第二十六話 陛下の意思、帝国の大義
クラウディアは、朝食後、自室に戻って羊皮紙に一筆したためると封蝋で封印を施し、大型輸送補給艦の補給科へ行ってフクロウ便での発送手配を済ませ、再び自室に戻り、急いで戦闘装備を整える。
愛用のレイピアを腰に下げ、そして身の回りの物を詰め込んであるカバンを開いて中身を確認し、再び閉じる。
クラウディアは、ひと呼吸の間、目を閉じて想いを巡らせる。
(自分にできることはやった。大丈夫。きっと、上手くいく!)
クラウディアが覚悟を決めていると、部屋のドアが開かれ、ゲオルグが入ってくる。
「クラウディア。どこに行っていたんだ?」
「ちょっとね」
「行こう」
「ええ」
二人は、一緒に甲板へ向かう。
--甲板。
ゲオルグとクラウディアが甲板へ出ると、帯剣したオズワルドとマティスの悪友二人とエミリアたち三人が待っていた。
ゲオルグは、姿が見えないゾフィーを探す。
「……ゾフィーは?」
「お待たせしました!」
良くとおる声と共にゾフィーが現れるが、ゲオルグたちはゾフィーの装備を見て驚く。
「ゾフィー!?」
ゾフィーは相棒の飛竜プロメテウスを連れ、竜騎士の甲冑を着こんで現れたのであった。
ゲオルグは驚きを口にする。
「すげぇ! 飛竜!? それに、ゾフィーのその姿! 竜騎士じゃないか!」
ゾフィーは、照れながらゲオルグに答える。
「この子は私の飛竜プロメテウスです。この鎧、見た目は竜騎士ですが、ミスリル製の騎士用甲冑で、姉ソフィアが修行時代に使っていたお下がりです。騎士の私でも着用ができるのです」
ゲオルグは、初めて見るゾフィーの戦闘装備に目を輝かせる。
「ゾフィー、どこから見ても帝国竜騎兵団の竜騎士だよ!」
ゾフィーは苦笑いで答える。
「恐れ入ります」
ゲオルグは、ゾフィーが来て全員揃ったことを確認すると、仲間たちに告げる。
「それじゃ、行こう!」
ゲオルグたちは、ゲオルグを先頭に甲板上に駐機している揚陸艇へ向かう。
大型輸送飛空艇の甲板には、難民収容施設に物資を降ろしていた三機の揚陸艇が駐機しており、二人の甲板員がノンビリと甲板を掃除していた。
ゲオルグは、他に甲板員がいないことを確認すると、掃除している二人に声を掛ける。
「やあやあ諸君、朝早くからご苦労さま!」
二人の甲板員は怪訝な顔でゲオルグを見る。
「なんだぁ?」
「うん?」
ゲオルグは、胸元から首から下げている帝室の紋章が刻まれたブローチを取り出すと、甲板員の二人に向けてかざして、格調高く口上を述べる。
「我は、バレンシュテット帝国第四皇子ゲオルグ・ヘーゲル・フォン・バレンシュテット!」
ゾフィーがゲオルグに続いて口上を述べる。
「その護衛! 帝国竜騎兵団、ゾフィー・ゲキックス!」
ゲオルグとゾフィーの口上を聞いた二人の甲板員の目には、帝室の皇子が近衛兵を率いて辺境に現れたように見えた。
二人の甲板員は、驚いてゲオルグに対して片膝を着きながら最敬礼しつつ、狼狽える。
「だ、第四皇子殿下!?」
「帝国竜騎兵団って、帝国最強の!?」
ゲオルグは、驚いて狼狽える二人の甲板員に告げる。
「極秘任務により、そこの揚陸艇を借用する!」
「し、しかし……『極秘任務』とは!?」
ゲオルグは、芝居掛かった口調で続ける。
「良いかね? 諸君! 『人狩りの討伐』と『奴隷貿易の撲滅』は、我が父である皇帝ラインハルト『陛下の意思』であり、『帝国の大義』である! それを成すには、この揚陸艇が必要なのだ!」
尚も二人の甲板員は食い下がってくる。
「ですが……」
「せ、せめて、艦長に確認を……」
ゲオルグは食い下がる二人に紋章のブローチを見せ付けると大声で一喝する。
「『勅命』である!」
二人の甲板員は、ゲオルグの一喝にひれ伏す。
「ははっ!」
『勅命』という単語は、絶対帝政を敷くバレンシュテット帝国では、皇帝ラインハルトからの直接命令という意味であり、絶対的な拘束力と強制力を持つ言葉であった。
ゲオルグたちは、ひれ伏す二人の甲板員を他所に、その脇を通り抜け、揚陸艇に乗り込んでいく。
ゾフィーは、感動した顔でゲオルグに告げる。
「痺れました! ゲオルグ様! 私は、この子に乗ってついていきます!」
ゲオルグの即興のアジ演説は、ゲオルグの元で手柄を立てたいゾフィーの琴線に触れたようであった。
「了解!」
ゲオルグたちは意気揚々と揚陸艇に乗り込んでいき、ゾフィーは自分の飛竜プロメテウスに乗る。




