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第24話 虎穴に入らずんば虎児を得ず的な?

初日の強制勉強会のかいあってか、宿題は思いの外あっさりと終わった。

全て終わった。


いや~人間やればできるとはこの事か!

これで爆散せずにすむ。

不安要素はすべて消えたと言うことだ。


宿題がすべて終わったと言うことは、残りのゴールデンウィークは自由に過ごせる。


そんなわけで、


「どっか行こう!」


「嫌」


平仮名にすると二文字、漢字にすると一文字で断られた。

これほど直球な断り方を、俺は今までに見たことがない。

流石俺の妹、容赦ないぜ!


・・・なんて褒め称えている場合ではない。


何としても、このゴールデンウィーク中に妹と何処かに遊びにいくのだ。

行くったら行くのだ。

メッチャ行きてぇ。


「そう頭の中で何度も呟かないで頂戴。悪臭が漂うから」


「俺ベトベターか何かなの?」


「ベトベトンよ」


「進化してるっ!?」


意外とノリの良い妹であった。

じゃなくて!

旅行!


「と、取り敢えず場所だけでも聞いてから考えないか?

土下座するから」


「最近貴方の土下座が随分と安いものに思えてきたわ。生きてて悲しくない?」


的確すぎるお言葉を頂戴した。


だがこの一ヶ月、鍛えに鍛え抜かれた俺の鋼の精神はそんな簡単には砕けやしない。


「フッ、甘いな妹よ。土下座ってのは躊躇ってやるとカッコ悪いんだよ。逆に言うなら全身全霊をかけた土下座ほどかっこいいものはないのさ!」


「前置きはいいから土下座なさい。そして醜い姿を公衆に晒しなさい」


土下座を動詞化しやがった。

そしていつの間にか土下座をする場所が家の外になっていた。






「まさか本当にするとは思わなかったわ。つくづく恥を知らない人間ね」


「恥なんて人間には必要ないさ!」


あのあと、俺は本当に土下座をした。


公衆の場で。


何処かはあえて伏せておこう。

俺の名誉にも関わるからな。


「土下座してる時点で名誉もなにもないでしょう・・・」


その通りですね!

そしてひとの心を読まないで!


「貴方にはどうやらジョークが通じないようね。爆散してって言ったらしそうな勢いだわ」


「まあな!妹のためならこの命、いくらでも捨ててやるぜ!」


「じゃあ爆死したら遊びに行ってあげる」


「それだと俺がいけないんですが・・・」


「私のために邪魔な貴方自信を消して頂戴」


「・・・・・・」


悪魔だ。


「冗談よ、九割ほどね」


「それはほぼガチなのでは?」


「黙って頂戴、話が進まないでしょ」


誰のせいだと思ってるのでしょうかね?


妹はため息をつくとさんざんためをつくって口を開いた。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・どこにいくの?」


俺の説得を見て心が少し動いたのか、それとこれ以上何か理由をつけて断ってもうざいほどからんで来るからもう諦めようと言う諦めの境地なのか、一応聞いてくれた。

ホントに嫌々聞いたって感じだなぁ・・・・・・

まぁいい。

過程がどうであろうと結果がこうしてやって来たのだ。

そう、これで行ける。


呼吸を整え、この上とない決め顔で言った。


「温泉!」




気が付くと壁に頭がめり込んでいました。


「何故だ!?」


「壁にめり込んだまま話さないでくれないかしら?ふざけてるようにしか見えないわ」


「いやそれお前のせい!」


「失礼ね、私ただ貴方の頭をわしづかみにして壁に全力で叩き付けただけだけど?」


「それそれそれだぁぁぁぁ!それ以外の何によって頭が壁にめり込むか!」


端から見たらかなり気持ち悪い光景だろう。

頭が壁にめり込んだままわめき散らす男・・・・・・


「確かに気持ち悪いわ」


「誰のせいだと思ってやがる!」


くっ、このままじゃどんなに頼んだところでギャグにしか見えない・・・!


だが諦めると言う選択肢は俺の中には残っていない。

ここまで来たらやれるとこまでやるしかねぇ!


「まぁ、取り敢えず温泉いこうぜ!」


「まさかその体制のまま会話を続けようと思えるとは・・・

ちょっと引くわね」


「おい!口調がガチ過ぎるぞ!」


「心のそこから嫌悪してるもの」


「発言が直球過ぎる!」


「御免なさい。私、気持ち悪いものは気持ち悪いと言わないと気がすまないの」


「即刻改善しろ!」


駄目だ・・・いつも通りのおふざけオンパレードだ。

こんなんじゃ話題の本筋にすらは入れねぇ。


何か良い案は無いのか・・・!


そんなことを思っていると、


「ねぇ、今度は此方から1つ、聞いてもいいかしら」


突然の妹からの質問。


「ん、何だ?この格好で答えられる範囲の質問なら答えてやるぜ?」


「格好は関係ないでしょ」


「ですよね・・・」


暫く間が出来た。

顔が壁に埋まっているせいで何も見えない・・・


というか、一体どうしたんだ?

急に真面目な感じになったと言うかなんと言うか・・・


やがて妹が大きく息を吸う音が聞こえる。


「どうしてそんなにも私と旅行にいきたいの?」


「妹が大好きだから!!」


「・・・御免なさい、質問の内容が悪かったわね」


・・・そんなに俺の答は駄目でしたか。

やり直しよ、と言いまた質問してくる。


「どうして何処かに遊びにいくことをそこまで大切にするの?」


「え?」


「まんまの意味よ。何処かに行くことがそんなに大切なことなの?大袈裟な言い方をすると死ぬわけでもないし、お金だって消費せずにすむじゃない。いざ行ったとしても帰ってきたときに残るのは喪失感だけ・・・

いく意味が解らないの」


「・・・・・・」


「こんなこと言って御免なさい。けど私が今まで居たところはそう言う所だったの。何処かに行ったことなんて無かった。だから、いく意味が解らない・・・ただそれだけなのよ」


「奏・・・」


少しだけ、彼女の日常を知ったような気がした。

冷めた家庭、笑顔のない家庭、

何処にも、温かさを感じない家庭。

そんなところで、育ったのではないだろうか。


これはあくまでも憶測だ。

事実ではない。


しかし、もしも彼女が本当にそんな生活を送ってきたのなら、それが彼女の普通になっていたのなら、それはいったいどんなに辛いものだったのだろう。


それを、彼女は耐えてきたのだ。


憶測が事実である場合だが。


そんな家庭から来た彼女。


だったらそんな考えは変えなければいけない。

何故ならここは神無月家ではなく、四十崎家だから。


この家にはこの家の、家庭があるから。


「意味なんているのか?」


「え?」


「だからさ、意味なんているのかよ。ここにはこんな理由があるから行く、とかさ。

別に要らないんじゃないのか?

家族で自由な時間が出来た、どうしようか。じゃあ遊びにいこう。そんな軽いものだよ。楽しいから、だからいくんだよ。

あ、これって意味が有るってことか・・・」


やっちまった・・・

カッコつけて転ぶって一番ダサいよね・・・


「その楽しいが私には解らないのよ」


「じゃあさ、教えてやるよ。俺がその楽しさを。何処かに家族で行くその意味を。だからいこうぜ」


「・・・・・・」


「あともうひとつ、さっきお前言ったな。『別に死ぬ訳じゃない』って。それも間違ってるぞ」


「?」


「お前と何処かに行けないと、俺が悲しくて死んじゃうよ」


そう、俺はどうしたってシスコンなのだから。

妹が大好きで仕方ないのだから。


「ッ・・・!馬鹿じゃないの?頭を壁にめり込ませながら何をカッコつけてるのか。カッコ悪さしか伝わってこないわ」


おっしゃる通りです・・・

駄目か、こりゃ悲しくて死んじゃうなぁ。


妹が立ち去っていく音が聞こえる。


が、音はすぐになくなった。


「・・・・・・そのカッコ悪さに免じて、今回は言ってあげるわよ。温泉でもなんでもいいわ」


「・・・!」


「そのかわり、しっかりと教えなさいよ。その意味を」


「任せとけ、お前のお兄ちゃんだぜ?」


「気持ち悪いわ」


そう言って、足音が再開する。

気のせいだろうか、その足音はとてもウキウキしているようなものだった。


頑張るか。


・・・てか、


「え?これもしかして壁に頭がめり込んだまま?」

次回は温泉です。

ええ、外泊ですとも。


フフフフフフフフフフ


では!

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