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全てが始まる前に

「兄さん、カイラ姉さん、お母さん、お父さん、こっちこっち!」櫛を使して、ショートな朱色の髪を綺麗に整った五歳の幼女は花畑の狭い小道を走る。少し小さな両足を止めさせ、後ろを向くと、後方から追う両親と双子の兄、それから血が繋がらない姉気味のカイラを飛び切りな笑顔を見せる。

「本当、花がすきよね」

「ぐっ、毎日、なんて力強いなんだ、ああっっ」

「花が好き」というよりは、自然を散策するのが好きと言った方が、今の朱色少女——アレシアに適した言葉だ。

「ブルハン、何を言ってるんだ? アレシアに負けてやがって。ほら、追え!」

足をノロノロして、重たく、運ぶにも精一杯なアレシアの双子の兄、ブルハンは父親に尖らせた。父の説教は怖いものだから、ブルハンはへとへとの足を限界を突破して、アレシアに向かっていた。十分追いかけたところ、石で躓いた。

「え?」

「ちょ…」

「はっ」

「……」

男の子であるにもかかわらず、妹とは違って、ずっと部屋でダラダラして、のんびりして、挙句に今はみっともなく無様に躓いて、転がり落ちた兄のブルハンは心奥に恥を抱える。アレシアがブルハンのもとにしゃがんで、毛先を弄ってると、その恥はますます上昇し、脳や頬の地脈や神経が血でいっぱいになる。恥ずかしい。兄が無様な姿がアレシアの意地悪な笑みを浮かべさせた。

『ねぇねぇ、ブルハン兄さん。大丈夫?よかったらおんぶしてやろうか?』

『くっっっ、ふ、ふざけんな、一人で、立てる!』

『いや、疲れたら、一旦休め。ますます馬鹿にされたくなければなの話』

『ふ、ふざけんなっ!』

過労した四肢は限界に達した。それでも、ブルハンは無理に体を起こし、震えて、筋肉が自分の体重を耐えきれず、果てにまた土に倒れた。

『ちくしょう! お前、どうやってそんな体力を得た⁉』

『今まであまり外に外出しなかったお前が、何を言う?俺はもう何度も連れ出そうして、一緒に運動しようと誘ったんだぞ?それでも、お前は拒否した。自業自得!』

『くっっっっっっ‼』恥を喰らわせたのはブルハン、異世界で死んで、この世に双子兄妹として生まれ変わった。

一方、アレシアも同様、異世界で死に、この世に転生した。

二人は同じ腹から生まれ、同じ母、同じ父。

一緒に生活して、同じ食卓を交わして、日頃に食べたものも同じだった。

『お前、NEETにも程があるって』

『NEETじゃない!面倒くさいだけだ』

「はいはい」

アレシアが差し伸ばした手を苛立ちながら、恥ずかしく取ったブルハンはひとまず休憩に決めた。

「ブルハン、アレシア、大丈夫?」

後にまだ両親とカイラがいる事を失念した。一番手前に歩くのは、白色のワンピースを纏った薄茶の髪ポニテ―ル女性。長スカートを吹くそよ風は非常に心地よく、透かした前腕は華麗で、心配な表情仕草は成り立ちの良い美貌な顔に漏れる。

「大丈夫~母さん!」とアレシアは手をひらひら振る。こちらの状況を即伝うためである。

「ならよかった」

「ブルハン、本当に情けない」

「アルマンドさん、それは流石に……」

「そうよ、アルちゃん。ブルハンは男の子だけど、まだ五歳だから、仕方ないよ」

大柄な体を持つ、父———アルマンド。

大抵の女性より体が鍛えられた、母———アイシャ。

そして血繋がらないが、双子は既におさげ金髪少女———カイラの事を実の姉のように思って、弟妹として振舞った。

アイシャは我息子が怪我をしないか、膝、腕、顔を確認した。

「よし、大丈夫。痛い所はない?」

「うっっ、少し額が痛いけど。大丈夫」

「そう、なら良かった。血とかも出ていないし、直ぐ治るから、我慢しなさい」

「はーい」

ブルハンの急変した口調や態度を見るに、アレシアは心中に溜息する。この態度、妹にもしてほしいくらいだ。二人が同じく転生者とはいえ、自分だけに悪く扱いされるのは、差別化と思う所だ。だが、赤子の時からずっと一緒であった故、慣れっこ。しかし、やはり少なからず自分に対する口調も変えて欲しい。

気が囚われしたら、そよ事風が再び吹き出す。自然好きなアレシアは花畑を見渡すと、肌を優しく撫でるそよ風は気持ち良く感じ取った。

花が桃色、紫色、白色、もう一つの色は青色。そして花の向こうにある崖の傍らに光輝く暖かな朝日の日差しは花畑を穏やか雰囲気を与える。

これだから、アレシアは森を散策して、新しい場所を探るのが好きなんだ。自然は美しい、穏やかで、心を落ち着かせるものがある。

故に、大事にすべきだ。

こうして、前世でやってしまった、犯してしまった重罪を償えたらいいと、この平和がずっと持続すること、心中の底から偉大なる神へ祈りを捧げる。



二千四十五年、東京


(れん)…(・・・)」駅の入り口近くに棒だって、目をこする竹田(たけだ)滝日呂がいた。

しかし、何度こすっても、眼に写るおしゃれな服やスカートを身に纏い、朱色髪に、大きな葵瞳に丸い眼鏡をかける女性は消えず。その表情は笑みや悲しむでもなく、目を細めて、無表情。そして、恋と呼ばれた女性の左手に握った手は幼き少女がいた。名前は知らないが、恋と似たような特徴を持っている。それはそうか。あの日から、この七年間にかけて恋は再び恋を落ちて、結婚して、その二人の間で生まれた子供であろう。

納得した、。しかし、竹田滝日呂の心には傷に覆われ、微かな悔しさと胸刺すものがある。

思わず苦笑する。

「恋、俺は……」

「竹田くん。悪いけど、底を退いてくれない?久しぶりの七年間だけど、ここでたち伏されるの、困るんだけど」

「ママ、誰?」

見たからに四、五、六歳に見える女の子は恋の方へ視線を傾ける、知らない二十後半おじんに止められる事態に戸惑う様子だ。

「あ、あぁ、分かった。ごめん」

咄嗟に息や言葉を詰また。謝罪を吐き、故障機械如く身を退ける。

尖らせた言葉は聞き慣れたものとはいえ、かつて彼女の恋心を気づかず、拒絶してしまったに途轍もなく罪悪感を抱くようになった。

まして、昔は幾度か体を触れ合えたり、汗を接触し合い、それぞれの欲求を交わし合いした。

恋は滝日呂のあわれな顔に傾けず、あっさり通る。

(お、俺は…結局、ダメなのか。あれ以来、恋の事を知るように、恋の心を報えるように、もっと理解できるようにあいつらと付き合い、あいつらを学んできた)

コミュニケーションが下手で、人の心や自分の心を読み取る能力もなく、彼ならではない様々な物事をしてきた。そして、その全ては唯一支えてくれた女———恋のために。

呼吸が乱れて、恐怖のあまり後ろのゲートを出て、彼女に顔向きできない。

(思えば、初めて会ったのは中学校の入学式だった。コミュニケーション下手でも、彼女は普通のように接してくれた。その日からずっと一緒だった。俺は…彼女の笑顔が好きだった。ただ気づくタイミングが本当に遅かった。そんな彼女にちゃんと報いたい———このままじゃダメだ。俺はちゃんと向き合わねば)

だが、もしも今は振り返って、話しかけたら、また心を傷つく、最愛な娘とのファミリータイムの邪魔になってしまうかもしれない。何より、もう七年前の重罪だ。今更、彼女の心を取り返す事ができない。

自分が躊躇して、こめかみに冷や汗を流した、脳は熱く焼かれる、、まともに考えられない。しかし、今までの努力の成果、絶対無駄にはさせたくない。何人までは分からないくらい女性と付き合って、女心の研究までしてきた。その険しい道のりでの努力は決して無駄にしたくない。ここで最も肝心なのは心を込めてやれるか否かだ。

それである故、例え拒絶されようとも、心残りはない。今日の鉢合わせは天か授かれたチャンス。全身全霊でやらねば。

後方に出口を出て娘と共に春の暖かな風に吹かれる恋に振り返って、

「……ま、待て。れ、恋!」と思わず大声で呼んでしまった。

周辺の通り人は大声の由来へ――滝日呂の一点に意気投合で視線を集める。

滝日呂の想定外な言動に対して、恋は驚愕した。

「それでね、ママ………ママ?」

思わず足を止めた恋は隣に楽し気に話す娘を戸惑いさせた。

「れ、恋、お、俺は……、今まで…お前を」

「何あいつ?痴話喧嘩?」

「子供の前になんて、悪い奴なんだなぁ———恥知らずめ」

「なになに、喧嘩?写真撮ろう」

周囲の視線や裏口を気にせず、滝日呂はまた大声のまま話を続けた。

やはり、竹田滝日呂は昔とあまり変わらない。空気を読めず、高林(たかばやし)(れん)の本心を読み取れない。

「恋、俺は今まで、お前を——」

そんな滝日呂に恋はスーハ―深い吐息してから、唯一の子供に後で紹介するに決めた。うるさい滝日呂は黙らさねば。

「———うるさいわ、たきちゃん…竹田さん。警察に通報されたいの、周りがどうなってるのか、分からないのかしら?それに、私は七年前、もう言ったはずよ。貴方は私の気持ちなんて、理解出来ない。今告白しても、今の私は夫がいる」

「うわ、敗北者か」

NTR(ネトラレ)、これは記念にする必要っす!」

「あの男、人妻に手をちょっかい出すつもりなのか?恥知らずめ」

「情けない」

「負けたら、負けを認めろ、馬鹿野郎!」

周囲の人から自分への勝手な推測やため口、全ては間違いではないが、むしろそれこそ滝日呂の現状だ。おしまいだ、自分は結局何にも変わらない。今まではずっと、恋を追いかけるために、理解するために、報いるために、命懸けやってきた。

だが、今はもう手遅れなんだ。息が再び乱れた。頭を抱え、意識は深海の奥深く沈む。やはり、滝比呂は変わらない。身勝手なやつ。

(どうしてだ、俺は… 確かにお前の心を感づくのが遅かった、遅すぎたんだ。お前がいないと、俺はこんなにももろい)

「——ごめん、俺はあの時、お前を」

「———たき…竹田さん、ここ人前なんだから、少し場所を移ろう」

「……え?」

たった 一言で滝日呂は我に変えった。周辺を見渡して、睨む視線が多数あり、何人もこっそりスマホのカメラ写真を撮った輩もいた。この状況だ。滝日呂の頭に血が上り、真っ赤に染まる。あまりにも自身がやってしまったことに身を引く。

「竹田さん。怒らないから、こっち来て」

彼女のわりにはなんだか心優しい。七年かけて磨いた人生スキルだろうか。それより、人の視線を避けて、俯く歩く

「本当に情けない」

「がっかりっすね」

滝日呂は一言も返せず、恋のもとに近づく。隣に立ち止まった滝比呂に恋は無理に彼の高すぎる頭を下げた。

「申し訳ありません」

「申し訳ありませんでした」


場所は秋葉原区域にあるファミリーレストランに移り変わる。滝日呂は恋とその彼女の娘と共に、三人が座れるよう整えられた席に座る。娘は恋の隣に座り、滝日呂は恋の反対側。注文の子供パッケージを待つ。純粋なワクワクな笑顔を浮かびながら、母親に幼稚園生活の話を語る。

「ねぇねぇ、ママ、それでねアキコちゃんと折り紙作っていたの!」

「すごーい、これはなーに?」

「小鳥ちゃんなの、すっごく可愛いでしょう」

周囲の様子を見渡し、他の客を迷惑をかけないか、確かめる。幸いな事に、このファミリーレストランにおいて、花見から寄ってきた家族は子供と一緒に来たグループは多数故、少なからず、娘だけが店員さんの迷惑をかける心配はひとまず安堵な息吸える。

娘の髪をそっと撫でる恋は頷く。

「えぇ、可愛いわ。二人とも上手にできてるわ」

「うん!んでね、その後、学校からひらがなの練習して、書けるようになったら、折り紙に二人の名前を書きなさいって言われたの」

「えぇ、頑張ってきなさい、後で手伝うから、今は静かにしてね」

「はーい!」

親子の間で微笑ましい光景の前に、滝日呂は幼き少女に教育したがる欲求が高まる。しかし、今は集中しろ合図が届いて、苦笑した。娘が鞄からひらがなべんきょうてちょうと書かれた本を取り出し、平仮名の手書き練習始める。

恋はひとまず大人しくなった娘にスーハ―息を吸う。自分の合図を受けた滝日呂に、話題を始める。

「んで、何だい、たきちゃん……竹田さん。もしもさっきの騒がしいで通報されたら、どうなることやら」

「ーー返す言葉もございません」

鋭い目に思わず背筋を伸ばす。人前で身を恥かかせるといい、恋に迷惑をかけるといい、秋葉原駅で騒がし続けたら、そのまま警備員に逮捕され兼ねない。故に恋は慈悲して助ける。

さっきは本当に助かった。でも、逆に腹を切って、死にたい)

「ハァー、まぁいいわ。んで、七年前の話をしようとするの?」

滝日呂は暫く唾を飲んだ。緊張のあまり、心拍まで読み取れる。

「……俺、あの日からずっとお前に謝りたかった。お前が俺を愛してくれるなんて、ぶっちゃけに言うと、分からなくて、知らなかった。ストレスした俺を爆発しないよう、抑えてくれたのに」

「——ん?あ、あぁ、セックスでね」

「それ、この子の前に堂々と口にしていいか?」

「お待たせ致しました。ご注文のホットチョコとミルクと冷たい抹茶ドリンクでございます。どうぞ召し上がって下さい。では、失礼致します」

店員さんが最初に飲み物を運んで、丁寧に、器用よくテーブルの上に置いた。一礼してから、場を立ち去る。

ホットチョコは恋、ミルクは幼き娘、そして冷たい抹茶ドリンクは滝日呂のだ。しかも、激甘い。

恋はホットチョコのコップを右手で取って、ゆっくりと煽る。

「…別にいいわ、ホノカには生物的な知識を強くたたき込んだもの。それだじけじゃない、コミュニケーションも叩き込んだ。少なくとも、昔の貴方とは違って、学習したもので相手の気持ちを理解できる」

「……」

子供を自慢げに、差別された感覚だ。しかし、恋の言う言葉は一理あると頷き、昔の滝日呂であれば、こんな風にまともに話すことすらできなかっただろう。人は良く「人形のみたい」とへらへらと笑って見下す。

(どうやら、謝っても、無駄な行為か)

駅を通って、気にする人もいないだろうし。机の上にある激甘い抹茶ドリンクを飲んで、砂糖の養分を入れる。ストローで激甘い抹茶の飲み物をごくごく飲んだ。その滝日呂の姿を見た恋は呆れた溜息を吐く。

「貴方、病気がある事は分かるけど、七年前までそんな激甘いまで飲まないわね、悪化になる一方?」

「ここ五年、カロリーの消費が大抵の人より超えている。一個ごとに一万カロリが入っている特殊に作られた食べ物まで食べる必要がある」

「それ、大丈夫?」

尖れた目つきは一瞬無くした。今は目の前にいる男を心配している人としてい、女性としてしていた。胸が苦しい、自分を見捨てた男をまだこんなにも気に掛けるなんて、やはり自分も情けない。

「大丈夫だ、これさえ一日に食っていれば、戦闘以外、一日中、腕力を必要とする仕事は可能」

「……食べなかったら?」

「体力低下や力不足で過労など。最悪、昏睡」

滝日呂が口に出した事実、中学生の時に知り合った人物の病気が寛解に進歩するではなく、悪化になる一方だ。聞いたに切ないになる。

「おじさん」

「ん、何だい?」

「これ、これ、合ってる?」

「ふうん~、これはね…こう書いたら、『お』に見えちゃう『あ』だから、上から縦線を書いたら、その次はこう丸く書くんだ」

「そうなんだ、ありがとう!」

平仮名の読み書きに迷って、場の空気切り取ったのはホノカだ、わざとらしい仕草。滝日呂に解説を求める最愛な娘の姿とその実の父。やはり改めて二人の間を繋ぐ親子の縁結びは切れないものだ。つまりその言葉の意味もいつの日か自分の娘も似たような病気で倒れる。娘が病院のベッドで寝ている妄想しだに、恐怖を抱く。

(ホノカ、貴方だけは私を置いていかないで)

絶対になって欲しくないと、心中か天にいる神様へ祈るを捧ぐ。

五分後、注文した食べ物が机まで運ばれていた。

滝日呂はこの会話の先の糸を予測できて、ちょっと残念な笑みを込めて場を立ち去ろうとする。

自分の過ちは許されない。生涯において最も重たく感じる重罪は晴れてないし、これ以上娘持ちの恋の人生を干渉すれば、返り討ちにされかねない。

「もう帰るかしら?」

「あぁ、ありがとう、恋。そういえば、旦那さんにこう伝えてくれ『奥さんはいい人だから、ちゃんと愛せろ』ってな」

すくすく冗談込み笑った滝日呂は席から立って、足を運ぶ。そんな彼の姿を見届けるのは辛く、心に響くものがある。

「竹田滝日呂」ふと席から立ち、言葉が漏れた。

「貴方、食べ物が来たばかりなのに、お行儀が悪いわ」

「おじさん、お行儀が悪い!人が思いを込めて、頑張って作った料理なのに、それを食べないなんて、酷い!」

「………え?」

ホノカが唐突に口にした言葉一つが直ぐ様脳内解釈できない、困惑で視界が曖昧。

「ね、マ~マー」

「ねぇ~」

さすがの五、六歳ほどの娘だ。積極的はさておき、この子の純粋な笑顔、言葉、口癖、仕草、全部可愛い上、母親とそっくり。

(仕方ない、か。丁度お腹も空いたばかりだし。一杯、食べよっか)

この子にとって赤の他人であるが、滝日呂は温もりを感じる。どうやら、計画実施が遅延のようだ。



「そういえば、連絡先、交換してみない?」

「もぐもぐ……む?」

ファミリレストランの料理をもぐもぐと口の中に咀嚼して、心を込めて食べる滝日呂。こりすのように頬を膨らむまま突然の案に口が止まった。

「それ、ホノカに悪い影響するから、辞めて」

「むむ、もぐもぐ」

急いで口答したかったからか、口の中の物を殆ど砕けず、胃に呑み込んだ。そんな彼のはしたない行為に、娘の瞼を閉じさせたいくらいだ。参考になれないと。

「ぶはー、上手い。おかわりしてえ」

「おかわりはさせないけど。竹田さん。私の話、聞いてるかしら?」

「おじさん、リスみたい」

「ホノカ、失礼だから、言っちゃだめよ」

「ごめんなさい」

少し水を飲んでから滝日呂はようやく軽く会話できる。

「別にいいって! でも、いいのか?俺、ワッサアップとか、ロゴをバツマークにしたアプリしか使わないけど。他は仕事専用に使ってる」

「一番目のアプリは知らないけど、一応ラインは使ってる?」

「ラインはあまり使わない。むしろ、インストールしてない」

「そう」

眉を細めてしょんぼり顔になった。恋は遭遇に再会した竹田滝日呂を大事にしたい。反面、短気なあの人は竹田滝日呂を知っている。悪い事、良い事も。

滝日呂は恋の表情から察するに、少し気になった。

「ていうか、お前の旦那は誰だ、旦那に教えなくてもいいか?」

「早かれ遅かれ、貴方はいつかあの人に会うだから、フェース上げただけだわ」

冷えたホットチョコを煽り、疑問を発生する言葉だ。いつか会うというのは、どういった意味か、わからない。

「まぁいいや。俺、特別にラインをインストールするから、待ってろ」

「お願い」

スマホをズボンの右ポケットから出し、弄って、ラインのアプリをダウンロード。ダウンロードは約二分かかて、そのアプリを開いてログインして、滝日呂はQRコードを示して、恋にスキャンされる。連絡先がこうも早く手に入れるとは、思いがしなかった。一応チャットでの挨拶に「こんにちは」と送信しておく。

『こんにちは』

『オッケー』

『たきちゃんも私の連絡先を保存してね~』

「いや、口にした方が早いんじゃね?」

滝日呂は思わず両眼を細めて、アプリチャットのやりとりするより、目の前に存在して、話し合う方が早いからだ。無論、ホノカに隠し事をしないようにも考慮した。

「ママ?」

「わかったわ。では、私達も帰るべきだし、これからよろしくね……よろしくお願いしますね。次の会う機会、楽しみにしているわ」

席から身をおこして、唇の端を上がったまま、心を込めて直に感謝入りのお一礼した。その傍にいるホノカも、ちゃんと自分も一礼して、母親を真似する他に、勉強のお手伝いをしてくれたおじさんに感謝した。

賢い極まる性格とその態度、純粋さに「ありがとう、おじさん!」の一言は心を穏やかせ、晴れ晴れしく感じた。

レジで会計済ませた次第、恋とホノカは帰宅し、滝日呂は再び秋葉原駅へ向かう。



暖かなそよ風が身を撫で、自分の茶髪がかった髪の毛を吹く。なんて気持ちの良い季節だ。晴れ晴れし気分はスマホから電話がかかった時に即切り替わる。

ポケットに入れたスマホを出して、電話を出る。

「はい、もしもし。俺だ、竹田です、ボス」

『はっ、『俺だ』とか随分と傲慢な口調だな。まあいい。今どこ?』

「秋葉原です、計画実施はしばし遅延となっております」

『秋葉原ぁぁっ、貴様、あそこにいるのか⁉』

右耳に聞こえる(いかづち)如く鳴り響いた怒鳴りは自分の鼓膜ために、咄嗟にスマホのスピーカーの音量を下げる。

『もたもたするな、早く品川へ来い、馬鹿、作戦が台無しになってしまう‼』

品川、あそこに合流しないといけないポイント。この先、何をするか、何をしなければいけないのか、覚悟や魂に意を決着しなければ。先には大勢の人を殺戮してしまうからだ。

『いいか、滝日呂、この作戦を遂行しなければ、政府の物理兵器が国民全員に影響を及ぼしてしまう。皆死んでしまうぞ。政府がこっそり物理兵器の開発を活発させたせいで、ここ数年に失踪した人の数が増加する一方』

「……」

一体その情報やどこで手に入れやら、ここまで反政府組織を成立したとは。それも細かく、地図、研究員メンバー、聞捨てできない情報まで所有してる。

返答せず、沈黙に落ちた竹田滝日呂の電話の向こう側に深い溜息を聞く。

『———スーハー。竹田滝日呂。コードネーム:死。貴様に改めて命令を下す。研究所を破壊し、関係者誰一人たりとも生き残すな!』

「——」

沈黙して、脳内の思考スピードは何倍も遥かに加速して、迷う。

品川にある研究所で開発された物理兵器。理由は国の勝利のためだとは言え、研究は人体をもとに実験しているものだ。材料にした人々も数えきれない程存在いた。まして見知らぬ病気まで発症する。

このまま犯してしまえば、いずれ恋と彼女の旦那とホノカを含めるその家族も、巻き込まれる。《死》として、彼女を愛する者として、止めなければ。

『返事は?』

「———承知いたしました。『死』やります」

意を決した心は持てた。人を殺す、同時に人を救う覚悟は魂に刻む。



白くぬられた玄関の扉をゆっくりと開いた途端、奥から風の流れに沿って鼻元に漂う悪臭が嗅がれる。ゴミ臭い、酒臭い、腐爛な臭いが非常に強い。

「しーっ」

「うん」

恋に続いて、ホノカは玄関で靴を脱ぎ、ゆっくり居間へ向く

(美月、まだ昼間なのに、また酒を飲んでるのね)と鼻を手で覆いつつ、心中で呟く。

居間に着いた頃最初に迎えたのは散らばったゴミ、同時に居間の壁に張り付いたテレビの音量も大きく、暗闇に染まるアパート中に響く。

そんな前に座って、ゴミに囲まれて寝ていたのはパンツしか履かない一人の金髪成人男性。

「あんた、二か月ぶりに来なかったら、なんてざまだ。見てよ、このゴミ、くっさいわね」

「パパ、酒臭い」

ホノカは鼻を指で詰まって、手を振って臭いを追い払おうとする。

左に首を傾げてお皿、食器など台所の皿洗い場にためられた。良く見れば茶色の床に散らばったプラスチック製の箸とスプーンもある。玄関の近くにある風呂場、そこで洗濯物も溜まりすぎて、用意された大きなかごの量を超えて漏れ出す。寝室のベッドもきちんとシーツに包まれていない。

これをやらかしたのは全部、テレビを付けっぱなしで床に眠りに落ちてしまったパンツ男性。

ゴミの山を慎重に踏まないよう乗り越える。

それからカーテンを開いて、ベランダの窓を大きく開いて悪臭を外に流し捨てる。

「美月、起きなさい!」次に腰に手をあてて、恋は苛立て眠りの王様を起こす。

「—————」

「おきろう、おきなさい!愛しい旦那様~、お、き、て、く、だ、さ、い~。ご主人様、掃除の時間ですので、早く起きて下さい~!」

本心ではない言葉を吐いても、パンツ男———美月は目を覚めない。やがて頭に血が上る。怒りの限界が到達。

「おーきーなーさーい‼」

足を使って美月の腹部を強く蹴った。美月はひっくり返って、壁へ回転する。

「くっ、いったたた……」壁に全身をぶつかった美月はようやく瞼を開く。

泣きそうな顔しながら腹部の部分を抑える。女性規格外の迫力は頑丈な成人男性の体を倒す。

「くぅっっっっ、て、てめえ。寝ている、時に蹴るな」

「おやおや、まだ泣き言できるのですか。じゃ、もう一発蹴っていいですよね?」

両親が喧嘩している時は、ホノカは必ずそれを見ないように、別室に移動しなさいと教われた。

今回もそうだ。目に映る喧嘩を見なかったかことにして、床に散らばったゴミを集め、分別に集中した。

「や、やめろ。お、くっっっ、か、勘弁してくれ!」

息すら荒くなった彼になお、恋はライオン如く声を上げる。

「はぁぁっ⁉こんだけ散らばって、勘弁するわけがないでしょう!」

皮膚が熱く感じる、少し吐息して。

「大体わね、あんた、ロクな仕事もせず、ずっと家に引きこもって、酒を飲んで、ダラダラして!」

「申し訳ございません。以後気を付けます、ぐっ」

美月は床に四肢や額を床にあて、恋に全身全霊土下座する。だが、その態度を取る事前と予測した故、この謝罪は引き受けられない。むしろ、胸に腕を組みながら美月の頭を踏むくらい。

「またこれわね。謝って、それで解決だなんて」

「思ってもございません」

「なら、どうやって妻である私に慈悲を貰いたいわけ?」

「申し訳ありません、王妃様」

「貴族ぶっても、効かないわ」

機嫌を損ねて、ますます足元に力を入れる。頭蓋骨が割れそうな音を立てたくらいだ。必死に謝罪しようとした。

「ごめんなさいごめんなしあごめんなさい!」

だが、追いつめられた自分なのに、何故か自分の口から涎が垂れた。こんな風に扱いされるのが期待して楽しむのだろう。

「ぐへへ」

「ドエムめ」

完全に機嫌を損ねてしまった恋は足を退かせ、ペーパコップ、ストロー、酒瓶、ジュース、おやつ、などゴミを拾う。もしもそのまま殴ったら、反省するより、興奮で享楽するだけだろう。

「まぁいいわ。あんたはどうせ、反省もしないから、これ以上続いても、意味ないわ」

「面目ない」

聞こえないふりして、耳を傾かない。

喧嘩の果てにしばらく分別作業を止めて、美月に衣服を渡したのは可愛く笑顔するホノカだった。

「はい、パパ。お疲れ様」

「ホノカ……」

血の縁が繋がらないとはいえ、この世に生まれてきた時は、愛くるしくて、守りたがるか弱い女の子だ。命や魂を懸けても、絶対守り抜く…が、今はロクな仕事がなく、お酒を飲み、アニメオタク系ばかり買って、そんな自分に面目ない。

「あ、でも、着るのはシャワーの後にしてね。それと、シャワーを浴びる前に、掃除の手伝いをしてくださいって、ママが言ってた」

「え?」

次の言葉で沈黙した。自分が育ててきた…ではないが、二十歳から仕事で貯金したお金で養ったホノカが、母親のように成長しつつある。無論、情けない美月も涙を耐えがたい。

「あんた、早く掃除して!」

黒いゴミ袋に入れられたゴミの分別しながら恋は台所の向こうから言った。

「わかった。でも、せめて半ズボン履かせてくれ、ホノカの前で恥ずかしい」

「勝手にして!」



掃除の作業は四時間かかった。トイレ、居間、台所、寝室一つ、作業室一つ、そして風呂。

掃除は夕方午後三時から行われたため、夜の十九時頃に終わる。

恋とホノカはピカピカになった居間の床に座りこみ、シャワー室で浴びた美月を待つ。

その十分後、シャワー室から出て、タオルで濡れる髪を拭く美月妻に言う。

「シャワー終わったぞ。ていうか、頼まれた通り、風呂の準備もしておいた」

「はーい」

「はいはい」

だらしないまま恋は答えた。テレビを付けながらピーナツスナックを食べて、晩御飯を待つ一人の怠惰な女に感じる。

「お前、さんざんと俺を怒らせて、晩御飯の前におやつ食べながらテレビを見るなんて、お行儀もそこそこなんだな」

「なぁに、あんたほどではないわ。飲んべドエムめ」

そのままひっくり返された刃物は確かに痛い。けれども、七年間夫婦として送った生活により、彼女の言葉を聞捨てる。

「———まぁ、いいや。んで、晩御飯はなにが欲しい?」

「焼肉」

「カレーライス!」

また乱暴扱い。更に、今回はホノカまで意地悪く頼むなんて。母親の真似が多すぎるだろうか。

カレーライスならともかく、焼肉は流石に無理がある。腕を混んで、文句を言い始めた

「あのさぁ、俺、肉なんてないんだけど、だから焼肉は無理だぞ」

「では、カレーライスで同じく」

「はー、わかった。じゃ、カレーで」

「やった!」

中学校三年生時代から知り合った女の人は二人が夫婦関係で結ばれたとしても、昔より変わらぬ性格。

「ちっとも変っていないな」と小声で呟き、厨房に行く。

「何か言った?」

「何も言ってない」

「パパ、手伝わせて」

「いいぞ」

勢いよく床から飛び上がり、厨房に父親の手伝いを始めた。その役は単純だ。野菜を洗ったり、材料を混ぜたりする、時に味見したりする。そんな単純な作業だ。

一方、恋はすっかり床でゴロゴロして、テレビのリモコンボタンを弄って、チャンネル探す。

夫婦関係だとしても、結婚せず妊娠してしまった恋を守るために結んだ結婚だ。それである故にホノカが二歳まで、恋がちゃんと仕事できるまで、この家に一緒に暮らしていた。


「緊急速報です、ただいま品川駅の付近に大きな爆発が発生しました。死亡者はまだ明確ではないため、念のために品川駅付近にいる皆様は品川駅の付近から離れたところに移動して下さい。また戸越公園の近くにも大きな火災が発生しました———」

夜中に流されるニュースに番組した。ニュースに放送された大きな火災、見るだに燃え盛る炎の悪夢を蘇る。

このアパートは新宿にある。もしも突然新宿で火災が発生すれば、自分も慌てて避難するだろう。

(爆弾か……怖いニュース。あの時の記憶を思い出してしまったわ)

テレビの番組は重たい話ばかりする。

それだからには、見る気をなくした錬はテレビを遮断し、ピーナツをちゃんと元通り場所に置いたら、可愛い娘を応援したい。

「……はい……はい…なっ。それ、本当ですか……それで私は何を……」

台所で足を踏めば、料理を始めたはずの二人は何もしなかった。

ホノカは玉ねぎを弄り遊ぶ。一方、美月はスマホで電話に夢中している。

「はい。えっ、あっ。すみません———」

こちらに視線が合わると、美月は顔を隠す。大事な話だろう。

電話で最後まで話して、通信を切ったその直後に美月の表情が一変した。

眉をひそめて、目つきを何か遠くにあるものに睨みつけている。

「どうしたの?」

「いや。何でもない」

その表情がまさにないかのように。微かに心に伝わった。七年美月の妻としての人生を送ったからか、電話で話している相手がただならぬものだと。理解した。

「パパ、早く料理しよう」

「よーし、やろうか!」

父の服の袖を引くホノカはおねだりする。可愛さのあまり、さっさと料理を開始する。

「……あ、風呂」


カレーを作るのに、五十分かかった。恋は最初の二十分目に風呂を出たとしても、まだ台所で調理する二人の姿を見た。ホノカを抱っこしたい気持ちは抑えて、今の教育係は美月だ。

完成したカレーライスの料理は居間のテーブルの上に置いた。三人は美食を楽しみ、お喋りして、特に一番笑顔で話したのはホノカだった。

食事が終わったら、美月食器などを荒い、一方恋は部屋でホノカの幼稚園の宿題をチェックしていた。

ところが、この時に美月がこっそり電話した相手は誰なのか何を話したか、そのせいでホノカの平仮名の学習長のチェックする作業がノロノロになった。

時間があっというま経過した。二十二時にホノカがぐっすり眠れたか、確認次第、恋は作業部屋でこっそり鞄に服、歯磨き、デジタル端末などを入れる。静寂な夜にエアコンを低い温度に設定されて、時計が響く声は自分の息を詰まる。

「発信機を持って、どこに行くつもりなわけ?」

熊モチーフの黄色いパジャマに着替えた恋は作業部屋の扉で胸に腕組しながら担当地直入に問う。

「なんでもない。単なる仕事だ」

「あんたがわざわざ大荷物をまとめて仕事に行くという事は、昔の軍からの連絡か、あるいはスパイ——いい加減、教えて。料理中からずっと仮面を被ってるから、気持ち悪いわ」

「———」

パジャマを着る恋に顔さえ見合わせなかった。

「ズバリ…わね」

「——あぁ、そうだ。正確には今回はある人物を狩れって命令だ」

「そう。その人物は誰で、何をやってしまったわけ?」

「———」

「言えないわね」

妻の問に答えできなかったわけではなく、答えてはいけないのだ。

だが、これだけは一つだけ言える。

「な、なによ?」

妻の顔を見るに、突然その姿を抱き、泣き始める。

「俺は…この任務で死ぬかもしれない。むしろ死ぬ確率が非常に高いだから、生き残る保証は非常に低い」

「なっ。わかった、わかったわ、そんなに強く抱きしめると、胸が苦しい」

手を暴れて、自分を抱きしめる腕を離そうとする。だが、その腕力抗う事ができなかった。

「ごめん。昔から、ずっとお前にこうしたかった」

「すーはー抱きしめるのが良いけど。ちょっと腕力を落として。生きづらい」

少なくとも、この抱きしめだけは十伝わった。彼の体は震えてる。どんな命令を受けたのかはわからなかったけれども。

作業部屋にも一つの小さい寝台がある。

例え二人で寝ることができなかったとしても、少なからず二人で話し合う事は可能だ。

使用されている電気の明かりは自分のスマホのアプリ通して色だったり、明暗を思うがままに設定できる。今回は少し柔らかい雰囲気を出すため、青い色に変えて、明暗を下げる。

美月と恋はベッドの上で互いの手を握る。

命を懸ける仕事に行く前の、せめてもの別れる前の密談をしたい。

「俺。お前と結婚した理由は分かるよな?」

「ええ、知っているわ」

「んで、どう思った?」

少し答えづらい質問だった。長年知り合って、互いはベッドを共有しても、体を触れ合いしたりこともない。抱き合えたければ、ついさきみたいに抱きしめるだけが限界だった。

困難を乗り越えるには、それが重要だからだ。

美月は唇を揺らしながら問う

「俺は、お前を抱いていいか?」

「抱くって」

「エッチの事だ。俺はあいつとは違い、俺はお前を夫として、愛している。高校の時代からあの戦争に巻き込まれてから、お前に惚れた」

「………いや、それは知ってるけど」

左腕を触れる恋は躊躇している。そもそもこの結婚は一方的に恋を他者から守るためだけあって、それ以上でもない。二人が夫婦になったとしても、恋は美月を愛することはない。今も、そうだ。

全ては竹田滝比呂を愛しすぎてしまったからだ。昼に彼と偶然に鉢合わせしたが、それでも変わらない彼が好きだ。愛している。その理由も自分でも分からない。

「…滝日呂か、どうしてあいつを好きになれた、俺には分からない」

「彼、たきちゃんは私を守ってくれたからかも。親が厳しく私の夢を反対したあの時、彼が説明して、頭を下げるまでしてた」

「それ、人の心が分からないやつがやれるものなのか?」

「わからないわ。でも、その時からずっと恋に落ちたの」

妻が直に話してるおかげで、美月の心がすっきりして、溜息を吐ける。

(結局、七年間の結婚は無駄か)

胸を締め付けるものがる、息が詰まる。思わず自分の表情が変わりい、瞼が閉まる。

閉まった瞼が熱を感じる。息も荒くなる。

「ぐずぐずぐず」

瞼をっ開いてみたら、眼から沢山涙が溢れ出した

「俺は、お前の傍にいられないのか、俺がこんだけお前を支えて、こんだけお前とホノカをサポートして、幸せにするつもりだった。俺はお前がファッションデザイナーになっても、自分で仕事ができたとしても、俺はお前の隣いたい。お前の手とホノカの手も繋いで、一緒にに未来へ歩む夢が、叶えられない夢だったのか?」

抑えきれない鳴き声はますます大きくなる、すすり泣く泣き声は本当に愛するものへ注いだものだ。

本心そのもの。

夫の泣き声を心を落ち着かすために、恋は美月の頭を胸にだく。柔らかく、暖かい、恋の心臓が心を落ち着かせる。

「私ができなかったとしても、私はあんたに、貴方の努力を見てきました。この四か月はちょっとあれなんだけど、貴方が頑張った事は分かる。理解できる。同じくふられた同士だから。なんとなく貴方の痛みを分かち合える」

優しく髪を撫でられる美月は思わず彼女の体を抱く。鳴き声が静寂の夜を破り砕く。


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