1.僕はその部屋から出ることができない。
「ロボットと言ったか、そのアイアンゴーレムは」
青い瞳を輝かせ、彼女は対峙している物体を見て言った。
「ああ、僕の国ではそう言っている。今では料理も掃除も庭の手入れもそれらがやってくれるんだ」
そして、僕は安全な地下で悠々と生活ができるというものだ。
「あなたは、それでいいのか」
「もともと引篭もりなものでね。ものすごく充実しているよ。それに僕はこの部屋を出れば、おそらく5分も生きられない」
この星の大気は酸素が非常に薄い。そして、いかんせん、紫外線や宇宙線といった危険な光線に溢れている。生身で外に出たらたちまち酸欠になり、被曝して死んでしまう。
「ちなみに君が生身でこっちへ来たら、死ぬぞ」
窒素中毒か酸素中毒で。
僕のいる地下の部屋は窒素と酸素と、ほんの少しの二酸化炭素で構成されている。地球人には快適だが、この星の生命には辛いどころか、危険な空気だ。
「まぁ、君も知っていると思うが……あれを身にまとえば僕は外に出れないことはない。でも、あれじゃあ、思うように動けなくてな。それに数刻しかもたない」
一度に持っていける酸素ボンベの容量には限りがあるのだ。
「あの、不思議な外皮をした魔具か」
彼女の言葉に僕はうなずく。
僕は外に出るための宇宙服のようなものは作ったのだが、機械にアシストさせたとしても、歩くのが精いっぱい。重いものは軽々持てるが、細かい作業やすばやい動作はできない。
ましてや、目の前にいる彼女のぬくもりを感じようとするなど、夢のまた夢。
「あれを最初見た時、新種の魔物かと思ったよ。しかし、それが人の言葉を話し、しかも、私を手当してくれたのだから驚いた」
「君は運がよかったんだよ」
この地域で使える翻訳機が使い物になる程度に完成していたのだから。
その機械を作るために、僕は近くの村に偵察機を飛ばした。(その偵察機のひとつが彼女を見つけることになるのだが、それはまだ先の話である)
僕は、虫型のそれでたくさんの言葉を集め解析した。少し複雑な暗号の類を、数日で解読できてしまうスペックの機械がこの研究施設にはある。情報だだ漏れの日常会話など訳すのはたやすかった。
たまに通じない言葉はあるが、ここを訪れる者は僕はこの国の人間ではないと知っている。そんな場合は、丁寧に説明してくれた。そして機械が自動的に学習するか、僕が手動で修正するので、次に出てきたときに惑うことはなかった。
「いつかこんな魔具越しではなくて、本当のあなたに会ってみたいものだ。こんな味のない映像ではなく、あなたのその黒の瞳に映りたい」
「そんなに好いてくれるのはうれしいが、僕はあまり健康的とはいえない体だよ。異性に見せるには、恥ずかしい程に」
必要な栄養は取ってはいたが、ここ数年は部屋に閉じこもりっきりなのだ。もやしもびっくりなほど白くて細長くなってしまったのだ。