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ダイカッパーは流れない  作者: 須方三城
第二部 禁忌超越
21/65

20,外道絶許。ぶっ飛ばせ、リンゴを配る男ッ!!《前編》

 突然だが、少しだけ【八年前】の話をしよう。

 八年前と言えば、現在一六歳と約八ヶ月である皿助は八歳と八ヶ月だった頃である。まだ小学校の低学年。そう考えると、結構昔の話だ。少し吃驚。


 その頃の皿助は……こう、何と言うか、今よりも数段未熟だった。小学生である事を差し引いても、すぐに泣く子で……「頼りがいがあるか?」と問われれば……正味、回答に困る少年。それがショタ皿助。


「……ごめん……うッ……本当に……ごめん……!!」


 夕暮れの公園。

 当時は短パン小僧だったショタ皿助は、涙と鼻水をボロボロと垂れ流しながら、唸る様な声で謝罪の言葉を繰り返していた。

 愛着ある短パンの裾を両手でギュッと握り締め……餓狼が延々と満月に吠え続ける様に、ずっとずっと謝罪し続ける。


「……謝り過ぎだし……」


 やれやれ、と溜息を吐いたのは、当時から既に皿助の幼馴染的存在だった女子、月匈音だ。

 現代の大和撫子系スタイルとは違い、ショートヘアに戦隊ヒーローイラストが印刷されたTシャツに短パンと非常にボーイッシュなスタイル。胸囲に関しては現代と変わらず大和撫子的奥ゆかしさ。まぁ当時の彼女の年齢としては平均値だ。問題はその後に平均以下の成長しかなかった事にある。


「あんたはよくやったわよ……現に、ほら、私はちょっと頬っぺと手を引っ掻かれただけだし」


 現状を端的に言うと、ロリ月匈音はつい先程までピンチだったが、ショタ皿助がそれを助けた。そしてこうなった。


 ……流石に意味がわからないかも知れないので、細かい経緯を説明しよう。


 今日、ロリ月匈音はショタ皿助とすごく遊びたい気分だった……が、残念な事に、本日ショタ皿助は武術の修練ディ。

 仕方無いのでロリ月匈音は独り、この公園で砂場遊びに興じていた。


 めちゃんこ美味しそうな泥団子を作って、明日、皿助に自慢してやろう。欲しがったらプレゼントしてあげよう。何故なら私はあいつが大好きだから。


 そんな事を考えながら、まずは砂の選別作業をしていた……が、そこで事件は起きた。


 詳しい理由は未だに不明だが、この日、何故か山から降りてきたオオマングースの群れが、この公園でたむろしていたのである。

 その群れのボスである一匹が、砂場の砂に埋まって仮眠を取っていたのだ。

 砂の選別中、ロリ月匈音はそのボスを叩き起こしてしまった。


 オオマングースのボスはすごく憤慨。公園中に散らばっていた群れの構成員を呼び、ロリ月匈音を完全包囲。

 お? なんだこの珍獣団は? やんのか? お? とロリ月匈音が喧嘩腰に構えてしまった事もあり、ロリ月匈音VSオオマングース軍団の火蓋は切られてしまった。


 当時の月匈音、実はガキ大将的乙女。倍近く歳が違う中学生ヤンキーすら泣かす程の猛者であった。

 しかし、いくら大将の肩書きを冠しているとは言え、所詮ヒトの幼体。小学生は小学生。そして戦いは【数】。

 オオマングースの成獣達に野獣的勢いと数で押され、月匈音はすぐに圧倒的劣勢に陥った。


 そんなロリ月匈音のピンチを感知し、ショタ皿助は修練をほっぽり投げて助けに来てくれたのだ。


 ショタ皿助は無我夢中でオオマングースの群れを撃退。見事ロリ月匈音を窮地から救った……が、ショタ皿助が駆けつけた時には、既にロリ月匈音は頬と腕を負傷していたのである。

 ショタ皿助はその負傷を見て、「僕が遅かったせいだ」と大号泣&謝罪開始。


 と言うのが、ここまでの簡単な流れである。


「ぶ、ぅ、ぁ……月匈音ちゃん…ぅ、ご、めん……ふぐッ…僕が、もっと早く気付いてたら……もっと早く走れてたら……ぅ……焦り過ぎて、あそこで道を間違えなければ……ひぐッ」

「……あのね……そもそも、戦況も見極められずに喧嘩を買った私が悪かったって言ってんでしょ……あんたのおかげで、この程度の怪我で済んでる訳で……」

「だとしても……それでも……僕がもっと早く駆けつけてたら、そんな怪我すらしなかった事には変わりないじゃあないか……ッ!! もっと早く気付いて、もっと早く走って、もっと落ち着いて道を選んでいれば……うぅ……ごめん……」

「…………………………」


 大好きだけど面倒臭ェ。とロリ月匈音は深く溜息。未だに滝の様に涙を溢れさせるショタ皿助に辟易とする。


「あ~~もぉぉ……わかった。わかったわよ。はいはい。許す、許しまーす……これで満足?」

「そんなに簡単に許される事じゃあないよッ!!」

「あんたは一体何がお望みだってのよッ!?」

「ひゃんッ!? ごめんなさいッ!!」


 ロリ月匈音に顔面ハイキックをもらい、ショタ皿助は謝りながら転倒。


「って、あ……ご、ごめん、つい足が……」

「う、ぅぅ…………ぼ、僕を踏んで、月匈音ちゃんの気が済むのなら……どうぞ」

「なんでそうなるのよ!? 今のは弾みで足が出ただけで……」

「でもこの前、一緒に見たじゃあないか。月匈音のお父さん『ぶひぃごめんなさいッ!!』って言いながら、月匈音ちゃんのお母さんにエグいヒールのブーツで……」

「それは思い出させないでッ!!」


 ショタ皿助は無知なために勘違いしている様だが、あれは謝罪とかケジメとかではなく、ただの愛だ。

 小学生の目には少々刺激が過ぎるな愛の形ではあったが。要するにロリ月匈音の両親は現代と何一つ変わらぬ相思相愛の良夫妻なのである。


「私のパパとママのイカれた行為はさておき……あんたは一体私にどうして欲しいのよ!? どうしたら納得する訳!? ねぇ!?」

「ぅうん……正味、僕にもわからないんだ……すごく申し訳なくて……ちょっとやそっとの事じゃあこの罪悪感的気持ちは拭えそうにないって言う事だけはわかるって言うか……」

「……勘弁してよ……」


 この辺で許して欲しいのはこっちだ……とロリ月匈音は頭を抱える。


「…………とにかく、わかった。わかったわよ。口だけで謝って口だけで許しましたじゃあ納得できないってんなら、【約束】しましょ」

「約束?」

「そう。私達の間で、『あんたが間に合わなくて私が怪我をしてしまった場合』、『【それ】をしたら許してあげる』って言う、儀式ルーチンを決めるの」

「あ、それ良いね!! 至極わかりやすい!!」


 言いながら、「やれやれ」とロリ月匈音は本気マジの溜息。

 何故私は、御伽噺の王子様ヒーローの様に自分を助けてくれた男子(しかも大好き)にこんな理不尽な事を言っているんだろうか、と。


 しかし、このままではショタ皿助は多分顔を合わせる度に謝ってくるだろう。下手すれば一生。

 こっちは好意のベクトルを突き刺し続けているのに、向こうは罪悪感メインの視線を送ってくるなんて……一応乙女であるロリ月匈音としては冗談ではない。

 ここはもう、何か適当に罰則的なものを設けて、許された気になってもらおう。


「……そうね、まず一つ『私を怪我させた奴をぶっ飛ばす事』。そうしてもらえると、私はスカッとする」

「うん。それは言われなくてもヤる」

「二つ、『謝るとしても、一回』。一回に誠意を込めてくれればそれで良いから。あと泣くな、鬱陶しい」

「う、うん……わ、わかった……頑張る……」

「……あ、そうだ。最後に……『私の要望を一つ、なんでも叶えろ』。例えば、ママゴトのラブシーンで昨日みたいに『恥ずかしい』とか言って逃げるの無し」

「ぇ、あ……そ、それはその……」

「あァ?」

「……うん。わかった。頑張る」

「そ。じゃあ、これでこの話はおしまい。ほら、あんたん家行くわよ。修練の途中で飛び出して来ちゃったんでしょ? 私も一緒にあんたの爺ちゃんに謝るわよ」


 そう言って、ロリ月匈音はその小さな手をショタ皿助に差し出した。


「うん……月匈音ちゃん、……今日は、本当にごめんね」

「もう良いってば。ほら行くわよ」



   ◆



 綾士歌高校図書室。

 そこには、司書先生の承認さえ得られれば生徒が利用できる大型のコピー機が設置されている。


 例え我らの皿助も、司書先生の許可が必要なのは例外ではなく。

 司書を兼任する国語科の早黄泉はやよみ先生の許可を得て、月匈音の歴史ノートからテスト範囲部分のコピーを取っていた。


「……俺は、どうすれば良いんだろうな……」


 ノートのページを捲り、コピー機のスキャナー部分に設置しながら、皿助はほぼ無意識につぶやいた。


 だが、コピー機はウィーン…と静かにスキャンを開始するだけ。

 コピー機は何も答えてくれない。


 自分がどうすれば良いのか。

 わかりきっている。


 堕撫尤タブーを倒せば良いのだ。


 パン・ドーラーとやらを倒せば、晴華の匣は開く。

 単純シンプル至極。明快でわかりやすい。


 だが、そのパン・ドーラーとやらが一体どこにいるのかわからない。


 ……それに、問題は実はそれだけではない。


「……【目的】は阻止できる……だが、【真の目的】は阻止できない……か」


 バレネッタの【予言】だ。

 しかし【予言】とは言っても、彼女の【予言】は世間一般の【予言】とは性質が違う。

 運命が絶対である以上、彼女の【予言】は【決定事項の宣告】に近い。


 皿助は、堕撫尤タブーの【目的】…【選別】を阻止できても、その先にある【何か】…【真の目的】とやらは阻止できない。

 つまり、皿助はどう足掻いても、最終的に堕撫尤タブーに【してやられる】と言う事だろう。


「その事に関しても、今の内に何か手を打つべきなのだろうが……」


 正味、皿助が今持っている情報では、対処のしようが無い話だ。

 バレネッタからもう少し話を聞けていれば……などと悔やんでいると、ピーッとコピー機が鳴き、コピー完了を通知。スキャンしたノート表面を丸写しにしたA4用紙を吐き出した。


 とりあえず、今は次のページをコピーしよう。

 皿助はコピー機のスキャナー部分を開き、ノートを取り出して、ページをめくる。


「……しかし、相変わらず見事な字だな。流石は月匈音。俺の幼馴染」


 月匈音はとても字が上手い。彼女が意識して書く文字は、PCで出力した様な明朝ゴシック体になる。流石は硬筆検定免許皆伝。


 だが、【彼女の文字】はそれだけではない。

 彼女があまり意識せず…なんとなく書き出す文字は、年齢相応な感じの可愛い丸みを帯びた文字になったりもする。

 実際、ノートの端々、なんとなく走り書きしたと思われる「面白い」「この人すごくない?」と言った偉人の逸話に対する感想コメントは愛くるしい丸文字だ。


 たった一ページの板書でギャップ萌えまで披露する幼馴染。

 流石だ、と皿助は目を細めて笑う。


「……少し、気が紛れたな」


 月匈音に萌えた事で少し、心が落ち着きを取り戻して来たらしい。

 暴走気味だった波動が、本来の流れを取り戻していくのを実感した。


「月匈音には、本当にいつも助けられる」


 そう言えば小学生の頃にも……罪悪感で気が狂いそうだったショタ皿助を、当時ロリだった彼女が画期的な提案で救ってくれた事があった。


 いつだって、月匈音は皿助の心に穏やかさを戻してくれる。

 得難い存在だ、と染み染み思う。


「……思えば、俺は焦り過ぎていたのかもな……」


 皿助は自嘲。


 パン・ドーラーを早く見つけなければ。晴華ちゃんを早く助けなければ。

 確かに解決を急ぐべき案件ではあるが、焦るべき案件ではない。


 急ぐ事と焦る事は、似ている様で全然違う。

 クールかつクレバーな思考と行動で迅速に物事を進める……それが、「急ぐ」と言う事だ。

 焦りは、ただただミスを招く。あの時、ロリ月匈音がいる公園への最短ルートを間違えてしまった様に。


 焦るな。急げ。


「丹小又さんの言っていた通り…ヤケクソに探しても見つかるはずがない。奥武守町は小さい町と言っても全国基準との比較的な話であって、実際はそこそこ広いからな……それに、堕撫尤タブーの連中が奥武守町にいるとも限らない」


 ならば、どうするか。

 簡単。ヤケクソではなく、クールかつクレバーに探せば良いのだ。


「……兄に迷惑をかけるのは、少々気が退けるが……」


 皿助の兄の一人であり、美川家八人兄弟姉妹三男にして序列七位の男…美川ちゅらかわ皿唯臥さいがは、いわゆる【私立探偵】である。

 去年までは【現役男子高校生探偵】と言う触れ込みで各種メディアにも顔を出していた。

 その職業柄、探しモノは得意中の得意としている人物だ。 


 どれくらい得意かと言うと……幼少の頃「ふふん☆ 僕はね、砂場に埋められた塩一粒だろうと必ず見つけ出すよ☆」と兄姉達に豪語し、実際所要時間八時間程で本当に見つけ出したくらいだ。

 ただ「ねぇ、探させといてさ、独り残して帰るって酷くない? いや、泣いてないし☆ 全然寂しくなかったし☆」と半泣きで兄姉達に抗議していたが。


「……………………」


 皿唯臥は誰かの頼みを断る様な柄ではない。家族である皿助からならば、なおさら。

 頼みさえすればハイパーチャラいテンションで「ゥオッケ~イ☆ 任ちょーけーマイブラザー☆」と軽々引き受けてくれるだろう。

 そして、彼の探索能力ならば、もしかするとビックリするくらいあっさりと見つけて来てくれるかも知れない。


 ……しかし、だからと言って、気軽に皿唯臥を頼るのは皿助的にはナンセンス。

 皿唯臥だけではない、他の兄姉達もだ。何せ、この件に兄姉達が関わる理由は一切無いのだから。


 兄姉達には、それぞれの人生がある。

 ただでさえ、幼少の頃は世話を焼かせてしまったのだ。高校生の今にもなって、また迷惑をかけるのは本当にもう気が進まないにも程がある。


 ……だが、おそらくは皿唯臥を頼る事こそが、現状最も迅速に晴華をあの匣から解放できる手段。


 皿助が苦渋に満ちた心境でポケットのスマホに手を伸ばしかけた、その時。


「む?」


 人の気配を感じ、皿助は振り返った。


「! ……君は昨日の……おはよう」


 ここまで接近されるまで気付かないとは、珍しい。

 皿助は少し驚きながら、自身の背後アバウト五メートル程の所に立っていた女生徒に声をかけた。


 いかにも女子高生的な女子高生。

 音観おんみ葉雨ようだ。


 皿助の後輩一年生であり、陰陽師の末裔。

 昨日の夕方、河川敷にて杷木蕗の襲撃を受け、皿助に救われ、丹小又に記憶を弄られた子。


 葉雨は昨日の事を、「なんだか不審者的おっさんに追いかけられ、皿助に助けられた」としか記憶していない。


「奇遇だな。君も何かコピーを取りに来…」


 不意に、皿助は本能的危険信号を感じた。


 何故? こんな状況で突然に……?


 わからなかった、が、すぐにわかった。


 突如、葉雨が殴りかかって来たのである。


「ッ!?」


 皿助は当然回避ッ!!

 皿助の鳩尾を的確に狙っていた葉雨の拳は、そのままコピー機に突き刺さり、深くめり込んだ。

 コピー機の断末魔を代弁する様に、ゴガシャァァッ!! と言う激しく大きな破壊音が図書室に響き渡る。


 物を大切にしないのは良くないし、図書室で騒ぐのも良くない……が、そんな事を言っている場合ではない。


「馬鹿な……!?」


 今、皿助は普通に葉雨の攻撃を回避した様に見えただろうが、それは違う。

 皿助は、かなり驚いた。


 何故なら、葉雨からは敵意も殺意も欠片も感じなかったからだ。

 葉雨は今、何の気配も感じさせずに、突然に殴りかかってきたのである。それも、大型のコピー機を一撃でお釈迦様の元へ送ってしまう様な破壊力で。


「いきなり何をするんだ後輩女子ッ!! 俺には君に暴力を振るわれる覚えが無いぞ!!」

「……あ……」


 皿助の言葉に、葉雨は僅かに反応し、ゆらりと振り返った。


「…………!」


 その目に、光は無かった。まるで死んだ魚。フレッシュな女子高生の目とは思えない。

 明らかに、正気ではない。


 だが、皿助は葉雨から特別変わった気配を感じない……おかしい。これはすごくおかしい。


「気配を感じられない……、ッ……まさか……堕撫尤タブー関係か!?」

「……ぁ、あ……」


 息漏れの様なかすかな声をあげ、葉雨が動く。

 天井から糸で吊るされて操作されている様な、人体の動作として不自然な挙動で、皿助に回し蹴りを浴びせようとした。


堕撫尤タブーによる何らかの【能力】……何らかの【超越権】で操られているのかッ!!」


 咄嗟に状況を推測し、最も現状に納得ができる仮説を叫ぶ。

 それが正解かどうかはさておき、皿助が今、すべき事は一つ。


「そう言う事ならば……待っていろ、後輩女子。今、応急処置をしてやる!」


 マリオネット状態の葉雨の回し蹴りを回避し、皿助はゆっくりと呼吸を整え、手刀を構えた。


「美川流総合武術には、こう言った状況にも対応できる奥義があるぞォーッ!!」


 皿助が手刀に纏わせた波動。

 それは【感覚錯綜の(パルコンフィクト・)波動疾走オーバードライブ】。

 自分よりも波動能力が低い相手限定、効果時間はごく短時間の間だが【相手の感覚を麻痺させる波動】だ。


 主に【様々な事情から自意でなく誰かに強要される様な形で捨て身を覚悟し、美川の者に挑んでくる……そんな同情すべき境遇の者達】を無傷で制圧するための波動である。


 そんな慈愛の波動を帯びた手刀を振りかぶり、皿助は葉雨へ吶喊。


「ぁ……」

「そこだッ!! せいゃあーーーッ!!」


 マリオネット葉雨が迎撃に振るった右拳。

 その右拳を、皿助は波動手刀で叩き切る様に叩き落とした。


「そしてッ!! そことそことそこもだぁぁーーーッ!!」


 続けて、葉雨の左肩、右太股の付け根と左太股の付け根を瞬速の手刀で連突。


「ぁぁ……」


 次の瞬間、ブツンッ!! と糸が切れた様に、マリオネット葉雨がその場で膝から崩れ落ちた。


「ぅ、ぁあう? ぁぁ……」


 マリオネット葉雨は頭や胴をモゾモゾと揺り動かすだけで、伏した身体を起こせそうにない。

 そりゃあそうだ。今、マリオネット葉雨は体内に流し込まれた皿助の波動によって、四肢への神経伝達を完全妨害されているのだから。


「糸で吊るされた人形の様に操られていようと、実際に糸で吊るされている訳でないのなら……動力は操られている人体に委ねていると言う事だ」


 ならば、その操られている人体の動作環境を乱してしまえば、無力化できるのは道理。

 マリオネット葉雨の無力化に成功し、皿助はとりま一息…


「……吐けそうに、ないな」


 ぺた……ぺた……と言う、静かな足音が、曲がり角の向こうからすごくたくさん聞こえてきた。


 嫌な予感しかしない。

 そしてその予感は的中した。


 マリオネット葉雨と同じ様な光の無い目と不鮮明な気配を纏った綾士歌高校の生徒達……パッと見カウントでも軽く三〇名以上が、列を成して曲がり角から登場した。

 まるでゾンビ映画の様相ッ!! 綾士歌・オブ・ザ・デッドッ!!


「……ぁうぁあああ……!!」


 オブ・ザ・デッドな集団の先頭を歩いていた上級生委員長格らしい眼鏡男子が、皿助を指差して吠えた。それに呼応して、後ろのマリオネット生徒達が両手を振り上げる。

 おそらく、あの軍団、二秒後には全員一丸となって皿助に突進してくるつもりだろう。


「……堕撫尤むこうから来てくれたのは至極有り難いが……無関係な人間を巻き込むとは、ふざけた真似をッ!!」


 見つけたらタダでは済まさないぞッ!!

 皿助が不機嫌に叫ぶ前に、マリオネット軍団は突進を開始した。


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