3 混沌の誘惑と奴隷王の秘められた自由
ルミナの警告を受け、アリシアは混沌の因子エリスを誘い出すため、王都での俺の奴隷としての地位をさらに誇張することを決めた。
なんでやねん!
「エリスは貴様の絶望を狙っている。ならば貴様の絶望の隙間を私の支配の悦びで完全に塞いでやる。王都の民にお前が私の最高の支配下にあることを徹底的に見せつけるのだ」
その結果、俺は王都の中心広場で開かれた世界を救った勇者凱旋記念パレードに信じられない姿で参加させられた。
俺が着ているのは相変わらず堕ちた神官奴隷の服だが、今回はアリシアの趣味で、首に巨大な骨の首輪、そして背中に世界を救ったのはこの奴隷の無様な服従の賜物と書かれた旗を背負わされていた。
ルシフェリアは旗のポールとして俺の背中にくくりつけられ、景様の屈辱的な旗の土台という悦びに悶絶している。セシリアは俺の足元を清める奉仕の行列の先頭を歩き、アリシアは俺の横で鞭を優雅に鳴らしている。
なんだこれ、凱旋パレードじゃなくて公開調教だろ!
王都の民は勇者アリシアに歓声を上げながらも、俺の異様な姿に戸惑いと好奇の視線を送っている。この極限の公衆の面前での屈辱が、アリシアの望む絶望の隙間を埋める支配快感なのだ。
パレードが最高潮に達したその時、人混みの最前列で、一人の少女が立っているのを目撃した。黒いゴスロリ風の衣装に身を包み、人形のように整った顔には、感情が一切読み取れない。その瞳は俺と同じ規格外の力を持つ者特有の冷たい光を放っていた。
混沌の因子、エリスだ。
エリスは周囲の喧騒を無視し、ただ俺だけを見つめている。アリシアは警戒し、俺に一歩近づいた。
「動くな、景。あいつがエリスだ。奴はお前の絶望を誘う隙を狙っている」
アリシアがそう警告した瞬間、エリスは微かに微笑んだ。その笑みは俺の知る変態たちの歪んだ欲望とは異なる、純粋な同情のようにも見えた。
エリスはアリシアにも聞こえないほどの静かな声で俺に語りかけてきた。
「可哀想に夜月景」
日本の名前を呼ばれたことに俺の心臓が強く跳ねた。
「彼女たちの愛はあなたの絶望のフタをしているだけよ。あなたは愛という名の規格外の支配に囚われている。私なら愛ではなく真の絶望で、あなたの力を永遠に安定させてあげる」
エリスはゆっくりと俺の前に進み出ると、骨の首輪に繋がれた俺の頬にそっと指を触れた。
「自由になりたくない?」
俺の奥底で抑圧されていた普通の生活を送りたいという願望と、この異常な変態たちから逃れたいという切実な願いが、絶望という名の感情になって暴れ出した。
ドクンッ!
俺の最強の力がエリスの自由という名の誘惑に反応し、再び暴走の兆しを見せ始めた。周囲の空気が振動し、広場に集まった人々の顔が恐怖で歪む。
「貴様、なにに動揺した!」
アリシアは即座に鞭を振り上げ、俺の胸に叩きつけようとする。
「罰だ! 私以外の女の言葉に耳を傾けた罪! その痛みで自由への妄想を打ち消せ!」
アリシアは物理的な痛みで俺の精神を支配しようとした。しかしエリスはアリシアの鞭を一瞥し嘲笑する。
「無意味よ、勇者。あなたの支配は景の魂が自由を望むことには勝てないわ」
エリスはそう言うと、俺に向かって手を差し伸べた。
「さあ、景。私のもとへ来なさい。私があなたにすべてから解放される真の絶望を与えてあげる。それが私たち規格外の存在にとっての究極の安息よ」
俺の身体は自由への渇望と絶望の安息に引かれ、エリスの方へ一歩踏み出しそうになる。
その危機を察知した変態たちはパニック状態に陥った。
「駄目です、景様! あなたが自由になれば、わたくしたちの奉仕の場が崩壊する!」
セシリアは悲鳴を上げ、俺の足元に転がり込み、俺の靴を咥えるようにして、俺の自由を阻止しようとする。
ルシフェリアは「景様が別の女に誘拐される」という屈辱に耐えきれず、旗のポールから滑り落ち身体を震わせている。
そしてリーファは素早く矢を番え、エリスではなく、俺の足元のセシリアを狙った。
「セシリア! 退け! 景様の自由は私と景様の秘密の裏切りによってのみ存在する! ほかの女に自由を与えさせるなど最高の裏切りだ!」
リーファの行動は「俺を自由から守るために俺の足元にいるセシリアを裏切る」という極めてねじれた愛の防御だった。
パレード広場は混沌の因子の誘惑と、四人のヒロインの愛憎の暴走、そして俺の力の不安定化が織りなす、地獄の修羅場と化した。
俺は自由への誘惑と変態たちの愛の枷の間で、奴隷王としての新たな試練に直面していた。




