Pere -おとうさん-
未完です。
人間が歩いている。
広い広い砂漠の中を黙々と。小柄な身体に纏ったガウンを、砂を孕んだ風が揺らしていく。
その小さな足跡の上を、更に小さな足が追いかける。
人間は少年だった。
黒いフード付きのガウンの下からは、淡い栗色の髪と、明らかに不健康そうな白い肌が伺える。
小さく形のいい鼻先を汗が伝っていく。
どれだけの距離を歩き続けたのか、黒いブーツは先が破れ、踵は磨り減って歪んでいる。
砂で出来た大海原の上を、ひたすら足を動かし進んでいた。
その背中に続くように、黒くて小さな四本足が追いかける。
普段はピンと立った三角の耳も、砂が入らないようずっと閉じっぱなしだし、自慢の黒い毛は砂ですっかり灰色だ。
じりじりと強い日差しで、太陽は容赦なく一人と一匹を照らし出す。
照り返しもさることながら、今日は一段と強い直射日光。
やがて太陽が真上から少し西に傾いた頃、一人と一匹はぐらりと傾いで倒れ、それっきりぱたりと動かなくなった。
何処かで虫が鳴いている。
小さく砂漠の真ん中にあるこの街でも、昼間から市場は大賑わいだ。
黄色く高い家々の間を、沢山の出店が立ち並んでいる。夏虫の大合唱に重ねて、商いをする声が市場を行き交う。
住民が大半だが、商品売買の為に外の町からわざわざやってくる旅人も少なくない。
お蔭で宿屋も大繁盛だ。
昼過ぎになると朝ほどの活気は無くなった。
しかし、街の外れにある宿屋では賑やかな声が耐えない。
一階にある食堂では、宿屋の娘と思われる少女が、街の男衆の給仕をしていた。
小さな身体にオレンジの強い金髪。腰でまくタイプのエプロンをまいている。
「おい、フルール。こっちにビール持ってきてくれ」
フルールは呆れた顔をしながら男に言った。
「もぉ。あんまり飲み過ぎると狸になるよっ」
彼女の父親は売買をする商品を運ぶ商人だが、仕事は偶にしか来ない為副職として小さな宿屋の経営をしていた。
それも今ではすっかり逆転して、宿屋が本職のようだが。
父親と二人暮しのせいもあり、フルールは若干10歳にして宿屋の切り盛りが一通り出来るようになっていた。
父の友人であるこの街の男達とも仲がよく、親子のように接していた。




