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ダイカッパーは流れない  作者: 須方三城
第三部 リバーハイド・フルブレイカーズ
52/65

49,ポイズン・ジェイル


 ――……何が【天才】だ。

 僕は、そんなものじゃあない。


 僕はただの【人間】だ。


【天才】……それは君達が【努力しなければ何も叶わない】と言う【現実】から目を背けたいがためだけに造った空想存在ファンタジーだろう。


 僕が築いてきたモノが、ちゃんと見えた上で、僕を天性の才覚の持ち主であると呼ぶのか?

 顔面に随分と立派な穴が二つ空いているな。


 君達は僕の万分の一でも努力をしたのか?

 そんな分際で僕を羨み、妬み、くだらない嫌がらせに勤しむ……愚かしい。

 発想のゲロクソ具合も去る事ながら、時間の使い方もまるでなっていない。

 時間とは積み上げるためにあるものだ。他人の積み上げたものをどうにか崩そうとするために使うものではない。


 怠慢・愚鈍・愚昧・蒙昧・醜悪・劣悪・愚劣・下劣・劣等・下等・悪辣・低俗・無知・無能・無様……


 ……悪態を吐けばキリが無い。

 僕の目に映る【人間を自称するゲロ豚共】は、どいつもこいつも揃い揃って救えない。救いを求めて足掻き努める素振りすら無い。存在そのものが救世主を嘲笑っている様にすら思える。


 もはや、僕の様な【人間】から蔑まれる事を不快に思う権利すら、君達には無いと知れ。


 改めて断言する。

 僕は天才なんかではない。


 この世に、天才などいてたまるか。

 僕は努力の人間だ。この世にいる人間は、皆、努力する存在だ。

 やるべき事をやれる限りやり尽くし、どれだけ苦しくとも走る事をやめなかっただけの、ただの人間だ。

 それだけが人間なんだ。


 だのに何故、君達はこうも僕の邪魔をする?

 ただの人間である事すらできなかった怠惰で愚極・悪極・劣極である君達が、何故僕の世界を蝕む? 犯す?


 こんな世界で生きる事は、まるで仙人を目指すための幾千の苦行の様だ。


 絶望的だよ。


 ――でも、そんなある日、出会えたんだ。


 僕以上に努力して、僕以上に辛い目に遭っていて。

 それでも、僕以上に人間然としていた、燥軋教授に。


 教授は実に素晴らしい。

 どこまでも、人間然としている。


 追求し、探求し、努力する事を惜しまない。

 まるで朝起きたら既に朝食が用意されていた時、母へ「ありがとう」と言うくらい当然に、人間である。


 そんな御方が、悪魔を駆逐するために努めると言った。


 ならそれこそが是。

 それこそが正義。

 それこそが善行。

 それこそが人間。


 素晴らしき燥軋教授が、世の為人の為とならぬ事に努めるはずがないのだから。


 なら、僕が人間としてやるべき事はシンプル至極。


 悪魔を駆逐し、それを邪魔するゲロ豚悪党どもを駆除するんだ。



   ◆



むしばみ殺せ!」


 左利き故か、今までの七殺衆セブンスキルとは違い、左手中指に紫色の指輪を嵌めた酉歌舞。

 その指輪が輝く中指を天高く掲げて、悪しきモノの手先を撃つ正義の輩の如く、攻撃的に叫ぶ。


「【呶苦冥壊殺ドククラエーヤ】ッ!!」


 彼の天へ向けられた左腕――正確にはその中指に嵌められた指輪から、紫色の毒々しいゲル質な……いわゆる【スライム】の様なモノが、吹き出す。


「ッ!? なんだ……!? 毒タイプのモンスターか!?」


 吹き出した紫色のスライムは、まるで巨大なカエルの様な形を形成する。

 あのでっぷりとした形状は……ウシガエルッ!! ウシガエルに違いない!!

 紫色のぷりっぷりとしたゲル質の謎物体で形成された、二〇メートル級の超巨大ウシガエル!!


毒殺特化型ポイズンラヴァーズ殺尽機ジ・キル呶苦冥壊殺ドククラエーヤ。僕、【毒殺】の酉歌舞が、燥軋教授から与えられた素晴らしい殺尽機ジ・キルだ」

「……?」


 紫ウシガエルの横に堂々と立ち、紹介を終えた酉歌舞……一向に、ドククラエーヤに乗り込んだり同化する気配が無い。


「…………殺尽機ジ・キルに、乗らないのか……?」

「何を言っている、アホマヌケが」


 素っ頓狂な質問をするな……マヌケ具合はお似合いではあるがな。

 そう言いた気な酉歌舞のジト目視線。


「まったく……機動兵器がそれ全てすべからく人が乗り込むものだと言う前時代的パラダイムイメージに囚われている様だな。固定観念は愚の骨頂たる象徴だ……ああ、そうか。そりゃあ愚劣な君達ならそうなるのか? 真っ当な人間たる僕には理解を外れ極まる。もはや哀れになってくるよ」

「いや、しかし……今までの殺尽機ジ・キルは……」

「いいか? 今まで君が相対してきただろう殺尽機ジ・キルは、【戦術兵器】……言わば【戦う術としての兵器】だ。局所的な戦闘に置いて勝つ事を目的とした兵器。故に、戦闘能力向上のため、人間が乗り込み【柔軟な戦闘対応】を行う。今の所、戦闘に置ける思考柔軟性はAIよりも人間の方が勝るからな。そして外部から遠隔操作用コンソールを使うより、同化してしまう方が動作精度・速度ともに大きく優れる。以上の理由だよ……対して、ドククラエーヤは根本的なコンセプトが違う。だから僕が乗り込んだり同化したりする必要性を持たない。それくらいもわからないのか?」

「見ただけでわかる訳がないクマ」

「……これだから下等生物の糞便の中の虫の糞便にも劣るクソ・オブ・ザ・うんこは……ドククラエーヤは【戦略兵器】だ。ただしこれは通常で言う【戦争全体を制するための大局的な策略を実行するための兵器】と言う意味では無い。ドククラエーヤは【()闘を省()して勝つための兵器】だ」

「ッ、つまり……雪吏乃ユリノさんの機装纏鎧キラメキフブキと同一コンセプトか!?」

「そのキラメキフブキとやらの実情は知らないが、似た様なコンセプトの兵器を知っているのなら話が早い。そう、ドククラエーヤは【戦わずして勝つための兵器】。早速、見せつけてやろう」


 そう言うと、酉歌舞は勢いよく皿助達の方へと手をかざした。


「いけ、ドククラエーヤ! 【どくをはく】!!」

『ゲロゲーロ!!』


 わかりやすいカエルの鳴き声を発し、ドククラエーヤが大口を広げる。


『ゲロゲボォ』


 ドククラエーヤが広げた大口から吹き出したのは、これまた紫色のゲル、それが大きな球型にまとまったモノ。

 見た目から判断するに――


「ッ、【毒液の砲弾】か!! 大きいな!!」


 皿助達が戦闘準備を整える前に攻撃とは卑劣!!


 でも仕方が無い。何故なら酉歌舞は今までのザ・キルブリンガーズと違い、皿助達と戦う気が無い!!

 彼の目的はただひとつ、皿助達の生命を奪う事なのだ!!


「【殺尽機ジ・キル】は対魔機鞍(マギア)兵器……おそらくあの毒液は機動兵器だろうと容赦無く蝕む猛毒なのだろう!!」


 皿助の見解通り、ドククラエーヤが放つ毒は、全てが魔機鞍にも通用する特殊毒!!

 裏科学的極致酸性毒、その名も【皇帝水(デス・エンペラー)】をベースに、更に強化された毒液だ!!


 当然、人体など触れた瞬間に溶かしきる!!


「クーたん、ガッさん!! 俺の背後に!!」

「もう隠れてるクマ」

「頼んだガミ」

「ああ!! 【円皿状の(ディッシュリング・)波動疾走オーバードライブ】!!」


 皿助がその両腕に【波動】を纏わせ、円を描く様に全力で振るう。

 波動で強化された腕力で自身前面の空気を激しく掻き回す事により、小規模の竜巻的サイクロンを発生させて盾とする……防御に特化した波動疾走オーバードライブだ。


 例えどれだけ強烈な毒液だろうと、所詮は液体の砲弾。見たところ、巨大なだけで然程威力も無さ気。

 余裕で散らせるッ!! 皿助はそう判断したが……


「小規模の防御行動……ふん、やはりゲロ豚は発想のスケールもクソまみれか」

「何!?」


 酉歌舞による皿助ディスの直後。


 ドククラエーヤが放った毒液の砲弾が、弾けたッ!!

 皿助が張った【円皿状の(ディッシュリング・)波動疾走オーバードライブ】のバリアに散らされた……のではないッ!!


 毒液の砲弾は、皿助達の遥か上空、皿助が巻き起こしたサイクロンにかすりもしない様な場所で、自ら崩壊した(・・・・・・)のである!!


「僕の声がその貧相な耳に充満する耳垢みみうんこに絡め取られて聞こえていなかったのか? ドククラエーヤは【戦略兵器】だと確かに言ったはずだ。戦闘を省略する兵器が、【攻撃(戦闘行為)】なんてするはずがないだろうが」


 そう、ドククラエーヤが放った毒液の砲弾は、破壊を目的とした行動……即ち攻撃ではない。


 弾けた毒液の砲弾は、四方八方に棒状に拡散。さながら紫色のタコだ。タコだとしたら足の数が多いにも程があるが……とにかく、タコの足の様に四方八方へと伸ばされた毒液の棒……いや、毒液の【柱】が、次々に【皿助達を取り囲む様に】地面に突き刺さっていく!!


「ま、まさか……不味……ッ、!」


 皿助はクマリエスやガミジンよりも一足先に全てを察したが、それでももう遅かった。


 ――まるで、【鳥籠とりかご】だ。


 間隔狭め――小柄な小学生でも通り抜けられないだろうスパンで並び、皿助達を囲む紫色の毒柱。その柱の両端は、片や地を深く穿ち、片や上へ向かうに連れて緩やかにカーブし、天辺に集約。

 完全に、【紫色の鳥籠】だ。


「【絶望が歩み寄る監獄デッドエンド・ラインアップ】、完成……ドククラエーヤが行うのは戦闘行為の省略、即ち端的に【処刑】だ。死にくたばれ、年齢=恥垂れ流し歴の猥褻わいせつ下劣な卑しいゲロ肉袋ども」

「ッ……不味いぞ……あの毒液……鳥籠状に変形した途端に【硬化】した!! まるでコンクリートが液状から固形になる時の様に……堅牢さが段違いになっているぞ!!」


 皿助は眼球に【万理鑑定の(スティングサーチ・)波動疾走(オーバードライブ)】と言う俗に言う【鑑定スキル】の真似事ができる波動を纏わせている。

 大雑把にだが、対象の耐久値などは把握可能。


「全力で殴る蹴るの暴行を加えれば、破壊できなくはなさそうだが……」

「やめた方が良いと思うクマ」


 クマリエスがそう思うのも当然……何せ、この鳥籠の元になったのは機動兵器にも有効な毒……固形化したからと言って、触れて無事に済むとは考えにくい。

 最低でも、接触箇所が痒くなる程度のダメージは絶対にあると考えるべきだ。


「ああ、君達の愚かしさは僕の予想を越えていくから一応忠告しておくぞ。その檻を破壊しようなんて考えない事だ。生身でその檻の欠片や微塵に少しでも触れようものなら……接触箇所からたちまち毒が回り、刹那に心臓機能が死ぬ。魔機鞍マギアの状態でも、致命傷は避け難いだろう。いくら君達とは言え、ここまできたらもう死に急ぐ事はない、せめて一秒でも長生きしたいだろう? ならば大人しく刑の【執行】を待ちたまえ」

「刑の執行だと……? この檻、まだ何かあるのか?」

「当然だろう。ただ君達の動きを封じてどうする? 僕は君達を殺すんだぞ? ……さぁ、そろそろだ。始まるぞ」

「…………、…………!?」


 ゆっくり、ゆっくりと、その変化は始まった。


「や、ヤバいガミ!! この檻……【少しずつ中央に向かって集束し始めている】ガミ!!」


 ガミジンが上ずった声で叫んだ通り!!

 毒の檻が……ギギギと不穏な音を立てながら……少しずつ皿助達の方へ……檻の中心点へ向かって、収縮し始めた!!


「なッ……!?」


 端的な現状説明。

 欠片でも触れれば致命傷足り得る毒が、四方八方から迫ってくる。

 打撃で破壊しようと接触すればそれだけでアウト、万が一打撃を用いらずに破壊できても、飛び散った無数の破片に触れただけ……いや、酉歌舞の余裕マックスな態度から見て掠めただけでもおそらくアウト。


 卑怯だ。インチキだ。

 放たれた時点で戦局を決定付ける一撃……まさしく戦略兵器かッ!!


「くッ……何か策は……!!」

「あ、これと似た技を前に漫画で読んだクマ」

「本当か!? クーたん!!」

「クマ。確か、檻を出した本体をぶっ倒して解決してたクマ」

「つまり、あの紫色のカエル、ドククラエーヤを破壊すれば良いんだな!!」


 …………………………。


 皿助とドククラエーヤの間にあるもの、それは掠める事すら致命的な猛毒の檻。

 皿助の手元に裏化学式対大気圏外存在物アンチユニバースイグジスター用ライフルでもあれば話は違うかも知れないが……皿助の所持品は財布とスマホ、あとは妖怪バッジくらいだ。


「何か策はァ……!!」

「皿助、なんか遠距離攻撃用の波動とか無いガミか!?」

「無い事は無いが……俺は未熟……まだ大半の波動疾走オーバードライブを使いこなせないんだ……!! 会得していない波動疾走オーバードライブを無理に使えば、暴発してしまう危険性が余りにも高い……!!」


 幸いな事に、DAIカッパーを【起動はできる程度】の魔力は回復している感はある。

 DAIカッパー3の一発一発が驚愕のクソ燃費な超威力砲撃を放つのはまだ無理だが……DAIカッパー1へと変身し、【円皿状の(ディッシュリング・)波動疾走オーバードライブ】のサイクロンを攻撃に転用、檻を破壊し散らすくらいは可能。

 そしてそれから、舞い散るだろう破片をDAIカッパーの巨体で躱し切り、クマリエスやガミジンを守り切る……中々ハードだ。

 イチかバチか、と言っても良い難易度だろう。


「くッ……こんなの、策とも呼べない……!!」


 自身だけならともかく、クマリエスやガミジンにまで生命を担保にした賭けをさせる……皿助の平和的当然かつ平凡な人間性が、それを良しとしない。


 ……だが、背に腹は代えられない……このままでは死を待つのみだ。

 イチバチ勝負も止む無しなのか…………いや、待て。


「そうだ……俺達にはまだ、頼れる仲間がいるじゃあないか!!」


 皿助の右袖で輝く六つのバッジ。

 友情と言う素敵な感情を帯びた、そこらの宝石が群れをなして向かってこようと相手にならぬ美しき結晶ッ!!


「檻の隙間を縫って攻撃を撃てる友達妖怪を召喚……」


 遠距離攻撃や檻を介せず立ち回れる友達妖怪と言えば……やはりここは冠黒武カンクロウのウルトラテングKCの力を借りるのがベリーベストだろう。

 だが、妖怪バッジは【一度呼び出した友達妖怪は三時間は再召喚できない】。

 冠黒武を呼び出したのは、ついさっきだ。つまり無理。


 次点はダイカッパーの覇皿バサラを飛ばせる晴華パカと、万物万象のエネルギーを奪い去る特殊な雪で破片を派手に散らさずに檻を破壊できる雪吏乃ユリノだが……二人を呼び出したのは昼をがっつり過ぎた織留おとめ殺超露冷呑コゴエロッテ戦。

 ざっくり計算してみると、あと一〇数分ほど、召喚できない。


 あと一〇分以上も時間があるのか……?

 いや、仮にギリギリ間に合ったとして、もうこの檻の中に機装纏鎧きそうてんがいを展開できるスペースが残っているのか……?

 大体、晴華は持ち前のドジっ子力ですっ転んで檻におでこをぶつけて取り返しのつかない事になりそうだから論外なんじゃあないのか……?


「だとすれば……!!」


 選択肢は、三つ。

 先程考えたイチかバチかのDAIカッパー勝負に出るか。

 召喚可能なバッジの一つで蛇尾淀ダビデを呼ぶか。

 それとも、箒が描かれた謎のバッジで誰か定かでない友達妖怪を呼ぶか。


「ッ……そうだ……今まで深く考えて来なかったが……この【箒の妖怪バッジ】は一体誰と繋がっているんだ……!?」


 箒……箒に関連する妖怪……?

 皿助はそんな妖怪にとんと覚えが無い。


 今のところ、交友を持っている友達妖怪で登場していないのは丹小又にこまた大鱈おおだらくらいだ。

 しかし、両名とも、【箒】と言うイメージは……無い。


「一体誰に繋がっているのかサッパリ謎……だがッ!! 俺の直感が告げている……今ッ!! このバッジを使うべきだと!!」

「それ、直感じゃなくて好奇心じゃあないクマ?」

「五分五分である事は否定しない!! だが、【だからこそ】と言う考え方もある!!」


 最近では皿助の知覚では及ばない高次元生命体が相手だったり、【万理鑑定の(スティングサーチ・)波動疾走(オーバードライブ)】習得のおかげで頼る機会が激減したため、いわゆる【死に設定】と化していたが……


 皿助には生来、優れた【直感】があるッ!!

 例え世界の裏側にいようと、友の危機を気取る事ができると言う優れ逸品ものだ!!

 第二部以降では波動知覚に取って代わられてすっかり置き去りと言うか忘れ去られていたが、第一部では猛威を奮っていた皿助のモストウェポンの一つである!!


 そのハイパーな【直感】と、常に人類の発展の根源となってきた重要エモーション衝動である【好奇心】のベクトルが今、重なった!!

 この【箒の妖怪バッジ】を使うべきだと言う方向性で合致した!!


 これは最早、運命的なディステニーの宿命とも言うべき定めッ!!


「俺は使うぞ、このバッジを!! 俺は呼ぶぞ、俺を友と認めてくれている、謎の友達妖怪を!!」

「何にしても急いだ方が良いガミ!! この檻、結構な勢いでぐんぐん狭くなってきてるガミ!!」

「承知ッ!! 決して焦らず、急いでいざァァァ!!」


 皿助は意を決し、箒の妖怪バッジに指を押し当てる。


「出てこい俺の友達!! 妖怪バッジ、ドライブ・オン!!」

『ジ……ジジ……レディース&ジェントルメンッ!!』

「!?」


 すごく久々ッ!! すごく久々に、DJ的注目を促す声(ギャグ・ボイス)が、妖怪バッジから放たれた!!

 どうやら、このバッジは他に比べてマッスル臼朽の強烈打撃による損傷ダメージが少なかった様だ。


 ……しかし、そこから先は、皿助の予想を裏切るものだった。


「…………なに…………!?」

「これは……」

「……普通に、良い感じのポップスが流れ始めたクマね」


 そう、バッジから続けて流れ始めたのは、いつもの謎ラップではなく……普通のポップス。


「待て……この曲、聞き覚えがある……そうだ……確か……シャイニーズ事務所に所属するイケメンデュオ【ギンギギッズ】の代表曲……【全部掃除して】!!」


 シャイニーズ事務所の【ギンギギッズ】と言えば、現世を生きる者なら知らぬ者はいない怪物ミュージシャン!!

 人間界にはたまにしか来ないはずのクマリエスとガミジンですら、皿助が出したその名前に「あー……あのギンギか。道理で聞いた事があると」と言うリアクション!!


 それもそのはずだ……ギンギはデビューから今までに発売したシングル・アルバムともに、全てがオリコーン売上ランキングで一位を獲得。ギネス超世界記録に認定されるほど!!

 二〇周年アニバーサリーライブでメンバー二人が上半身の着衣を脱ぎ捨てたら観客が全員卒倒してライブが中止になったのはもはや伝説級のレジェンド逸話ッ!!


 神に愛されたどころの騒ぎではなく、神の領域に半身浴をキめちまったイケメンデュオ……それがギンギギッズ!!


 そんな彼ら……いや御仁らの楽曲が妖界郷にまで広まっていたとしても、さして不思議な事はないのだが……


「何故、このバッジの召喚ラップ……いや、召喚ソングに設定されている……!?」


 これから呼び出す妖怪がギンギ教の信者だから……?

 いや、今までのセンス皆無の謎ラップからして、召喚ラップを自分の好みで設定できるとは思えない。


 つまり、この曲……ギンギの楽曲が設定されている事には絶対に意味があるはず……


「ッ……ギンギギッズ……待て、ギンギギッズ……選曲は【全部掃除(・・)して】……? そしてバッジの柄は箒…………、!!」


 まさか、と皿助がハッとした瞬間、召喚が始まった。


 バッジからボァァと爆裂的に溢れ出したのは、無数に舞い散る白い光の球。


「なッ……これは、【玉響オーブ】ガミか!?」


 銀吹雪か、それとも桜吹雪か。

 とにかく、美しく舞い踊る光球の中から、その男は現れた。


「――よォ、皿助ェ。久しぶり……って程でも無ぇか? テメェの方からしたらよォ~」


 口角を裂き上げて笑う坊主頭の中年。

 かつては安ぼったいジャージで包んでいたその身に、今ではバリッとした黒基調に金の装飾をあしらった軍服調の制服を纏っている。

 ――皿助は知る由もないが、それは妖界郷の【妖怪保安局】・人間界の【超国際連合】・魔界穴の【魔王特選艦隊ディープイービル】が戦力を出し合って結成した界際共同連合部隊【邪消無境至強連合師団ボーダーレス・アルゴノート】の制服……つまり、堕撫尤タブー達のおかげで生まれた組織の制服である。


 そんな御大層な軍隊の制服を身に纏い、右肩には【特務軍曹】の腕章を嵌めた男の腰に差されているのは、相応な拳銃でも、威厳ある剣でもない。

 それはかつて、皿助がへし折った部分を溶接して今もなお愛用されている、見窄らしくも、どこか雄々しい……一本の【塵取り挟み】。


「お前は……創路ソウジ……!! 【禁機忌子キンキ・キッズ】の杷木蕗はきふき創路ソウジ!!」


 短い間ではあったが、皿助と友情を交わした……妖界の人型兵器にして、その後、皿助が妖界のお偉いさん方に【妖怪としての権利】を認めさせ、名実ともに【ただの妖怪】となった男。


 禁機忌子キンキ・キッズが一機……いや、一人。


 その名は――杷木蕗はきふき創路ソウジ


「さァ~て……テメェに【恩】を綺麗サッパリスッキリと返す日が来た……そー言う事で良いんだよなァ~!?」


 かつて、弱さに打ち震えたただの綺麗好きの面影は、綺麗に消え去った。

 万物を綺麗に浄化する清掃の機神が、今、塵取り挟みを抜くッ!!


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