第1話
――またカップ麺ですか。
お気に入りのカップ麺にお湯を注いでいると背後からいつもの声が聞こえた。
「そんなのばかりじゃ体壊しますよ」
「神谷ちゃんだってコンビニ弁当ばっかじゃん」
「わたしはちゃんと家では自炊してるので。エレナ先生みたいにずっとインスタントじゃありません」
よくわからない理屈をこねるバディは院内のコンビニで買って来たであろうお弁当をレンジにかける。レジで温めてもらえば良いのではと常々感じるのだけど彼女は必ず医局で温める。
「待ってる間にコール入ったら面倒じゃないですか」
「神谷ちゃんも面倒くさがりだねぇ」
「先生と違って生活はできているので。いい加減医局を家代わりにするのやめませんか」
「だって帰るの面倒だし、ここにデスクあるし」
「いや机を“部屋”とは呼ばないから」
真面目にツッコミを入れる神谷ちゃんを横目に3分後に訪れる幸福を待ち遠しく思う私。祖国を離れて4年。この職場はもはや我が家同然。
あのころはまだ新米だった私もいまやこの高度救命救急センターの中心メンバーとなり、神谷ちゃんみたいな信頼できる相棒もできた。
「それで、今日はなににしたんです?」
「昨日は焼きそばだったから今日は緑の――」
「はいストップ。具体的に言わなくて良いから。たまにで良いからちゃんとまともなやつ食べて下さいよ」
「わかってるって……あ」
「なんですか」
「なんかヤな予感がする」
「それ以上言わないで下さいね。先生のそういう勘当たるんで」
神谷ちゃんがジト目で見てくる。そんなつもりはないけど確かに彼女の言っていることは当たってる気がする。そんな矢先だ。
――ピピピッ
「ほら来た!」
医療用スマホのアラームが鳴ると同時に神谷ちゃんが私を睨む。だが同時に医局を飛び出し処置室へ走り出している。さすが。
「はぁ、これだから救命医は嫌なんだよね」
きっと終わった頃には麺はすっかり伸び切っているんだろうな。今月何度目だろう。蓋の隙間から湯気が漏れるカップ麺に後ろ髪を引かれつつ私も神谷ちゃんの後を追う。
「舞浜消防からDCの要請ですっ」
「げ、それってヤバいやつじゃん!」
「でなければウチに来ませんよ」
「それ笑顔で言うことじゃないじゃん」
3次救急が専門のウチに受け入れ要請、それもドクターカーの出動要請が来るってことはかなり危ない現場だ。よくもまぁ、ウチの看護師はそれを笑顔で受け入れるな。
「先生の面倒見るよりはるかに楽ですから」
「いくらなんでも酷くないっ⁉」
「せめて食生活くらい直してください」
ドクターカーの待機場所まで全力で駆ける間も軽口を言い合える関係。それが私たち。神谷ちゃんとバディーを組む時はいつもより少しだけ違う空気になる。それがなになのかわからない。わからなくて良い。とにかく今は救命医として全力を出すだけ。ただそれだけだ。




