第30話 俺と私の温泉旅行part5
「もうちょっと兄を敬うべきじゃない?」
「義妹欲情カミングアウトしている人間のどこを敬えと?」
「ですね・・・ 」
言い返せない自分に泣けてくる。
あの後、意識が戻った俺は妹と外に出て旅館の周りを散歩していた。
目的地はあるには有るのだがただ直行するだけでは詰まらない。
そんなわけで遠回りをしながら目的地を目指すことになった。
てなわけで先ずは旅館周辺と言うことだ。
「ここは自然が多くていいわね。何だか安らぐわ」
歩きながら妹がそんなことを言う。
・・・いつも残虐の限りを尽くしている妹がこんなことを言うとはちょっと以外だ。
「今回は輸血パックも用意してきたから多少は大丈夫よね?」
「だいじょばねぇよ!なに、俺どうなるの!?」
エスパー妹には何でもお見通しらしい。
「と、ところで」
「ん?」
本日何度目だろうか、妹がまたもや何かを言い淀んでいる。
流石にもうトイレ?とは聞かない。
輸血パックの存在が明らかになった以上、いつもよりも致命的な目に遭うのが解ったからだ。
「そ、その」
「どした?」
「さ、さっきはありがと」
「へ?」
思いもよらない言葉が出てきたため、拍子抜けな声が出てしまった。
「ありがとって・・・何が?」
「だ、だから!助けてくれたことに対する感謝よ!!
何度も言わせないで頂戴!」
「あぁ」
なんだそんなことか、と思ってしまう。
けど、妹からしたら"そんなこと"で終わるものでは無かった。
だからこんな改まって・・・
「プッ」
思わず笑ってしまう。
「・・・何よ」
珍しく拗ねた?妹が俺を睨んでくる。
「いや、お前変なところで律儀と
言うかなんと言うか・・・」
「助けてもらったんだから礼を言うのは当たり前でしょ?」
少し怒ったように言う妹。
全く、つくづく可愛いやつだ。
「いーんだよ、一々礼なんて言わなくたって。家族なんだから、助け合うのは当然だろ?」
「・・・また家族?」
「そうだよ、それが家族なんだよ。助け合ったり、支え合ったり、時には怒ったり。そんなもんだよ」
「あ・・・」
「ほら、時間は待ってはくれないからな。取り敢えず歩こうぜ」
そう言って俺はまた歩き出した。
数歩あとを無言で妹が付いてくる。
気のせいか、さっきよりも距離が近くなった気がした。
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旅館周辺は回り終わったのでいよいよ目的地をめざすことになった。
と言っても私は目的地が何処だか解らないんだけど。
愚兄に訪ねたんだけれども「秘密だ」のただ一言だけ。
その気になれば自白剤やらなんやらで吐かせる事も出来たのだけどやめにした。
どうやら今から行く所は彼にとって大事なところらしいから。
大事なところ、か・・・
それは乃ち、何かしらの思い入れが有るところと言うことで、そこに私をつれていくと言うことは私にその何かしらを話すと言うことだ。
要するに自分のことについて話すと言うこと。
この旅行を機に、もっとお互いを知ろうとでも考えているのだろう。
その為には自分のことを話さなくてはならない、そう思って自ら動いた。
全く、あの愚兄らしい・・・
お互いを知る、か。
私はどうなのだろうか。
私は少しでも彼に心を開けているのだろうか。
少しでも自分を知ってもらおうと努力しているだろうか。
成り行きとはいえ、家族になったのだからもっと自分から打ち解けにいかなければならないのではないか。
そんな思いが、頭の中を駆け巡る。
もし、彼が自らの秘密について話したのなら、私もその時は自身の秘密を話すべきだ。
でも、そんな簡単に話していいのだろうか。
出来ればもっと考える時間が欲しかった。
けれども時は待ってはくれない。
無情にも進むものだ。
「着いたぞ」
その一言は、私を得体の知れない不安へと誘うもののように思えた。
「ここには一度でも来なくちゃって思ってたんだ」
そこは島一番の大樹があるところだった。
向こうには一面に海が広がっていた。
「ここだ 」
大樹の根本へと歩く愚兄。
彼の視線の先にあったもの。
それは、
「これって・・・」
「これが、恐らくお前が知りたがっていたことだと思う」
一つの、お墓だった。
本日は二話投稿です!
いえーい!!




