EP.1
試しに航空無線に和訳のルビを振ってみました。読みにくかったらすいません。
2026年7月9日 14:12(JST) 静岡県上空
「Hummingbird, this is Mammoth Flight. Two F-2.」
日本最高峰を間近に望む空を、轟音を下界に響かせながら、日の丸を付けた2機の戦闘機が飛んでいる。
「Holding D3 at altitude 13000ft.」
そのコックピットでは、パイロットが地上との無線交信を続けていた。
「Playtime is 0+15. Available for tasking. What do you have for us?」
『Mammoth Flight, this is Hummingbird, Type1 in effect. Advise when ready for 9-line.』
パイロットの通信に答えたのは、明らかに軍事作戦にはそぐわない声。
若い女性、いや、”少女”と呼ぶほうが似つかわしい声だった。
2026年7月9日 14:13(JST) 静岡県・日本国防陸軍東富士演習場
東富士演習場の一角、市街地を再現した訓練エリア。
その中のビルの屋上に、2人の人影があった。
「Request Mk.82 Final attack heading 350-010」
学校の制服の上からプレートキャリア、それも背中に「桜山高校」と書かれたパッチが貼り付けられているものを着装し、銃で武装した2人の女子高生は、そのうちの1人が背負った、長いアンテナの付いた大型無線機を通して上空の戦闘機と交信を続けていた。
『Final attack heading 350-010……』
2人は双眼鏡で市街地を見つめながら、無線機から聞こえてくるパイロットの声に耳を傾ける。
『Mammoth Flight, IP INBOUND.』
パイロットの報告を聞くと、無線機を持っていない方の少女が、手元の双眼鏡に似た四角い機器を構えた。
『Hummingbird, Mammoth Flight, LASER ON.』
「来た」
無線を聞いた少女は、小さく呟きながら機械の電源を入れる。
人の目には見えないレーザーが、市街地の一角へと照射された。
「Hummingbird, LASING.」
『Mammoth Flight, SPOT.』
徐々に少女らの元にも轟音が近づいてくる。
『Mammoth Flight, IN form South.』
無線の直後、雲の切れ目から戦闘機が2機姿を現した。
日本国防空軍に所属するF-2戦闘機だ。
それを確認すると、少女の1人が無線機に告げた。
「Continue Dry.」
その指示に従い、戦闘機はそのまま上空を通過していく。
『Mammoth Flight IN』
『Mammoth Flight OFF to West, DRY.』
市街地の上空を2機が通過するのを見届けると、先程の無線で指示を出した少女が無線機に向けて告げた。
「Mammoth Flight, COPY. Target simulated.」
その数秒後。
演習場一帯に、スピーカー越しの声が響きわたった。
『状況終了!』
それを聞いた途端、屋上の2人の緊張が一気に緩んだ。
無線機を背負っている少女が盛大に息を吐き出し、隣の少女もレーザー目標指示装置を下ろす。
2人は顔を見合わせる。先に口を開いたのは無線機を背負っている少女だった。
「お腹すいたぁ……」
「第一声がそれ?」
隣の少女が呆れたような声を出す。
「だってもう14時だけど昼ごはん食べてないし〜。お腹すかない?」
少女が不満げな声を出す。その上空を、先ほどの戦闘機編隊が通過していった。
◇◇◇
2026年7月9日 14:32(JST) 静岡県・日本国防陸軍東富士演習場
「やっと昼ごはんだぁ……」
演習場の外れに設置された天幕の下で、桜山高校戦術科の秋谷梨沙は地面に腰を下ろした。
彼女の前にはレトルトのご飯に同じくレトルトの鮪ステーキを載せたものが置かれていた。
隣でレトルトのドライカレーを紙皿に出していた、同じく桜山高校戦術科の朝比奈優花が再び呆れたような目を向ける。
「さっきからそればっかりだね」
「だってお腹空いてるし」
「朝ちゃんと食べとけばいいのに……」
「食べたけど空いてるの!仕方ないじゃん!」
この2人が属するのは、都立桜山高校戦術科、航空支援課程。全国で2校しかない航空支援課程で、定員は学年あたりたった4名。そんな課程に在籍するエリートたちは、今日も昼食のことで他愛もない会話を続けていた。
その時、国防陸軍の教官が天幕内に入ってきた。
「諸事情で帰還が15分早まった。ここを1445に出発する。まだ食べ終わってない奴は急げよ」
それを聞いて秋谷と朝比奈は食べるペースを早める。
教官はその様子を見届けると、天幕を出ていった。
◇◇◇
2026年7月9日 15:15(JST) 静岡県・東富士五湖道路
時間通りに演習場を出発した帰還車列は、高速に乗ってすでに数十分が経っていた。
車列と言っても、前方に国防陸軍のバイクが1台、中央に桜山高校のロゴが入った白いハイエースが1台、後方には指揮車の軽装甲機動車が1台付いた、3台の車列である。
ハイエースの車内には運転手の高校教師と、航空支援課程の2、3年生8人の、計9人が乗っていた。
そんな中で。
「優花〜暇〜」
とうとう暇になってきた秋谷が隣で本を読んでいた朝比奈に絡み始めた。
「適当なマニュアルか参考書でも読んでなよ。一冊くらい持ってきてるでしょ」
「行きで全部読んじゃったんだから仕方ないじゃん。」
「じゃあ寝れば?」
「えー、眠くない」
「知らないよ」
朝比奈は文庫本から顔を上げずに答える。
その時だった。
「あれ?」
運転していた教師が呟いた。
「渋滞か?」
その言葉の通り、前方では車が列をなして止まっていた。
ハイエースも後方の軽装甲機動車も停車する。
「こんなところで渋滞なんて珍しいなぁ……」
そう教師が呟いたとき、前方のバイクに乗っていた国防陸軍隊員が、何かを察知したようで小銃を手にバイクを降りた。
バイクの隊員から無線が入る。
『前方から悲鳴が聞こえました。確認してきます』
『指揮車了解』
隊員が前に出てから数十秒後、隊員から再び、今度は切迫した声で無線が入った。
『前方に特別有害生物を捕捉!接敵!接敵!本物だ!』
”特別有害生物”、その言葉で車内がざわつく。
既知の生物とは大きく異なる、概ね人型だが明らかに人間とは異なる肉食性の獣であり、戦術科が設立されたのはこの生物に対抗するためでもある。
『指揮車了解。対応する。』
後方の軽装甲機動車からも、隊員が3人、銃を手に降りてくる。
それを見た秋谷が小さく呟いた。
「これ、私達も行ったほうがいいんじゃない?」
「たぶん、まだ待ったほうがいい。でも準備はしておこ」
朝比奈も応じる。それを聞いた秋谷や他の生徒たちは、バッグからプレートキャリアとヘルメット、得物を取り出し戦闘態勢を整える。
朝比奈も89式小銃C型――国防軍から払い下げられた、89式小銃の派生型――を手に取り、マガジンを挿入しチャージングハンドルを引いた。
外から銃声が響いてくる。
2年生の最後の一人が準備を終えたその時、車の左側から突如咆哮が聞こえてきた。
生徒たちが一斉にその方向を見る。
そこにいたのは、真っ白な体、人間より少し高い身長、そして頭部から伸びる無数の触手を持つ、”特別有害生物”だった。
「まずいよ、この距離じゃ車ごとやられる!」
秋谷が声を上げる。
特別有害生物は車の外装を貫通する手段を持たない。
だが、体当たりでもされて車体ごとシェイクされれば中の人間は確実に戦闘不能になる。
このまま車内にとどまるのは、あまりに危険だった。
「先生」
朝比奈が教師に声をかける。
「……総員攻撃を許可。やってくれ。」
教師がゆっくりと言う。
それを聞いて、生徒たちは素早く行動した。
2年生の1人が車の左側、特別有害生物の目の前のスライドドアに手をかける。
そして3年生4人が配置につくと同時に、ドアが開け放たれた。
ドアが開ききるとほぼ同時に、3年生4人の89式小銃C型から、5.56×45mm弾がフルオートで放たれる。
4人が弾倉内の30発を撃ち切るときには、特別有害生物は体中から血を流し地面に崩れ落ちていた。
「ターゲットダウン!」
秋谷が、先程までの言動からは想像もつかないような真面目な声で言う。
それを合図に、2年生4人が降車し、3年生4人が銃のマガジンを替えながら続く。
航空支援課程といえども、普通課程に劣らない戦闘訓練を受けている生徒たちは、素早く陣形を組む。3年生の男子2人を先頭に、朝比奈と秋谷、その後ろに2年生が続く陣形で、8人は、国防陸軍の隊員の銃声が響く、渋滞の先頭に向けて進んでいった。
「泉君は左の山側、西田君は右の車側を警戒して」
朝比奈が先頭の男子2人に指示を出す。
”航空支援課程の任務は直接敵を撃つことじゃない。だけどそれが必要になるときもある。”
朝比奈は、去年卒業した先輩の言っていたことを思い出しながら、正面をしっかり見据えていた。
あの時は実際にそんなことがあるとは思っていなかった。だが今は、その状況が妙に現実味を帯びてきている。
その時、前方から十数人の民間人が、一人の国防陸軍隊員に誘導されて走ってきた。
「前方にコードWが3頭!増援部隊の到着まではあと4分半だ!」
国防陸軍の隊員が言う。
どうやら既に増援部隊は要請されているようだ。
だが、それまではまだ時間がかかる。
「航空支援は?」
後方の2年生が呟く。
それを聞いて朝比奈は辺りを少し見渡してから答える。
「距離が近すぎて危険すぎる。私たちでやるしかない」
航空支援課程の自分たちが航空支援を呼べない、という状況に皆が一瞬黙る。
その直後、遠くから何かがぶつかる音が聞こえてきた。
「来るぞ!」
先頭の西田が叫ぶ。
停まっているトラックの間から、白い頭が2つ見えた。その近くの乗用車の陰からももう1つ。
それを確認すると同時に、8人は89式小銃C型の引き金を引いた。
銃声が道路上に響く中、自動車の間を縫うように白い頭が移動していく。
秋谷が盾にしている車の近くに一頭が肉薄してくる。
「今!」
朝比奈の合図で、3年生が、少し遅れて2年性が引き金を引く。
その一頭に無数の銃弾が叩き込まれていき、数秒の集中砲火で、特別有害生物が崩れ落ちた。
「ターゲットダウン!あと2頭!」
泉が大声で言う。
その直後、遠くの空からヘリコプターの飛行音が聞こえてきた。
思わず何人かがその方向を見る。
山の陰から、国防陸軍のUH-60JA汎用ヘリコプターが姿を現した。
「増援だ!」
国防陸軍の隊員が大声を上げる。
しかし、まだ距離がある。
「撃ち続けて!」
朝比奈の声に応えるように数人の生徒が足止めの射撃を続ける中、ヘリは徐々に接近してくる。
そして、ヘリの側面に備え付けられたミニガンが火を噴いた。
鉛弾の雨が道路上の特別有害生物に降り注ぐ。
そして、1頭の特別有害生物が崩れ落ちた。
「あと1頭!」
最後の1頭に、生徒8人と国防陸軍隊員4名の一斉射撃が加えられる。
ほどなくして、最後の1頭も同じように崩れ落ちた。
「……終わった」
秋谷が呟き、他の生徒たちもゆっくりと息を吐く。
遠くから、救急車のサイレン音が聞こえてきた。
◇◇◇
国防省発表 7月9日16:00
本日、東富士五湖道路上において特別有害生物4頭が確認されました。
発生した特別有害生物は、現地に居合わせた国防陸軍隊員および桜山高校戦術科の生徒により全頭駆除されましたが、特別有害生物によって周辺の民間人7名に被害が出ました。詳細は現在調査中です。
また、国防陸軍は専門部隊を動員し、特別有害生物の出現源である「巣」を捜索しているとのことです。
つづく
鮪ステーキは戦闘糧食に実在するらしいです。ドライカレーはWikipediaに書いてあっただけなのでよく知りません。
タグに「スクールラブ」が付いてますが今後その類の要素があるかは分かりません。主は青春を書くのがものすごく苦手なので。
・89式小銃C型
20式小銃の開発遅延を受けて国防陸軍が開発した89式小銃のカービン(短銃身)仕様。ピカティニーレールが付いていたりと多少便利になっている。もちろん架空。




