ネットをくるくる飽きずに来るくる
私はいつも通り、ホームの待合室からでようとする。
午前九時、高校生の通学にしてはだいぶゆっくりな時間だ。
この時間、最寄り駅はガラガラになる。
たいくつ
私の心にそんな感情が芽生える。
毎朝同じ電車に乗る。
早く学校が終わらないかと、考えるが、実はまだ入学したばかりだ。
三年間まるまる残っている。
私はためいきをついて、いつのまにか到着していた、電車にのる。
といっても一駅となりだが。
そこから自転車に乗り、十分ほどで学校につく。
なんて名前の学校だったか。
たしか...。
「私立磯風高校。」
私は暗い部屋の中で、まぶしくひかるディスプレイに打ち込んだ。
「ふーん。高校って楽しいの?」
「たいくつ」
「そ。」
他愛もないやりとりをする。
私がやっているのはオンラインゲームだ。
ユーザー数世界一のオンラインゲームらしい。
「ところで、このゲームて何人プレイしてるんだっけ。」
私は暇なので、質問した。というかこの質問なんか前もしたことがある。
「だからぁ!ユーザー数、国内だけで十万人、対人やギルド戦が活発な超人気ゲーム、バトルオンラインでしょ!てか、ゲームの名前覚えたの?リュータ?」
「まぁ名前くらいは。リアルで会話するやつなんていないから、使わないんだがな。」
「ぼっち乙。」
「うっせ。」
私はブラウザを開き、自分のブログにアクセスする。
執筆中の小説の続きを打ち始める。
「ねぇ?怒った?それとも落ちちゃった?ねぇ...。」
私は三十分ほどして、ブラウザを閉じ、ゲーム画面を開いた。少し前に、個別メッセージが届いていた。
「ネットサーフィンしてたわ。てか通話しようよ。それなら見てないってこともなくなるしさ。」
すぐに返信が返ってきた。
「音声チャットは恥ずかしいからちょっと...。」
「そ。」
「うーん...。わかったから、やるから。明日マイク買ってくるから...。」
「アカウントはこのまえ作ったんだろ?とりあえず聞いてるだけでいいからやろうよ。私、アンナと違って、タイピング遅いからさ。しゃべったほうが楽だし。」
「うん...。わかった。」
学校につく。
私が通っている学校は日本でも変わった学校で、好きな時間に登校して、好きな勉強をする。専門の教師も充実しているし、設備も一流だ。
しかし、高額の学費を納めなければならず、だいたいが遊びたいだけのボンボン達だ。
私の家は裕福ではないが、特待生として、学園招待された。
親が何か偉大なことをしたらしいが、そもそも家にいない家族のことを私はよく知らない。海外で働いている両親は一ヶ月に一回電話をしてくる。生存確認のようなものだ。
私は登校する時間はいつもゆっくりだ。一時間目が終わったと同時に学校につく。ほかの生徒は真面目に授業を受けているので、教室に入ると、みんな一斉にこちらをみる。しかし、私だということを認識するとあっという間に元の姿勢に戻る。嫉妬の声がちらほら聞こえる。
これだからリアルの人間は
この学校では成績が優秀なものが偉い。しかし、成績は単純にペーパーテストの点数ではない。試験はあるにはあるが、授業の確認程度だ。重要なことは、成績は学業以外に優れたものを評価する。ということだ。この範囲は幅広く、部活動や課外活動があてはまる。それに加え、趣味ですら評価対象になる。
成績評価の発表は毎月一日に行う。私は入学して以来、ずっとトップをキープしている。
しかし、退屈だ。
私は入学したと同時に、広告で見たオンラインゲームをやり始めた。
バトルオンライン
サービスが開始されて五年が経過した、このオンラインゲームは多面的に展開しており、リアルのネットワークをも強化しようとしている。オフ会の記念にアイテムが与えられたり、結婚した場合はご祝儀まで運営が出す。それにユニークアイテムやスキルといった、付加価値も与えられる。
常に接続していないと、できないオンラインゲームと違い、ログアウト中のプレーヤー達と対戦するオフラインバトルというシステムのおかげで、忙しい社会人でもレベル上げや、対戦ボーナスを獲得できる。
しかし、オンライン対戦をメインに行っている、通称廃人達は、成長速度がこれの比ではない。
私はオンライン対戦しかやっていない。それに、プレイ以来一万戦行い、無敗だ。
大きなギルドに入れば、なんら難しいことではない。相手についての情報や、装備といったものが援助してもらえるからだ。また、ギルド単位のバトルにも参加できるので、成長速度はさらにあがる。
しかし、私のギルドはたった二人
だ。
リュータとアンナ
とある掲示板にこんなタイトルが作られたのは、今年の四月ごろだ。
---こいつら知ってる?
---あー。なんか強い奴?てか名前ださいよなwww
---チーター?
---人間だろ。あの動きは
---廃人だろどうせ
---アンナて昔からいるやつじゃね?
---ソロでやってたやつじゃねーの?俺ギルド誘ったけど、シカトされたわ
---アンナはけっこう昔から強いよな。装備もいいのしてるし
---リュータて何者?
こんなやりとりがされているらしいと、アンナはメールで送ってきた。
私とアンナはゲームを通じて、出会い、連絡先を交換した。
出会い、といってもリアルであったわけではない。初心者だった私がアンナと対戦して勝ったのだ。
そのときからアンナと二人のギルドで、このゲームを攻略し尽くした。
アンナは私と年が近いらしく、見ていたアニメやマンガが一緒だった。
「よ。」
「ん。」
私達の中ではこれが挨拶だ。
「マイク買ってきたよ。おかーさんが。通販で。送られてきたよ。」
「そっか。じゃやってみるか。気が向いたらしゃべりなよ。ひきこもりだから声でないだろ。」
「バカにされてるきがする...。」
「してるからな。」
アンナのゲームキャラクターが私に対戦を挑んできた。
怒ると感情的になり、すぐに対戦を申し込んでくる。
私は対戦を受けながら、通話ソフトでアンナに電話をかけた。
私はアンナが電話に応対してる隙をねらって、アンナを倒した。
「あー!リュータずるい!いまのなし!」
ヘッドフォンから十代と思われる若い声が聞こえる。キンキンした高い声で耳が痛い。
「うるせーな。油断したアンナがわるいんだよ。」
私は少し笑いながら答える。
「むー。」
彼女は不機嫌そうに答える。
「声だと初めましてだな。リュータ。性別不明だ。よろしく。」
「アンナ。女性。よろしく。」
バトルオンラインでは最初の会話は基本的に、自己紹介になる。うそを言ってもいいし、真実をいってもいい。それもネットならではの楽しみだ。
「リュータって女だと思ってたんだけど、この声って男?にしては高いような...。」
「リアルであえばわかるんじゃなくてよ?」
「うーん...。なんか声いじるソフト使ってるの?てかその口調きもい。」
初対話なのにひどいなこいつ。
「別にソフトは使ってないぞ。もともとこんな声だ。で、アンナはニートから脱却したのか?」
「ニートじゃないし...。不登校で引きこもりなだけ。」
ふてくされたように彼女は答えた。
「ま、あんまり詮索してもな。」
「そ。そうえいばさ、新しい装備でたね。使ってみてよ。」
私はアンナから装備を受け取る。新しい課金装備で、三千円ほどのリアルマネーがかかるアイテムだ。
私は性能を見て、モンスターで試し斬りをしてみる。
「威力高いな。あとこの効果って便利だな。対人やるときちょろちょろ動く相手に。」
「やっぱそうよね。買ってよかった。」
役割として、アンナが装備を集め、私が使って敵を倒す。そして、使わなくなった装備を私が相場を見て、値段を決め、アンナに露店を出してもらう。露店とはネット上でアイテムを売買するために使うシステムだ。このゲームではオンライン状態でないと出来ない。つまり、ずっとゲームにログインしていないといけない。
私は一日家にいることはほとんどないし、パソコンはスペックの高いものなので、やけに電気代がかかる。なので、ゲームをやりながら放置することはない。
このゲームでは珍しく、ゲーム内で稼いだお金を現金に返ることができる。もちろん、バグやチートを使った場合は逮捕されるというリスクがある。サービス開始直後は何人も捕まっていた。最近では滅多に聞かなくなったが。
アンナが装備を集めて、リュータがライバルを倒す。私たち二人はこの方法でトップに君臨している。大手ギルドに屈することなく、多人数だろうと私はすべてなぎ倒してきた。私はゲームキャラを操作する能力が高いのだろう。昔から反射神経や、運動能力がとても高かった。様々なスポーツをやったが、誰にも負けなかった。
しかし、たいくつだった
しばらく彼女と談笑していた。
「ひきこもりにしては声でるじゃん。」
「実は音声チャットの話がでたあたりから、リュータが強引にやるだろうと思って、部屋で発声練習してたの。」
なるほど。
「ほんと真面目なひきこもりだな。学校いけよ。」
「いやよ。私は絶対専業主婦になるんだから。リュータ養ってよ。」
「いいよ。」
一瞬沈黙になる。
「...。」
しばらく沈黙になる。
「ほんき?」
「ジョーダン。」
大きなため息がきこえた。
「がっかり...。」
「あったこともない人とは結婚なんてしたくないわ。」
「まぁ、それもそうだけどね。」
「アンナ、本気だったら私と結婚するの?」
「リュータならいいかなって。」
まじか。アンナは嘘は言わない。子供のように純粋だからだ。
「だってさ、初めてはなすけど私友達いないし。はなしてて緊張しないのリュータだけなんだよね。むしろリュータが結婚してくれないと、私生きていけないかも。あ、やばくないそれ?」
「うん。やばいね。」
依存症か何かかこいつは。
しかし、アンナは極度のひとみしりらしい。病気レベルの。外を出歩くだけで、体中から汗が出て、動悸がして、めまいがして、倒れる。
両親も困っているらしい。
しかし、家事は出来るらしい。よく料理の写真を見せてくれるが、どれもおいしそうなのばかりだ。アンナの両親は海外で仕事をしているため、広い部屋に一人きりというわけだ。れんらくは基本メールでやりとりしてるため、両親は心配していないらしい。
そこで暇つぶしに家事を極めたらしい。努力の方向を間違えてると思う。
「眠くなってきたわ。」
「まだ八時なんだけど...。小学生?」
「アンナお姉ちゃん、絵本よんでねかせてくだちゃい。」「きもちわる。」
私はアンナの罵倒を耳にして、ベッドに飛び込んだ。
「今ベッドにダイブしたでしょ?こういう音まで聞こえるの楽しいね。」
「うーん。気持ちいい。てかさ、アンナの家遊びいくよ。もう住所わかるしさ。運営サイトの売り上げはやっと軌道にのってお金もたまったし。」
「ほんとに?楽しみ。でも私見たら幻滅するよ。きっと。かわいいからさ...。」
「私も見たら幻滅するよ。こんな見た目さ。ほんと外見だけは好きになれない。自分の顔だけは大嫌いだ。」
「リュータ、ほんと自分の顔きらいだよね。」
私は自分の顔が大嫌いだ。
「くるときは電話してね。服着たり準備するからさ。」
「いいかげん服を着る習慣を身につけないと、風邪引くぞ。」
私は次の日いつも通り学校にいった。
淡々と授業を受ける。
この高校は授業のレポートを提出すれば授業に出たとみなされる。私のこの高校でのテーマは
「今後情報産業において、必要とされる社会貢献制の高い仕組みの構築」である。
簡単にいうと、新しい市場を作る仕事だ。といっても、わたしは実際にするわけではなく、実社会で働いてる企業庁に方向性を示すだけである。参謀といったところか。
とても、退屈だ。実際にその企業のトップにあえるわけでもないし、匿名で行われるこの作業は私になにも価値をくれない。
しかし、すむところや食べ物は保証してくれるし、学費もかからない。三年間かけて、卒業すれば、莫大な資金を提供される。それをどう使おうが、私の自由というわけだ。
高校生活など華から好きではなかった。
この見た目や家庭環境のせいで私は迫害されてきた。
迫害はいいすぎかもしれないが。私がそう考えているだけかもしれない。
私には家族がいない。
孤児だった。両親はおろか、うまれた国もわからない。
なんと豪華客船で発見されたのだ。
私は生涯ずっと一人であろう。
孤独にはなれていた。
高校に誰より遅く登校し、誰よりはやく帰宅する。
ちょっとした優越感に浸り、私は帰路に就く。
「おかえりなさい。」
「ただいま。」
?
「いや、ちょっとまて、なぜ私のパソコンがついていて、ゲームが起動してて、通話ソフトがアンナとつながっている?」
「はっきんぐした。」
「お、おう。」
やばいこいつ天才だ。
「アンナ。」
「なに?怒った?」
「結婚しよう。」
「・・・。はい。」