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5 混沌の因子の決断と絶望の共有

 俺は今、首にセシリアの聖なる鎖(リーファの髪が編み込まれている)を繋がれ、アリシアの別邸の庭でルシフェリアを踏みつけながら、セシリアに朝食(最高級のパンと水)を与えられている。


 永久の隷属契約によって、俺の力は完全に安定した。代わりに俺の「自由になりたい」という感情は、魂の奥底で完全に窒息させられたような状態だ。この絶望こそがアリシアたちが作り上げた最強の枷だった。


「景様。パンを口に運ぶわたくしの指に、あなたの支配者の匂いが移っている。ああ、なんて甘美な屈辱でしょう!」


 セシリアは恍惚とした表情で俺にパンを食べさせる。俺が口を開けようとしないと、アリシアの鞭が音を立てるため、俺は無抵抗でパンを飲み込む。


「よろしい。私の奴隷は私が与えたものしか食べることを許さん。食料の支配は命の支配だ」


 アリシアは庭のベンチに座り、優雅に紅茶を飲みながら俺の屈服を観察している。次の瞬間、庭園の結界が静かに、そして完全に無力化された。


 音もなく庭に降り立ったのは混沌の因子エリスだ。彼女の瞳は以前会った時よりも、明確な敵意と失望を宿していた。


「愚かね、景」


 エリスは俺の前に歩み寄った。アリシアは即座に剣を構え、セシリアとルシフェリアも臨戦態勢に入る。リーファはすでに、俺の背後、木陰に潜んでいた。


「これを見ろ、混沌の因子。景はもう、自由など求めない。お前が狙う絶望の隙間は、この四人の愛憎によって完全に塞がれた」


 アリシアは自信満々に言う。


 エリスは俺の首元の隷属の鎖を哀れみの目で見たあとアリシアを冷笑した。


「あなたは自由を殺したと思っている。でもそうじゃない。あなたは彼に永遠の隷属という名の、最も完成された絶望を与えただけよ」


 エリスは俺に向かって再び語りかけた。


「景。あなたは今『もう二度と自由になれない』という、最も深淵な絶望を抱えているでしょう? その絶望は彼女たちの歪んだ愛すらも乗り越える規格外の絶望よ。私と共に来なさい。絶望こそが私たち規格外の存在の本当の安息の地」


 俺の窒息させられた自由への願望が、エリスの言葉に再び刺激された。俺の体内の力が微かに反応する。


 しかし俺の力が暴走する前にエリスは意外な行動に出た。彼女は俺に手を伸ばす代わりに自身の胸元に手を当てる。


 バリッ!


 エリスの服が裂け、その胸元には、俺の永久の隷属契約と同じように、なんらかの契約の烙印が刻まれていた。


「誰かの支配下にあるのか?」


 俺が驚きとともに尋ねると、エリスは苦しそうな表情で頷いた。


「ええ。私もあなたと同じ、誰かの愛の支配に囚われている。私を制御しているのは、この世界にいる、もう一人の混沌の因子よ」


 エリスはアリシアたちに向かって低い声で言った。


「あなたたちの愛は確かに強固だわ。景を永遠の絶望に閉じ込めた。しかし私の支配者――第二の混沌の因子は、あなたたちの愛の鎖を深遠な絶望で簡単に断ち切る力を持っている」


「なんだと?」


 アリシアが剣を突きつける。


「そこで取引よ、勇者。私はあなたたちの愛を断ち切って、景を絶望の安息に連れて行きたい。でも私の支配者は世界の混沌を望んでいる。あなたたちと私が手を組めば、景の永遠の隷属を守りながら私の支配者と対抗できる」


 エリスは俺の絶望を守るためにアリシアたちに共闘を提案してきたのだ。


「私には景の絶望の総量を支配者が探知できないように共有し隠蔽する力がある。あなたの永遠の隷属を維持しつつ、別の混沌の因子から景を守る――それが私の提案よ」


 俺の絶望を共有? この混沌の因子も究極のドMか?


 エリスの提案は俺の絶望という名の支配下の安定を維持することを目的としている。


 アリシアは剣を下ろし冷笑した。


「混沌の因子が私の支配権を認めるか? 悪くない。景の奴隷としての絶望を共有するというのか? 面白い。私の奴隷は別の混沌の因子の支配をも打ち砕く究極の支配の道具となる」


 アリシアは木陰に潜んでいたルミナに向かって指示した。


「ルミナ。この混沌の因子の言葉は真実か?」


 ルミナは姿を現し静かに頷いた。


「彼女は嘘を言っていません。第二の混沌の因子はあなたたちとは異なる、無関心による絶望を景に与えようとするでしょう。それはあなたたちの愛憎の鎖さえも無効化するかもしれない」


 アリシアは剣を収め、エリスに冷酷な視線を向けた。


「よろしい、エリス。私たちの目的は景の力の安定だ。お前は私の支配の範囲内で景の絶望の共有奴隷となることを許可する」


 こうして俺の愛憎の変態地獄に、混沌の因子という新たなメンバーが加わり、五重の異常な支配構造が築かれた。


 俺の永遠の隷属は世界の平和と、混沌の因子たちの異常な愛憎の戦いという、さらに過酷な舞台へと引き上げられたのだった。

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