13,新劇開幕。差し伸べろ、同情の手ッ!!
ああ、なんと悲しい事だろう。
その者は、自らが創造した【彼の地】の惨状を眺め、深く悲しみ、激しく嘆いていた。
しかし、その者はただ悲劇を嘆くだけのか弱い精神をしてはいなかった。
何故ならその者は【創造主】であり【統治者】の器であったからだ。
その者はただちに五名の尤なる部下を選出し、使命を課し、願いを託した。
その使命の内容に、選ばれた五名は最初目を真ん丸にしたが、すぐにその者の意図を理解した。
そうして、五名は使命に従い【彼の地】へ。
程なくして、五名は見事に【使命を果たした】……のだが……
思わぬ【誤算】が、五名の身に降りかかる事になる。
【ダイカッパーは流れない 第二部 禁忌超越】
音観葉雨は、【陰陽師】の末裔的現役女子高生である。
現役女子高生と言うだけで希少価値があると言うのに……追い打つ様に陰陽師の末裔と来た。人間と妖怪との関係改善の煽りを受けて廃業が相次ぎゴリゴリ減少中のあの陰陽師の末裔。つまり陰陽師の末裔だ。
元々がレアだのに、そこにプレミアを重ねがけした存在。プレミアムレア。
わかりやすく例えるのならば、流暢に人語を操る三毛猫(♂)的な存在。
きっと彼女の使用済みセーラー服が市場に出回れば、それは一夜にして伝説の競劇を生むだろう。
「ちょー意味わかんない感じなんですけどッ!!」
春の夕暮れ、奥武守町の中心を貫く大河、燃乃望塊川に寄り添う河川敷。
その土手上の道を、希少価値の権化こと葉雨が制服姿で全力疾走、駆け抜けていく。
葉雨の若き太腿に激しく蹴り上げられ、スカートが怒涛に満ちた海の様に躍動。蹴り上げられた拍子に風を孕んで滞空し、断続的におパンティーを衆目に晒してしまっているが、今の葉雨にそれを構う余裕は無い。
何故なら葉雨は今、追跡されているからだ。
「もぉぉしもしもしもぉぉしぃぃッ!! 待てよコラこのゴミがァァァ!! 俺が掃除してやるっつってんだよテメェをよォォォ!!」
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!? なんなの!? ねぇ、なんなのよあんたって感じなんですけど!?」
それは少々異様な光景。
ジャージ姿の坊主頭中年男性が、塵取り挟みを振り上げて爆走しているのだ。
ついさっき、葉雨が学校帰りにコンビニに入ろうとしたら、コンビニの駐車場でゴミ拾いをしていたあの中年と目が合った。
すると突然、中年は「俺は杷木蕗創路ッ!! テメェを掃除してやるぜェェーッ!!」と叫び、葉雨に飛びかかって来たのである。
葉雨は当然「ほぎゃああああああーーーッて感じなんですけどぉぉーーーッ!?!?」と実に女子高生的悲鳴を上げ回れ右からの全力逃走。中年はそれを追走。
そしてそれから五分程が経過し、今に至る。
もう葉雨的には意味がわからない。
彼女はただピザまんが食べたかっただけだのに。
「俺が誰かってぇ~!? 杷木蕗だって名乗ったろうがァァァ!! ゴミは記憶力もゴミだなァァァ!! ゴミゴミゴミゴミィィィィッッッ!! うッしゃしゃしゃしゃァァァ!!」
「名前聞いてる訳じゃないんですけどィッ!! もぉぉぉ嫌なんですけど!! なんか【示祈歪己】も発動しないし、どうなってんのよぉぉぉもぉぉぉって感じなんですけど!! もぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
陰陽師が誇る超能力【示祈歪己】。
使用者の願望・祈りに応じて世界を歪める力。すごい。
陰陽師の末裔である葉雨も、当然の様に示祈歪己を駆使できる。できるはずなのだが……先程から、いくら発動しようとしても、発動できない。不思議。
こんな経験は初めて。高校生になって初体験。
その驚きと焦りが混乱に拍車をかけ、葉雨の体力を余分に削り取っていく。
「うじゅるァ! 速度が落ちてきたなァ~ゴミの中のゴミがァァァ~ッ!! もォ観念して俺に綺麗綺麗されろやァァァ!!」
いくら葉雨が陰陽師の末裔として陰陽師的訓練を積んだ事で軽くスタミナお化けと化していると言っても、所詮はまだ一五歳。若く未熟。限界は結構早い。正味、もうヤバい。
「うぅ……ッ!!」
葉雨にはあの杷木蕗と言うジャージ中年の目的がわからない。
しかし、血走った目で塵取り挟みを振り上げて追いかけてくる様な男に捕まって、良い事などあるはずがない。
捕まってはいけない。わかっている。わかっているのに、身体は正直。つまり体力の限界。
「きゃうぁっとぉ!?」
葉雨の足が、もつれた。
葉雨は陰陽師の末裔なので当然に運動神経もグンバツ。陰陽師だもん。そう簡単には転ばない。しかし堪える体力は残っていない。
「い、ぉあ、きゃば、のぉぉぉぉおおおお!?」
さながら素人の無様で滑稽なダンス。
まるで歪な球体が転げ回る様な不規則的ステップで、葉雨は土手を駆け下りる…と言うか、実質転げ落ちていく。
「ひぎぃッ!?」
そして、葉雨は顔面から思いっきり川原に着地。鼻っ柱を強打する形で止まった。同時に乙女的にアウトな悲鳴も上げてしまう。
「ぃ、っつぅぅぅ~……これ絶対に鼻血出る感じの奴なんですけど……」
確かな予感を覚えながら、葉雨が鼻っ柱を手で庇いつつヨロヨロと身体を起こすと、
「そりゃあイケないな」
「ッ」
すぐ背後から、声。
杷木蕗だ。
葉雨は咄嗟に振り返ろうとしたが、止まる。止まらざるを得ない。
何故ならば、杷木蕗が背後から葉雨の首筋に塵取り挟みをあてがったからだ。
葉雨の首に鉄製の塵取り挟み特有のひんやり感が伝わる。
少しでも動けば、首を持っていかれる。スパッと。きっと、パンの代わりにブリオッシュを食べる事を提案したと言われている(諸説有)フランス王妃、マリー・アントワネット・ジョゼファ・ジャンヌ・ド・ドートリシェの如く、スパッと。
そんな恐怖が、葉雨の全身の筋肉を絡め取り、行動不能にする。
「服に着いた鼻血はよぉ~……中々落ちないんだぜぇ~……いくらゴミの着衣物とは言え、服に罪は無ぇ。服だけは助けてやるぜぇ~……血は心臓から全身に送り込まれてるからよぉ~……首を切り落とせば、鼻に血はいかねぇよなァァ~~~!?」
「ひっ……」
葉雨の首を切り落とし、鼻血が服に付着する前に止めてやる。
有言実行のため、杷木蕗が塵取り挟みを握る手に力を込めた。
次の瞬間……葉雨の首がゴロンと川原に転がる……事は無かった。
「ッが……」
それは、痛みに喘ぐ杷木蕗の短い悲鳴。
そして風が吹いた。
【何か】が、風を巻き起こす程の速度で接近し、杷木蕗を吹っ飛ばしたのだ。
「え……」
「やめろ…と言ってもやめない事は重々承知している。故、省略して実力を行使させてもらった」
力強い。溢れるタフネス。歴戦の勇者。
聞こえた声だけで、葉雨はそんなイメージを連想した。
「大丈夫か? 君。そのセーラー服からして、どうやら後輩の様だが」
「あ……は、はい……ど、どうもって感じ……」
振り返った葉雨に、優しく微笑み、少しだけトーンを高くした声で問いかけて来た少年。その身長は二メートル近く、体格は極厚。学ランの上からでも筋肉の形を把握できる程にムキムキでパツパツ。パない。
少年漫画ならば、脳筋を売りにしている敵キャラ(ボス格)として登場しても違和感の無い体格だ。
葉雨は、この少年の事を知っている。まぁ、知り合いと言う訳ではなく、葉雨が一方的に知っているだけだが。
この大柄にも程がある現役プロレスラーでも中々無い筋肉クオリティな少年は、葉雨の通う綾士歌高校で、おそらくは最も有名な人物なのだ。
綾士歌高校二年一組所属、美川皿助。
またの名を【単影の大艦隊】ッ。
知る者は知っている勇名悪名あらゆる評価が高水準な【美川の血族】の末裔、美川家当代八人兄弟姉妹の四男にして八番手。
「ごぁ……ぐ、グゾが……まぁぁたテメェかァァッ!! 筋肉お化けがァァァァッ!!」
皿助の張り手で吹っ飛ばされた杷木蕗が跳ね起き、塵取り挟みの先端、刀剣で言えば鋒にあたる部分を皿助へと差し向ける。威嚇行動だ。
「筋肉お化けではない。俺は美川皿助、【美】しい【川】に【皿】の目をした【助】平と書く。先日、名乗ったはずだぞ、杷木蕗創路」
「るっせぇッ!! テメェ、何の因果があって俺達【禁機忌子】の邪魔をすんだらァァァ!?」
「それも言ったはずだ。我が心友、晴華ちゃんに協力を約束したからだ。既にお前の仲間の一人は俺が捕縛した。無駄な抵抗はやめて投降してくれ。そしてこの女子にごめんなさいするんだ」
何だこの状況。
葉雨は混乱の中、どうにか状況を整理する。
どうやら、杷木蕗と言う中年は皿助は知り合いで、何度か遭遇している口ぶり。ただし、その関係は余り芳しいものではない模様。
皿助は何らかの理由で杷木蕗を拘束する事を目的としており、杷木蕗はそれに抵抗している……それだけはわかった。
「ん? って言うか待って、【禁機忌子】って……」
それ、聞いた事あるかも。
葉雨がそうつぶやく前に、杷木蕗が動いた。
杷木蕗は川原の雑草を散らし、大地に小さなクレーターが出現する程の超人的脚力で跳躍。
塵取り挟みを振り上げて、真っ直ぐ、皿助を強襲せんと試みる。
「キィエェェァァァッ!! テメェは見かける度にあの【河童】と一緒にいたから正面衝突は徹底的に避けるつもりだったがよォォォ~ッ!! 今はいないみたいだなァァ!! テメェは今、独りッ!! なァら決定だァァ~…テメェは今ここで綺麗にしてやるよォ~ッ!!」
「……やはり、止むを得ないか」
「ッ、あ、危ないッ!!」
何を考えているのか、皿助は杷木蕗を正面から迎え撃つ気だッ!!
相手は大人で、武器を持っていると言うのに。
いくら皿助には恵まれた肉体があると言っても、結局は高校生。対して杷木蕗は大人、更に塵取り挟みで武装している。正面からカチ合うのが得策だとは、葉雨には到底思えない。
だから叫んだ、「危ない」と。
先輩、それもついさっき自らを救ってくれた恩人の身を案じて。
だが、葉雨はすぐに、それが「執拗にお見合い話を持ってくる親戚のおばさん」並にお節介な行為であったと知る。
「ぬぅんッ!!」
皿助が踏ん張り声と共に、すごい勢いでその腕を振るった。身体の正面で、虚空に円形を描く様に、だ。
葉雨にはその動作に合気道に通じるモノを感じた。彼女のその感覚は非常に惜しい。
確かに、今の皿助の動作には「攻撃をいなす」と言う目的があり、それ自体は合気道が掲げるそれに近しいモノがあるが、皿助は合気道を修めてはいない。
皿助の今の動きは、祖父・美川皿佐衛門より習っている【美川流総合武術】の技。
その技の名を【皿の動き】…別名【円皿状の波動疾走】と言う。
いわゆる【奥義】に数えられる一つで、完全習得にはめちゃんこ骨が折れる。
皿助はこれを最近ようやく実戦運用が可能なレベルにまで練度を上げる事ができた。
さて、【皿の動き】とは一体どう言う技なのか。
それを説明する前に、まず知っていて欲しい事がある。
物体が物凄い運動エネルギーで移動すると、その軌道に沿って空気が周囲に押し出されて急速拡散し、衝撃波と言う物が発生する。
団扇をパタパタさせると風が起きるだろう。あの風も同じ様な原理で発生している物だ。
皿の動きはその現象を利用した技。
腕を前に突き出して虚空に皿を描くイメージを持って全力で振るう事で、自身の正面に回転しながら拡散する強い衝撃波を生み出す。それは言わば小さな竜巻。実にサイクロンチックなベクトルを持ったエネルギーの塊。
その竜巻に触れた相手の攻撃は、当然竜巻の流れに押されて軌道が無理矢理に捻じ曲げられる。目標に届かない。翻弄される。
美川流総合武術……要するに「概論的には【波動】による【波道】がどうこう言ってるけど、結局の所は美川家独自の筋力鍛錬で培われた超絶筋力があってこそ可能となる筋肉最強論に則り過ぎた強引にも程がある究極の力技」の一つである。
「う、うげッ!?」
杷木蕗の塵取り挟み振り下ろし攻撃も例外では無く。
皿助が描いた皿の縁をなぞる様に、塵取り挟みは衝撃波に煽られてその鋒はあらぬ方向へ。皿助のすぐ傍の地面にザクッ!! と深く突き刺さる。
「ぬ、抜けな…」
「動揺と混乱の中にあった初戦の俺とは訳が違うぞ。今の俺は極めて冷静にお前と対峙している。示祈歪己が使えなかろうと、機装纏鎧も無かろうと……多少筋力が強いだけの人間スケールな生物が相手だと言うのなら、充分だ」
美川流総合武術を修めた者なら、ゴリラの大群が相手だろうと全裸非武装で被弾無しに制圧できる。
皿助は未熟故、想定外な出来事で精神に乱れが出ると途端に戦闘力が落ちてしまうが……今、彼の心は非常に明鏡止水。
象さんを片手で投げられる程度の筋力しかない杷木蕗など、敵では無い。
「更に言うと、今日の星座占い……俺の乙女座は一位だった。運すら俺の味方だ。負ける気が全然しない」
「ぐッ……」
「最後通告だ。大人しく俺に捕まってくれ……安心しろ、悪い様にはさせない。既に妖界郷の偉いさん達とは、晴華ちゃんの御父様を通して話は付けている」
「なァにィ……!?」
「造られた代物だとしても、生命があり、思考と心を持つお前達を、決して【物】として扱わせはしない。生まれ方が少々特殊だっただけで、生命が軽視されるなどあってはならない。だから再封印などさせない。俺は絶対にそんな事を許さない……どうやら、俺の意見に共感してくれる者は多かった様だ。妖界郷側の偉いさん達は、お前達を隣人として受け入れ、その権利を侵さないと約束してくれた」
「ッ……!!」
「つまり、お前達はもう【禁機の子機】ではない……【禁機の子機と言う不思議な出自を持つだけのただの一妖怪】だ。だから、不当に人間を傷付けるのはやめろ。妖怪保安局にシバかれて泣かされてしまうぞ。未遂事件しか起こしていない今なら、妖怪裁判とやらで執行猶予を勝ち取るのは難しくないはずだ」
「……テメェ……一度はテメェを殺そうとした俺らを救おうってのか……!? 同情かゴルァ!! ゴミが調子に……」
「同情の何が悪いッ!!」
「!?」
「不当に扱われる者を可哀想だと思って何が悪いッ!? そんな者達を助けたいと思って何が悪いッ!? 俺は所詮まだ一六歳、未熟だ、わかっている事よりわかっていない事の方が多い。物事の正否を間違えてしまう事はあるだろう……だが、同情から救いの手を差し伸べる事は何の間違いでも無いと全霊の自信を以て断言するッ!! 反論があるならば言えッ!! どんな手段を使ってでもその反論をねじ伏せてみせるッッッ!!」
その覇気に満ちた堂々たるシャウトを聞き、杷木蕗は理解した。
本気だ。この皿助と言う男は、最初から本気の言葉しか口にしていない。
この男の口は欠陥品だ。「嘘を吐く」や「言葉を濁す」と言った機能が欠落している。
しかしそれらの欠陥を疎む必要の無い実直な性格の元、胸を張って生きている。
皿助はそう言う人間なのだ、と。
敵だと言うのに、心地良い程に真っ直ぐな男だ。
例えるならば吹き抜ける爽やかな春風、強かに世界を照らす黄金の太陽。
この男には勝てない。
いや、勝てるとしても、勝ちたくない。
そう、杷木蕗は思ってしまった。
「……やり直せるのかよ……俺らは、陰陽師を殺すためだけに造られた機械なんだぞ……?」
「【コンピュータ】…と言う物を知っているか? 高度な計算を自動で行う装置の名称だ……アレは最初、【ミサイル弾を『アメフト選手ジョー・モンタナの投げるタッチダウンパス』の様に、正確無比に狙った場所へ打ち込むべく、弾道計算をするためだけに開発された機械】だったそうだ」
それが今ではどうだろう。街を元気に駆けていく無邪気な子供が家でやる家庭用ゲーム機にまで、コンピュータは搭載されている。
「【開発コンセプト】と【発展コンセプト】は違う。お前達は確かに【陰陽師を殺すためだけに造られた】……だったら、これからは【一妖怪として普通に生きるために発展すれば良い】……それだけの話だ」
「……ッ……そうか、そうかよ……どうにも、俺にゃあテメェの理屈を論破する知恵が足りねぇ様だ……【受ける】しかねぇな……テメェの同情を、有り難くよぉ……美川、皿助、だったかァ?」
「ああ、それは嬉しい」
皿助と杷木蕗が、熱い握手を交わす。
これにて、一件落ちゃ…
「あーッ!! 思い出したって感じなんですけどッ!!」
素っ頓狂な大声を上げたのは、やや蚊帳の外感が漂い始めていた陰陽師の末裔的JK、葉雨。
「禁機忌子!! 爺ちゃんから聞いた事あるしって感じなんですけど! ……あれ? でもアレって全部解体されたって……」
「……む、後輩女子……君は色々と知り過ぎている様だな」
「え、あ、はい……って、美川先輩? 何か今のセリフすごく悪役っぽいって感じなんですけど……」
「……………………」
と、ここで皿助は無言でスマホを取り出し、操作。
誰かへ電話をかけたらしく、スマホを耳に当てた。
「……ああ、すまない、丹小又さん。皿助です。禁機忌子の案件で……ええ、はい。そうですか。相変わらず、妖怪保安局の局長とやらの千里眼はすごいな……待っています」
「美川先輩? あの……」
「悪いな、後輩女子……禁機忌子の事を陰陽師に知られる訳にはいかない……こう言う隠蔽行為は非常に胸が傷むが……俺の胸の傷みをどうこうするために、尊い生命が散りかねない火種を看過する事はできない……俺ももう高校生……偉大なる父上に習い、世のため皆のため……清濁一絡げに飲み下そう」
「え、恐い、何それ恐い。私に何をする気って感じなんですけど? ちょ、先輩? 恐い、本当に恐いから無言でこっち近寄らないで、もしかしなくても私の身柄を確保しようとしてる? ねぇ先輩? 先輩? せんぱぁぁぁぁぁいッ!? へげッ」
記憶を改竄できる機装纏鎧を持つ丹小又到着まで、決して逃がさない。
葉雨を優しく羽交い絞めにしながら、皿助は夕暮れの空を見上げて考える。
「何はともあれ、禁機忌子は今、晴華ちゃんが追っている残り一体のみ……今日中に片が付きそうだな」
「離してって感じなんですけどぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!! え? これ何? 流れ的に私殺される!? 始末される的な!? いぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「む、暴れないでくれ後輩女子。殺す訳ないだろう」
「え、あ、そうなのって感じ…」
「(記憶の)始末はするが」
「いぃぃぃぃぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!!!!!」




