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ダイカッパーは流れない  作者: 須方三城
第二部 禁忌超越
17/65

16,強敵邂逅。未来と運命を狂わすネタバレ女ッ!!《後編》

「……ッ……」


 皿助は【晴華が入った匣】を学ランのポケットに突っ込み、考える。


 これから戦うべき相手の名は、バレネッタ・リクリア。

 大胆なパーカー着こなしにより晒し出されている素敵谷間と、最早履いている意味があるのかが疑わしい程に短いスカートが素晴らしく特徴的。


 バレネッタは元々、高次元世界で生きている【天使】と呼ばれる高次元生命体。

 だが今は【受肉体】と言う入れ物に入って低次元世界へと堕りて来たため、【堕撫尤タブー】と呼ばれる存在に分類されるらしい。


 受肉体に入っている状態だと、「天使としての高次元的能力・【超越権ちょうえつけん】を満足に行使する事は不可能である」……そう言っていたが……裏を返せばそれは「天使としての高次元的能力・【超越権】を不満足ながら多少は行使できる」と言う事。


 そして実際、彼女はそれを多少行使してきた。


 バレネッタの【超越権】は、【未来認知ネクスロード・アイノウ】……【未来のネタバレを知る権利】ッ!!


 バレネッタはここに至るまでの未来を全て【知っていた】。そして口ぶりから察するに、もっと先の事まで【知っている】。

 何せ、皿助が【堕撫尤タブーを全員倒し、その企みを阻害する事に成功する】と言う未来を【知っていた】のだから。

 それは相当先の事だと思われる。


 つまり、バレネッタは受肉体に入っているために【超越権を制限されている状態】でも、かなり先の未来までネタバレを知る事ができると言う事。


 当然、ここから皿助がどう動くかも【知っている】。


 どうする?

 まずはこのまま波動疾走オーバードライブで様子見の一撃を撃つべきか?

 それとも、【示祈歪己シキガミ】…いや、示祈歪己は無理だ。示祈歪己発動阻害装置とも言うべき杷木蕗がそう遠くない距離にいる。使えない。

 先程拾った平皿でダイカッパーを起動して、圧倒的サイズ差とパワー差で攻めると言う手は、充分アリだ。


 結局、大まかな選択肢は【生身で様子見的牽制攻撃を放つ】か、【ダイカッパーで最初から決着様相クライマックス】か、の二択。

 さて、どちらを選択すべきか……


 普段なら、皿助はその思考をどんどん深め、実際時間は一刹那も経たぬ内に最善策に目星を付け、実行に移しただろう。


 だが、今回はそうはいかない。


 皿助がどの行動を選択するか、相手は絶対に【知っている】のだから。


「ッ……!!」


 皿助の頬を、一筋の汗が伝う。

 一体、どう戦えば良いと言うのだ、こんな相手。

 どんな攻撃を繰り出そうと、【知られている】のでは当然対処されてしまうではないか。


 これは……勝目が無い……?


「…………いや、それは違う……!!」

「………………」


 皿助の独り言に、バレネッタはムフフと笑みを濃くした。

 気付いたデスか? まぁ【知ってました】デスが。

 そう言いた気な笑みだ。


「お前は確かに言った……【俺】は…【美川皿助】は【堕撫尤タブーを全員倒せる存在である】とッ!! つまり、俺は本来進むべき未来でお前に勝ったッ!! 俺には、お前を倒す術があると言う事だッ!!」

「イエス。本当、ユーは素晴らしい。グレイトフル。良いデスよ。どうせ隠してもユーなら気付くだろうデスし、教えてあげるデス」


 バレネッタは皿助を惜しみなく賞賛する様に拍手ッ。バレネッタは本心から皿助を尊敬しているのだろう。何せ、低次元の生命でありながら、自分達に一矢報いる存在なのだから。


 例えるならば、皿助は【柔道の金メダリストをマグレとは言え投げ飛ばした柔道小学生】。投げ飛ばされた柔道金メダリストは、その柔道小学生の未来に激しく期待し、とても好意的な目で見守るのが必定。

 バレネッタの心情は、まさしくその金メダリストと同じ感じなのだ。皿助をすごく気に入っている。


「大前提として、【世界の未来】を変えても、【特定生命体の運命】は絶対に変わらないデス」

「……? よく意味がわからないぞ……?」

「【運命】とは絶対不動。なるべくして必ずなる。そう言うモノなんデス。例え低次元生命体の運命だろうと、【今のミー】にはどうする事もできませんデス。これは全て創造主クリエイター…王が決めたルールなのデス」

「……?」


 イマイチ、皿助はピンと来ていない。


「例えば、ユーが戦国時代にタイムスリップしたとするデス。そしてかのオダ・ノブナガの元へ行き、アケチ・ミツヒデの反乱…【本能寺の変】について彼にリークしたとしますデス。そしたら、どうなると思うデス?」

「むぅ……まぁ、かの織田信長と言えど人間…人間的心理に則って考えるのであれば、本能寺への宿泊を取りやめ、明智光秀を粛清しようとするだろう」

「イエス。そうするでしょうデスね。これで【本能寺の変は起きなくなり、未来は変わる】デス。でも、例え本能寺の変を回避したとしても、いずれ絶対に【ノブナガはミツヒデに殺される】デス。それが【ノブナガの運命】。そして、絶対に【ミツヒデはノブナガを殺す】、それが【ミツヒデの運命】」

「! と言う事は……」

「そう。ノブナガとミツヒデの関係は、そのままユーとミー達の関係はそのままイコールで結ぶ事ができるデス」


 つまり、【皿助と堕撫尤タブーが戦う場所や戦いの内容】がいくら変わっても、【皿助が堕撫尤タブーを倒すと言う皿助の運命】と【堕撫尤タブーが皿助に倒されると言う堕撫尤タブーの運命】は、【変わらない】。


「未来を知っていても、運命は絶対に変えられないデス。【朝、割れる運命にあったウェッジウッドのポットは、何度その朝を繰り返そうと必ず割れる様に】ッ!! だからミーは、ユーには勝てないデス。例え【ユーがどう戦うか】を知り尽くして、万全の対策を練って戦いに臨んでも、戦いの内容が多少変化するだけで、ミーはユーに負けるデス」


 わかりやすく解説しよう。


 例えば、バレネッタが【皿助に右の張り手を喰らって負ける未来】を知り、その右の張り手を回避したとする。

 そしたら【その一撃で皿助VSバレネッタ戦が決着すると言う未来は変化する】が、【皿助とバレネッタの運命】は依然として変わらない。

 結果【皿助に右の張り手を喰らって負ける未来を知ったので、それを回避した後に左の張り手を喰らって負ける未来】になる。

 次にその左の張り手を回避しても同様。

 今度は【皿助に右の張り手を喰らって負ける未来を知ったので、それを回避した後に左の張り手を喰らって負ける未来を知ったので、それも回避したら右の手刀チョップで意識を刈り取られて負ける未来】になる。


 どこまでやっても、どんなにやっても、皿助とバレネッタが交戦すればバレネッタは結果的に負けるし、皿助は最終的に勝つのだ。


 【未来】は【不確定】で【流動的】……だが、【運命】は【固定】で【絶対的】。


「……待て……だとすると、意味がわからない……何故、お前は俺の前に現れた……!? 不思議だぞ……!?」


 バレネッタの言う事が全て事実だとしたら……彼女は、【どう足掻いても皿助には勝てないと知っていた】にも関わらず、今、こうして皿助の前に立っている事になる。


「クスクス……ベースケ、不思議な事なんて何も無いデスよ。さっきの【ミーの発言】を思い出してくださいデス。……こう言えば、理解できるデスよね? 【知ってます】デスよ」

「……………………」


 言われた通り、素直に、皿助はバレネッタの言葉を思い返す。


「ッ!!」


 そしてすぐに、バレネッタの示唆する言葉を見つけ出した。



 ―――【今のミー】にはどうする事もできませんデス―――



「まさか……」


 目を剥いた皿助とは対照的に、バレネッタは満足気に目を細めた。


 よくできましたデス。ま、すぐにわかるって【知ってました】デスけど。


 暗に、そう言ったのが聞こえた。


「【今のミー】じゃあない【本来のミー】には、【誰かの運命すら変えられる権利がある】……デス」

「本来のッ……!!」

「超越権【未来認知ネクスロード・アイノウ】……これは、ミーが与えられている超越権の【一部分】デス」


 バレネッタの【未来のネタバレを知る権利】は、あくまで彼女の【超越権のほんの一端】でしかない、と言う事だ。

 超越権を一つの人体に例えるならば、【未来のネタバレを知る権利】は【右手】。となれば必然、他にも【左手】や【右足】【左足】に該当する部分が存在するのであるッ!!


「【受肉体による超越権の制限を一部解除する事】で、ミーは【別の一部分】……【誰かの運命すら変えられる権利】を行使できるデス」


 受肉体は、言わば制御装置。

 存在感が偉大過ぎて【ただ居るだけで低次元世界を著しく破壊してしまいかねない高次元生命体】を、低次元世界に適応・活動できる様にするための代物だ。


「まぁ、一部解除と言っても……それだけでも低次元世界に与える影響は計り知れないデス……天使、高次元生命体とはそれだけ偉大なのデス。……正味、王の創作物であるこの低次元世界に、小規模ミニマムとは言え悪影響を及ぼすのは…全く推奨されない行為デス……故にミー達は、この一部解除の事を【禁忌解禁きんきかいきん】と呼んでいるデス」

「……そして、今から……」

「そう、今からミーは、その【禁忌解禁】をするデス」


 その宣言の直後、善は急げと言わんばかりに早速【異変】が起こったッ!!


 バレネッタの口の端から【白い何か】が一筋伝い落ちたと思った刹那、


「おべぇぁ」


 続けてバレネッタの下品チックな声が響き、バレネッタの口から【白い何か】が勢い良く地面へと吐き付けられたッ!!

 ビチャビチャビチャッッッ!! と【白い何か】がどんどんどんどんバレネッタの体内からその口を経由して放出されていくッ!! 中々に汚い絵面ッ!!


「くッ……とにかく回避ッ!!」


 その白い流動物の正体は、皿助には皆目見当も付かない。

 だが、よくわからない物である事はわかる。よくわからない物に触るのは良くない。

 あと、今見せつけられた絵面的に、触りたくない。

 いくらバレネッタがナイスバデーな美女と言えど、その吐瀉物的な何かに浴び触れるなど……皿助にそんな趣味は無い。


 と言う訳で、皿助はシュババババと華麗なステップで跳ね回って【白い何か】の飛沫を全力で回避。

 だが、


「ぬ? ぬぬぬ……ぬぬぬぬぁああああああ!? と、唐突に早く、そして多くなっただとォーッ!?」


 意地でも皿助と特殊なプレイがしたいとでも言うのか、バレネッタによる【白い何か】の放出は勢いを増し、飛沫の量と速力が跳ね上がった。


 皿助が如何にすごく健脚男子高校生と言えど、回避ステップ運動の限界と言う物がある。このままでは、浴びてしまう。


 こうなったら波動による障壁を展開する【円皿状の(ディッシュリング・)波動疾走オーバードライブ】で防ぐか。

 いやしかし、ぶっちゃけおそらく吐瀉物ゲロ的な物体を弾くのに、敬愛する祖父から習った波動奥義を使いたくない的な皿助の心情。


 仕方無いので、皿助は回避ステップを踏みながら後退する。


「……おのれ……一体何なんだ、このふざけた攻撃はッ!? こんな下品めいた攻撃で俺の運命が変わるとでも言うのかッ!? だとしたら溜まったモノではないぞ!?」


 これくらい離れれば多分安心大丈夫。そう思える距離を取り、皿助はちょっと不機嫌なニュアンスを込めて叫ぶ。

 それもそうだ、いくら皿助が温厚男子高校生と言っても……「白いゲロを吐き散らす」なんて下品な攻撃で運命を捻じ曲げられるなんて、解せないにも程がある。解せぬ。


 しかし、皿助はすぐに「俺は勘違いをしていたッ!!」と自覚する事になるッ!!

 堕撫尤タブーは幽霊同様に次元が違う生物。その行動の真意を皿助が推し量れないのも無理は無い事だがッ!!


「ッ!!」


 バレネッタが存分に吐き散らした【白い何か】がひと塊の白い濁流になり、そしてバレネッタを包み隠す様に渦を巻き始めた。

 そして、渦はバレネッタを包み込んだまま、変形。あるシルエットを形成する。


 そう、バレネッタが吐き散らした【白い何か】は、ゲロ的攻撃などではなかった。

 あの【白い何か】は……【装甲】だったのだッ!!


『……これがミーの禁忌解禁デス……』


 静かに響く、拡声器を通した様なバレネッタの声。

 その声の発生源は、白い巨躯を誇る……【天使】から。


 その姿は、美事と言わざるを得ない。

 推定身長は二〇メートル前後……石膏めいた肌質の【全裸】美女が、八枚の雄々しい白翼を広げて滞空していた。

 あのツインテールヘアにソバカス、そしておっぱい……間違い無い、バレネッタだ。

 全裸バレネッタの容姿に八枚の翼を付け加え、巨大な石膏像的に仕上げた……そんな感じである。更に石膏像らしく、その表情は無。瞼と口を固く閉ざしている。


 しかし、それにしても清々しい程に全裸だ……まぁ、全裸全裸と言っても、見た目が実に石膏的であるため、エロティカルな性的情緒よりもアーティステック的芸術情緒の方が強く前面に押し出されている。

 かの総合芸術家ミケランジェロ・ディ・ロドヴィーゴ・ブオナローティ・シモーニが手がけた【ダヴィデ像】、あの作品の立派男性器に芸術的興奮を覚える者は多かれど、性的興奮を見出す者はすごく少なめ。

 それと同じ。なので深夜アニメ的な健全なる修正の光が差し込む事は決して無いッ!! 見放題ッ!!


『受肉体の内で制限されていたミーの一部を吐き出し、それを受肉体に纏わせる事でベリーベリーパゥァアップ……そして、更なる【権利】を行使できる様になった姿デス』


 巨大全裸バレネッタ石膏像は、口を開ける事なく声を紡ぐ。


『この姿フォームの名を、運命狂騒うんめいきょうそう覇螺羅因果(バラライガ)】と言うデス』


 その名を口にした瞬間、巨大全裸バレネッタ石膏像の両眼が、勢い良く開眼したッ!!

 口角も実に滑らかな挙動で滑り上がっていくッ!!

 動いたッ!! 石膏石膏と連呼していたのに、石膏らしからぬ感じで目と口が動いたッ!! 石膏に見えると言うだけでやっぱり石膏ではなかったッ!!


『バラライガが顕現した今、この瞬間…モーメント、この低次元世界で活動している全ての生命体の【運命】が【不確定】なモノになったデス』

「なッ……!?」

『それはミーも例外ではなく…デス。ベースケ』


 バレネッタがバラライガを起動した瞬間から、皿助の運命は道標を失った。今朝の星座占いで乙女座が一位だった恩恵も打ち消された。

 つまり、【皿助が堕撫尤タブーを倒す】と言う運命も、白紙に戻った。


 今、皿助の運命は未確定。皿助の運命だけではない。バレネッタの運命も、だ。

 ここから、皿助とバレネッタの行動次第で、お互いの運命…その全てが変わる。

 さながら道なき砂漠を駆け抜けるマラソンレース。その道筋も、果てはゴールまで、今はまだ定まっていない。


 即ち、先程までは有り得なかった【皿助がここでバレネッタに負ける未来】が有り得てしまう……そんな状況なのだ、今は。


「……ふっ……」


 皿助に取ってはとんでもない悲報のはず……だのに。

 皿助は、笑った。不敵静かに、笑った。


『……? 何が可笑しいデスか? 戦闘中にユーが突然笑い出す未来は知らないデス……そしてバラライガ起動中は、毎秒ごとに未来が千変万化するのでネタバレが当てにならないデス。教えて欲しいデス』

「……可笑しいのではない。安心したんだ、バレネッタ」


 バレネッタは先程【誰かの運命すら変えられる権利】と言っていたものだから、てっきり皿助は【問答無用で好き勝手に運命を弄られて負かされてしまう】と言う不条理な展開も最悪予想していた。

 だが、蓋を開けてみればどうだ。


 バレネッタのバラライガは、確かに【誰かの運命すら変えられる権利】を行使できるが……正確に言えばそれは【誰かの運命を不確定なモノにしてしまえる権利】だった。神が定めたと言う【運命は絶対】と言う設定ルールを捻じ曲げる……凄まじい権利である事は重々理解できるが、それでもバレネッタに出来るのはそれまで。

 悲報中の朗報とはまさにこれ。


「つまり、こう言う事だ……【俺の行動】次第では、元通り【俺がお前に勝つ運命に戻す】事も充分可能ッ!!」


 だったらば、やる事は一つ。


「宣言しようッ!! 俺はお前に勝ち、必ず晴華ちゃんの匣の開け方を教えてもらうッ!!」


 皿助が、勢い良く腕を振り上げたッ!!

 その手に握っているのは、表面に浮世絵風のキュウリが描かれた緑色の平皿ッ!!


 このポーズを我々は知っているッ!! 久しいッ!!

 皿助自身もすごく久々にこのポーズを取ったッ!! 懐かしさすらあるッ!!

 だが、感傷に浸るのは後だ。今は、有言を実行する時ッ!!


「―――機装纏鎧きそうてんがい、ダイ…カッ、パァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッ!!!!!」


 皿助のシャウトに呼応して、その手に掲げた平皿がピッギャァァァンッ!! と実に目にやかましい豪快な緑光を放ち始める。

 皿が光る、それだけでも充分な不思議だが…皆様も知っての通り、不思議は更に続く。ぽぽぽぽんッ!! と緑色の輝きの中から次々に新鮮そうな不思議キュウリが飛び出し始めたのだ。

 不思議キュウリはそのまま皿助を囲う様に、その周囲で旋回飛行を開始。不思議キュウリは爆発的に数を増し、すぐに皿助の姿を覆い隠した。


 そして、皿助を包み隠していた不思議キュウリの旋風は、軽快かつ爽快な破裂音を伴い、緑色の軌跡を残して四方八方へと爆裂飛散。


 不思議キュウリ旋風の中から現れたのは、緑光に輝く装甲で全身を覆った緑鋼りょくがねの巨人。

 体躯の大きさはおおよそバラライガと同等。推定全高二〇メートル強。

 パッと身で堅牢強靭である事が理解できる太ましい肢体は、少々無骨が過ぎる。人型と言うよりゴリラ型と言う表現が実にしっくり。

 頭部と背面、そして両肩にそれぞれ一枚ずつ、合計四枚の皿型武装【覇皿バサラ】を装備。頭の皿は笠に似ており、背の皿は亀の甲羅を彷彿とさせるデザイン。両肩の皿は背の皿とデザインは同じだが、サイズは小ぶり。


 全身に緑色の装甲と、皿型の武装を纏った巨大ゴリラめいた人型ロボット。


 以前にも……具体的に言うと第一部の第一話でも全く同じ事を言ったが……第二部に入ってからはようやくの初お披露目なので、敢えてもう一度、あの時と同じ事を言おう。


 これこそが、河童一族最強の機装纏鎧。


 大威を以てあらゆるわざわいを打ち破り、安寧をもたらす者。


 天下泰平・大威禍破安ダイカッパア、否、ダイカッパーであるッ!!


 お待たせ。


『実に半年ぶりッ!! やはり滾るぞ……!! 相変わらず、綺麗で素晴らしいエネルギーが身体の底から湧いてくる様な感触……いや、実感ッ!!』

『……ダイカッパー……以前に見た未来のネタバレに置いて、ミー達を屠った破壊の河童(ブレイクメンカッパー)……実際現実としてウォッチンすると、中々の迫力デス。そして装甲が緑色に輝いててすごくグッドに綺麗デスね。ミー達が人・妖・魔の即席連合軍とファイトした頃の機装纏鎧は、兵器感重視で味気無い色味のモノが多かったデス。ミーはそのダイカッパーの様に見た目も凝ってる機装纏鎧の方が好みデスね』

『俺とダイカッパーの付き合いはそう長くも深くもないが……ダイカッパーの事を褒められると悪い気はしない。むしろ心地良い。……こう言う感情になるのは、俺もダイカッパーの事が好きだからだろうな……だがしかし、今はバトルパートだ。お前が同好の士だとしても、敵である事が変わらない以上……俺は遠慮せずに攻めるぞ、良いな!?』

『オッケイ。ヘイ、カミンッ、ベースケェェッ!!』

『そうか、ならば、行くッ!!』


 皿助はダイカッパー両肩の覇皿を射出し、それぞれの掌に接続。

 ダイカッパーの肩の小さな覇皿は【装着した箇所による打撃の威力を何十倍にも増幅する】と言う効果を持つ強い強い武装だ。

 この肩覇皿を装着した手による張り手、【力士百人力鋼掌破ドスコイ・デストロイヤー】はまさしく必殺の一撃となる。


『とぅおうッ!!』


 掛け声を上げ、皿助がダイカッパーを走らせる。


『迎撃ィイェェェスッッッ!!!!』


 ゴキゲンな声を上げ、バレネッタがダイカッパーを迎え撃つ。

 そのかっ開いた両眼から、赤い熱線を照射ッ!! 目からビームだッ!!

 それだけに飽き足らず、なんと耳の穴からは小型のミサイル弾がッ!! 耳からミサイルだッ!!

 そして、


『ぬッ……!?』


 皿助に突如襲った異変。


『な、なんだ……!? 脳内に……地上波では放送できない様な卑猥な言葉を囁く艶かしい女性の声がッッッ!? この声はお前か、バレネッタァァァ!!』


 それはバレネッタによる超常テレパシー淫語攻撃ッ!! 君にテレパシーであるッ!!

 思春期である皿助の弱点ウィークポイントを的確に狙う一撃ッ!! 卑劣!! お姉さんが、男子高校生に淫語を囁くなんて!! そんなの主に下半身にすごく効くに決まっているッ!!


 皿助の足が止まり、皿助の動作意思に連動しているダイカッパーの足も止まる。バレネッタの狙い通り。


『バラライガ起動前に見た【本来の未来】でも、この攻撃は有効だったデス!! まぁ有効だっただけで然程戦闘に影響が出ない程度だったデスが……なので、今ユーの脳内にぶち込んでいるテレパシーは、その時よりも声の艶めかしさをより激しく、淫語のチョイスもより卑猥に設定してるデス!! 今度こそ無防備に前屈みを晒すとイイデス!!』

『お、おのれぇぇぇぇぇぇッ!!』


 皿助の背が少しずつ丸まり、前屈みスタイルへと移行しつつある中。

 最初にバレネッタが放った目からビームと耳からミサイルが、ダイカッパーに迫るッ!!


『ぐぅぅぅ……前屈み前のめりになどッ!! 我が家には……我が家にはッ!! 【美川の者は生きる時も死ぬ時も仁王立ちであれ】と言う家訓があるんだッ!!』


 バレネッタの蕩けた嬌声的淫語テレパシーが、皿助の脳内にねっとりと絡み付きこびり付く。

 皿助と言えど男児、男のシンボルが隆起するのは避けられないッ!!


 だが、皿助は身を起こしたッ!!


『ッ!!』

『ぬぅぅぅうあぁぁぁぁああああああッ!! 何を恥じ隠す、男の生理ッ!! 前屈みになど、俺はならないッ!!』


 雄々しく吠え、皿助はダイカッパーを動かす。自身の前方で円形を…いや、皿を描く様に、ダイカッパーの巨腕を超速で振るわせる。


『うぉぉぉぉッ!! 奮い立て気合ハートッ!! 吹っ飛ばす程の波動バーストッ!!』


 両腕が凄まじい速度で移動して空気をかき回した事により、ダイカッパー前面に円を描いて流れる膨大な衝撃波が発生。その流動的衝撃波の塊は、さながら小規模な超絶サイクロン。

 出た、これぞ【円皿状の(ディッシュリング・)波動疾走オーバードライブ】だッ!!

 あらゆる攻撃を衝撃波でいなし流す無敵防壁ッ!!


 バレネッタの目からビームと耳からミサイルも、衝撃波の流れに巻き込まれて軌道が歪む。

 ビームは天井があるのか不明な上方へ。ミサイルは地面に着弾し、大きな爆煙を吹き上げた。その爆煙も、衝撃波の流れに巻き込まれて刹那に四散する。


 ダイカッパーは無傷。そして堂々たる仁王立ち。


 もう皆様はお気付きだろうか。

 このダイカッパー、見た目こそ第一部と同じだが、その性能は全くの別物だ。

 何故ならば、この半年間で皿助が別物と成ったから。


 皿助はこの半年で【美川流総合武術】…別称【波動的波道】を【実戦レベルで駆使できる領域】にまで修め、成長したのだ。

 皿助が進化すれば、皿助自身が変身するダイカッパーも進化する、必定道理。


 今のダイカッパーは、ただのダイカッパーに非ず。

 ここに立っているのは、美川流総合武術の奥義【波動疾走オーバードライブ】を機装纏鎧クオリティで駆使できるダイカッパー。


 言うなれば、【ダイカッパー・波動戦型バースト】ッ!!


『ッ……かなりエグいくらいテレパシーをエロティックにしたデスのに……これでもまだ動きを止められないとは驚きデス……やはりベースケ、グレイトフルッ!!』

『お前のこの卑猥なテレパシー……大変に興奮する……だがッ!! 俺には今、性的興奮よりも優先すべき事柄があるッ!!』


 思春期である皿助が、性的衝動よりも優先する事。

 それは、晴華を救いたいと言う思いと、世のため人のため、堕撫尤タブーを野放しにはできないと言う黄金の精神ッ!!


『なら次のアタックは、これデス!!』


 なんと、バレネッタの叫びに呼応して、バラライガの装甲表面…つまり、巨大全裸バレネッタ石膏像の表皮が、実に人間らしい薄ら赤味を帯びた肌色に変わったッ!!

 ダメだ、もう完全に全裸の巨大天使(巨乳美女)だッ!! ギリギリ規制を免れる理由になっていた「石膏像っぽいからセーフ」が失われてしまったッ!! これは実に卑猥ッ!! 絶対に健全なる修正の光が入るッ!!


『さぁ、【パフパフ】してあげるデスよ!!』

『ぱ、パフパフだとッ!?』


 バレネッタがバラライガ起動前に【知っていた未来】で、皿助はこの攻撃を避ける事をちょっぴり躊躇う。

 そして、バラライガの【おっぱい爆弾】による【接触爆破パフパフ】をモロに喰らい、結構な深手を負った。


『ッ……薄らとわかるぞ、お前は予め知っていた【未来の俺】を基準に攻撃を仕掛けて来ているな……ならばッ!! 【今の俺】は、その【未来の俺】を超越していくだけだッ!!』


 きっと、俺はこの嬉し恥ずかし素晴らしい攻撃を避ける事を躊躇い、何かを喰らったのだろう。

 そう直感した皿助は、惜しむ気持ちを全力で抑え、回避行動ッ!!


『なッ、なんデスとォォーーーッ!?』


 それは、バレネッタが【知っていた】よりも数瞬早い対応だった。

 バラライガのゼロ距離爆撃を目的とした抱擁は、ただ虚しく空を抱く結果にッ!!


『驚きの声を上げたな、バレネッタ……やや変動はあれど、大まかな未来を知っているはずのお前が驚く……つまり、俺は今、お前が知っていた全ての【未来の俺】を、無事に超越したと言う事だなッ!!』


 皿助は、本来の未来のネタバレなど知らない。

 だが、本来の未来のネタバレを知っているバレネッタの行動や言動や反応から、それを推測する事は充分可能ッ!!


『そして、この距離であればッ!!』


 バレネッタはダイカッパーを抱きしめに来て、それをギリギリで躱された。

 即ち、ワンアクションを終えた直後と言う一番隙だらけな状態で、ダイカッパーの傍らにいる。


 勝機は今、ここ。


『ッ!! ま、不味いデス、このシチュエーション…【未来】はッ!! ミー、【知っている】デス!!』

『そうか、既に知っていたならば、覚悟は良いなッ!!』


 バレネッタが未来を変え、バラライガで運命を歪めた結果。

 バレネッタが知っていた【本来の未来に置ける決着の場面】が、今、ここで訪れたッ!!


 皿助が、本来あるべき未来と運命を手繰り戻したのだッ!!


『食いしばれ、歯をッ!! ドスコイッ!!』


 ドスコイの掛け声と共に、皿助はダイカッパーによる張り手を発射ッ!!

 ただでさえ強烈なダイカッパー張り手パワーは、掌に接続した肩覇皿により数十倍にまで強化されているッ!!

 その一撃はまさしく必殺ッ!!


 そう、一撃でも必殺。

 皿助はそれを、両手を用いてラッシュで繰り出したッ!!


 覚えている方はおられるかッ!!

 この技はダイカッパーの必殺技の中でも必殺奥義と呼ぶべき技ッ!!

 その名も【力士百人力鋼掌ドスコイ・デストロイヤー怒涛激連破ボルテマウル・オーバー】ッ!!


 力士百人力鋼掌破ドスコイ・デストロイヤーを連続で放つ、言わばスーパー突っ張り!!


 しかも、それだけではない。それだけではないのだッ!!


 今、皿助は特殊な筋肉の動かし方をしているッ!!

 これにより体内で特殊な【波動】が発生。張り手の威力を、更に更に高める。

 これぞ美川流総合武術波動奥義の一つ【豪鋼破断の(アイアンガイスト・)波動疾走オーバードライブ】ッ!!

 効果はただ単純にこの波動を帯びた物体による破壊力をすごく高めるだけ。単純だが、故にその効果は絶大。

 その昔、美川流総合武術開祖がこれを帯びた素拳攻撃で、地球崩壊級の隕石を成層圏で破壊し尽くしたと言う逸話が残っている。単純に強い【波動】ッ!!


 つまり今、皿助が放っているのは、覇皿と波動のコラボレーションで威力を極限まで高められた【力士百人力鋼掌ドスコイ・デストロイヤー怒涛激連破ボルテマウル・オーバー】……即ち、【力士百人力鋼掌ドスコイ・デストロイヤー怒涛激連破ボルテマウル・オーバー極限到達ウルティマード】ッ!!


『ドスコイドスコイドスコイドスコイドスコイドスコイドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!』


 皿助が張り手一発ごとに「ドスコイ」と叫んでいるため、張り手の回転数が上がるに連れて発声が間に合わなくなっている。

 おかげで後半はもう「ド」としか言えていない。まさしく涛。


『オォォォォォォォォノォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッッッ!?!?!!』


 粉砕ッ!! そして玉砕ッ!!


 バレネッタを包み込むバラライガの装甲が、一撃ごとに被弾箇所を粉々に破砕されていく。


『ドドドドドド…ドッシャァァァーーーッッッ!!!!』


 これぞトドメの一撃ッ!!

 そう意気込んで叫ぶと共に繰り出した右張り手ッ!!


 それによりバラライガは完全に大破ッ!!


 内から、何故か全裸になっているバレネッタが姿を現したッ!!


「オー……マイ……ガッ……!!」


 バレネッタの裸体は勢い良く吹っ飛び、そして暗闇の遥か向こうへと転がって行った。


『よし、俺の勝ちだッ!!』


 皿助は勝利宣言、そして……


『……あ、晴華ちゃんの匣の開け方ッ!!』


 晴華の匣の開け方を聞くため、自身が吹っ飛ばしてしまったバレネッタを追いかける羽目になった。



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