弱点がある無敵は無敵じゃない
遅くなってすみません。
少し難産でした。
「……夢……か」
玉露は悪夢に魘されて強引に目覚めさせられたかのような不機嫌な表情になってそう言った。
だが隣で寝ているリアの安らかな表情を見た瞬間、微笑んだ。まるで親猫が子猫を見守るような優しい笑顔だった。
頭を撫でると「ふにゃぁ……」と惚けた声を上げて気持ち良さそうな顏をする。
そんな幸せそうな顏を見た玉露の表情もどんどんと優しいものに変わっていく。
「って、何しているんだよ僕は……」
そう言って玉露はリアの頭を軽く小突く。
「おーい、起きろー。もう時間だぞー」
「ん……ふぁ……後少し」
「ダメだよ、もう時間だから」
玉露は親みたいな笑顔でリアの白魚のような綺麗で白い肌を――
「……えいっ!」
――微塵の容赦も無くつねりあげた。しかもつねる指をギリギリ火傷するかしないかの微妙な熱加減にして。
「みぎゃああああああッ!? 熱い、痛い!? あ、いや冷たい……やっぱり痛熱いィイイイイ!?」
リアはつねりあげられた場所を手で押さえ悶えうつ。
ふー、ふー、と息を吹き掛けて少しでも冷まそうと努力し、こうなった原因である金髪黒目の不死鳥を睨み付ける。
「ぎ、玉露ォォオオオオ!」
「何?」
「何? じゃねぇよ! 何してくれてんだよ! 普通に起こせよ! 何で熱くした指で思いっきりひねりあげるんだよ! 見ろ、お前のせいでここが真っ赤になったじゃねーか!」
「普通に起こしているのにリアが眠りこけているからだろ、って言うかリアってそんな男っぽい口調してるのに意外と乙女だよね」
「んだよ、悪いのか!?」
「いやいや、悪いわけじゃないよ。可愛い奴だなぁって思っちゃってさ」
玉露が放った何気無い一言により、リアの顏は真っ赤に染まる。
「な、何を言っているんだよお前は!人をからかうのもいい加減にしろ!」
「なぁに本気にしてんの、嘘だよ、嘘」
そう言った瞬間、リアの表情は安心したような、だけどどことなく寂しそうになった。
そんなリアを見た玉露は「フッ」と鼻で笑い、口を開け、
「リアは元々可愛いからね」
恥ずかしげも無くそう言った。玉露の言葉を聞いたリアは顔を真っ赤にして狼狽える。
「か、可愛いって……そんな……」
「本当に可愛いよ……いじりがいがあって楽しいし」
そんな玉露の呟きも聞こえず、リアは自分の世界にトリップしていた。
知らぬが仏、と言う言葉はまさにこの事だろう。
「でもまぁ、今はそんな事よりも……」
玉露はそう言って上を見上げ、目を細める。頭上は鉄のような鈍い光沢を放つ金属が覆っていた。
それは今のこの国の現状を表しているようにも見えた。
「……リア、一つ頼みがある」
「なんだよ、お前が頼むって何か変だぜ。って言うより何か知らないけど恐怖感が襲ってくるんだけど……?」
リアは引き攣った表情をして後退さる。それを見て玉露は「アハハハハハハ」と苦笑いをしてリアに手をかざし、告げる。
「炎鎖」
そう言った瞬間、玉露の手の平から炎の鎖が現れリアを拘束する様に縛り上げる。
「なっ!? 何をっ!?」
「お願い、暫くそこに居て」
玉露は静かに、リアを見ながらそう言い放った。
リアは反論しようと何かを言おうとしたが、玉露の目を見て口を噤んでしまう。
言わなくても分かる、目で見ただけで分かる。玉露は自分に戦ってほしくない。いや、もっと直接的な言い方をしたら間違いなくこう言うだろう。『足手まとい』と。
そんな事は分かっている、とリアは思った。何だかんだ言いながら自分は玉露とは比べる事すらおこがましいほど弱い、もしついて行っても何の役にも立たない。
トロールはオークの上位種、そんな相手にオークすら倒せない魔人の小娘が挑んだ所でたかがしれているのだから。
「じゃぁ、行って来るよ」
玉露の言葉が静かに耳に響く。
待って、連れてって、一緒に戦おう、そんな言葉が頭に浮かぶがそれを口に出せなかった。
ただ、彼女には黙る事しか出来なかった。何も出来ない、弱い、魔人の子どもである彼女には彼が飛んでいくのを黙って見ていることしか出来なかった。
トロールの姿から人の姿に戻った偽りの王は眠っていた。ベッドの中には何人もの美女を入れて、眠っていた。
完全に熟睡、と言うわけではなく窓から日差しが入っている為半覚醒と言った所だろう。だからこそ反応する事も気付く事も出来なかった。
自身が眠っているベッドの下が紅く光っているなんて、気付く事が出来なかった。
『火山!!』
玉露の声がベッドの下から響いた瞬間、赤い火柱がベッドの羽毛を貫きトロールだけを正確に貫いた。
「ギャァァアアアアアアアアアアアアアアッ!? 熱い熱い熱い!?」
体内を焼かれる激痛に悶えうっている。するとどんどん身体の造形が変わっていき醜いトロールの姿に変質する。それを見てしまった女達は恐怖に染まった表情をして悲鳴をあげ、逃げ出した。
でっぷりと太った体から熱を逃がそうと転げ周る。その姿は滑稽だった。
「うぐぐ……一体誰が……」
「僕だよ」
トロールは声がした方を向き、驚愕する。そこに居たのはつい先日、魔王の四子と行動を共にしていた人間(?)の男だったからだ。
馬鹿な、何故、何故ここに居る。そう呟く前に玉露は動いていた。
右足を思いっきり振り上げる、すると右足が炎に包まれ鳥の足のようになった。
「はぁッ!!」
その足で思いっきりトロールの腹を蹴り、炎の爪で焼き斬った。
「ギャァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
切り裂かれ、燃やされる激痛に襲われるトロールは悲鳴を上げて後退さる。が、玉露はそれすらも許さないと言っているような表情をして燃える刀身で思いっきり切り裂く、が刀身はある所まで進むと何かに阻まれたかのように進まなくなる。
それを見た玉露は表情を顰める。
「っち、無駄に分厚いな。運動もせずただ食ってばっかりいたらこんなに切れ難くなるものなんだね……」
そう言って燃える刀を乱暴に引き抜く。刀身には傷一つもなく血や油と言った切れ味を落とさせる物も付着していなかった。
一流の剣士は刀の切れ味を落さない、と言った話はあるがこれはその比ではない。
そんな超一流を越えた腕を持つ玉露でさえ断ち切れないのだ。それだけ、脂肪があると言う事は人間なら間違いなく死に繋がる事になるだろう。
人間でないから、トロールだから出来たことだ。最も、そんな事はトロール自身も予測できていなかった事だ。ただ欲望のままに喰らい、貪る。それがオークと言う種族の習性、それは上位種であるトロールも全くの同じだった。
「ひ、ヒギィィイイイイイイイイイイイイ!!」
トロールは情けない声を上げて一心不乱に逃げる。
「逃がすか!!」
そう言って玉露はトロールを追いかける。だから気付かなかった、トロールが濡れた棍棒を持ったことに。
「うおらぁ!!」
そしてトロールが振るった棍棒は玉露の脇腹に当たった。
鈍い音を立てて、口から血を流して、そのまま壁に叩きつけられた。




