本音
戦いは一方的だった。あまりにも一方的過ぎた。
目の前に居る男が弱いわけじゃない、むしろ強い部類だ。剣の才能に恵まれて、それでもなお努力を積んできたんだろう。はっきり言って純粋な実力なら僕でさえ遠く及ばない。
でも、戦いにおいてもっとも重要なのはスタミナでも実力でも、ましてや武器の扱い方でもない。ただ、傷つかない事なんだ。傷がつかないのであるならば死ぬ事もない、苦しむ事もない。ただ無慈悲で無敵な戦士の完成だ。
戦場でそれ以上欲しいものなんて、数えるくらいしかない。
「火縄銃」
構えていた左手から炎の弾丸が射出される。それは高速で進み男の左胸に当たった。
「ガァ!?」
男は短く悲鳴を上げて前のめりに倒れそうになる。けど、そこはやはり歴戦の戦士と言うべきか……そのまま走って僕に斬りかかろうとしていた。
だけど、すぐに転んでしまった。その身体は酷く損傷していて生きているのが不思議なくらいだ。
「く……そ、がぁ!!」
男は最後の力を振り絞り僕の胴体に剣を突き刺す。剣は身体を通過し、刺さった場所からは炎が出ていた。
「この……化物が……! 呪ってやる……お前を呪ってやるぞ!! お前等化物なんかに住む場所なんてあるものかぁあああああああああああああああああ!!」
それが男の最後の言葉になった。
まず最初に、男の頭部に炎の槍が突き刺さる。そして喉、肩、背骨、膝、アキレス腱に当たる全てに突き刺さり男をこの世界から抹消した。正確に言うなら劫火で燃やし尽くした、と言った感じだろう。
「……最後に否定さえしていれば生きていたかもしれなかったのに」
僕はそう言ってさっきまで男が居た場所から離れてチキンを掴み引きずるようにして歩き出す。
「お、おい!」
リアはそう言って僕の後ろについてくる。そんな彼女に、僕は左手を向け火を燈す。
いつでも攻撃できるように。
「ついて来るな」
僕は静かにそう言った。リアはその言葉を聞くと「ぐっ」と言い半歩下がる。
「って言うかついて来ない方がいいかもしれないね」
そう言って左手を降ろし振り向いた、そこには意外そうな顔をしたリアが居た。
「……なんでだ?」
「……僕は自分のやりたいように動く、そして英雄になる。郷理の望んだ理想の世界を作るんだ」
「……その郷理ってのは……誰なんだ?」
リアは僕にそう問いかけてきた。そういや言ってなかったね。
でも、言う必要もない。
「何でリアにそんな事言わなきゃいけないのさ、会ったばかりのような君に?」
「……そうだな。うん、無理には聞かねぇよ。話したくない事の一つや二つくらい、あるもんだろうかららな」
どうやら深くは聞かないらしい。まぁ、あんまり聞いてほしくなかったし良かったかな?
「で、英雄になると言うのはどう言う事なんだ?」
「そのまんまの意味さ。弱者の為の、虐げられる者の為の英雄になる。そして皆が仲良く、までは無理かもしれないけど共存できるような世界を作ってみせる。人間でも魔人でもエルフでも何でも……だ」
僕の言葉を聞いたリアは呆けた表情で――
「……バカか? お前」
――そう言った。
「バカ? 何言ってるの? 僕はバカなんかじゃないよ」
「だったらお前は知らなさ過ぎる、この世界の事を」
リアはそう言って語りだす、人間やその他の種族関係を簡単に説明した。
と、言っても人間とその他の種族が完全に敵対していると言うだけでそれ以外はどうって事はないのだけど。
「こんな状況でもそんな事をもう一度ほざくのか?」
「うん、何度だってほざいてやるよ。僕は僕のやりたい事をやるんだ、その邪魔をする者は容赦なく地獄に叩き落す」
「………この世界の人間嫌いじゃないのか? 召喚されてすぐ奴隷にされたんじゃなかったのかよ?」
「アハハハハハハハハ、そんな事か……一応言っておくけど――」
「――僕は家族も含めて生きている全ての生物が大嫌いだ」