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プロローグ

拙い文ではありますが楽しんでいただけるなら幸いです

 日も沈み、人影も少ない時間帯の路地に天高く伸びる光の柱が現出していた。

 

三日月道景(みかづきみちかげ)はその光の柱の中でこの一週間の出来事を振り返り自身の浅はかさを呪っていた。

 光にのまれれば、光が消えた時には自分がもう、この世から。少なくともこの場から消えて(・・・)しまうことは知っている。

 が、その後自分がどうなるかは知らない。

 少なくとも、消えてしまうということはわかっている。そして、もしもを考えなかった自分はバカであると。

 なぜ、自分は部屋にあるお宝を処分しなかったのかと。

 これで自分が消えてしまえば部屋には必ず誰かしらの手が入ることは確実だ。 

 そして、それは間違いなく押入れの奥にあるものまで見つかってしまうことだろう。

 

 今年で成人になる男なら持っていてもおかしくはないコレクションの数々。

 俗にエロ本と呼ばれる男なら誰しもが一度はお世話になるであろう至高のアイテム。

 広く、浅くをもっとうに集めた数々のコレクションのなかには狭き門を潜り抜けた猛者にしか理解しえない深淵の書ともいうべき物も存在する。

 ゆえに、これを家族や知人に見つかった日には気まずいどころではない空気が発生し、これまで通りの関係ではいられなくなること必至である。

 

 この光さえなければと苦い思いを胸に抱く。

 『光の柱』なるものが発生し始めたのは一週間ほど前からである。

 最初の光の柱にのまれたのはアメリカ、日本、イギリスの3名でのいずれも10代後半から20代前半の男性であった。

 彼らは同時に同じ場所にいたわけでなく、それぞれの国で友人や家族と、もしくは自室にいたところを光の柱に飲みこまれた。

 それからも世界同時多発的に光の柱は発生し、一日に3人から多くても一度に6人の人間をのみこんでいった。光の柱にのみこまれた人たちのその後は世界の誰も知らず、日本のいくつかのネット掲示板などでは「異世界召喚キターーーーー!!」という感じのスレッドがたてられていた。

 ネットの掲示板の話には日本のメディアは取り合うこともなく、日夜「怪現象:光の柱の正体は?」という感じのニュースや特番でにぎわっていた。テレビにはオカルト関連の著名な学者の先生が幾人もでてきて議論を交わしていた。

 「消えた人間はどこへ」や、消えた人間の家族などの嘆きの声などで世界は光の柱の話題で一色であった。

 

そんな世界的大事件な様相を呈している世間のことは道景にとってどうでもよかった。メディアがいうような怪現象というのも、ネットの異世界召喚という話もおもしそうではあってもそれ以上の何でもなかった。

 道景にとっては自分とは関係のない話だと思っていたからだ。

 だから、どこまでもテレビの向こう側の出来事としか考えず、自分に当てはめることはなかったのだ。

 その結果として、道景の宝物は押入れの中に隠されたままであるという状況に陥っているわけだが。


 道景は自身の浅はかさを呪ってはいたが同時にこの状況下でも宝物をどうにか処分できないかを考えていた。

 そして閃いたのは今現在遊びに来ている友人に電話して、押入れのシークレットな宝箱を開けずに処分してもらうという案だ。同好の士であるあいつならと考えたのだ。

 道景はスマホを取り出して友人に電話をかける。


 『もっし~。どったのミッチー。ポテチのアオカビチーズ風味売り切れだった?』

 

ゆるいというか軽い声の友人、刑部花緒(おさかべはなお)通称:かおりんが電話に出る。

 

「アオカビ味はあったが、光の柱に飲まれた。すまんが俺の押入れの……」

 

かおりんに単刀直入に要件を伝えようと話し始めるが、電話の向こう側から今聞きたくない声の中でも上位の存在の声が耳に入ってくる。

 

『あはははははっ! こんなの現実にあるわけないっての!』

 その声は女性のものであることが分かり、同時に従姉の三日月蛍(みかづきほたる)のものだとわかる。

 蛍は道景の2つ上の女性で、アメリカに留学しているはずの人物である。

 

「・・・かおりん。なぜ蛍が俺の部屋にいるんだ」


『ドッキリのノリで突然来たらしいぜ。単位に余裕ができたとかで。で、押入れがどうかしたのか? エロ本ならもう蛍さんが見つけて漫画代わりによんでるぞ』


「oh・・・」


 かおりんの言葉にショック受ける影道。

 従姉の蛍は面白ネタはみんなで共有などと考えるサービス精神旺盛な女であるため周囲の人間に秘密を広められることは免れないだろう。

 ならばと、影道は蛍に電話を代わってもらうよう伝える。

 

 光の柱がだんだんその輝きを弱めてきており、それに比例して影道の肉体も薄くなってきているのだ。

 もうあまり時間に余裕がないので蛍には伝えておきたいのだ。

 

『もしもし~。あんた面白い趣味してるわね~。早く帰って来なさいよ~』


 影道には、ニタニタと意地悪そうな表情を作っている蛍がが容易に想像できる。

 性悪な輩だと自分の性格を棚上げして思う影道である。

 

 そんな蛍にとちょっとばかしのイラつきを覚えながらも影道はこの世で最後の言葉になるかもしれないだろうセリフを蛍に告げる。



「言っとくけど! かおりんも同じ趣味だからな!」



 旅は道連れとはよくいうものだが、この世から消える影道は社会的にかおりんを道連れにするのであった。

 

 蛍のことを性悪と言うが、影道もまた性悪であった。



『かおりんも? ふっふっふぅ。かおりんご愁傷様ねえ』


 電話口よりかおりんの『裏切ったな! かげみちぃぃぃ!』という声が聞こえてきた。

 

 もしかしたら、ところによって影道の性悪度合いは蛍のそれよりもっとたちが悪いのかしれない。

 まあ、光の柱に巻き込まれたといったのに意にも返さなかった友人には当然のむくいであろうが。


 

 影道の身体や意識が光の柱の消滅と共に世界から消失する。


 最後に友人を道連れにできたことを喜ばしく思い、口の端を釣り上げて笑みをつくる影道であった。



 











 その日、影道と共に世界から消えた人数は4名。

 いずれも日本人であったことが翌日のニュースで報道された。


 そしてそれ以後、光の柱が見られることはなかった。


 



 

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