アヴィセンナの著書第最後の章に関する研究
これはこの物語の最新エピソードです。皆さんに楽しんでいただければ幸いです。
これはアヴィセンナによって書かれた本の最後の章です。
男は歩いていた。
足元から地平線まで、すべてが絵の具でできた世界の中を。
乾きかけたテンペラの層が波のようにうねり、彼の背後でざらりと音を立てて崩れ、また形を変えながら追いすがってくる。
世界そのものが、彼を喰らおうとしているのだ。
男は走った。
しかし走れば走るほど、地面は粘りつき、空は溶け、色彩はぐにゃりと歪んで彼の輪郭を飲み込もうと迫ってくる。
この世界では、影さえも彼の意志で存在できなかった。
光は絵筆の一振りで変わり、空気は絵の具の匂いと共に彼の肺に無理矢理流れ込む。
(私は……何のためにここに生きている?)
追い迫る色の渦から逃れながら、男は必死に頭を働かせた。理解しようとした。
この世界が何を示しているのか、自分の存在が何を意味するのか。
その答えは、テンペラの波の音の奥に埋もれていた。
作者の嘆き
この物語を記したアヴィセンナの書物について、著者は世界中の図書館を探し回った。
しかし、第九章を分析する文献はどこにも残されていなかった。
あまりにも不可解で、あまりにも象徴的で、あまりにも夢のような章。
手がかりはない。
著者は認めるしかなかった。
「この章の意味を解き明かすのは……おそらく不可能だ」
失われた意味
アヴィセンナが何を語りたかったのか。
男が絵の具の世界を彷徨い続ける理由は何なのか。
そして、追い迫る世界そのものが象徴しているものは何なのか。
その全ては、もう永遠に失われてしまったのかもしれない。
未来のどの世代も、その答えに辿りつくことはできないだろう。
意味は霧散し、深淵の静寂の中へ消え去った。
テンペラの世界が男を飲み込むように、
アヴィセンナの真意もまた、時の渦に呑まれ、跡形もなく溶けていった。
このエピソードを楽しんでいただければ幸いです。次のエピソードはすぐにアップロードします。




