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~第7章 ~ 約束

「これがあなたと初めて会った時のこと」

「確かにそんなことがあったな…あれから俺と唯は公園とかで遊ぶような友達になったんだっけか」

「そうよ…後は…」

唯は中学生の頃を思い出した。


~回想~

キンコーンカンコーン

季節は夏。学校の終わりのチャイムが鳴った。このチャイムが鳴ったと同時に生徒は各々の部活動の準備をするために部室に向かう。帰宅部の人はそのまま下校をして部活をする者は残って部活をする。

「ん~…はぁ…やっと部活だ…」

祐は大きく背伸びをした。帰りのホームルームは寝ていてチャイムと同時に起きたようだ。この時、祐は北宮高校付属中学校の2年生になっていた。中学校は北宮高校から見て道路を挟んだ反対側に位置している。近いが故に学校同士で交流が深い。部活動で高校生と中学生がたまに合同練習をしている。祐が所属している部活は陸上部。記録は県でも指折りの実力者だ。

「ほ~ら、バカゆうーー。早く部活行くよー」

唯は陸上部の敏腕マネージャーとして陸上部に所属している。唯の考えるメニューはかなり厳しく、だが結果もそれに比例して良い方向についてくる。

「…はいよー…」

二人は部室に向かい、部活の準備をした。


~グラウンド~

「じゃあ、長距離組はいつものようにアップをして今日は1,000メートルの測定をする。短距離組と跳躍組はアップのあとは唯の指示に従ってくれ。頼めるか、唯?」

部活の顧問が指示をした。

「わかりました!」

唯が返事をした。

「…今日は唯かよ…キツいんだよな…」

祐が小声でぼやいた。

「…じゃあアップの後に共通で流しで100メートルを5本やってその後は跳躍組はそれぞれの練習に入って。短距離組は200メートルを10本にしようかな…で、祐は終わった後に筋トレ5セットね?」

「…はぁぁぁ!?なんで俺だけなんだよ!?」

「…さっきの聞こえてるからね…?」

唯は作り笑顔でそう言った。

「…う…」

唯の作り笑顔を見た祐は気まずそうな顔をした。

「頑張ってね、お兄ちゃん!」

「他人事だと思いやがって…」

「自業自得じゃないですか…」

隣にいた梓と愛菜に苦言を言われた。この二人もまた陸上部に所属している。梓が故障をするのはこの年の冬のことである。

「…まぁ頑張れよ。あと、祐は部活終了後に職員室に来てくれ」

「…あ…はい…」

こうしていつも通りの練習が始まった。


練習が終わり、祐は職員室に向かおうとした時に昇降口の前に立っている少女に気がついた。梓と愛菜は用事があるからと先に帰ってしまった。昇降口の前に立っていたのは唯だった。

「ん?どうしたんだ唯?」

「あ、祐…一緒に帰ろうと思って…」

唯が少し照れながら言った。中学生になったと同時に唯はメガネをかけるようになった。

「俺は今から職員室に向かうようだからさっきに帰ってろよ?」

「いや…でも…」

「もう遅くなるから早く帰れよ?」

祐はそう言って学校に入り、職員室に向かった。

「…まぁ一人でも大丈夫か…」

唯はそう言って一人帰宅した。


~10分後 職員室~

「悪いな…部活用備品の確認任せてしまって」

「大丈夫ですよ、高林先生。あとはテーピングが無くなりそうなんで補充をお願いします」

「わかった。気をつけて帰れよ?最近、この辺に変質者が出るらしいからな…」

「変質者?」

「通りすがりの女性に対して抱きついたり、無理やりキスをされそうになったりといろいろしてくるらしいぞ?帰りのホームルームでも言われたと思うんだが…」

今日の祐はホームルームの時間に寝てしまってその話を聞いていなかった。そこで思い返したことがあった。

「(…唯のやつ、だから一緒に帰ろうって…!)」

「すみません!俺、もう帰ります!」

そう行って職員室を飛び出し、唯と合流しようとした。

「お、おう…」

祐の焦りように高林は一人驚いた。


~12分後 久里浜公園前~

「…一人でも大丈夫よね…?…」

唯は心配になりながらも一人帰宅していた。その頭の中にあるのは帰りのホームルームで言われた変質者の話だった。少し歩いた時に背後から忍び寄る人影があった。次の瞬間、唯は突然抱きつかれた。

「…な、何!?」

唯の後ろには息が荒い中年のおじさんが抱きついていた。その変質者は両手を胸に持っていき、揉み始めた。服装がワイシャツだけだったのでその感触が直に伝わる。

「ちょっ!?気持ち悪い!離して!」

だが男は力が強く女子の力では抵抗できなかった。やめようともせずにそのままワイシャツのボタンを外してきた。唯は気が動転して声をあげられなかった。その時、頭によぎったのは幼いときに祐と交わした約束だった。


~回想~

「また困ったことがあったら呼んでよ!また助けるから!」

「本当に助けてくれるの…?」

「任せてよ!」

「…約束だよ?」

「うん!」


「助けて!祐ぅぅぅぅぅ!!」

唯は背一杯の声を出した。

「…おい、おっさん…覚悟はできてるんだろうな…?」

「…え…」

「なんだぁ?」

中年のおじさんが振り向くと急に襟を捕まれ少年の背中に背負わされ投げ飛ばされた。

「…うぐっ…」

おじさんはそのまま気を失ってしまった。この技は唯が子供の時にここで見た技だった。

「祐!」

「大丈夫か!?唯!」

「…うん…祐が助けてくれたから…」

唯は安心感からなのか泣いてしまった。

「な、泣くなよ…悪い…俺、帰りのホームルームの話聞いてなくて…」

祐が申し訳なさそうに言った。

唯は泣きながら笑った。

「…ばか…祐らしい…でも肝心なところで来てくれたから許してあげる…」

「…あ、あと…その…」

祐は急に唯から目線を外した。

「ん?どうしたの?」

「えっと…」

祐は照れながら唯の胸元に目を向けた。

「…ん?」

唯も自分の胸元に目を向けた。そこにあったのはワイシャツのボタンが外されてそのワイシャツからは花柄の白い下着が見えていた。

「…えっと…お前にしては可愛いやつ着けてるな…?」

祐は気まずそうな顔をして苦笑しながら言った。

「……」

泣き顔から照れ顔に変わった唯は思わず祐の頬をビンタしてしまった。

「見ないでー!!」

「どいひー!?」



その後、公園にあった公衆電話で警察、家に連絡し、警察官二人が駆けつけ男は逮捕された。10分ぐらい事情聴取をされた祐と唯は再び帰路についた。

「その…ありがとう!…と…ごめん…」

祐の左の頬は手の形がわかるように赤くなっていた。

「う、うん…大丈夫だ…」

「でも…約束した通り助けてくれるとは思わなかったよ?」

「約束?」

祐は覚えてなさそうに言った。

「困ったことがあったら呼んでくれたら助けるって約束だよ?覚えてないの?」

「子供の頃の話だからなー…覚えてねーよ…」

「…そっか…でも嬉しかった…」

唯が顔を赤らめて嬉しそうに言った。その顔を見て祐も少し照れた。


「じゃあ、家ここだから。送ってもらってありがとね?」

「いや、どうせ通る道だったから大丈夫だよ」

祐の家は唯の家から歩いて5分先にあった。

「唯!大丈夫だった!?」

すると唯の母親である詩織が家から出てきた。勿論、詩織が義理の母親であることを祐は知らない。

「お姉ちゃん、お帰り!」

小学4年生の唯の義理の弟『駿』も出てきた。

「お母さん、駿…心配かけてごめん…」

唯は申し訳なさそうに謝った。

「唯が無事ならいいのよ…そちらの方は…?」

「あ、この人はその…」

「柊祐です。俺のせいで娘さんを怖い目に遭わせてしまってすみませんでした!」

そう言うと祐は詩織に頭を下げた。

「あなたが…電話で話は聞いたけどあなたが助けてくれたんでしょ?…それに…」

祐の謝罪に気にしないように言った詩織はかつてのラファエルの話を思い出した。詩織は目線を唯に向けた。唯の顔が少し赤くなっていることに気がついた。

「(そっか…唯はこの子のことを…)」

「手のかかる娘だけどこれからも仲良くしてあげてね?もし良かったら唯を嫁に貰ってくれてもいいのよ?」

何かを悟った詩織は祐に笑顔でそう言った。

「ちょっ!お母さん!?」

唯は恥ずかしさと驚きが混ざった顔をした。

「え、え…えっと…」

それを聞いて動揺する唯と困った反応をした祐だった。

「なんでそこで困るのよ!」

「なんでまたー!?」

その祐の曖昧な反応を見た唯はまたビンタしてしまった。


~回想終了~


「…こ、これを話すのはやめておこう…」

唯は恥ずかしいと思い、この話を頭のすみに置いた。

「じゃあ…俺はずっと前からお前に監視されていたのか…?」

祐はその事実に驚くと同時にどこか悲しかった。

「…最初はそうだった…だけど祐と一緒にいた時間に偽りはなかった。あの時間は心の底から楽しかったと思えるよ」

「…そっか…ちょっと安心したよ」

祐が微笑みながら言った言葉に唯も微笑んだ。

「じゃあ、この小僧は創造神イデアが予見した世界を救う者ということか?」

話を聞いていたギルフォードが言葉を発した。

「そうよ。後はイデア様の聖遺物を使うあなた達の出現も予見していたわ」

「なるほどな…で、今のところ状況はどうなってんだ?天使…況してや第七位天使なんだから上の天使達と情報を共有しているのだろうからそれぐらいわかるだろう?」

ギルフォードが依然とした強固な態度を取りながら唯に質問した。

「私が知っていることを全て話すわ…」

そう言うと唯は現状を話してくれた。


「今から一ヶ月前にアロン城は悪魔の手に落ちたわ。アロン城の地下にアビスゲートの入り口ができ、そこから悪魔が湧いてきているらしい。第六位天使『ミケランジェロ・ダグレア』のどんなに小さい音でも聞くことができる『地獄耳』、そして第五位天使『リトール・バレンティア』の全てを見透す『千里眼』のおかげで城の状況は大体把握してある。城の玉座には禍々しい魔力を持つ者が居座っているそうよ」

「禍々しい?」

愛菜が不安そうな顔をして呟いた。

「…恐らくはかつてイデア様に挑み敗北した『ルシファー』だと思われるわ。魔力の質が天使の持つ魔力に似ているからよ」

「一ヶ月前…じゃあ、すでにこの世界を支配するために動いている可能性が高いな…」

「ギルフォードの言うとおり、すでにアロン城周辺諸国は悪魔の手に落ちている。その範囲は徐々に拡大してきている。アロン城にには聖遺物があったけど、王の懸命な判断で一ヶ月前に最終防衛ラインであるこのカルディナに城を捨て選ばれし者と1万の兵士と5万人の国民が向かっているそうよ」

「そんな人数がここに向かっているって…兵士はともかく国民がそんな人数この城に入らないだろ?」

「そこは救済策があるから大丈夫。そして残りの聖遺物を所有している城の人達も同じようにこの城に集結しつつある…」

「でもなんでこの国が最終防衛ラインなんだ?」

祐は前から思っていた疑問を唯に投げ掛けた。

「それはこの国が大陸から見て東の端にあるからよ。対してアロン城は西側の端、大陸の真ん中を山脈が遮っていて大陸を2つに大きく分けている。その地形があって1000年前の大戦では人間の東軍、悪魔の西軍でわかりやすく2つに分かれて戦闘が行われた」

「なるほどな…あとひとつだけ聞く…唯の力で俺達は元の世界に戻れるのか?」

「…ごめん…私では無理…私がこの世界とパルティーンを行ったり来たりできるのはお母様のおかげなのよ…」

「じゃあ、その唯の本当のお母さんに会えるのか?」

「第一位天使は下界に降りることは掟で禁止されているのよ。そして、人間がアビスに赴き第一位天使に会うことも禁止されている…」

祐と愛菜はそれを聞いてわずかな希望を捨てざるを得なかった。

「…でも見事ルシファーを倒したらお母様の力でもどれるかもしれない」

「…どっちみち世界を救わないとダメなのか…俺達が今すべきことは?」

「祐と愛菜にはルシファーと戦えるようになるよう訓練してもらいたいわ。ギルフォード、あなたには戦力をこの城に集めてほしい…」

「…クルナラ王国軍8000を集結させよう…」

ギルフォードは素直に唯の提案に応じた。

「意外ね?あなたは協力しないと思っていたわ…」

「俺がこの国を攻めたのは城とクリスタル、それに聖遺物を手に入れるためだったが…それは自国の戦力を拡大するため、俺は悪魔達が攻めてくるのを見据えて隣国であるこの国を攻めたのさ。あとは昔の因縁もあるがその相手が全盛期の実力を出せないのなら無意味な侵略だった…」

ギルフォードは申し訳なさそうに言った。

「お前…意外にいい人だったんだな…」

「てっきり悪い人かと…」

祐と愛菜もギルフォードの人柄に驚いていた。

「いい人で悪かったな…」

ギルフォードは苦笑いをした。


「うわぁぁぁ!?」

「おわぁぁぁ!?」

「きゃぁぁぁ!!」

するとどこからか悲鳴が聞こえた。

「ん!?なんですか!?」

「また悪魔か!?」

「…いや…これは…」

四人は驚いていた。悲鳴は上空から聞こえた。


ドン

ドン

トン


と地面にぶつかる音がした。ギルフォードの背後に男がうつ伏せに倒れていてその上に仰向けに男が、その男の腹に女が座っていた。

「いたた…」

「う…お、重い…」

「うぐ…」

愛菜はその人が誰なのか気づいた。

「梓ちゃん!?」

愛菜は祐の妹の名前を口にした。

「ん……愛菜ちゃん!…と、お兄ちゃん!?」

すると梓も気づいたみたいでこちらを見た。

「あ、梓!なんでここに!?」

「な、なんか公園にあった木に吸い寄せられて…」

「(俺達と一緒か!?)」


刻は終焉へと動き出す…




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