第31話 叶
「お墓・・・」
「ああ、そうだ」
「貴方の?」
「確かにいつも死ぬような目には遭っているが、だからと言って墓を創ったわけではない!」
「かなりの被害者面をしているけど原因はすべて貴方にあると言うのを忘れてない?」
セクハラとかセクハラとかセクハラとかね。
「まぁ、殺されかける原因が俺にあるってのは置いといて・・・ 」
それは置いといて良いものなのかしら?
「この墓は俺のじゃないんだよ」
「じゃあ誰の?」
「誰だと思う?(ニヤニヤ)」
「あらこんなところに自白剤か・・・(スッ)」
「解りましたからかわないで真面目に話します」
全く、はじめからそうすれば良いものを。
でも、愚兄のお墓じゃないとすると一体誰の・・・?
更にお墓に近づく愚兄。
「これはな、俺の妹の墓だ」
「え?」
妹って・・・私?
いや、そんなはずはない。あのお墓は見る限り数年、少なくとも10年以上前に造られたものだ。
私のではない。
・・・と言うか、考えなくても解るわよね。普通は。
・・・?
待って、と言うことは・・・
「そう、俺にはもともと妹がいたんだよ」
「・・・ッ!」
全てが繋がった。
私が家に来たときから感じていた違和感。
あれの正体はこれだったのね。
つまり、今現在私が使っている部屋は・・・
「お前が思っている通り、あの部屋は元々は妹の部屋だ」
そう言うことなのだ。
妙に家具の揃った部屋。
私が使うには小さすぎたクローゼット。
小学生の為の勉強机、椅子。
可愛いぬいぐるみ。
あの部屋に入ったときに感じた、違和感。
この部屋には、誰かがいた。
けれど彼は今現在独り暮らし。両親は外国だけれど、息子も娘も付いていってない。
つまり彼はひとりっ子。
なのに妹がいる。
そして大樹の根本にあるお墓。
それって、
「死んだんだ。10年も前に」
「・・・・・・」
「元々体が悪くてな、幼稚園も休みがちだったんだ。
それでも小学校は行きたいって言ってな、勉強机やらクローゼットやら色々と買って準備して、ようやく小学生って時に、病気で死んだんだ」
「その」
「ん?」
「あ、貴方は・・・」
「俺か?
実はさ、俺も少し前まで思い出せなかったんだよ。幼少時の出来事だからな。
それもかなり辛い内容だし。
つい最近、それこそお前が来るほんの少し前かな。
父さんから聞いた。
今思うと妹のもののアレな本が多かったのも無意識の内に何処かで思っていたからなのかな」
「それは歪んだ愛よ」
妹もののアレな本が妹を思っていた証拠って・・・
というか、真面目に話してるの?この人。
「まぁそんなところだ。俺も覚えていなかったことだしな。今更思い出しても涙も出てこない」
「・・・・・・」
嘘だ。
悲しいはずだ。
家族がもう一人いて、幼い頃に死んで、それを自分は今まで忘れてしまっていた。
異常な家族愛をもつこの人が、泣かない筈がない。
一人だったから、泣けなかったのだ。
強く生きなくてはいけなかったから。
「今回ここに来たのはさ、お前に俺のことを知ってほしいって言うのと、妹に挨拶とお別れをいいに来たんだ」
「お別れ・・・?」
「俺にはもう新しい家族がいる。後ろを向いてちゃいけない。お前に、奏に今はいない妹を重ねちゃいけない。
それを、宣言しに来たんだ」
「あ・・・」
「だからちょっとだけ、時間をくれないか?
お別れの時間を」
ーーーーーーーーーーーー
妹には少し離れていてもらって、俺は妹と、叶とお別れをすることにした。
叶、それが妹の名前。
奏と一文字違い。
何て言う偶然だろうか。
「よう叶、俺だ。お前の兄ちゃんだ」
勿論墓はなにも返さない。
「今日はお前に挨拶と、お別れをいいに来たんだ。
挨拶って言っても最近のことだけどさ」
風か吹く。
俺の話に相づちを打つかのように。
「俺の家に妹が転がりこんで来たんだ。奏って言う名前でさ、お前と一文字違い。
驚きだろ?
俺も驚いたよ」
笑いながら話す。
「それからいろんなことがあってさ、まだ一ヶ月しか経ってないのにホントに色んな目に遭ったんだ。
大変だけどさ、楽しいよ、毎日が」
そこで暫し黙る。
「そこにお前もいたら、もっと楽しかったかな?」
墓はなにも返さない。
「なぁ、教えてくれよ。
俺ってお前とどんなこと話してた?
お前とどんな遊びしてた?
お前と、どらくらい喧嘩した?
お前と、どれくらい、笑った?」
頬から流れているこれは、何だ?
雨も降っていないのに、何故濡れているのか、解らない。
「なぁ、教えてくれよ。
俺さ、お前にちゃんと兄貴らしいことしてやれたか?」
雨はいっそう強くなる。
降ってないのに、何で。
「ごめんな、お前のこと、忘れてて。
ごめんな、ホントに、ホントにごめん」
嗚咽が漏れる。
「なんで、何も思い出せないんだろうな?
何で、今まで忘れてたんだろうな?」
風か、強く吹く。
「ごめんなぁ、叶」
ずっとそれが言いたかった。
忘れてしまっていたことを、
大切な家族なのに。
「でもさ、俺にはもう新しい妹がいるんだ。新しい家族が居るんだ。
俺がこのままお前を考えてたらさ、駄目だからさ、お別れをしに来たんだ。
今、俺は、奏の兄だからさ」
一呼吸おく、
「叶、今まで忘れててごめん。
そして、俺の妹でいてくれて有り難う。
これで、お別れだ」
一拍おいて、
口を開く
「さようグハッッ!!」
背中を思い切り蹴られた。
振り向くとそこには、
「奏・・・? 」
何故か顔が険しかった。
「な、何すんだよ!!
人がお別れを言うときにおもくそ蹴りやがって!」
「何でお別れするの?」
「は?」
「何でお別れする必要があるのかって聞いてるのよ!
私も貴方の妹!そこにいる叶ちゃんも貴方の妹!それじゃダメなの!?」
怒鳴り散らす奏。
「それじゃあ!俺が引きずるだろ!!
それじゃ駄目なんだよ!」
「引きずって何が悪いのよ!
人間生きていくほど色んなもの引きずるでしょ!!
何もかも捨てることなんて出来るわけないのよ!」
「ッ!」
「それに、」
妹が下を向く。
「それに、そんな辛い顔してる人間が、簡単にさよならを言えるわけないじゃない!」
「・・・!」
「ホントはさよならなんてしたくないんでしょ!?
出来ればずっと覚えていたいんでしょ!?
だったらそうすれば良いじゃない!!
なによ!変なところで格好つけて!
タイミングが間違ってるのよ!」
「それじゃあお前が!」
「馬鹿にしないで!!
私がそんなに弱い人間だとでも?
それこそ貴方の思い違いよ!!
貴方にもう一人妹がいて、その子と私を重ねてしまったくらいで何なの!?」
「奏・・・」
「同じ家族なんでしょ・・・?
覚えてなさいよ、馬鹿」
そう言って奏は、
俺に抱きついた。
「お、お前っ!」
「今回だけのスペシャルサービスよ」
「え?」
だから、
「だから思いきり泣いて、良いわよ。
私に、叶ちゃんを重ねても良いわよ」
「ッ・・・!」
俺は奏を抱きしめて、
泣いた。
いつ以来だろう、
誰かの温かさを感じる中で泣いたのは。
どうも満月です。
旅行なのに超しりあすですね。
早く温泉シーン来ないかな、と思っている人。
すいませんもうちょっと待ってください。
さて、本編の方ですが亙君のお話の回です。
この叶ちゃんですが、実は初めは生きてる妹として話に出そうと思ってたんですね。
実妹がいるとこに転がり込んできた妹。
そんな設定で話を書こうと思ったんですけど、ちょっとねぇ・・・と思いこんな形で登場させました。
ごめんね!叶ちゃん!!
さて、なんか急展開になりましたがまだまだこの作品は終りません。
そんなわけで今後とも宜しくお願いします。
では!




