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負け犬になる事ができるのは戦って負けた奴だけだ。

 ガキィンッ!

 と、鉄と鉄が打ち合うような轟音が響き渡った。その後すぐに熱風がリアの髪を揺らした。

 ふと、目を開くとそこには鳥の足に変えて怪物の攻撃を防いでる玉露が居た。

 玉露は怪物の腕を弾き返し蹴りかかる。が、怪物はそれを軽く避けて後退する。その表情はとても不気味だ。

「ぎ、玉露……」

 リアは目に涙を溜めて自分が信頼する少年を見ようとする、が、その前に玉露が優しく抱き締めた。

「っな!? い、いきなり何を――」

「大丈夫」

 いきなり抱きついた事に驚き声を上げようとするリアに玉露はただ一言、そう呟いた。

「リア、君は僕が守るから。だから逃げて」

 ――じゃないと君まで殺しかねない。

 そう言った、至極真面目な顔で、とても綺麗な笑顔で、けど何処か憎悪に染まりきっているような表情でそう言った。

 リアはその顔を見て何も言えなくなっていた。彼女は分かっている、今ここで玉露を止めないと間違いなく死んでしまうと。出会ったその瞬間から分かっていた。今目の前に居る不死鳥よりも遥か上の実力を持つ化物が居ると言うことに。

 口を開こうとする、が何も言えない。恐怖で凍り付いているから。

「……ありがとね、来たばっかりの僕にこの世界の事を教えてくれて。ありがとう、僕についてきてくれて。ごめんね、僕につき合わせて危険な事をさせて」

 楽しかった。そう呟き、化物に向き直る。

「……久しぶりだね、化物。僕らの郷理を殺して、喰らってその力を取り込んで……異世界に逃げた化物」

 そう言った瞬間、化物は灰色の歯茎を丸出しにしている口角を吊り上げて、ケタケタと笑う。哂う。

「あ~、思い出したぞ。貴様はあの心読みの元に居た四匹の内の一匹だな」

「思い出してもらってよかったよ、これで心おきなく殺せるからさ」

 全身から炎を出して、体を変形させる。否、炎が炎でなくなる。

 炎は莫大な熱を放出するだけの光球に変わり、黒い身体を現出させる。

 それはカラス、三本の足を生やし額に目がある存在。

「神獣「ヤタガラス」か。あの時の小僧がまさか幻獣と神獣の血を引く存在だとは思わなかったぞ」

 化物は顔をスライムのように変化させてゴキュッと嫌な音を何度もならし変質させる。その音が鳴り止むと頭部だけは美少女と言えるものに変化していた。

 その顔は玉露の知っている顔だった。いや、何があっても見間違えない。

「こやつも知らなかったからな」

「郷理の顔で喋るんじゃねぇぇぇえええええええええええええええええええええ!!」

 玉露は叫び、口から高温の熱線を放出する。いや、それは最早高温とすら言えないような暴熱だった。

 周囲の物を蒸発させていく、ただただそれだけ。今の玉露からしてみれば熱風と言える程度の物だろう。

「ぐぉ!? 太陽の熱か……なるほど、熱いな」

 だが化物はただ静かにそう呟いただけだった。

「リア! 逃げろ!」

 玉露は後ろを軽く見やり、呆然と見ていたリアにそう言い放った。

「で、でも」

「でもでもうっさい! お前が居たって何も変わらないんだ! ここに居たら殺されるだけだ! はっきり言うと足手まといだよ! それに君は死んではいけないんだ、だから今すぐ逃げて!!」

「――ッ! わ、分かったよ……」

 リアは玉露の「足手まとい」と言う言葉を聞いて逃げだした。全速力で、足のバネを酷使して。

『ガァァァアアアアアアアアアアアアッ!?』

 後ろから聞こえてくるのは玉露の絶叫と思えるような悲鳴。

「俺は弱いんだ……だから逃げても仕方が無いんだ……」

 リアは自分に言い聞かせるようにそう言い続ける。何度も何度も言われて、その上自分でも自覚している事、自分が弱いと言うこと。

 それを免罪符にして、逃げる事を許容して逃げている。目を閉じて、涙を流しながら前に走っていた。

 そうしないと耐えられないから――。

「ったく、何時まで逃げてるのよ」

「――え?」

 ふと、女性の声が響き渡った。その声はリアが最も知っていて、そして二度と聞くことが無い母の声だった。

 目を開くとそこは真っ黒な世界だった。何も無い、音も無い、光もない、何も無い。さっきまで合った筈の逃げ道もだ。普通ならこんな場所に放り込まれれば正気を失うだろう。

 だが、目の前にリアの母親が居たせいでリアは正気を失わなかった。安心するものが近くに居ればどんな場所でも少しは平静を保てるのと、死んだ筈の母親が居ると言う絶対にありえない事のせいで一周回って逆に冷静になったからだ。

「母……さん」

「……リア」

 母親は静かに、リアの名前を呟き近づく。


 パシィン!


 良い音がリアの頬からした。

「ギャッ!? な、何母さん!? 何で打ったの!?」

 と、リアは打たれた事が分からないと言った様子でそう言った。いや、既に分かっている。

「『何で打ったの!?』じゃないわよ! 何で逃げちゃうのよ!」

「いや、でも……俺なんかが居たって足手まといなだけだし……」

「まぁ確かにそうね」

 その言葉でリアは完全に項垂れる。

 分かっている、分かっているのだ。子どもであろうがなかろうがリアは弱い。

 肉体的な事ではなく、精神的にヤムチャなのだ。へタレなのだ。男っぽい口調なのも、一人称が俺なのも、地味に強いのも自身が弱い存在である事を逸らす為にやっているのだ。

 玉露はそれを知っているからリアを真っ先に逃がした。

「……正直言って私でも逃げ出したいくらいの相手ね」

「……母さんでもか?」

 リアは信じられなかった。玉露でさえ自身の母親にはとても及ばない、何故なら彼女は――だから。

 母親でさえ勝てない、否、尻尾を巻いて逃げ出したいと言うほどの相手なのだ。そんな相手に一人で戦っている玉露がどうなっているのか、簡単に想像できる。

 不死鳥の持つ不死の能力、それは完全無敵ではない。そのことを知っているリアは玉露があの化物になぶられ続けている事が想像できた。

「そんな相手に、俺が戦いを挑んだって……覚醒だってしていないし」

「……はぁ、女の子だから引き継がれる事は無いって思ってたんだけどね……まさか自分の娘がエロゲーの主人公みたいなヘタレ属性を持っているとは……そう言うのはあっちの不死鳥の男の子で良いのに」

 と、母親はそんな事を呟いた。ある方向を向いて。

「……母さん、そっちに何かあるの?」

「うん、ここの出口がね。ちょうどあの化物と男の子が戦っている……ううん、あれは戦いじゃないよね。大人対子どものような感じだね」

 その言葉を聞いたリアは驚いた表情をして、足をがくがくと振るわせる。

「……助けないの?」

「そんなの……無理だよ……」

「何で?」

 そう母親はリアに聞いてくる。彼女も本当は分かっている、分かっているのだ。

「俺……アイツに殺されかけたんだ……何も出来ずに……玉露が助けてくれなかったらただ黙って殺されるだけだったよ」

 リアの心が既にへし折れている事に。

 それを分かって、母親は聞いた。

「……アイツさ、玉露は口は悪いし嘘ばっかつくけど……本当は優しくて……感情的で……本当に困っている奴は見捨てれなくて……良い奴か悪い奴か分からないけど俺から見たらあいつは良い奴だ」

 自分でも言っている事が分からなくなっているのか支離滅裂な内容になっている。

「悪い奴だったらあの時俺を助けてくれたりなんかしなかった、人間に迫害されている種族の事を酷く言った奴に怒ったりなんかしない」

「そうだね」

 母親はリアの言葉を聞いて頷く。ずっと見ていたわけではない、だからリアが見てきた事を信じるしかない。

「だから、大丈夫だ。俺が助けに行く必要なんか無い、アイツは強いし死なない。だから大丈夫……」

「……ふうん」

 と、静かに呟いた。軽蔑でもしているのか、ただ何かを考えているような目だ。

「これを見てまだそう言っていられるの?」

 そう言った瞬間、出口の方に一つの映像が流れ始めた。玉露や母親が居た世界ではテレビ、もしくは映画と言ったものがあるため驚く事はなかっただろうがそれを全く知らないリアは驚いた。映像が急に現れた事にもその映像に映っているのがボロボロで血塗れで人間の姿に戻り、死にかけている玉露とそれをケラケラと嘲笑っている化物の姿だったからだ。

「ッ!!」

 それを見たリアは身体を振るわせる、だがその足は動こうとしなかった。

「……行きたいんでしょ?」

「……うん、でも」

「力が無い、か……」

 母親は「一つ言っておくけど」と続ける。

「――は、勇者の魔法は……他の魔法とは根本的に違う。この魔法は、自分一人では何も出来ないって自覚し無いと本当の意味では使えないんだからね」

「………」

「でも、今のリアなら間違いなく真の意味でも使える。一人で勝てない敵でも二人なら勝てる、一人じゃ死んでしまうようなことになっても二人でなら生き残れる」

「母さん……」

「だから行きなさい、今のお前なら大丈夫。ほら、鏡を見て」

 そう言って母親はリアに手鏡を手渡す。リアはその手鏡を受け取り自身の顔を見て、驚きの声を上げる。

 蒼い目が紅く光輝いていたからだ。

「……これで、もうリアが足手まといになる事は無い」

 だから行きなさい、自分の思うとおりに。

 そう言うと母親は煙のように消えてしまった。否、帰ったと言うべきだろう。

「……うん、母さん。ありがとう!」

 そして、そのまま出口に向かって走っていく。リアの表情には迷いがなかった。



「………ハァ……ハァ」

 玉露の額をツーッと音を立てて血が流れ落ち、埃を濡らす。倒れて動けない身体を何とか動かして化物の攻撃を必死になってかわしていた。

 だが化物の攻撃は玉露に攻撃を的確に当てている。しかも玉露の攻撃は全て完全に受け流されたりいなされたりかわされたり、完全に玉露が圧倒され負けていた。

「クハハハハハハハ!! その程度か不死鳥! 神獣になって戦っても勝てず自身の力に押しつぶされ……本当に笑えるぞ!」

 ボロボロの玉露を少女の顔をしたまま高く笑う。

「わ……らうな……郷理の顔……で!!」

 怒りに満ちた顔で睨みつける。が、化物は少女の顔で醜く笑い玉露の頭を思いっきり踏みつけた。

「がぁ……」

 力なく悲鳴を上げ、倒れ付す。最早力など残っていなかった。

「クハハッハハハハッハ!! これほど愉快とはな……大事な物が傷つけられているのに何も出来ずただただ黙って歯を食いしばる事しか出来ない女がこれほど面白いものだとは思わなかったぞ」

「……な、んだと……?」

 化物の言った言葉に耳を疑い玉露は目を見開いた。

「私の能力は知っているだろう? 喰らった相手の全てを理解し自分の物にする能力」

「……ああ、そうだった……だからお前は郷理の顔をしているんだ。お前が殺して喰らったからな……!!」

「ああ、お前達はそう思っているんだったな。一つ言っておこう、お前等は勘違いをしている」

「……何が、言いたい……」

「私の能力で喰らった者が死んだと誰が言った?」

 その瞬間、玉露の顔は驚愕に染まった。それもその筈、死んでいると思った存在が生きていたのだから。驚かない筈が無い、喜ばない筈が無い。

 だが玉露はある事に気付いた、気付いてしまった。化物が言ったのは『死んではいない』と言うだけ、それは理解できた。郷理の身体は化物の中に取り込まれているのだから。

 そして分かってしまった、知らなかったことが良い事に。

「まさか……お前ぇ!!」

「そう、貴様の想像通りだ。私が喰らった者は私と同じ感覚を共有する事になる、つまりこの戦いも全て見ていたのだよ!!」

 その言葉が放たれた瞬間、玉露の全身から炎が溢れ出る。

 化物は玉露から降り、半歩下がる。

「貴様ァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 絶叫しながら刀を抜き、化物を切り裂こうと刃が迫る。その鬼気とした表情に化物は全く動じず、軽く指を前に突き出し、ドスッと嫌な音を立て、玉露の身体を貫いた。

 指が突き刺さった瞬間、玉露は口から大量の血を吐き出す。化物はつまらない物を見るような目で玉露を指を引き抜かれると膝を地面に付け倒れそうになる。

「あが……」

 だが倒れなかった。いや、身体は既に限界を超えている。なのに倒れなかった。

 倒れなかった理由はいたって単純、玉露は根性と死ぬ気で立っていた。身体は動かない、指先すら動かせない、刀を握る事も振り下ろす事も出来ない。

 それでも玉露はただ見上げていた。死ぬ最後のその時まで。

「……哀れだな、不死鳥。貴様は不死なのに、何も出来ない。いや、不死だからこそ何も出来ないのか? まぁ良い、これで終わらせてやる」

 そう言って化物は腕を振るう。

 もうかわす力すら残っていない玉露にはそれを黙って受ける事しかできなかった。


「させるかぁぁあ!!」


 化物の手刀が玉露の首を狩ろうとしたその瞬間、リアが剣で防いだ。

 それはさっきのリアと玉露のようだった。

「リア……?」

 玉露は目を疑った、さっきまでの弱々しいリアではなかったことを……自分があんなに言ったのに戻ってきた事に。

「大丈夫だ……玉露」

 そう言ってリアは剣を化物に向ける。

「今度は俺がお前を守るから!」



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