表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

幻覚

作者: 時雨
掲載日:2025/12/25

俺が幻覚を見始めたのは、新卒で入ったブラック企業の営業の仕事を1ヶ月で辞めた1週間後からだった。


初めは、空中を魚が泳いでいたり、街中を兵隊さんが行進していたりと、そこにいる筈のないモノが見える程度で、生活に支障をきたさないからあまり気にしなかった。


だが、困ったことになったのはそんな生活にも慣れ始めた2ヶ月後のことだった。

俺に付き纏う女の幻覚が見え始めた。


それに気づいたのは、二日酔いで目覚めた時だった。

目が覚めると俺と同じくらいの歳の女が、俺を覗き込んでいた。

見た事もない女が、床に横たわる俺を覗き込んでいたのだ。


俺は一瞬で『あ、幻覚だな』と理解した。

なぜなら俺は23年間生きてきて、女と関わりを持ったことがなかった。

無縁だったのだ。


それがいきなり、俺の部屋に現れ、「大丈夫?具合悪い?」なんて聞いてくる。

幻覚の他なかったのだ。


女は常に俺の視界に入っていたが、風呂とトイレへ行く時だけは現れなかった。

気まぐれに、なぜなのか聞いてみたことがあったが、少々怒ったような、困ったような顔をして、「一緒に入りたいの?」と質問返しされてしまった。


女は相変わらず俺のそばで、都合の良い、耳障りの良い言葉ばかり投げかけてくる。

俺はその度に『ああ、やっぱり寂しい俺が作り出した幻覚だ』と再認識する。


魚は相変わらず空を泳いでいる。




そんな生活も3年続いたが、通院を続けていたおかげか、段々と症状が軽くなってきた。

空中を泳ぐ魚は段々と減り続け、街中を行進する兵隊さんもついには見なくなった。


だが、3年経った今でも女の幻覚は消えていない。

それどころか、俺に話しかける頻度が増えていった。


見え始めた最初は優しかったのに、最近は「ねえ、聞いてる!?」とか、「そろそろ、次の仕事探しなよ!」なんて怒る時もあるくらいだ。


幻覚に怒られるなんて、ストレスだった。


俺は日に日に、女の幻覚に対して怒りを募らせていった。

せっかく他の症状が良くなったのに。

あとはお前さえ消えてくれれば完治したと言えるのに。

お前さえ消えれば、仕事探しだって始められるのに。


お前さえ……お前さえいなければ………





ふと気がつくと、外が騒がしかった。


窓の外からはパトカーのサイレンの音と、玄関からは、お隣さんが何やら怯えながら説明する声が聞こえてきた。


近くで何かあったのだろうか。

そんなことを考えながら、俺は延長コードを片手に、部屋の真ん中で佇んでいた。

俺の足元には、目を見開き、泡を吹いた女の幻覚が横たわっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ