~第1章 ヴァルハラ~
「おや?俺の他にも見物者がいたのか?」
まるでコスプレでもしているのかと思うほどの騎士がよく着ている鎧を全身に見に付けている。腰には剣があった。
「あ、あのここってどこですか?」
祐が不安になりながらも騎士に質問した。
「はぁ?何言ってんだ?ヴァルハラに決まってるだろ?」
「ヴァルハラ…」
「そんなこと聞くなんてお前ら異次元からでも来たのか?」
笑いながら騎士が言った。
「ま、まぁ一応…なんか気がついたらここにいて…」
そう祐が言った瞬間今までへらへらしていた騎士の顔が真剣な顔になった。
「異世界から来た…男女二人組…丘の上……ま、まさかばばあの予言か!?」
騎士が驚きながら言った言葉は祐と愛菜に理解できなかった。
そのまま目の前にいる二人を忘れたように一人でブツブツ小言をいい始めた。
「せ、先輩…何がどうなっているんですかね…」
「わ、わからん…」
やがて男は何か決意したかのように二人に提案した。
「よし!異世界から来たならこの世界を案内してやる。まずは俺の王国に来てもらう」
「お、王国?」
「そう!カルディア王国だ!」
「カルディア王国…あなたはその王国の騎士何ですか?」
愛菜が質問すると男は自慢げに言った。
「俺はカルディア王国の騎士ラザフォードだ!よろしく!」
「よ、よろしくです…」
「こちらこそ…」
二人が唖然としながら言った。愛菜は元気がいい人だなと思ったが口にはしなかった。
「でも、どうやって王国に行くんですか?」
「ん?それはだな…」
ラザフォードが言葉を言いかけた瞬間、
「グァァァァァ!!」
聞いたことのない声が三人に聞こえた。
「な、なんだ!?」
「み、耳が…!」
「おい、慌てんなよ?こいつらは王国の客人だ」
ラザフォードが話しかけた相手は竜。それも自分たちの5倍もあるほどの竜だった。
二人の顔が固まった。
「こ、殺される…!!」
祐は声にしようとしたが声にならなかった。
愛菜は涙目になっていて祐の服の袖をつかんでいる。
だか、竜が二人を襲うことはなかった。次第にその竜の体長が小さくなり人の形になっていた。
「失礼しました、マスター。この方たちは本当に客人なのですか?」
「ばばあの予言した奴等かもしれん」
「リサ様の予言ですか?あの方の予言は確実にあたりますからもしかすると…」
「ああ。だからその確認のために王国に戻り陛下に謁見する」
「…目の前の戦争は良いのですか?」
「まぁやる前に勝ち負けは決まっているからな…」
ラザフォードはそう言って丘の下で繰り広げられている戦争に目を向けた。
「承知しました」
「とりあえず、挨拶だな」
「はい」
そう言って人になった竜が二人の前に行き深々とお辞儀をした。
「私、カルディア王国の竜人、ケルミナと申します。先程は失礼しました」
彼は先ほどの行動を詫びた。
「竜人?」
「竜人とは人でありながら竜になることができる種族です。他にも獣人とか鳥人などもおります」
「な、なるほど…」
「じゃあ、挨拶も済んだことだしさっさと行くぞ。ケルミナ頼むぞ?」
「御意…」
そう言ってまた彼は竜の姿になった。その姿に威圧感を感じる二人であった。
「よっと」
ラザフォードが跨がると祐も竜に跨がった。だが、愛菜は躊躇していた。
「ん?どうした嬢ちゃん?」
「…そういえば愛菜は高いところが苦手だったな…」
「す、すみません…」
祐が手を差し伸べた。
「ほら。俺がちゃんと掴んでやるから。それなら安心だろ?」
「…はい…」
愛菜は祐の差し伸べた手を照れながら掴んだ。
祐の背中にしがみつくように手を後ろからまわして寄りかかった。祐は背中に感じる二つの弾力にドキドキしていた。彼の背中で嬉しそうな顔をしている愛菜を祐は知るよしもなかった。
「よし、ケルミナ飛んでくれ!」
竜がゆっくり羽を動かしながら飛び始めた。初体験をするその感じに二人は感動をしていた。
「落とされないようにちゃんと掴んでろよ!」
祐はラザフォードに、愛菜は祐にしがみついた。竜は急速に速度をあげ目的地のカルディア王国に向かった。
10分ぐらい飛行したぐらいでラザフォードが
「あれがカルディア王国だ!」
と言ったのを聞いた二人は目線を前にした。王国の回りには町があり中心部には城があった。その空をケルミナと同じ種族の竜人、ペガサスのようなものも飛んでいた。
竜が次第に速度を緩めて城に近づいた。現代でいう飛行場みたいなところにケルミナは着陸した。
「っと」
ラザフォードが竜から降りてそれに続き二人も降りた。ケルミナは三人が降りたあとに竜化を解いて人間の姿にもどった。
「お疲れ様です!ラザフォード様!ケルミナ様!」
槍と鎧で武装した兵士と思われる人が三人に声をかけた。
「おー。城に変わりはないな?」
「はい!…そちらの方々は?…」
兵士が不思議がって訊ねた。
「こいつらはばばあの予言の勇者かもしれない」
「リサ様のですか!?ラザフォード様はどうやってそのような方々を…」
「いや、俺も正直びっくりしている。本当なら戦争の見物をしたかったんだけどな…。陛下に謁見はできるか?」
「はい!では王の間へ」
兵士が城の中に入っていきその後ろを四人がついていった。
やがて大きな扉の前に着き、レッドカーペットの真ん中を歩く四人とそのカーペットに沿って兵士が立っていた。
やがてその大きな扉が開き、王の間の室内が見えた。中には兵士、大臣みたいな人に侍女などがいた。
ラザフォードとケルミナが膝をついた。
「王国騎士団隊長ラザフォード、騎竜隊長ケルミナ、ただいま戻りました。」
この二人は隊長だったのかと祐は思った。
愛菜はあんな人が隊長なのかと意外に思った。
「ご苦労だった。予定より早い帰還だったな?それほどまでに戦争は早く決着したのか?」
「いえ、戦争はおそらく今も継続中だと思われます。予想外の事があり、陛下にご確認をと思いましたので予定より早い帰還となりました」
「確認?…後ろに立っている者達のことか?」
「はい…」
王は二人を鋭い目で見ていた。
「キルナ陛下の前でなんだその態度は!?膝まずけ!」
若い大臣が言った。
「よせ、イルミナ。この者達は王国の人間ではない」
「で、ですが!」
「いいから」
そう言ってイルミナという人をキルナが睨むとイルミナは静かになった。
「し、失礼しました」
ラザフォードが話を切り出した。
「陛下、この者達は我が祖母リサの遺言にあった予言の勇者である可能性があります」
「ほお…なんだったかな…あ、そうそう『異世界より丘の上に舞い降りた二人の男女が勇者となりこの国を救う。次第にその者達は大陸全土を巻き込む混乱の引き金にもなるであろう』か…もしそれが本当だとしたらありがたいことではあるが…だがその二人は素人なのだろう?」
「そこは私に考えがあります。私が戦い方を指導します。もし二人にその気があるのなら…」
ラザフォードの言葉に祐が反応した。
「…失礼ですが俺達は戦いなどしたくありません」
ラザフォードがその答えを待っていたのかまったく動じなかった。
「俺達はただの学生です。もし、元の世界に戻る方法を知っているのなら教えてください」
祐の言葉に愛菜もうなずいていた。
「…すまない…こちらにその方法を知る者がいない。このヴァルハラの他にも世界があるというのは文献で読んだことがあるが行き方がどこにも載っていない。神、あるいは天使なら知っているかもしれない。」
「神と天使?」
祐が疑問を持つとそれを解消するかのようにキルナが説明をした。
「神はこのヴァルハラを作り上げた。名はイデア。全知全能の神だ。もちろん人間が見ようとして見れるものではない。別の次元にいるらしい。天使は全ての種族の頂点に君臨していてイデアに仕える者達だ。噂によれば一人で大陸全土を焦土にすることができるらしい。」
「天使というよりは悪魔に近いのでは…」
愛菜が一人言のように言うと
「悪魔は死の番人。通常は死の世界にいるらしいがこのヴァルハラにいる者もいるらしい」
「じ、じゃあ神か天使に会わないと元の世界に戻れない?」
祐が不安になって聞いた。
「天使は7人いる。うち二人は行方不明になっているらしい。残りの五人に会えれば聞けるが奴等は気まぐれだ。そう簡単には会えない」
「あなたはどうしてそこまで詳しく知っているのですか?」
愛菜は疑問に思いキルナに質問した。
「…昔、戦争で傷を負って死にそうになったときに天使に遭遇して生かされた。その時の天使がおしゃべり屋で話してくれたことだ。もう20年も前の話だ。」
祐は黙りこんだ。
「この世界にいれば会えるかもしれないと?」
「その可能性はあるな。会えればの話だがな…もし死んだらどうしようもない。生きるために戦うというのはどうだ?」
「護身術として習うということではだめですか?」
するとキルナが神妙な顔をして言った。
「…この王国は不安定な状況にある。この王国以外にも6つ王国がありそれぞれの王国には戦力がたくさんある。この国比べてな。この王国にも王国騎士団隊長のラザフォードと騎竜隊長のケルミナがいるがそれだけでは戦力が足りない。私も戦えることができればその戦力を補えるが全盛期のように戦えはしない。この国に他の国が攻めこんで来たら終わりだ…」
そう言ってキルナは王座の前に膝まずき二人に対して土下座をした。
「だから頼む!あとはお前達しかいないのだ!勇者であるお前達にしか頼めない!」
土下座をするキルナを見たイルミナや周りの人達は驚きを隠せていない。
「へ、陛下!王たる人がこのような者共にそこまでする必要は…!」
「黙れ!」
王が一喝するとイルミナを含めた周りの人達が大人しくなった。
祐は愛菜と目を合わせた。
愛菜は小さく笑った。それは見慣れた愛菜が呆れた時にする笑いだ。祐も笑った。
「わかりました陛下。俺達は生きるため、そして天使会うために戦います。そのついでにこの国の戦力となります。これで問題はないですね?」
キルナは泣きながら
「…恩に着る…」
イルミナはため息をついてその光景を見守った。
涙を拭いたキルナがイルミナに頼んだ。
「ではイルミナ早速儀式だ」
「かしこまりました。二人とも前に来てくれ」
二人は王の前に行った。イルミナが右手を前にして二人の地面には魔方陣が浮かび上がった。
「な、なんだ!」
「先輩!」
「安心しろ二人とも。これはお前達の素質を見る儀式だ。イルミナは巫女でお前達に合う戦闘スタイルを見つけてくれる」
やがて魔方陣が二人の体を通り抜けながら二人の頭上に移動して消えた。
「どうだ?」
「まず少年は剣士スタイルだ。その道を極める事ができたら勇者の上のクラスにもたどり着けるだろう。そして少女は私と同じ巫女の才能がある。その道の頂きにあるのは全ての魔法を使いこなす事ができる神巫女と呼ばれる存在。もしかしたら神巫女になることができるかもしれない」
その話を聞いたキルナがある提案をした。
「少女の方は魔法を覚えるしかないが少年の方は現状どれだけ剣を扱えるか試してみる必要があるな。少年、剣を使ったことは?」
「…もちろん無いです」
祐は一瞬ためらった。
「わかった。ではラザフォード。相手になってくれるか?手加減をすることが条件だ」
「かしこまりました。では早速やるとするか…」
そう言ってラザフォードの前に魔方陣が現れ、そこから木製の剣が2本出てきた。その片方を祐に渡した。
「降参するなら今のうちだぞ?」
そう笑いながらラザフォードが言った。
「やってみないとわかりませんよ?」
祐にはほんの少し自信があるように思えた。
「先輩…無理はしないでくださいね?」
愛菜が祐の心配をする。
「大丈夫だ」
笑いながら答えた。
「じゃあ、行くぞ!」
そう言ってラザフォードが剣を振りかざした。木と木がぶつかる音がした。祐はラザフォードの攻撃を受け止めた。その攻撃に押し負けずしっかりと受け止めた。
「!?」
ラザフォードは驚いたが次の攻撃をした。連続で行われるその攻撃を祐は全て受け止めた。そして、やられっぱなしの祐が反撃の一撃を横から入れるがラザフォードは剣で受け止める。
ラザフォードは驚きながら後ろに飛んで間合いを取った。
「…お前…何者だ?」
ラザフォードが聞くと愛菜は笑い祐は静かに答えた。
「…柊流剣術皆伝…柊祐です…」
王の間にいた全ての者はその光景に唖然しキルナは期待の眼差しを二人に向けていた。
~現代~
「ふ~ん、ふふ~ん」
鼻歌を交えながら夕飯の準備をするのは明美。野菜炒めを作っているらしい。とても上機嫌だ。
「はぁぁ、あの子達ヴァルハラに行っちゃったか~。でも帰って来たときどれだけ成長したか楽しみだわ~」
彼女の発言はとてもこの現代に住む者の言葉ではなかった。
次回、~第2章 生きるために~