第三十話 ハーレム・シティ
ゲオルグたちは、レジーナとレベッカを連れて再び揚陸艇に乗り込むと、二人の案内で揚陸艇で獣人たちの街へ向かう。
揚陸艇は街の上空に入ると、ほぼ街の中心にある広場に着陸する。
街の獣人たちは、突然、空から現れた帝国軍の揚陸艇に驚き、蜘蛛の子を散らしたように逃げ出したが、揚陸艇が広場に着陸して跳ね橋を降ろし、中からレジーナとレベッカが出てくると、逃げ出していた街の獣人たちは、揚陸艇の周辺に集まってくる。
集まってきた獣人の女の子が二人に話しかける。
「レジーナ!? レベッカも! 二人とも、どうしたの!?」
レジーナ、レベッカの二人は得意げに、周囲に集まる獣人たちに対して、人狩りに襲われ、ゲオルグたちと知り合った経緯を話す。
レジーナは声高らかに宣言する。
「さぁ! 帝国の皇子様を族長のところへ案内しないとね!」
レベッカもレジーナに続いて叫ぶ。
「みんな! 皇子様が通るから道を開けて! 開けて!」
獣人たちは通りの左右に分かれ、揚陸艇から降りてきたゲオルグたちに道を開けていく。
ゲオルグは、跳ね橋から街の様子を見て、大勢の獣人たちが集まってきたことに苦笑いする。
「すごい人数だな」
クラウディアはゲオルグの隣に並んで答える。
「空から見たとき、結構、大きな街だったしね」
ゲオルグたちはレジーナとレベッカを先頭に、街の通りを族長の屋敷に向かって歩いていく。
通りの両脇には、『ゲオルグたちを一目見よう』と大勢の獣人たちが集まって来ていた。
集まった獣人たちは、通りを歩くゲオルグたちを見て、次々と口を開く。
「見て! 帝国の皇子様よ!」
「あれが皇子様……」
「皇子様~!」
「美形ね!」
「美形!」
「カッコ良い!」
「番の女が五人もいるの!?」
「良いなぁ~」
「きっと、それだけ夜が強いのよ!」
「ええっ!?」
「そんなに凄いんだ」
ゲオルグは、獣人たちから自分に向けられている熱い視線を感じ取り、前を歩くレジーナに尋ねる。
「なぁ、レジーナ。周囲から『凄く熱い視線』が集まっているのを感じるんだが、そんなにこの街を訪れる人間が珍しいのか?」
レジーナは少し考えると、ゲオルグに答える。
「ん~。皇子様が『男』だからじゃない?」
「は?」
レベッカは、レジーナの言葉を補足する。
「この街じゃ、男の人は珍しいから」
ゲオルグは、二人の言葉を聞いて改めて通りの両脇を見回すと、集まって来ているのは、皆、獣人の女の子たちであった。
ゲオルグは、再び二人に尋ねる。
「街には、どれくらい獣人がいるんだ? 男はいないのか?」
レジーナは、答える。
「ん~。街には一万人くらいいるよ」
続いて、レベッカが答える。
「街にいる男の人は、族長くらいかな。他の男の人は、傭兵団と契約して街を出て四~五年は帰ってこないし、街に残っていた男の人も、人狩りと戦って捕まったり、死んだり……」
ゲオルグは、改めて自分を取り巻く状況を認識すると、生唾を飲み込んでから、ひとこと呟く。
「この街は、女が一万人いて、男はオレたちと族長だけなのか……」
レジーナは悪戯っぽい笑顔を浮かべながら告げる。
「そういうこと! 皇子様に限らず、後ろの二人も気を付けてね!」
レベッカが続く。
「そうそう。私たち獣人は『欲しければ取る』『早い者勝ち』だからね!」
悪友二人、マティスとオズワルドは、引きつった笑顔を浮かべ、ゲオルグは歩きながら両隣のクラウディア、ゾフィーと腕を組む。
「ゲオルグ様!」
ゾフィーは嬉しそうに笑顔を見せるが、クラウディアは、普段と様子が違うゲオルグを心配して尋ねる。
「急にどうしたの?」
ゲオルグは真剣な顔でクラウディアに答える。
「二人とも、オレから離れるなよ。オレは生まれて初めて『男であること』に身の危険を感じるんだ」
クラウディアは、ゲオルグの言葉の意味を察し、対照的に今の状況に気分を良くする。
通りの両脇に集まる獣人の女の子たちは、ゲオルグに熱い視線を向ける一方で、隣にいる自分とゾフィーに羨望のまなざしを向けていた。
自分とゾフィーがゲオルグの番としていなければ、通りの両脇に集まる一万人の獣人の女の子たちは『ゲオルグを自分の番にしよう』とゲオルグに一斉に襲い掛かってくることが容易に想像できた。
ゲオルグが自分を番(妃)として必要としていること。
自分がゲオルグの番(妃)として、一緒に腕を組んで街の通りを歩いていること。
将来、自分がゲオルグの正妃となったら、毎日、こういう風に周囲から羨望のまなざしを向けられるだろう。
クラウディアは、すっかり『帝国第四皇子正妃』になった気分であった。
ゲオルグたちは四半時ほど通りを歩くと、族長の屋敷に到着する。




