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アヴィセンナの著書第3章に関する研究

これはこの物語の最新エピソードです。皆さんに楽しんでいただければ幸いです。

アヴィセンナの本の次の章は、これまで多くの研究者の議論を呼んできた。そこには、洞窟に暮らすある原始部族の伝承が記されているが、その記述は単なる神話学的興味を超えて、社会構造に潜む残酷な真理を暴き出しているように思われる。


 以下に示すのは、その一節の私的訳である。


引用:アヴィセンナ『原始の火について』第四篇


 族長ハルグは、夜明けの冷たさが骨に染みるころ、若き弟子ニルを呼び寄せた。

「ニルよ、お前は選ばれし者だ。

 われらの部族を長年苦しめてきた“谷の大恐竜”を討つことができるのは、お前をおいて他におらぬ。」


 そう言われたニルの胸には、燃えるような誇りが灯った。

だが同時に、彼は気づかなかった。

その誇りを灯す薪は、彼自身の肉だったということに。


 翌朝、族長は彼に粗末な槍一本を与え、大恐竜の棲む洞へと送り出した。

 しかしその実、これは「討伐」ではなく「献上」であった。

族長は心の内でこう呟いた――

「これでしばらくは、大恐竜も満足するだろう。」


 この短い寓話を読み進めると、私がかつて尊敬し、そして突然殺された星本教授の言葉が思い出されてならない。


 教授は講義室の片隅で、いつも少し咳払いをしてからこう語った。


「“英雄”とは、美しい言葉で包まれた、

 共同体が自らの恐怖を押し付けるための供物なのだよ、君。

 どの時代の神話も、ほとんどこれを隠してはくれない。」


 その声は落ち着いていて、どこか寂しげだった。

 今となっては、彼がそのような視点を持つに至った理由をもっと聞いておくべきだったと後悔している。

 彼が――例の「彼の愛人の夫」事件で、あのような最期を迎えるなど、誰が予想できただろうか。


 教授の死を知ったとき、私は数時間動けずにいた。

 だが、彼の残した理論は私の中に確かに息づいている。

 そして本章の寓話は、その理論の正しさを一層強固にする。


◆ 英雄という語の「ねじれ」


 ニルは部族から「選ばれた」。

 彼に向けられた言葉は祝福であり、賛美であり、未来への希望であった。

 しかし真実は、彼が“部族の平穏”という名の偶像へと捧げられた生贄にすぎなかった。


 この構造を、星本教授は「英雄の反転構造(Inversio Heroica)」と呼んだ。


 つまり――


「期待」は「処刑命令」の婉曲表現であり、


「勇気」は「逃げ道を奪われた者の姿」であり、


「名誉」は「共同体の罪悪感を薄めるための飾り」だ。


 私はこの見解に全面的に賛同する。

 むしろ、これほど正確に“英雄”という概念を捉えた説明を他に知らない。


◆ 部族、そして現代


 では、ハルグは悪意を持っていたのだろうか?

 私はそうは思わない。

 彼はただ、部族を存続させるために合理的に判断しただけだ。

 つまり、


共同体は善意の顔をして、人を捧げる。


 この構造は、私たちが住む現代社会にも、驚くほどそのまま残っている。

 己の使命を信じて前に出る者ほど、いつの間にか「都合のよい犠牲者」へと変えられていく。


 ニルは洞窟の奥で、大恐竜の影が迫るなか、初めて悟る。

 自分が“英雄”などではなく、ただの“供え物”だったことを。


 その瞬間こそ、人間社会の残酷な本質が最も鮮明に現れる。


◆ 結語 ―― 星本教授への追悼とともに


 本章を締めくくるにあたり、私は教授の授業ノートの最後に書かれた言葉を想起する。


「人は誰しも、誰かの物語の中で“英雄”にされる。

 だが本当の問題は、その物語の語り手が

 我々の生死を左右する者たちであるということだ。」


その思想は、アヴィセンナの伝承と共鳴しながら、私の研究を静かに支え続けている。


 ――そして私は、今さらながら気づく。

 英雄とは、いつの時代も、

 **「逃げられない者」**の別名なのだ。



このエピソードを楽しんでいただければ幸いです。次のエピソードもすぐにアップロードします。

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