プロローグ
空から落ちるというのはどんな気分なんだろうか。
ふわふわとした浮遊感か近づいてくる地面と死への恐怖感か、はたまた絶望から逃げ切れたという幸福感か。
いずれにせよ僕は自殺なんてしたくはない。
このご時世、人生の選択肢なんていくらでもあるというのに、なぜわざわざ自分から、選択肢全放棄の道を選ぶのか全く理解出来ない。
・・・と言うかしたくない。
もっとポジティブに生きろよ人間。
もっと視野を拡げろよ人間。
ここに宣言しておく、僕は死んで当然な人間だったとしても絶対に自殺などしない。
・・・死亡フラグではない。断じて。
そして今日も、そんな選択肢を潰し続けているような人間達に食料や日用品、嗜好品を売るアルバイトをこなし、僕も彼等と同じ死んだ目をしながら、午前3時に開放された。
タイムカードの刻む音が、嫌に耳にリフレインされながら歩く街灯の消えた安アパートまでの5km足らずのこの道を僕はさほど嫌いではなかった。
今日は新月らしい。月がどこにもない。その代わりに休暇中の月をバックアップするかのように、星たちがギラギラと輝いていた。
まるで星が降って来そうだな・・・。
そうポツリと独り言を口にした時。
右目にちらつく10階建てのマンションから高速で落下する物が見えた。
慌てて、目を向ける。
それは住民ではなくマンションの灯りに群がる羽虫でもなく、はたまたこの世に未練を残した幽霊ではなく。
この世に絶望を残し落ちてゆく人であった。