね?」
ラーメンを食べながら自分の馬鹿さを思い知った2日後に、そんなピンポイントな話を振られるなんて微塵も考えていなかったせいで、俺は驚きの色を隠せなかった。
机を俺の机にぴったりとくっつけてきたので、席が隣になったことはすぐに察した。
「………ヒビキじゃないよ、キョウって読むの」
急になんだよと言いたかったが、俺はとりあえず間違いを訂正した。
これから先ずっとヒビキと呼ばれるのは流石に嫌だった。
「あ、そうなんだ!ごめんねキョウくん」
たった今席替えをしたばっかりで、初めて話すと言うのに彼女は大して悪びれた表情も出さなかった。
仲良くなりたいのか嫌われたいのか分からない奴だ、と思った。
机と椅子の大移動が済んで、俺が彼女に答える前に担任の静かにーという大声で会話は終わってしまった。
「私の名前知ってる?」
彼女は小声で新しい会話をし始めた。勿論俺に向かって。
「…アサギメイさん、で合ってる?」
自信はあったが確証はなかったので保険をかけると、彼女は唇を尖らせて「ぶっぶー」と呟いた。
「アサキメイだよ、朝木芽衣。これでおあいこだね、キョウくん」
彼女は俺が頑張らないと出せないような分かりやすい笑顔を俺に向けた。
間違い方は彼女の方が酷かった気がするが、俺はそこには特に触れなかった。
「そうだね」
俺は心の浅い部分でそう答えた。
会話は終わったように見えたが、彼女の視線はそれからも止まず俺に向いていた。
俺は、餌を心待ちにする子猫ような視線を完全に無視することにした。
日常を豊かにするエッセンスは人間以外の何かだと信じているからだ。
「キョウくん」
俺が余程鈍感な奴で、その視線に気付いてないと思ったのか、朝木芽衣は小さく俺の名前を呼んだ。
しかし、俺の予想とは少し違う意図だった。
「なに?」
「あ、やっぱり話しかけたら答えてくれるんだ」
「…その言い方、ムカつく人も居そうだから気を付けた方がいいよ」
「え、何かムカつくとこあった?」
「分からないなら別にいいよ」
きっとこういう言い方も俺にしかしないだろうし、俺が気にしなければ終わることだった。
「え、なになに気になる」
「…今の言い方だと、分析されている感じがして少しだけ嫌だった」
「分析?あぁでもそうだったかも。ごめんね、キョウくんとの丁度いい距離感を測りたかったんだけど失敗しちゃったみたい」
思ったより素直で賢い返しだったので、俺は少しだけ彼女を見直した。
「別にそんなに気にしてないからいいよ。ちなみに言うと、俺にとってアサキさんとの丁度いい距離感は『今まで通り』だと思うよ」
俺も素直に返すと、それまでより少しだけ大きな声でえぇ〜と言った。
俺は頬杖をついて先生の手癖を見ながら話しているので、朝木芽衣の表情までは分からない。
「折角隣の席になったんだから仲良くなろうよ。一回も話したことないって、逆に超仲良しになれるかもしんないよ?」
何が逆なんだ、と思った。
これまで関係を持たずに幸せに暮らせていたのに、どうしてそこにお互いという余分な要素を付け加えようとするのか、俺には理解が出来ない。
だが、少なくともラーメン屋で前より大人に近付いた俺は、自分の知っていることが全てではないことも知っていた。
「そうかな」
俺は隠す気もない苦笑いをした。
「そうだよ」
朝木芽衣の声はまた小さくなった。
先生が特に意味もなさそうな話を終えて、号令係に起立と言わせた。
俺は一番でも最後でもないタイミングで起立をした。
朝木芽衣は起立のモーションに入るまでは俺より遅かったくせに、立ち上がるのは俺よりも早かった。
そういえばシャキシャキと動く印象があった。
この席になる前、俺は校庭側の一番後ろという素晴らしい席を陣取っていた。
朝木芽衣は俺から見て右に2列前に3列の席で、黒板を見上げると意識していなくても視界に入る位置にいた。
朝木芽衣は挙手をする女子だった。
絶対に分かる問題には素早く堂々と、ピンと膝を張るお手本のような手の挙げ方をするが、あまり自信のない問題には頭の高さと変わらないくらいの控えめな手の挙げ方をする。
そして指されるのは大抵自信のない手の挙げ方の時だった。
その度にえぇ〜と大声で喚き、クラス中の雰囲気を授業から遠ざけた。
俺はその空気の変化を機敏に感じながら、彼女の動かすクラスの様子を傍観していた。
それが俺だった。
脳内ではこれだけのことを考えているのに、恐らく表情には全く出ていない。
そもそも俺の表情を気にしているクラスメイトは1人もいないが、俺はいつものようにクラスの雑音に紛れて帰宅の準備を終えた。
イヤホンを左耳に入れたところで、右側、つまり隣の席から声をかけられた。
「キョウくん」
しまった、と思った。
先に右耳にイヤホンを入れておけば聞こえなかったフリができたかもしれない。
いや、流石にそれは無理かと思い直した。
「何?俺もう帰るけど」
さっき言い方を注意した相手にするには、あまりにもあからさまにムカつく言い方だった。
俺はあえてそうした。
「あははっ知ってるよ、だから声かけたんだもん」
しかし彼女は全く気にしていない様子で大口を開けて笑った。
まともに顔を見たのは初めてだったが、疎い俺でもモテそうなことは分かった。
「一緒に帰らない?2人で」
俺は、驚いた顔を取り繕うことを忘れていた。
クラスで1番の地味な男子と派手な女子が仲良くなるなんて、そんなのは漫画やアニメの話だと知っていた。
いや、今でもそう思っている。
しかし、彼女の瞳が俺を惑わせる。
とりあえず俺は左耳のイヤホンを外してから「え?」と聞き返した。