3.僕は本当のことを言うことができない。
「あなたは、本当に一体どこから来たのですか?」
「僕は『ここから遠い国で行われた転移実験の事故でこの森に落ちて、その結果、外では生きられない体になってしまった』んだ、それ以上のことは言いたくない」
僕は自分の身の上の設定を思い出しながら、そう言った。いくら気の知れた仲とはいえ、本当のことは言えない。言いたくはない。悲しくなってしまうから。というか、思い出しただけで、恋しくなってくる。あの青い地球、僕の故郷が。
気がついた時には、この星のこの場所にいた。緊急事態が発生した当初は地下に閉じ込められる形になったが、それが幸運だった。この星は地球生物の僕にとって、生存に適さなかったのだ。
この地下室は、疑似生物圏を形成している。大気は常に地球のそれと同等に保ち、生物圏は日本のそれを模倣している。この星に太陽が昇る限り、その環境は維持し続ける。この地球とは異なる星にありながら、僕は小さな地球環境の中にいる。この研究施設は、もともとそういう研究をしている場所だったのである。
「僕は、この小さな世界から出られない。悲しいことに、思い出以外で僕の故郷に戻ることは許されないんだ。思い出すと、未だに涙が止まらない……」
僕の生きていたあの地球に戻る術はない。僕はこの閉鎖された世界で生きていくしかない。
「すいません。そうでしたね」
彼女は感づいているだろう、僕がこの場所に現れた理由に嘘があることぐらい。しかし、彼女はそれを責めたりはしない。誰しも踏み込んではいけない事というものがあるのだ。
僕は彼女に真実を話せる日が、いつかくるのだろうか。
話したところで、心の虚無が大きくなるだけではないだろうか。
今はまだ話せない。
僕の迷いはまだ消えていないのだ。