不死鳥の弱点
今回はメインヒロインとの出会いです。
まぁ、面白おかしく大変ですけど。
「……ふぅ、何とか脱出できたな……」
お城が見えなくなるほどの距離を僕は飛んだ、逃げ出した。
今もなおあそこに閉じ込められてもしかしたら一生を台無しになるかもしれない同級生達を見捨てて逃げ出した。僕があの時戦えば助け出せたのかもしれないのに。
でも過ぎた事は仕方ない。それにどうしようも無かった事だ。
そう自分に言い聞かせながら腕だけは翼のまま人の形に戻る。僕の目には木に囲まれた湖が見えていた。あそこで休憩したい、そんな事を思いながら羽を羽ばたかせてゆっくりと地面に着地する。
「ふぁ……眠い……」
気が抜けたのかは分からないけど急に眠くなってきた。いや、普通だ。もう夜遅い。
それに今日は朝から夜までずっとしたくもない作業してたしなぁ。お腹も減ったし……夜ご飯だって鳥の皮が入った味気の無いスープに黒こげの固いパン……こんなんじゃぁ腹なんか膨れないよ、せめて魚を、そしてサラダをつけろ!
と、言ってももう脱走したし、もし言ったとしても何も変わらなかっただろう。いや、変わったかもしれない、拷問と言う手段を使われてそれで満足しろって事に。
ああ、恐ろしい恐ろしい、考えるだけでも嫌になってくるよ。本当に逃げて正解だったな。
でも今頃僕のことすっごく非難されているんだろうな、クラスの皆を助ける事はできなかったから一人で逃げる事になったけどあっちから見たら僕は仲間を見捨てて逃げ出した卑怯者って思われてるだろうし。
まぁその時はその時だ。それよりも今は――
「この飢えをどうにかしないとなぁ……」
そう言ってお腹を摩る。さっきからグーグーと音が鳴っている。その音が鳴るたびに僕の脳内に送られる指令がある。
奴等を狩れ、と。
奴等ってなんだよ、そう思っても誰も答えない。
「……腹減ったー」
そう呟いて目の前に存在する巨大な湖を見る。今は夜でよくは分からないがかなり澄んでいる、それに鏡のように反射して僕の顔を映している。金髪黒目のハーフのような顔立ち、頭のてっぺんにはアホ毛が生えていた。
ここの水かなり綺麗だ、こんなに巨大で水も澄んでるなら魚の一匹くらいは居るだろう、てか絶対に存在する。
「……よし、捕るか」
僕はそう言うと服や下着を脱ぎ捨て湖に飛び込んだ。
「ギャァー!!」
そしてすぐに出てきた。
「……あ、が……み、水……駄目だったの……すっかり……忘れてた」
そう、不死鳥は水に弱い。全身が炎で出来ている存在は水を浴びるとその力は衰えてしまい人間と同じくらいになってしまう。水中なんてめだか以下だ。
無敵に近く不死殺しすら無効化する不死鳥の唯一の弱点だから、とてもじゃないが泳ぐ事なんてできやしない。そんな事すら忘れてるなんて、結構動揺してるんだな。
「ぁ……寒い……」
とりあえず速く乾かさないといけない、今この状態で何かに襲われたら間違いなく死ぬ自信がある。今なら蝶々に襲われて死ぬ自信がある。
「と、とりあえず……火!」
僕はそう言った直後に右手の手のひらを制服に押し付けて水分を拭き取る。
裸足で歩き木の枝を集める。足に石がぶつかって激痛が走り悶えそうになるけど何とか我慢して木の枝を五本地面に投げ捨てる。
そして六本目を右手で掴み、意識を集中させる。
すると木の枝が紅く光り輝き、燃え始めた。
僕はそれを何も言わずに重なっている木の枝に投げ捨て、焚き火を作った。
「ああ、暖かい……」
そう言って炎に飛び込み、全身に付いた水を蒸発させていく。そして気が付いた。
今僕の近くに生き物の気配がすると言うことに――。
僕は急いで焚き火から出て制服を着る、もちろん下着もだ。不死鳥の炎は身に纏っているものは決して燃やさない、決してご都合主義なんかじゃない。婆ちゃんにも分からないらしいけど。
本当に危なかった、ここが異世界だって事を深く考えてなかった。元の世界では命の危険が無かったから安心してお風呂に入れたり水に浸かったりする事が出来た。
でもここは違う。一歩気を抜けば死ぬような世界だ。気を抜くな津村玉露、ここはもう危険な世界だ。
「………」
僕は静かに身体に手を突っ込んで刀を取り出す、その刀身の波紋は波のようになっていて美しかった。だけど何処か危険さをかもしだしている。
爺ちゃん曰く妖刀らしい、それもかなり危険な。だけど僕は使っている、まぁ不死鳥だし。
最初は渋られたけど後になって喜んで渡してくれたな。
「っと……過去を思い出すのはこれくらいにするか」
僕は刀を構えていつでも飛び出せるように準備しておく。
そして、森の木が何本も折れ、僕の方に向かって何かが飛んでくる。その大きさは僕よりも小さいくらいの物だった。
その速さは結構早いけど受け止められないわけじゃない、だから僕は受け止めた。
受け止めた物は軽く、だけど不自然に重かった。重心がずれていたからだろう。そして僕は受け止めた物を見て固まった。
それは古ぼけたローブを着ていてその下にはボロボロな服、その手に持っているのはボロボロで壊れかけている剣。フードの下に僅かに見える銀髪と下向きに捻じ曲がって生えている角、そう、魔人だった。
「ぐ……ぅ?」
魔人は呻き声を上げて、目を開き、僕を見た。蒼色の目だった。
魔人の目は紅色だって言う話だ、でもこの魔人は蒼だった。
「人間!? クソ、離せ!!」
乱暴な言葉で魔人は僕の腕の中で暴れた。それは物凄い暴れっぷりだった。
僕はしょうがなく魔人を降ろす、そして魔人はすぐに僕から距離を取る。かなり警戒している、でも話に聞いていたよりは大人しいといった感じだ。
まぁそれでも十分暴れん坊だけど、それは子供だからだろう。むしろこれくらいなら可愛いくらいだ。
「……あんな強い魔獣に出会うなんて……それに人間に……殺される……」
魔人の少年は剣を僕のほうに向けてそう言った。
この怯え様は異常だ。人間と魔人の関係は結構歪っぽいな。それに今見た感じ野蛮って感じじゃないし。
……少し調べた方が良さそうだな。
「ブモォオオオオオオオオオオオ!!」
「へっ?」
ドスッと、腹部に何かが突き刺さった。刺さった物は猪の牙のような物だった、ただその大きさがとてもじゃないけど僕の知っている猪のそれと明らかに違った。牙の太さは人間の腹部、大腸や小腸などの臓物を一気に貫いても余りあるほどの大きさだ。ぶっちゃけ身体が繋がっている事自体が奇跡だ。
そしてその身体は普通の猪の十倍近くあり、額にも目があった。
考え事をしていたから避ける暇は無かった、油断した。ちくしょう、腹たつ顔してんなぁ……。
「あ、お、おい! 大丈夫か!?」
今のを見て少年は顔を青ざめてそう言った。いや、今ので死んでない奴なんていないだろう。
「ああ、うん。大丈夫だよー」
まぁ、僕は死なないけどね。
あ、少年の顔がめっちゃ驚愕している。そりゃぁそうだろうね、普通ありえないから。
「さてと……」
僕はそう言って右手を燃やし――
「お前には僕の糧になってもらうよ」
――巨大猪の頭に突き刺した。
「ぶ、ブヒィ……?」
巨大猪は小さく断末魔を上げて動かなくなった。直接脳みそを炭化させたんだ、もう生きちゃいないだろうな。
そう思いながら僕は少年の方を見る、驚きのあまり腰が抜けているようだ。でも、お腹が空いてるらしくグ~、と間抜けな音がした。
僕は出来る限りの笑顔で少年に言う。
「ねぇ、コレ一緒に食べる?」




