37,レディ・ライジング《後編》
『う~ん……【雲】を運ぶのが不便ってのが、バチバチシヤガレーの残念な所だよねー本当……』
軽い調子で愚痴を零しながら、鳴子はゆっくりゆっくりとバチバチシヤガレーの高度を下げていく。牽引される様に、周囲の黒雲もゆっくり降下。
『もうちょいで射程内~……んに?』
不意に、鳴子の眼下一〇キロ程の地点…即ち地上にて、小さな赤銅色の閃光が瞬いた。
『へぇ、すっごぉーい。君は【変形】もできるんだね!!』
もし今の発言が皿助に聞こえていたら、彼は「正確には【変形】ではなく【変態】だ!!」と反論していただろう。
そう、今の光は…DAIカッパーが変態する光。チェンジ発光。
『うーん……でも、この高度だと大まかに【四本足になってる】とか【何か大きな筒を背負ってる】くらいはわかるけど、流石の鳴子さんでも細かくどう変わったかはわかんないなー』
まぁ、何にしても、わざわざ変形したと言う事は、何かしてくるつもりだろう。
ゆるい口調とは裏腹に、鳴子は油断しない。気を引き締める。
あの大きな筒は、おそらく大砲。遠距離攻撃を仕掛けてくるつもりだ。
なので、大太鼓を【モードチェンジ】しておく。
バチバチシヤガレーが放つプラズマ攻撃は二種類ある。
モード①は、先程放ったプラズマ刃の【神経的ダメージを与えるプラズマ】。
そしてモード②は、モノホンの雷撃。つまり【物理的な破壊ダメージを齎すプラズマ】。
モード②の物理的破壊プラズマにモードを切り替える事で、DAIカッパーの砲撃を撃ち落とす迎撃態勢を整えたのだ。
射程内に入ったらまたモード①に切り替え、今度こそトドメを刺す。
鳴子の対策は、理論的には完璧だったと言える。
ただ、DAIカッパーはそれを覆す。
ズドドドォォンッ!! と言う幾つか重なった轟音と共に、地上からチカッチカッチカッと三回、赤銅色の小さな瞬き。
三つ。とても太い赤銅のレーザービームが発射された。
三本のレーザービーム、一本は背の砲から、二本は腕の辺りから射出されたらしく、その並びは鳴子の視点から見ると、丁度【∴】みたいな感じだ。
『来たね砲撃!!』
受けて、鳴子。
バチバチシヤガレーに大太鼓を乱打させる。
瞬間的にバチバチシヤガレーの周囲に滞空していた黒雲が内包するプラズマが増幅され、光を増した。
『喰らえ、シンプルに雷鳴!!』
音が空気中を伝播するよりも先に、青白い光が虚空を切り裂いて、迸る。
今度は剣状ではなく、よくテレビなんかで見る不規則で歪な形状の雷撃。空気中を漂う無数の微分子の中から【最も通電効率の良い分子を選んで走る】と言う電気の性質が、その形状にランダム感を付加する。
DAIカッパーは射程外だが、∴みたいな感じで飛んでくる砲撃の迎撃は可能。
雷撃の雨嵐による弾幕だ。
『残念だったね……って、え?』
不意に響いた、バチュン…と言う切ない音。
それは、無数の雷撃が∴レーザービームに接触し、そして一瞬にして焼き尽くされた音。
赤銅の∴レーザービームは、雷撃の弾幕など欠片も意に介さない様子で直進するッ!!
『えぇぇ、嘘、どんだけの威力…ってか、ヤバッ…』
回避せねば、と鳴子はバチバチシヤガレーを急いで動かそうとするが、間に合わない。
『ッ……』
鳴子が思わず目を瞑りかけた、その時。
∴レーザービームが、バチバチシヤガレーの周囲に滞空していた【黒雲だけ】を貫いて、天へと登っていった。
『…………は……外れ、た?』
バチバチシヤガレーは、丁度∴レーザービームの丁度真ん中のスペースに収まって回避する形になったのだ。
周囲の黒雲は完璧に撃ち散らされてしまったが、バチバチシヤガレーは無傷。
『……違う……まさか、【外した】……!?』
鳴子はすぐに気付いた。DAIカッパーの…皿助の意図に。
『だとしたら……あの子が【次に狙う】のは……!!』
◆
『凄まじい威力だな……これが…【劫火三砲】』
煙を吐く砲身を背負った赤銅の巨人から、半ば呆れた様な皿助の声が溢れる。
今、皿助はDAIカッパー第三の姿……【DAIカッパー3】に変態している。
背に巨大な大砲を背負い、両前腕も背のそれに負けない様な立派な砲門へと変貌。Eアームズの核部分である【紅い宝玉】は両肩と腹部へと移動。
下半身は【移動】を捨てる事で、発砲の衝撃に受け止め【機体を固定する事】に全力を傾けた極太の四脚と化しており、その先端は深々と大地に突き刺さっている。
これがDAIカッパー3、通称:【ナヴェリウス】。
この形態で使用可能な魔術装備の名は、またまた機体の通称と同じく【劫火三砲】。
ナヴェリウス。
それは、地獄の奥底にて【冥府の王】の御所を守る【三つの頭を持つ魔犬】の名。
その三つの頭は主人の敵を絶対に逃がさない。どこまでも追いかけ、必ず喰らう。
喰われた敵は、劫火に焼き尽くされたが如く、血一滴…塵一つ残される事は無い。
「まぁ…この威力は貴様の魔力量が阿呆故な部分もあるガミが……それを差し引いてもDAIカッパー3は【砲撃で全てを破壊するため】の形態ガミからね」
DAIカッパー3【ナヴェリウス】は【重砲撃戦闘】に特化している。
その砲から放つのは、【劫火による消失】を再現するための【超高密度魔力弾】。
一発一発が見た者を絶句させる様な破壊力を誇る砲撃を天へと撃ち上げ、本来ならば豪雨の如く目標へと降り注がせるのである。
DAIカッパー3による掃討砲火が完了した後には、【劫火】…【世界を焼き滅ぼす炎】が通り過ぎた様な景色だけが残る。
正味、【戦闘行為】よりも【破壊行為】に重点を置いたコンセプトとも言える。
と、まぁ……ここまでは耳に心地良くて素敵ッ、な話だが……世の中には【因果】と言うモノがある。
転校美女と運命の赤い糸を結ぶにはまず、怪我する事を覚悟して通学路の曲がり角にて衝突しなければならない。
結果を出すには相応の原因が要る。
同様。素敵な破壊力を出すためには、膨大なエネルギーが必要になるのは自明の理。
つまり、DAIカッパー3は正味【クソ燃費】なのである。略してKNP。
常人ではまず、満足に扱う事はできない。DAIカッパー3のコンセプトを活かせるのは極一部、魔力面での逸材に限られる。
魔力に満ち充ちている皿助でも、DAIカッパー3の掃討砲火をフルパワーで使えるのは日に一度くらいだろう。
そして使う時は……今。
『さて……今の【試射】のおかげで、カッパービームの照準の癖も掴めた……やれる。何発、何十発と連続で撃ったって鳴子さんに当ててしまう気が全然しない。完璧に外してみせる。さぁ、やろう……DAIカッパー3ッ!!』
鳴子の周囲の黒雲はほぼ全て払った。
だが、まだだ。
空にはまだ、白い雲がたくさん流れている。
またあれを黒雲に変えられてはキリがない。
なので、手っ取り早く、だ。全部まとめて一切合切、吹っ飛ばしてしまおう。
『この空域一帯の雲を、全て掃討するッ!! 拓くぞ、【快晴】の空ッ!!』
快晴。
観測空域内に置ける雲の発生率が二割以下の状態。すこぶる良い天気の事。気分はハピネス。
青春小説なんかで「この手の小説はこの文言を必ず一回は出さなきゃ駄目なの?」と思えるくらいよく出てくる「雲ひとつない空」は大体これ。
閑話休題。
皿助の意思を感じ取り、DAIカッパー3の両肩と腹の紅い宝玉が、一際輝きを増す。
『滅ぼせ、カッパァァァレイィィンッッッ!!』
三つの砲門から放たれたのは、先程の∴ビーム……ではない。
赤銅の軌跡は、無数。
三つの砲門を起点に、無数に枝分かれした赤銅のレーザービームが、天へと登っていく。
それはまるで、地表から天へと登っていく赤い怪雨だ。
◆
赤い怪雨はバチバチシヤガレーを綺麗に避け、白雲だけを喰い千切り、空の彼方へ……人類が夢見る宇宙へと消えていく。
『ッ……す、すご……ちょっと…すご過ぎないかな……!? なんか綺麗だし……!!』
鳴子の視点から見れば、破壊の権化とも言い換えられる光の群れだのに。
自らを包み込む様に空へと駆け抜けていく赤い光達は、油断すると手を伸ばして触れてみたくなる程に美しく感じた。
『って、そんな余裕かましてる場合じゃあないよねこれ!!』
空は快晴。雲ひとつない空。う~ん…青春文学的シチュエーション。どこまでも澄んだ果てしない空は青春の醍醐味だ。誰だって学生時代に快晴の空を見上げて閑話休題。
バチバチシヤガレーの特性は、まずは雲と並んで従えなければ始まらない。
それができなきゃあ、ぶっちゃけバチバチシヤガレーはバチ棒を振り回すくらいしか攻撃手段がない。ぐるぐるパンチみたいに一心不乱にバチ棒を振り回すしかない。……雷神モチーフなゴツい見た目のおかげで、それだけでも結構強そうだけど。
『くる……!!』
雲が発生するのには時間がかかる。当然、それまで皿助が待ってくれるはずもない。
鳴子の眼下。地上から、チカッと赤銅の光が瞬いた。DAIカッパーが変態する光。変態光。輝かしき変態。
間髪入れず、変態を果たしたDAIカッパー1がカッパーウィングを広げ、飛んだ。
バチバチシヤガレーの元へ、真っ直ぐにフライ。
『ッ……』
ぶっちゃけ、鳴子の現状は……【詰み】にハマっている。
特性を封殺された以上、武器としてデザインされていない楽器…バチ棒で、バチバチシヤガレーには本来想定されていない接近戦に臨むしかない。
しかも相手は接近戦に秀でたパラメーターと来た。
普通に考えて、諦めるか、逃げるかしか選択肢はない。
『アタシは……退けないッ!!』
バチバチシヤガレーにバチ棒を強く握り直らせ、鳴子は覚悟を決める。
世の中、勝目があるかどうかではない勝負と言うものがある。
その手の勝負は、退けるか退けないかの問題になる。
そして鳴子は退けない。
『アっちゃんのために……アタシは阿修羅だって凌駕してみせると誓ったんだもんッ!!』
こうなれば、
『バチバチシヤガレー、超急速突撃降下ッ!!』
黒雲ユニットの反重力機能を、シャットオフ。
そうすれば当然、バチバチシヤガレーの巨体は地球の引力に導かれる事になる。
重力を味方に付けて、飛び上がってくるDAIカッパー1へと吶喊攻撃を仕掛けるつもりなのだ!!
『うぅ…なぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああッ!!』
雄叫び高らかに、ぐるぐるパンチの要領でバチ棒を振り回しながら、落ちる……落下するッ!!
『ヤケクソではないな……強い意思を込めての吶喊かッ!!』
鳴子の心中、皿助は見抜いたッ!!
鳴子の心境を知らぬ者から見れば、余りにも不格好な吶喊かも知れない……だが、皿助はそうは思わない。
バチバチシヤガレーのその姿、雄々しい!! 余りにも勇姿ッ!!
不退の覚悟を決めた者の強さが、そこに在るッ!!
本来ならば避けるのは容易い直線的な攻撃だのに、鳴子のその気迫がそれを許さないッ!!
避けるなど外道恥ずべき……そんな気持ちにさせられる!!
『この俺にこんなにもプレッシャーをかけた…お前は…いや、貴女はァァァッ!!』
例え敵でも、応えよう、誠意。
目には目で、歯には歯で、意思には意思でッ!! ハンムラビ王の名の元にッ!!
『久々に使おう、覇皿は無くとも、この技をッ……力士百人力鋼掌破ッ!! 二連波ッ!!』
それは全霊を乗せた、必殺のつもりで放つ張り手。左右同時発射。
DAIカッパー1の右張り手とバチバチシヤガレーの左バチ棒が衝突ッ!!
DAIカッパー1の左張り手とバチバチシヤガレーの右バチ棒が衝突ッ!!
響いた轟音ッ!!
散った火花ッ!!
威力は……まさかの互角ッ!!
本来ならば、DAIカッパー1の張り手の方が数倍上の破壊力であるはずだのにッ!!
気迫と重力で、バチバチシヤガレーはその破壊力差を埋めたのだッ!!
同等量の破壊エネルギーのぶつかり合い。
両張り手と両バチ棒の攻撃は、相殺されたッ!!
『ぐっ……このォ!!』
新たなブンブン攻撃を放つため、鳴子はバチバチシヤガレーの両腕を振りかぶり直そうとした。
が、皿助の方が早かった。
DAIカッパー1の張り手をそのまま握り込み、バチ棒を捕らえたのだ!!
『なッ……』
『俺は想定していました……信じていました……!! 今の貴女の気迫ならば、必ずや俺の全力張り手でさえ【相殺】してしまうだろうと!!』
相殺される事はわかり切っていた。
だから皿助は、その先、【相殺された後にバチ棒を掴む所】まで想定していた。
敵ながら天晴れたる鳴子の意思を、【信頼】して動いたッ!!
対して鳴子は、一撃一撃に無我夢中渾身全霊。「これで倒してやるんだから!!」と、相殺を想定していなかった。
だから腕を引き遅れた。
皿助は熱意はそのままに、冷静に鳴子を見ていた。
鳴子は熱情に昂り、溺れてしまった。
美川の人間として【強い意思を以て戦ったり修行したりする事】に慣れていた皿助。
電線整備士として普通に生きていたがために、そう言う事に慣れていなかった鳴子。
退けない理由、溢れ出る想いの制御に長けていたか否か。
それが、二人の差だ。
『ぅ、なら……』
『その先も、既に信じて想定しているッ!!』
バチバチシヤガレーに取ってこのバチ棒は今、唯一の武器。接近戦に置ける無二の拠り所。
普通の人間ならば、欲と恐怖から、そうそう手放せるものではない。
だが、鳴子は一瞬の躊躇いもなく放棄するだろう。そしてDAIカッパー1から距離を取ろうとするはずだ。
そうはさせるものか。
ここで決めるべく、皿助はやるッ!!
『開け脇腹!! 唸れ複腕ッ!!』
皿助の号令に合わせ、DAIカッパー1の両脇腹の装甲が開放。
内から飛び出した長い複腕が狙った場所……そこは、【虚空】。
ただしただの虚空ではないッ……バチバチシヤガレーの眼前、比喩抜きの目の前数センチッ!!
『はぁッ!!』
二本の複腕が、バチバチシヤガレーの目の前、何もないその虚空を【叩き潰した】。
バチバチシヤガレーの鼻先を掠めて、DAIカッパー1の複腕両掌が衝突ッ!!
ガッギャァァンッ!! と言う激しい金属音と、火花が散ったッ!!
不意を突いて相手の顔面のすぐ前で、掌を叩き合わせる…全力の一拍手ッ……これは、相手をビックリさせるための一撃ッ!!
卑怯姑息?
とんでもない。
これは日本の国技・【相撲】に置ける神聖なる奥義の一つだ。
その名は……【猫だまし】ッ!!
又の名をフェイク・クラップ、もしくはケット・ジョーカー!!
人間の様に視覚に重きを置く生態の生物ならば、ビックリせずにはいられないッ。
例えどれだけの強い想いを秘めていようと、予想外な猫だましには一瞬…最低でも一刹那はビクッてなる!!
生理現象だ、止むなしッ!!
『きゃわはぁ!?』
鳴子も結局は人間……その辺は例外ではないッ!!
ビクゥッとなり、バチ棒を放すのがほんの僅かに遅れた。
その僅かな時間を利用して、皿助は動いた。
DAIカッパー1の本腕をバチ棒から放し、その少し先、バチバチシヤガレーの手首を掴んだのであるッ!!
『あッ』
猫だましを放った複腕も間髪入れずにバチバチシヤガレーの黒雲ユニット内に侵入し、バチバチシヤガレーの両脚を確保ッ!!
カッパーホールド、完了ッ!!
『しまっ、動けな……ご、ぁ…あああああああああアタシはァァァ!!』
『想いの強さで、負けるつもりはない……だが、決して負かせるとも思っていないッ!! 故にここからは……純粋なパワーで、押し切るッ!!』
お互いの意思の力は互角。
ならばここから物を言うのは、【操縦者の実力】と【機体性能】ッ!!
現状、そのどちらも皿助に分があるッ!!
『歯を、食いしばってくださいッ!!』
『まぁぁ、だぁぁあああああッ!!』
『何ッ!?』
DAIカッパー1が投げの態勢に移行しようとした瞬間、鳴子は思いもよらない事をした。
なんと、全力で……全力で、バチバチシヤガレーの上半身を捻ったのである。
『ごぅあ、あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!』
鳴子の濁った雄叫び。おそらく、そこには痛みによる悲鳴も混ざっている。
なにせ、四肢をDAIカッパー1の凄まじいパワーで拘束されている状態で、無理矢理に上体を捻っているのだ。
言うなれば、磔にされた状態で上体を、そんな状態で上体を捻っている様なモノ!!
バチバチシヤガレーの肩や肘が、今にもモゲ散りそうな軋みをあげているッ!!
『ま、不味…えぇい、力士百人力嵐転投撃ァァーーーッ!!』
このままだと、鳴子はバチバチシヤガレーの腕を引き千切らせてでもカッパーホールドから抜けようとするだろう。
今までの戦闘経験から察するに、殺尽機は機装纏鎧や魔機鞍同様、使用者にダメージ感覚のフィードバックがあるはずだ。腕が千切れるダメージなんて、想像しただけでも痛い。と言うか、想像するまでもなく皿助は実際に(手首から先のみだが)二回ほど経験して知っている。
敵とは言え、鳴子にそんな思いをさせたくない、しかし逃がす訳にもいかない。
刹那の葛藤。その末に、皿助は回転不十分は承知ながらも、DAIカッパー1に必殺の投げ【力士百人力嵐転投撃】を撃たせた。
DAIカッパー1の凄まじいパワー&不十分ながらも強烈な回転エネルギーによる投げ落とし。
バチバチシヤガレーの巨体が、金色の残像尾を引く程の速度で落下。
直後、砂利広場へと着弾したッ!!
ドッバァァァン!! と言う重い爆発音の様な轟音が響き、DAIカッパー1の眼下にクレーターが出現する……が、その音もクレーターも、ボックサッツを倒した時に比べればかなり控え目。
やはり回転不十分か。
『ッ……まさか、四肢をもぎ捨てる覚悟まで決めて、トドメの一撃を回避しようとするとは……!!』
一応、バチバチシヤガレーの角はへし折れ、下半身を包んでいた黒雲ユニットが砕け散っているのを見るに……トドメに相当する大ダメージは入ったはずだが……
『づ、ぁ……まだ、アタシは……やれる……よッ!!』
『ッ!!』
クレーターの中心部ッ…満身創痍に等しいバチバチシヤガレーが……フラフラと立ち上がったッ!!
必殺の投げ技、力士百人力嵐転投撃を使ったのに……勝負が決まらなかったッ!!
鳴子の行動が、皿助を圧し、中途半端な状態で撃たせたからだッ!!
……いや、しかしだ……中途半端にしても、先に言った通り相当なダメージは入っているはずだのに……!! バチバチシヤガレーのボロカス具合から見て、必殺に足る威力はあったはずだのに……!!
それでも、鳴子は、バチバチシヤガレーは……立ったッ!! 鳴子が立ったッ!!
『なんて気迫……プレッシャーだ……!! この感覚…の、飲まれるのか……!!』
想像以上だ……まさか……ここに来て……鳴子の【想いの力】…いや、最早【執念】ッ!! 勝利への執念ッ!! 不退の執念ッ!!
鳴子の執念が、ここに来て皿助の想定を……越えたッ!!
『アタシは……やれ……るん、だッ……!!』
バチバチシヤガレーが一歩、大地を踏みしめた瞬間、皿助は血の気が引くのを感じた。
皿助が戦慄した理由は簡単だ……ここ最近の戦闘に置いて初めて【敗北】を意識してしまったからであるッ……!!
鳴子の執念が、彼女の放つプレッシャーが、皿助を脅かすのだ!!
もしかしたら、俺はこのままこの人に負けてしまうかも知れない……!!
そんな、皿助らしくもない思考を皿助に植え付ける!!
それ程の気迫…いや、鬼迫ッ!!
満身創痍、あと張り手一発……いや、一息吹き掛ければ倒れてしまいそうなボロカスのバチバチシヤガレーだのに……その一挙手一投足に、皿助は戦く。
この感情は……【畏敬】ッ。鳴子が放つ執念の強さへの畏怖と敬愛が入り混じった、複雑な心境ッ!!
『ア…タシは……アっちゃ、んの……ため、なら……』
バチバチシヤガレーが、その手を、その指を、空にいるDAIカッパー1へと伸ばす。
その動作を見て、皿助が思わず息を飲んだ。届く訳も無いはずだのに、その指先がこの世界のどんな凶器よりも威圧的に感じた。
『アタシは、死んでも……負け…………な……い…………負け、ら、れ、……な…………ぃ…………』
…………だが、流石にそこまでだった。
ズゥウン……と重く静かな音を立てて、バチバチシヤガレーの巨体が膝を着いたのである。
力士百人力嵐転投撃によるダメージが、膝部関節にしっかりと爪痕を残していたのだ。
そのまま、バチバチシヤガレーは崩れ落ちた。
動かない。声も無い。
完全に沈黙した。
『……【勝った】……のか……?』
皿助のつぶやきに、勝者の悦びは含まれていない。
『……いや……【勝てた】、のか』
伊那爪鳴子……もし、彼女にあと一度、たった一度だけ……DAIカッパー1の元まで飛び、肉弾戦を行う余力が残っていたならば……その勝敗は、覆っていたかも知れない。
そんな直感がして、皿助は悦ぶよりも、安堵したのだ。
これは皿助が未熟だったと言うより、鳴子が美事だったと言うべきだろう。
『鳴子さん……今まで戦ったザ・キルブリンガーズの中で……いや、今まで戦った誰よりも……恐ろしい敵だった……!!』
ザ・キルブリンガーズ戦、三戦目。
雷殺の鳴子とその殺尽機バチバチシヤガレー……なんとか撃破ッ!!




