草々
長野県琴吹市立赤渕高校。
偏差値は52、私服OK、野球部の甲子園出場は一回も無し、少し頭が良い普通の高校。特にこれといった特徴は無いものの近辺の高校、いや、それは琴吹市内では知らない者のほうが少ない程度には有名である。
今日も同じように学校が開かれる。
その学舎へ足を運ぶ一人の男子生徒、背の丈は178cm、都会に置いたら10人に9人は声をかけたくなるほどに整った顔立ち、服の上からでも分かるほど程よく鍛えられた筋肉。
こんな田舎には似合わない程洗練された彼の名は亜佐野 雪路。彼が琴吹高校が知られている原因といる。正確には亜佐野が通っている高校ということで琴吹高校は有名である。
もっと上の高校に行ってもおかしくないくらい成績優秀、部活には何も入ってないにも関わらず他の運動部の顔に泥を塗るほど運動神経抜群。こんな恵まれた環境なら多少性格に歪みが生じてもおかしくはない。にもかかわらず、彼は根っからの善人であり、彼の中に一つの陰も見当たらない。
端的に言ってしまえば、彼は殆ど全てにおいて完璧な人間であるといってもよい。
それほど人として優秀ならば必然的に他者から好かれる。
今もまさしく彼に声をかける一人の女学生。
薄い栗色の髪を一つにまとめ前髪を編み込み、ネックレスタイプのワンピースの上にカーディガンを羽織っている。俗一般的に幼なじみと言われるポジションである。
有楽閊 霧雨は生まれたときから亜佐野の近所と言う環境で育った。最初は友情、それを拗らせていつしか有楽閊にとって亜佐野は想い人になっていた。