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がたんごとんと揺れる音と共に俺は目覚めた。
この揺れ方は馬車だな、道もろくに舗装されていない悪路だろう。
全部推測だけど、長年冒険者をしていた俺にとって何度も経験があったからだ。
しかし真っ暗でどこにいるんだかわからない。
目を開こうと……ちょっと待て。
俺は目も耳もない。
なのになんで聞こえるんだ?
全く状況が読めなくて、俺は必死に記憶を探ろうとして、突然開けた視界に目を見開く。
いや、だから目がないんだけどな。
比喩的表現ともいうべきか。
「てめぇ、逃げるな!」
「-----!」
お?
突然俺は掴まれて、久方ぶりに触れる風に目を細める。
……目がないけどな!
懐かしいけど、少し血なぐさいな。
いや、それどころじゃないか。
俺を掴んで走っている相手を見ると、なんだか珍妙で見たことのない恰好をしていた。首元まで黒い服で、金色のボタンが袖とか首付近に縫われている。不気味な格好だな。靴も革靴とか歩きづらいだろう。
必死の形相で街道を走るのはまだ幼さの残る少年だった。
風になびく少しくせ毛のブラウンの髪は短くて、整った顔立ちで肌も白い。どこかの貴族様だろうか。盗賊にでも攫われたのか。
「まちやがれ!」
「------!」
少年は盗賊に追われながら必死に走っている。意外と足が速い、って観察してる場合でもないか。
でも助ける手段がないんだよな。
俺は運ばれているわけだからなぁ。
しっかし、何か引っかかるんだ。
珍しい風体の少年で、声は出てるけど何言ってるかさっぱり。未知の言葉で、まるで異世界人のらい……それだ!
昔、あちこち旅に出てた時に読んだ文献に書いてあったな。
1000年に一度、異世界人が迷い込むって話。あまりに間が空きすぎて、伝説級の話にされてしまっている。そりゃ1000年も生きてる人もいないし、長生きできるエルフで長老とか言われてるレベルじゃないと知らないだろうな。
異世界人が残した文明とか知識はあるらしいんだけど、馴染みすぎて信憑性が低いらしい。歴史なんてそんなものなのかもしれない。
多分異世界人で言葉も通じなくて、盗賊に追っかけられて死にかけてるのを、さすがに放置はできないよな。
俺もなんでここにいるかわからないし、現状把握もしたいし何より元の場所に帰りたい。
また運ばれでもしたら、まともに帰れなくなりそうだし。
そんなわけで俺は覚悟を決めた。
「おい、俺を欲しいっていえ。そうすれば助かるぞ」
「へ、え!? 剣が喋ったーー!?」
その叫び声に、そうだ、と俺は返事をした。
そう、俺は剣。
しかも意思のある剣だった。
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