Episode3 これは夢のはずだ。
とてつもない暗闇の中にただいるような感覚。
底なし沼に落ちたかのような、広大な海に落ちたかのような、そんな絶望感と気持ち悪さが腹の底からこみ上げ、吐き気すら感じてきた。
が、そんな吐き気を忘れてしまうぐらいの寒さが急激に感じた。
よく考えてみると、地面がモフモフで冷たいような…
ん?モフモフ?
しかもかなり冷たい。
なんなら空気すらも冷えているような…
それを確認するかのように俺の意識は覚醒した。
「綺麗な青空だなぁ…って、これは雪?!」
起き上がった時、俺は驚愕した。
あたり一帯が雪の積もった森林がったからだ。
「ここ、何処だ?それに寒すぎだろ!」
見渡す限り、雪の積もった木と山、美しいほどの青空だけが広がる大地が目の前に広がっていた。
さらに特徴的なのが、全ての木が細くてとても長い。
明らかに日本に生えている木では無い事がすぐに分かった。
ここは日当たりが良かったおかげで、死んではいないがとてつもない寒さであることには変わりなかった。
ではここはどこだ?
「異世界?とかでは無さそうだよな。」
「おかしいな。起きる前までは日本に居たはずなのだが、そうだ!」
「確かあのヤブ探偵さんも一緒に居たはずなのだが…」
近くには人はおろか、人がいた形跡すら見当たらなかった。
「やっぱりここは異世界なのか?だったら俺には何か特別な力が…」
事実、俺は何も変わっていなければ、何かに耐性が付いているわけでも無い事はすぐに分かった。
自分自身の事は自分が一番詳しいと自負している。
「じゃあ、ここは…」
まず明らかに日本ではなさそうだ。
日本にこんな長い木が生えてるとは思えない。
それにとても寒い。
何故かバックの中に色々入っていたし、その中にちゃんと防寒具が入っていたのでそれを使った。
北海道あたりか?
でも俺ご居たのは東京だったからおかしいな。
やっぱり異世界か何かなのか?
などを考えているうちに、とりあえずあたりを散策することにした。
幸い水分と食料はある程度あった。
「それにしても本当に何処か分からないな」
とりあえず山の上の方を目指してみた。
高いとこにいけば自ずと何か情報が手にはいるだろうと考えたからだ。
街なんかを見つけることが出来れば上出来だ。
歩くこと20分程度。
疲れは一切感じてないが、まだまだ山の麓にすら達していない。
「それにしても不思議だな。生き物が居た形跡すら見当たらない。なんなんだよここは…」
ここで足音が聞こえた。
かなり重いような足音がほんの僅かだけ。
これまで俺の足音と息を吐く音しか耳に入ってこなかったが、ここにきて初めて別の音を聞いた気がした。
が、そんな事を思っているのも束の間、だんだん足音が大きくなってきた。
俺は危機感を覚えとりあえずかがんで身を潜めた。
明らかに大きくなってきている。
近場に洞窟やら、隠れれそうな所があれば良かったのだが、一面木しかない。
しかも木は針葉樹なのか知らないが、細くて到底身を隠せるものではなかった。
幸いな事は俺の今着ている防寒具が白色で、雪と同化することだけだろう。
「っ…!」
驚いた。
その足音の正体は、体長は大体2m位はあった。
明らかに俺より大きかった。
そして歪だった。
身体はまるでリスのようなのに、顔が鹿だ。
しかも少し腐食しているような毒々しい見た目だった。
俺は確信した。
ここは異世界だと。
なんせ現実にあんな悪魔みたいな生物は存在しないからだ。
その生物はリスのように歩きながら、ずしずしここに近づいてきた。
俺を見た。
そいつは俺を見て叫びだした。
「キェェェェェェェェ!」
「っ!うるせぇ!」
耳がキーンとなるほどの雄叫び。
そいつが飛び込んできた。
俺はすんでの所で躱し、走り出す。
体長2m、明らかに人1人で敵う相手では決してない。
幸いここは木の密度が高い。
木をいい感じにあの怪物の足止めになるように木に隠れながら逃げた。
後ろを走りながら振り返る。
「なんちゅう速度とパワーだよ。」
そいつは軽々と飛び上がり、着地の衝撃であたりが揺れる。
そいつが木にぶつかれば木はなぎ倒された。
「チッ!」
木を陰にしてもまるで意味がない。
あいつからしたら木はあってないような物のようだ。
このままでは絶対に追いつかれる。
まずい!
そう思った瞬間、目の前にそいつが跳んできて俺の腹目掛けて蹴りを入れた。
俺はとんでもない衝撃で意識を失い…
失ったのはほんの数秒程度ですぐに目を覚ます。
「いてぇ…」
幸い骨は折れていないように感じた。
よく見ると防弾チョッキのようなものを身体に着ていた。
「なんでこんな物を…いや、今は助かった。」
「それにしてもここは…」
飛ばされた衝撃でかなり遠くに移動したように思えた。
ここはあたりがわりかし木が少ない。
どうやら俺は上の方から落とされたらしい。
いい感じに雪の積もった所に落ちた事で落下の衝撃が最低限になったのだろう。
上を見ると大体10mぐらいの高さの崖があった。
しかも俺のいる所だけ何故か木がない。
では何故?
「キェェェェェェェェェ!」
「キョェェェェェェェェ!」
「ギェェェェェェェェェ!」
「は?!」
あたりを見渡すとあの怪物に囲まれていた。
数は大体20匹ぐらい。
あの巨体が、だ。
しかも少し個体が違った。
さっき見たのは頭が腐敗した鹿のようだったが、鳥のようなものも居れば、芋虫みたいなかなり気持ち悪い物も居る。
共通して身体がリスのようだ。
なんなら全てが異型で気持ち悪い。
しかも綺麗に包囲されていて逃げることも無理だし、さっき蹴られた痛みのせいで、全速力は到底出すことは出来ないだろう。
死を覚悟した。
いや、元から覚悟はしていたが、目の前になると非常に怖い。
「チッ、クソが!」
俺はポケットから緊急用にと渡されていたフレアガンを手に取り撃った。
「くたばれぇぇぇ!」
当たった!
けれど火はあまり燃え広がらず、すぐに消えた。
雪のせいだろう。
「あいつ、あの大きさなら多少は考えたが、かなり皮膚が硬そうだな。」
焦げたあともなかった。
あいつにとっては軽症らしい。
俺はカバンの横からナイフをだし構えた。
こうなったら意地でも戦うしかない。
その時だった。
目の前にナイフが落ちた。
高速で、地面に刺さった。
俺はそのナイフが刺さった衝撃でバランスを崩し、倒れる。
あの怪物たちも狼狽えた。
とてつもない衝撃。
見上げると、ナイフの上に誰か立っていた。
「やぁ、皆さん!ようこそ、私の会場へ。」
そいつは不気味に言葉を放つ。
「申し訳ないのですが、予約されているお客様はお一人様だけなので、皆様はどうぞお帰りください!」
不気味で恐ろしい笑顔を浮かべた、《亡》がナイフの上に立っていた。




