第二十八話 国境を越えて
ゲオルグたちが乗る揚陸艇とゾフィーが乗る飛竜は、国境上空を越える。
ゾフィーは、飛竜プロメテウスの背から揚陸艇のコクピットを眺めると、操縦席に座りながら隣のクラウディアと話をしているゲオルグの姿が見えた。
ゾフィーは、クラウディアがゲオルグを補佐している姿を見て微笑む。
クレメンスとの一件以来、クラウディアとゾフィーがいがみ合うことは無くなっていた。
クレメンスという『共通の敵』ができたこと、ゾフィーがゲオルグとキスして二人の関係を進めたことが、ゾフィーの心に余裕を作っていた。
--半時後。
ゲオルグたちの眼下に獣人たちの集落が見えてくる。
エミリアは望遠鏡を覗きながら口を開く。
「十時の方角! 集落が見えてきました!」
クラウディアは、集落を見て驚く。
「あれが獣人の集落!? ……大きい! 街くらいあるじゃない!?」
ゲオルグたちが目にした獣人の集落は、周囲を木の壁と櫓に囲われており、木造の家屋が立ち並ぶ、中世の地方都市くらいの規模があった。
ゲオルグもクラウディアに続く。
「デカいな。……何人くらいいるんだろう?」
クラウディアはハッとして地図を睨む。
「あんな大きな街を『集落』として書いているなんて! この辺り、まだ地図が正確じゃないのね!?」
ゲオルグは興奮気味に答える。
「いいね! 人跡未踏の地! 冒険の始まりだ!」
ゲオルグが喜んでいるとカタリナが口を開く。
「ゲオルグ様! 九時の方角に『何か』います!」
「『何か』って、なんだ?」
ゲオルグとクラウディアは、訝しみながら九時の方角に目を向ける。
九時の方角に目を向けたゲオルグとクラウディアの目に映ったもの。
四頭の牛が曳く、継ぎ接ぎだらけの黒い鉄板に鎧われた、窓に鉄格子が付けられている大きな牛車。
その屋根の上は、櫓のようになっており、弓を持った二人の男がいた。
人狩りや奴隷商人が使っている『奴隷輸送車』であった。
ゲオルグは、奴隷輸送車についてジークから話を聞いており、一目でそれと判った。
ゲオルグは叫ぶ。
「奴隷輸送車だ!」
クラウディアも口を開く。
「こんな街の近くに!?」
ゲオルグは揚陸艇の高度を下げて奴隷輸送車に接近させる。
ゲオルグたちは、望遠鏡を使わなくても地上の様子がはっきり見えてくる。
平原を走る二人の獣人。
二人を追う四人の人狩りたち。
クラウディアは叫ぶ。
「ゲオルグ! あの二人、人狩りに追われてる! 助けないと!」
「おう!」
ゲオルグは揚陸艇と並んで飛竜で飛ぶゾフィーにハンドサインを出す。
ゲオルグの意を理解したゾフィーは、二人の獣人に向かって飛竜を急降下させていく。
ゲオルグは仲間たちに指示を出す。
「追われている二人と人狩りの間に揚陸艇で割って入る! みんな! 戦闘準備だ! 着陸して外に出るぞ!」
「了解!」
仲間たちは答えると、装備を確認して戦闘する準備を始める。
四人の人狩りたちは、二人の獣人を追っていた。
人狩りの一人がぼやく。
「チッ! 二匹とも雌か!」
リーダー格の人狩りが答える。
「雌の売値は安くても、捕まえたら楽しめるだろ?」
「へへ。違いねぇ」
他の人狩りたちは下卑た笑みを浮かべる。
「二匹とも、足が速いな。そろそろ仕留めるか」
別の人狩りが弓矢をつがえると、リーダー格の者が注意する。
「足を狙え。殺すな」
「判っている!」
人狩りが弓につがえた矢を放つと、放たれた矢が逃げる獣人の左足のふくらはぎを貫く。
「あうっ!」
足を射抜かれた獣人は、転倒すると、射抜かれた足を押さえてうずくまる。
ゾフィーは、ゲオルグのハンドサインからその意を汲むと、乗っている飛竜の首を左手でポンポンと叩いて話しかける。
「プロメテウス、いきますよ!」
主人に忠実な飛竜プロメテウスは、獣人を追う人狩りたちに向かって音もなく急降下を始める。
人狩りが矢を放ち、獣人の足を射抜いて転倒させた、その時であった。
飛竜プロメテウスは、人狩りたちの目前に火炎息を吐き掛ける。
突然、目の前の地面に火炎息による爆炎の障壁が現れ、人狩りたちは驚愕した。
「うわっ!」
「なんだぁ!?」
人狩りたちが爆炎の障壁に怯み、立ち竦んでいると、地上スレスレまで急降下していたゾフィーと飛竜プロメテウスが人狩りたちの頭上を越えて、急上昇していく。
人狩りたちは、大きく旋回しながら高度を上げていく飛竜プロメテウスと、竜騎士の恰好をして、竜槍を構えながらその背に乗るゾフィーを見て動揺する。
「飛竜!?」
「あれは、竜騎士じゃないのか!?」
「まさか!? 帝国の竜騎士が、なんでここに!?」
ゾフィーが人狩りたちに最初の一撃を加えた後、ゲオルグたちの乗る揚陸艇が獣人と人狩りたちの間に降下してくる。
人狩りたちは、着陸態勢で高度を下げてくる揚陸艇を見て恐慌状態に陥る。
「て、帝国軍!?」
「帝国軍の揚陸艇だ!」
「やべぇ!」
「バックレるぞ!」
そう口にすると、人狩りたちは一目散に逃走していった。
人狩りと奴隷商人は、バレンシュテット帝国軍に逮捕されると、問答無用で即時、絞首刑に処されるからであった。




