表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/10

アヴィセンナの著書第最後の章に関する研究

これはこの物語の最新エピソードです。皆さんに楽しんでいただければ幸いです。


これはアヴィセンナによって書かれた本の最後の章です。

男は歩いていた。

 足元から地平線まで、すべてが絵の具でできた世界の中を。

 乾きかけたテンペラの層が波のようにうねり、彼の背後でざらりと音を立てて崩れ、また形を変えながら追いすがってくる。


 世界そのものが、彼を喰らおうとしているのだ。


 男は走った。

 しかし走れば走るほど、地面は粘りつき、空は溶け、色彩はぐにゃりと歪んで彼の輪郭を飲み込もうと迫ってくる。


 この世界では、影さえも彼の意志で存在できなかった。

 光は絵筆の一振りで変わり、空気は絵の具の匂いと共に彼の肺に無理矢理流れ込む。


(私は……何のためにここに生きている?)


 追い迫る色の渦から逃れながら、男は必死に頭を働かせた。理解しようとした。

 この世界が何を示しているのか、自分の存在が何を意味するのか。

 その答えは、テンペラの波の音の奥に埋もれていた。


作者の嘆き


 この物語を記したアヴィセンナの書物について、著者は世界中の図書館を探し回った。

 しかし、第九章を分析する文献はどこにも残されていなかった。


 あまりにも不可解で、あまりにも象徴的で、あまりにも夢のような章。

 手がかりはない。


 著者は認めるしかなかった。


「この章の意味を解き明かすのは……おそらく不可能だ」


失われた意味


 アヴィセンナが何を語りたかったのか。

 男が絵の具の世界を彷徨い続ける理由は何なのか。

 そして、追い迫る世界そのものが象徴しているものは何なのか。


 その全ては、もう永遠に失われてしまったのかもしれない。


 未来のどの世代も、その答えに辿りつくことはできないだろう。

 意味は霧散し、深淵の静寂の中へ消え去った。


 テンペラの世界が男を飲み込むように、

 アヴィセンナの真意もまた、時の渦に呑まれ、跡形もなく溶けていった。

このエピソードを楽しんでいただければ幸いです。次のエピソードはすぐにアップロードします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ