革命戦争開始まで、あと少し
「何でこんな場所に……いや、それにしちゃぁ痩せているな」
玉露は牢屋に入れられている男を見ながらそう言った。
「……もしかして君は……」
「うん、この国の王様に落とされた」
その言葉を聞いた男は「そうか……」と静かに言って俯く。
「なぁ、おっさん。あんたもしかして……」
「ああ、君の想像通りだよ……」
玉露は男の言葉と態度から嘘を言っていないと判断し、頭を押さえる。
そんな様子を見たリアは不思議そうな顔をして玉露に聞こうとする。が――
「ちょっと待って……今処理中……」
――頭からリアルに煙を出しながら考え込んでいる玉露を見てその気が消えうせた。
鳥頭と言う言葉がある、どうやらそれは不死鳥にも適用するらしい。
リアはそう思いながら処理が終わるまで待つことにした。頭から煙を出しながら考える少年とそれを見守る銀髪少女に牢屋に繋がれた初老の男性、はたから見れば一体どんな事があればこんな状況になるんだと言うだろう。
だがそうツっこむ者は誰もおらず、ただ時は流れていった。
十分後
「あー、うん。大丈夫、じゃぁ説明するからよく聞いてね」
玉露はリアに向かってそう言い、牢屋に繋がれている男を指差す。
「この人がこの国の本当の王様、だよね?」
「ああ、そうじゃ……」
玉露の言葉に男は同意する。
「そうか、やっぱり上に居たのは偽物だったか」
リアも顎に手を当ててそう言う。その言葉を聞いた玉露は唖然とした顔をしてリアの方を見る。
「……ねぇリア」
「何だ?」
「お前もしかして上に居た王様が偽物って知ってた?」
「いや、最初は分からなかったんだよ。でも、直に見て分かったんだ。何で亜人がこの国の王様になってるんだって」
「……王様、そこら辺は本当?」
「ああ……急にワシの居た部屋に一体のトロールが現れて……それでワシはこの牢に……」
そう言った直後、本物の王は何かに気付いたような驚愕の表情をして口を開ける。
「そ、そうだ……この国は一体どうなっておるのだ!? ワシが閉じ込められている間に一体何が……!?」
王様の必死そうな叫びに、二人は口を閉じる。だが口を閉じていても何も始まらない以上、先には進めない。
そう思った玉露は静かに、そして冷静に王様に話しかける。
「……話します。でも、絶対に自分を責めないでください」
普段の玉露からは考えられない敬語。だが、今この時では敬語の方が良かっただろう。
そしてそれは正解だった。玉露とリアの口から放たれるはこの国の散々たる現状、それを聞いた王様は俯き嗚咽を漏らした。
「わ、私はなんて事を……してしまったのか……! これでは民に顔向けなど出来ない……! この私の命で償うしか――」
「ふざけんな!!」
と、王様が自責の念に飲み込まれて命を絶とうと言った瞬間、玉露から怒声が放たれた。
「アンタは何も悪くないじゃないか、なのになんで償うなんて言うなよ!」
普段の玉露と違う、今まで見たこと無い……いや、タキと呼ばれる少年と会った時に放っていた威圧に似ている。そうリアは思っていた。ただ前と違う事が一つだけある。玉露は王様に怒鳴っているように見えるが、自身に言い聞かせるように言っているようにも見えるのだ。
最も、リアの気のせいかもしれないのだが。
「だ、だが……ワシがトロールに捕まったせいで……」
「……自分を責めたって意味無いよ」
玉露は王様に言い聞かせるようにそう優しく言い放つ。
「貴方は何にも悪く無い、だからもう自分を責めるな。それよりも、その無念を晴らすべき相手が他に居るんじゃない?」
「じゃ、じゃが……」
「後悔はいつだって出来る。でも、今動かなければ何も解決はしない」
そう言って腰に付けてある刀を抜き、牢と王様を拘束している鎖を切り刻む。
ガシャランと音を立てて鉄屑となった物が崩れ落ち、王様を解放した。
「で、王様? 貴方はどっちを選ぶ? ただ黙って後悔し、一秒でも長くこの国を恐怖に浸すか。後悔するよりも立ち上がり、一秒でも速くこの国を救うか? もし貴方がこの国を救う方を選んだなら僕たちは今この時だけ、全力で貴方の為に戦ってやる。貴方の駒になってやる」
玉露はそう言って刀を無機質な床に突き刺し、王様の目を見る。
「もし貴方が前に進む事を望むのならこの剣を抜け! そして立ち上がれ!!」
その励ましの言葉に王様の目に炎が燈る!
「……そうじゃな……そうじゃな! 嘆いていても何も変わらぬ! 今はこの国をトロールから取り戻す事が先決じゃ!」
王様はそう声を上げて立ち上がり、刀を抜いた。その顔色は土気色から若干紅くなり、少しだけだが後悔している所もあるが今は先に進んだ方が良いって表情に出ていた。
玉露はそんな王様に対し笑顔で「分かった」と言い刀を受け取ると後ろを振り向く。
そして清々しいほど綺麗な笑顔で小さく呟く。
「……よし、恩を売ることが出来た」
この呟きはとても小さく、王様には聞こえていなかった。ただ隣に居たリアには聞こえていた為、口元が引き攣っていた。
「……今のは聞かなかった事にするぜ」
「うん、そうしてね。これが解決できれば船が手に入るかもしれないから」
玉露がそう言うとリアは思い出して納得する。
自分を召喚した国に奴隷の首輪を付けられた、そしてクラスメイトを見捨てて逃げ出した。
国の人間は奴隷の首輪からどうやって逃れたのかを知りたいし捕まえたい、クラスメイトたちは自分を見捨てて逃げ出した玉露を間違いなく恨んでいるだろう。
だからこそ、一刻も早くこの大陸から去りたいのだ。ただでさえその血は不死をもたらすのだから。
「あ、貴方達……一体どうしてここに……」
と、玉露とリアの視界に自分達を見て驚くメイド服を着た茶髪の少女が映った。
二人はすぐに攻撃できる態勢をとったが少女が手に持っているのはお皿に盛られた料理だけで、それを見て安堵する。
そして少女は牢屋から解放された王様を見て、お皿を落す。ガシャーンと皿が割れる音がした直後に少女は王様に抱きついた。
「良かった……良かった……!」
「こ、これ、よさぬかフィンリアーネ。二人が見ておるぞ」
王様の言葉に少女は恥ずかしそうに抱きつくのを止める。
そんな二人の態度から玉露は二人が恋人、もしくはそれの前の関係だと察する。だがちょっと、いや、かなりやばい気がした。
王様は五十手前、少女は十七歳である自分より年下。玉露が元居た世界では明らかに犯罪になるだろう。
でも幸せそうな雰囲気をぶち壊すつもりは無いため玉露は思うだけに止めた。
「えっと……王様って子どもとか居ないのか?」
リアは不思議そうな顔をしてそう言った。ついさっき二人は、特に玉露は王子を殺しているのだ。
だが王様はいたって真面目そうな表情でこう言った。
「恥ずかしながら……私は子宝に恵まれなくてな……」
「……なぁ、玉露」
「何?」
「殺して正解だったな」
「うん」
二人は気付かれないようにして会話をしたのは言うまでも無い。




