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淡きしるべは永久の詩。  作者: 津森太壱。
【世界を変えるために。】
11/14

11 : 心優しき魔王陛下。補足。1

*ジャックの回想です。


*残酷描写があります。ご注意ください。

 また、狂気的な場面もあります。ご注意ください。






 補足がございました。

 わが生涯のあるじ、魔王陛下について、王佐ジャックが再び語らせていただきたいと思います。


 それは魔王陛下が魔王となられて、二年ほど月日が流れたときのことでございます。


「ジャック」


 この頃の魔王陛下は、三十年後と比べますと、至極言葉数の少ないお方でした。

 ええそうです、今ほど口の悪いお方ではなかったのです。わたしや姉兄さま方の前以外では、単語程度のお言葉しか口になさらないほど、寡黙なお方だったのです。今のお姿からは想像できようもありませんが、本当に、寡黙なお方だったのです。ただ、中身は一切変わっておられません。常から考えていることは同じ、ということです。今の魔王陛下と、この頃の魔王陛下の違いは、口数だけと言えるでしょう。


「なんでしょう、陛下」


 魔王陛下に呼ばれたわたしは、ふと顔を上げました。


「山が赤い」


 魔王城の執務室において、窓辺から外を眺めておられた魔王陛下のそのお言葉に、わたしは首を傾げました。

 山が赤いのは当然です。今は秋なので、紅葉が見られるからです。


「風流なことだと思いますが……」


 魔王陛下が見ているものはなにか違う、とわたしは思いました。なぜそう思ったのかはわかりません。ただ漠然と、そう思いました。魔王陛下の横顔と、そして唐突にわたしを呼んだということが、紅葉を楽しむ目的のものではないと本能的に察したのかもしれません。


 わたしは失礼して魔王陛下の隣に並び、窓の向こうを見やり、目を細めました。


「……戦争、ですか」


 山が赤く燃えておりました。正確には、山の向こうから見える赤い炎に、山が照らされておりました。高地にある魔王城から見える景色ですから、近いようで随分と遠い地です。ですが、魔国に遠いわけではない場所です。


「飛び火が……くるか」


 煙はすでに魔国へと及んでいるでしょう。それくらいの距離で、戦争が繰り広げられている様子でした。

 魔王陛下は案じたのでしょう。山の麓には小さいながらも村があります。それも、人間たちが、同じ人間によって虐げられ魔国に逃れた者たちが集う村です。その村には当然、魔族も住んでいます。


「兵を向かわせてあります。住民に被害が及ぶまでのことは、起こらないと思われます」

「……レイトに頼んでは駄目か」


 魔王陛下は窓から眺めるその景色から、目を離そうとなさいません。表情からお心は汲み取れませんが、心配なのだと思います。

 わたしは思案いたしました。国境付近での戦争は、数十年に一度は起こるものです。時期を読んで兵を配置しましたのも、事前に情報を掴むまでもなく予想できたからです。


「ガナン・セイルは、滅びては再生し、再生しては滅ぶ大陸です。魔国へは大海を隔てますゆえ、大海を超えてこちらに侵入したときにはもはや体力が尽きているのが常でございます。騎士長自らお出になるほどの敵兵は、大海を前にして存在しないでしょう」


 そうです。そもそもわが魔国は、一つの大陸の上に存在するたった一つの国です。魔国への侵入は、いずれも大海を乗り越えねばなりません。山の向こうの炎は、大海をも隔てた向こうのものなのです。おそらく大海に面した町が焼かれているのでしょう。煙が魔国のほうへと流れてきているのは、本日の天候が晴天であり、またいつになく風が強いせいかと思われます。晴れ渡った空を見上げますと、雲の流れがとても速いのがわかります。そして、同時に憂鬱になります。


「このような天気であるというのに……」


 ほのぼのとした太陽の下で、人間たちはいったいなにをしているのでしょう。もう少しおとなしくしていられないでしょうか。


「……おれが行く」

「それはなりません、陛下。あのようなことに、陛下が関わる必要はありません」

「気分が悪い」


 魔王陛下は窓を開け、空を見上げておりました。わたしが憂鬱を感じたように、魔王陛下もそれは感じたのでございましょう。


「なにかあってからでは、遅いんだ」


 そうおっしゃられて窓の縁に足をかけましたところで、わたしは背後から魔王陛下を押さえました。


「ジャック」


 不服そうなお声で魔王陛下はわたしを呼びます。ですがわたしも、それなりに慌てております。執務を抜け出されるのは困るのですが、それ以前に、魔王陛下は魔王であっても肉体的に未熟であるからです。


「先に勇者と名乗る人間の相手をされた折り、随分と疲弊なさいましたでしょう。その意味がわかりますか。バルドルック医師から言われましたでしょう、あなたさまのお身体はその強大な魔力を未だ馴染ませられずにいる、と」

「それは……」

「あなたさまは魔王陛下であられます。しかし、成体ではないのです。あと五十年は子どもなのです。それをご理解ください」


 人間の戦争など、魔王陛下ひとりで充分治められるものですが、如何せん今代魔王陛下は未だ子どもです。成体になるまであと五十年あります。わたしも成体となるまで今少し時間を必要とする魔族の端くれのため、魔王陛下が子どもであることは理解しておりました。庇護対象です。


「かようにご心配なのでしたら、致し方ありません、騎士長に様子見を頼みましょう」

「最初からそう言え、ジャック」


 魔王陛下はわたしのその言葉を待っておられたようでした。乗せられたようで少し複雑です。

 魔王陛下が窓の縁から足を下ろされ、乗り出していた身を引っ込ませたところでわたしはホッと息をつき、手を叩いて近くの文官を呼ぶと、魔王陛下の兄上さまであられるレイトヴァーナ騎士長に召集をかけました。


 ほどなくして、兄上さまはいらっしゃいました。


「よう、弟よ。どうした、兄ちゃんが恋しくなったか」

「あそこ行って死んでこい」

「っておいいきなりかよ。兄ちゃんちょっともんもんしてっから、そんなこと言ってっとおまえのこと襲っちゃうよ?」

「おれ今日姉ちゃんと寝るから」

「ちっ」


 相も変わらず力関係のよくわからないご兄弟です。


「いいから、あそこ行け」

「あん? ああ、ガナン・セイル大陸か。そういやまた戦争始めたっぽいなぁ」

「煙がこっちに流れてる。気分が悪い」

「そりゃ気分も悪くなるわぁ。仕方ねぇ、おれサマが片づけてきますか。だがな弟よ」

「あ?」

「もんもんしてんのは本当だ。おれが行っていいのかよ?」

「あんたなら一日とかからずにあそこまで行けるだろ」

「それだけでおれを行かせるなんて……まあいいか、好き勝手に暴れられるし」


 行ってくるわぁ、と到底わたしには発音できない喋り方をされた兄上さまは、安請け合いも甚だしくさっさと行ってしまわれました。兄上さまにつける兵の数を考えていたのですが、要らない、と魔王陛下に一蹴されたので、そのままお見送りした次第です。


「あれはバケモノだ」

「は……」

「被害を最小限に抑えるためにも、レイトには単独行動させたほうがいい」


  今思えば、このときすでに魔王陛下の御心は子どもではなかったでしょう。そう、早熟だったのです。

 ですが、ある意味では、わたしの判断は間違いではありませんでした。このときに魔王陛下の魔力安定を過信していたら、確実に魔王陛下は長い休眠に入られ、今の魔国が作られることはなかったのです。

 わたしの判断は、間違いではなかったのです。

 けれども同時に、魔王陛下がお持ちの深い闇に、このとき気づけなかったことが悔やまれます。


「ほら……やった」


 それは兄上さまを送り出して二日後のことです。

 魔王陛下が、自嘲気味に笑い、窓の向こうを見やりました。


「人間は愚かだ……レイトがどれだけバケモノ染みた魔族か、見ただけでわかろうものを」


 魔力の強大さをおっしゃられたのだと思います。

 魔族は、魔族のそれを感じることができますが、人間は魔族のそれを感じることはできません。いくらか法力が強い、勇者と名乗る人間であれば測れることもありましょうが、ほとんどの人間には無理です。

 魔王陛下の兄上さま、レイトヴァーナ騎士長は、魔王陛下と並ぶ魔力をお持ちでした。このとき、改めて思い知らされたのです。


「喜べ弟よ、兄ちゃんが憂いを晴らしてきてやったぞ」


 帰還された兄上さまは、文字通り血塗れでございました。殺戮を楽しんだのだと、一見してわかる装いでございました。


 このときより、一つの噂が流れるようになりました。


「レイトが魔王であるべき……か。確かにな」


 噂は魔王陛下にも届きました。

 魔王陛下は、先代を弑したそのときから力をお見せすることがありませんでしたから、流れても致し方ない噂話です。勇者を前にして力を揮われたときでさえ、半分も見せておられませんでしたし、勇者を退けてすぐお倒れになったので、見せつける場がなかったのです。たとえ感じられる魔力が強大であっても、隠すことができる兄上さまがいたように、お身体の成長を慮って魔王陛下は魔力を隠しておられましたから、噂は徐々に大きくなりました。


 レイトヴァーナ騎士長が魔王であるべき、と。


「……忌々しいな」


 舌打ちなされた魔王陛下は、不貞腐れておりました。気にするほどのものでもない、とは、あまり思えなかったのでしょう。しかし、忌々しい、というお言葉は、決して兄上さまに向けられたわけではありません。

 忌々しいのは、ご自身のお身体のことでした。


「やっぱりレイトが魔王なんだ」


 拗ねるお姿は可愛らしい、と思ったのは内緒でございます。この姿をあとで姉上さまであるログヴィエヌ女官長と語らってしまったことも、内緒でございます。


「レイトが魔王になればよかったんだ」

「ですが陛下、騎士長が魔王でしたら……半日もせず魔国は滅びます」

「は?」


 わたしは魔王陛下の御言葉を、恐れ多くも否定いたしました。失礼ながら兄上さまのことも、不敬な態度で見ておりました。

 理由は簡単です。


「今回、騎士長には単独行動を取っていただきました。陛下がそうおっしゃられたからです」

「まあ……」

「陛下の判断は正しいものでした。おかげで、こちら側は誰ひとりとして、傷を負うことがなかったのですから」


 この意味が、おわかりになりますでしょうか。

 思い出してください、レイトヴァーナ騎士長のご気性を。


「同胞を同胞とも思わぬ戦いぶりは、真に、同胞を同胞とも思っておられません。騎士長が配属された隊は、例外なく、壊滅するのですから」


 レイトヴァーナ騎士長を、兄上さまを、魔王にすべきではないのです。兄上さまは本当に、同胞を切り捨てた戦いをするお方です。それは、国政を任せられない危惧を匂わせるのです。


「陛下はそれをご存知ゆえ、騎士長に単独行動させたのでしょう?」


 わたしは魔王陛下の采配を、賢明であったと称えます。誰もが目先のことに囚われておりますが、その采配をした魔王陛下こそが、魔王であられるべきお方の姿勢なのです。


「騎士長は……兄上さまは、魔王であるべきではありません」


 たとえその器が、魔王陛下と並ぼうとも。

 中身が備わっていなければ、魔王であってはならないと思うのです。

 ですから先代魔王、わが母は、重臣に国政を任せていたのです。力はあってもその才はないと、わかっていての行動です。ゆえに、魔王としては失格、なのです。


「レイトが魔王だったら、魔国が半日で滅ぶ……か」


 わたしの言葉を復唱された魔王陛下は、少しして、歳相応の笑みを見せてくださいました。


「確かに。だからおれが、魔王になったわけだし」


 わたしは魔王陛下の笑みにホッといたしました。けれども、疑問も浮かびました。

 魔王陛下は、魔王になるために、わが母を弑しているのです。必要なことだったとおっしゃられているのです。

 なのに、なぜ、兄上さまが魔王であるべきだという些末な噂に、振り回されてしまわれたのでしょう。


「失礼ながら陛下、一つお訊ねいたします」

「なんだ」

「陛下は、兄上さまが魔王であられても、よろしかったのですか?」


 わたしの問いに、魔王陛下は表情を消してしまわれました。いつもの無表情でございます。感情など読み取れません。しかし、小首を傾げられました。


「おかしなことを訊く」

「は、おかしい、でしょうか」


 どうやら魔王陛下は、わたしの問いが不思議であったらしいのです。


「おれが魔王の器ではないことを、おまえは知っているだろう」


 そう魔王陛下がお答えになった瞬間、わたしは後悔いたしました。

 そうです、わたしは知っているのです。魔王陛下が、忌まわしき黒烏と呼ばれる所以を、その意味を、知っているのです。

 魔王には力と才が必要です。それらを総合して、器、と称することもありますが、器とは肉体を意味することもございます。

 兄上さまは器として問題などありませんが、才に欠けている部分があるため、力があっても魔王には不向きです。また先代魔王も、その器はあれど才がなかったゆえに失格なのです。

 そして今代魔王陛下は、そのどちらも兼ね備えておられますが、忌まわしき黒烏という異名がございます。

 わたしは、存じているのです。

 誰にも明かすことはありませんが、それは魔国の威信のためなどではなく、魔王陛下ご自身のために、明かさないことでございます。それゆえ先代魔王、わが母は死を享受したのですから。


「適材適所、だ。そうだろう、ジャック」

「は、その通りでございます」

「レイトには魔王の器がある。だが、同胞を同胞とも思わない……それでは魔王として完全ではない」


 魔王陛下は兄上さまをよく見ておられます。


 そして。


「だから、おれは魔王の座を求めた。ログの苦しみが、これで報われたらいいと思う」


 魔王陛下ほど、姉兄を深く想っておられる魔族はいないでしょう。


 そのとき、部屋の扉が軽く叩かれました。魔王陛下の許可をいただき、わたしは扉を開けます。そこには、今しがた魔王陛下が憂いを見せたお方が立っておられました。


「いいかしら?」


 ログヴィエヌ女官長です。

 わたしは頷き、ログヴィエヌ女官長を部屋へと招きました。魔王陛下が少しだけ、虚を突かれたお顔をなさいました。


「ログ」

「お姉ちゃん、でしょう?」

「姉ちゃん」


 魔王陛下は相好を崩し、机を離れるとログヴィエヌ女官長、姉上さまに抱きつかれました。体格的には姉上さまのほうが今少し背がお高く、魔王陛下は皆が羨む姉上さまのお胸に顔を埋めます。なんて羨ま……いえ、そんなことはございません。


「そろそろ噂を耳にして、落ち込んでいるかしらと思ってきたのだけれど……そうでもなさそうね?」


 姉上さまの問いはわたしに向けられておりました。わたしは答えに迷い、俯いてしまいました。魔王陛下の御心を、ほかでもないわたしの言葉で、乱してしまっていたからです。


「過ぎたことを申してしまいました」

「あら……ジャックにしては珍しいわね」

「申し訳ありません」


 俯いたついで、わたしは深く頭をさげ、謝罪いたしました。


 しかし。


「ジャックは悪くない」


 魔王陛下が姉上さまに抱きつかれたままの姿勢で、わたしの無礼を否定してくださいました。


「ジャックはなにを言ってもいい。だって、おれの王佐だ。なんでも言ってもらわないと、おれが困る」

「……だ、そうよ?」


 姉上さまに笑われてしまいました。同時に、なかなかに幸福を感じるお言葉をいただきました。

 そうです、わたしは魔王陛下の、リッカさまの王佐なのです。

 安堵いたしました。わたしを王佐として見てくださっている魔王陛下に、安心いたしました。王佐だと思っているのはわたしだけかと思っておりましたので、いえ公的にはきちんとその役職を拝しておりますが、魔王陛下がお認めくださっているかはわからなかったのです。


「なにをリッカに言ったのかしら?」


 姉上さまの言葉に、わたしは魔王陛下との会話を説明いたしました。いえ、決して姉上さまの視線が怖かったからというわけではありません。なにか嫉妬めいた感情を受けたからではございません。純粋に、説明いたしました。


 わたしの説明を聞いた姉上さまはあっさりと言いました。


「レイトに王は無理よ」


 あまりにもあっさりと否定なされました。姉上さまもやはり、よく兄上さまを見ておられます。


「リッカだから、王になれたのよ」


 姉上さまは軽々と、魔王陛下を抱き上げます。素晴らしい腕力、ではなく、このときの魔王陛下は、その、気にされているのですが、とても華奢なお身体をしておりましたので、成体であられる姉上さまには造作もなかったのでございます。


「ログっ」

「お姉ちゃん、よ」

「姉ちゃん! そんなぽんぽん、抱き上げるなよ」

「可愛いのだもの」

「かわ……」

「それに、リッカはどんなに大きくなっても、わたしの可愛いリッカなのよ」


 兄上さまに同じことをされたときにはものすごい勢いで暴れられる魔王陛下ですが、姉上さまには敵わないようで、男としての矜持は意味を持ちません。いえ、護る対象である女性に同じようなことをされれば、わたしとて矜持を抉られます。魔王陛下のお気持ちは、痛いほど伝わってまいります。


「いくらでも言わせておきなさいな、リッカ」

「わかってる、つもりだ……」

「それとも、あなたの願いは、そんな些細な噂に負けてしまうほど、弱いものだったのかしら?」


 姉上さまの辛辣なお言葉に、魔王陛下はその腕の中で固まりました。


「はっきり言って、わたしはどうでもいいのよ? レイトもそう。けれど、あなたが必要だと言うから、わたしもレイトもあなたの好きにさせたの。そんな噂に振り回されるくらいなら……黙ってわたしに護られなさい。むしろわたしには、そのほうがいいのよ」


 慈悲深い微笑みを、姉上さまは魔王陛下に向けられます。魔王陛下は全身を強張らせておりました。


「あなたはわたしの腕の中にいればいいの。レイトの力に護られていればいいの。だってあなたは、わたしとレイトの大切な烏なのだから」


 姉上さまの微笑みは、それはもう美しいものです。氷のように冷たいお方であればこそ、その笑みは極上です。しかし、魔王陛下には恐ろしいもののように映ったようでございました。


「か……籠の鳥は、いやだ」

「そうね、そう言っていたわね」

「おれ、おれのせいで、ログとレイトが……」

「そんなの、気にしなくていいのよ。わたしにもレイトにも、あなたを外敵から護るくらいの力は、充分にあるのだもの」


 姉上さまには、あまり公にはしませんが、それなりに魔力がございます。わたしもそれなりに魔力がありますので、そのわたしに匹敵するとお考えください。つまり姉上さまは、女官長では勿体ないほどのお力を、持っておられるのです。兄上さまと組まれれば、魔王陛下になににもお近づけにならないこと確実です。誰も太刀打ちできません。魔王陛下ほどではないにしても、姉上さまも充分に、魔王の器をお持ちでした。


「おれは護ってもらいたくない……っ」

「そう、そう言うから、好きにさせているの。だからね、リッカ、あまり振り回されていると……わたしもレイトも黙ってはいないわよ?」


 重い、と思いました。見惚れるほど美しい微笑みであるのに、姉上さまのそれは、とても重く感じました。おそらく魔王陛下も感じておられたでしょう。ぐっと唇を噛みしめると、姉上さまの言葉に頷き、「いい子ね」と頭を撫でられると姉上さまの首筋に顔を埋めておられました。


 つくづく思いますが、このご姉弟の力関係は、いまいち掴めません。


 ですが、ここでわたしは、気づくべきだったのです。

 先にも述べました。

 魔王陛下は未だ成体まで五十年ある子どもでしたが、その御心には、すでに深い闇が巣食っていたのです。







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