Memoire -きおく-
あらすじ。回想です。
暗い部屋。冷たい床。格子の嵌まった窓。
その仔はいつも、其処から見える四角い空を見上げていました。
毎日毎日飽きもせず、おんなじ日々の繰り返し。
ホントは逃げられなかっただけ。
昼は硬いベッドで本を読み、夜は冷たい床に座って四角い空を眺める毎日。
ごく稀に、調子がいい時は誰も聞くことのないヴァイオリンを奏でます。
独り。独り。部屋の真ん中。こっそりと弦を震わせて。
その旋律はとても儚く、切なく、美しく、とても甘い響き。麻薬のように全身に行渡り、僕の心を虜にします。
魔法に掛かって僕は、涙の止め方を忘れます。
孤独な心を溶かした音色は僕を捉えて離さない。
あの仔は、そんな僕をいつでも優しく抱き上げてくれました。
暖かい目で見つめてくれました。
微笑んでくれました。
ま白い肌の君。
大きなお城で独り。
ずっと閉じ込められていました。
君の部屋は、北向きの暗い部屋で、小さな窓。決して陽のあたらない部屋。
日に一度の食事。小さく小柄な体。
体が弱いため、陽にあたることもままならない為に、病的な程白い肌をした君はとても孤独でした。
いつもいつも。
小さな窓から見る空は四角く色がなかった。
部屋から出ることも叶わずに、君はただ、其処に居ました。
―あの人が怖い―
だから、僕は連れ出しました。
怖いのなら逃げればいい。
夜闇に紛れ、人目を掻い潜り、使用人を欺き、冷たいベッドには毛布を仕込んで。
それなりに裕福でしたが致し方ない。
あの仔と僕は城を出ました。
黒い大きなフード付きのガウンを羽織り、右手にヴァイオリンケース。ポケットには金貨を詰めて。
旅立ちました。
四角い空の変わりに、満天の星空をあげる。
贅沢な暮らしの変わりに、四季の移り変わりをみせよう。
自分以外に逢う生き物。
花も蝶も鳥も虫も、暖かい風総てが君を待っているよ。
さぁ、行こう。




