偽る怪物
「まだ捕らえられないのか!?」
王子はデプリンとお腹を揺らし、跪いている兵士の頭を踏みつける。ガンッ! と兜から音が鳴り王子は足を押さえてのた打ち回る。見事なまでの自業自得だった。
だが王子は足を押さえて立ち上がり、兵士の顔面を棍棒で思いっきり殴打する。何度も何度も殴り、兵士は短い悲鳴を何度も上げて事切れた。
「クソがぁ……! 本当に使えないなお前等平民は、生きている価値あるのか? ああ!?」
血のついた棍棒を「汚い」と言い投げ捨てそう吐き捨てる。その言葉を聞いたほかの兵士達は憎憎しげといった目で王子を睨みつける。
だが彼等にはどうする事も出来ない。彼等の実力ではこの怪物達に敵う事が出来ないのだから。
「しょうがねぇな……この俺様が出向いてやるか?」
王子は不適な笑みを浮かべて近くにある武器立てから巨大な斧を持ち上げる。
太っているだけに見える外見のようだが力は凄まじく、この国で勝てる者など父親くらいだ。
だからこそ、逆らえない。
「よぉし、待ってろよ魔王の四子! お前を捕まえて俺の奴隷にし……ゲヒャハハハハハハハハハハ!!」
不気味と恐怖と不快感の三つを思わせるような下卑た高笑いが響いた直後――
「フレイムクロス!!」
壁に炎の×印が現れ、破壊した。
砂煙が晴れていくと両手の人差し指を燃やしている玉露と、その後ろでバスターソードを持ってちょっとだけ涙目になっているリアが居た。
「さぁて……死ぬ覚悟は出来てるよなぁ……王子様――って何あれ!?」
玉露は王子を見てそう言った。その目には明らかな驚愕と異物を見るような目だ。
「何であそこまで太ってんの!? ちょっとヤバイよあれは。王族とかって皆あんな体系してるの? 糖尿病とか生活習慣病がヤバイくらいマッハで寿命が縮んでそうなんだけど」
「分からない、俺にはお前が言っている事の全てが分からない……って言うか王族の前でよくそんな事言えるよな。普通なら間違いなく極刑ものだぞ」
玉露の失礼な言葉にリアは冷ややかなツっこみを入れる。と、言うよりは単純に疲れているせいでテンションがおかしくなっているのだろう。
それは無理も無い、今日一日ずっと休む暇無く戦い続けたのだ。神経をすり減らしていてもおかしくない。
「まぁ、無能そうで良かったよ。実力もそんなに大した事なさそうだし。楽勝楽勝」
と、明らかに馬鹿にした感じ嘲笑しそう言った。
それを聞いた王子は顔を真っ赤にして斧で斬りかかる!
「舐めるな!! お前みたいな貧弱野郎に馬鹿にされるいわれなんかねぇんだよ!!」
そして王子は持っていた斧を玉露に振り降ろす。だが斬れる感触が全くせず、そのまま振り切ってします。
「へ? あ、あれ?」
王子は目の前で起きた現象に困惑する。斬った場所は炎となって繋がり、元に戻ったから。
玉露はそんな王子に対し笑顔になり、口を開く。
「悪いけど、速攻でけりつけるから」
その瞬間、刀の刀身に劫火とも言える莫大な炎が纏われる。その近くに居た王子は大気を焦がすような高温に肌を焼かれ悲鳴を上げそうになるが――
「ハァッ!!」
その前に玉露にたたき斬られた。刀の鉄をも断つ鋭い切れ味に魔力の劫火が合わさったそれはあらゆる物質を焼き切るほどの力を持っている。
身体を縦に真っ二つにされた王子は膝を付き、倒れる前に体が炎に包まれる。そしてそのまま身体は炭化し、この世から消え去った。
これを見ていた兵士達は急いでこの部屋から逃げ去っていく。その際に笑顔になっていたのは言うまでも無い。
ただ、玉露とリアは顔を顰めていた。
「……この臭い……何?」
「……多分お前が燃やした王子の臭いじゃねぇか?」
「そんな筈は無い、って言いたいけど強ち間違いじゃないような……でもこんなに臭いなんて普通じゃないよ」
そう言って玉露は炭になった王子を見てこう言う。
「これ、人間を焼いた臭いなんかじゃない。それに斬った瞬間、今まで斬った事無いような肉の感触がしたし」
「………フォッフォッフォッフォ、それ以上はいかんよ」
と、男の声が二人の鼓膜を刺激する。二人は声がした方を向く。
そこには先ほど玉露が殺した王子をもっと太らせて老いた姿をした肉の塊が居た。
「ちょっと……何あの視界の暴力。クトゥルフ神話に出てくるような怪物」
「いや、一応王様なんじゃねぇのか? あんな身体をしてよく生きていられるとは思うけどな」
二人、特にリアはよほどイラついているのか、普段はあまり言わないような暴言を吐きまくる。
「いかにも、私がこの国の王だ」
肉塊、王はリアの発言に対し肯定する。
その瞬間、玉露の全身から炎が噴出する。その表情には色々な思いが篭っており、悪意、殺意、憎悪と言った負の感情が渦巻いている。
「じゃぁ、お前を殺せば……取り敢えずはこの色々な思いも晴れるのかな!?」
そう言って玉露は全身の炎を左手に集めてぶつけようとする。が、突如立っていた床が無くなり二人はそのまま落下した。
床はパタンと音をたてて元の形に戻った。
「……フハハハハハハハハハハ!!」
王は高笑いし、体の造形を変えていく。
亜人トロール、人間に限りなく近い種族の中でゴブリンと同じく女性型が一切存在しない種族。種族を増やす方法は人間やエルフ、ドワーフ、魔人を襲い孕ませると言った非常に危険極まりない生物だ。
その癖、知能だけは人間より少し下といった所で決して悪くは無い。
「魔王の四子、確かに捕まえたぞ! フハハハ……さぁて、どんな事をしてやろうか」
『まぁ、待て』
トロールがリアに対して色々と危ない事をしようと妄想していると何処からともなく声がした。
「は、こ、これはイザヤール様! 一体何事で」
『いや、何。別にかしこまる必要はない。魔王の四子の捕獲ご苦労だったな』
「いえいえ、私は別に……」
『だが油断はするな。奴は魔王でありながら――の資質を持った子どもだ』
「はい、分かりました! 責任を持って奴を閉じ込めておきます!」
ついさっきまでいやらしい事を考えていたような奴とは思えないほど綺麗な敬礼をした。
『後は……そうだな。魔王の四子と一緒に居た奴には気をつけろ、奴は人間ではない』
「……もしかしてイザヤール様と同じ『皇魔種』」
『いや、違う。私も見た事が無いから良くは分からないが、取り敢えず一つだけ言っておこう――』
「ったく……落とし穴のからくりがあったなんて……」
玉露は顔を顰めながらリアをお姫様抱っこをして背中から生やした炎の羽を羽ばたかせて飛んでいた。
「……本当、鈍ったなぁ。僕」
「だからって……お姫様抱っこは……」
「ガマンしろ」
そう言って顔を真っ赤にして玉露の胸の中に顔を埋めているリアを一蹴し、近くにある足場に着地する。
玉露はリアを下ろして、周囲を見渡す。
「……落とし穴と言うよりは地下へのボシュートって言った感じかな?」
「ツっこまないからな」
「いや、今のところにぼける要素なんか無かったよ?」
「……なん……だと?」
「……少し休憩するか」
玉露はそう言うと寝転がった。目を閉じて深く息を吸う、そんな当たり前な自然体をした。
リアも玉露の傍に寝転がる。
ようやく出来た休憩時間だ、出きる限り休んで回復したい。二人はそう思い、それはすぐに打ち壊された。
「だ、誰か……そこに居るのか?」
その声は弱々しかったが先ほどの王の声だ。
二人は一斉に声が鳴った方を向く。そこには牢屋があり、その中には汚いボロキレを纏った痩せた初老の男が居た。
だが、どれだけ外見が変わっていても男は間違いなく、王だった。




