第二十三話 半剥け85mmGUN
しばしの沈黙の後、エミリアがイルマに尋ねる。
「貴女のご両親は?」
イルマは顔を上げると涙ながらに答える。
「……両親は、ここに来る途中、獣人の集落の近くで人狩りに捕まりました」
エミリアが救いを求めるようにゲオルグへ顔を向けると、他の女の子たちも同じようにゲオルグの顔を見る。
ゲオルグは、何も名案が浮かばず、どうすることもできない悔しさに唇を嚙みながら拳を握り締める。
クラウディアがゲオルグに声を掛ける。
「ゲオルグ。もう帰りましょう」
ゲオルグは諦めたように答える。
「……ああ」
ゲオルグたちはイルマと別れ、倉庫から大型輸送飛空艇への帰途に着く。
大型輸送飛空艇に着いたゲオルグたちはラウンジで寛ぐが、ゾフィーは『疲れました』と言って、一人で先に入浴して部屋に戻って行った。
ゲオルグは呟く。
「ゾフィー。大丈夫かな?」
クラウディアが答える。
「クレメンスたちに集団で輪姦されそうになったのよ? そっとしておいてあげたら?」
「なら、余計に放っておけないだろ」
ゲオルグは、ゾフィーを心配して彼女の部屋を訪れる。
「ゾフィー。入るよ」
「どうぞ」
ゲオルグがドアをノックして部屋に入ると、ゾフィーは既に入浴を済ませてバスローブ姿で寝床に入っていた。
ゲオルグはベッドの隣にある椅子に座り、ベッドに横たわるゾフィーを気遣う。
「ゾフィー。大丈夫かい?」
ゾフィーは笑顔で答える。
「大丈夫です。でも、疲れたので先に休ませて頂きます」
「構わないよ」
「あの……ゲオルグ様」
「んん?」
「助けていただきまして、ありがとうございました」
「君が無事で良かったよ」
ゾフィーは、ゲオルグの顔を見上げて、誇らしげに告げる。
「あのクレメンスを殴り倒したのは、ゲオルグ様だけですよ」
ゲオルグは、苦笑いしながら答える。
「あいつ。もう一発くらい、殴っておけば良かったな」
「本当に、物語の王子様のように私を助けてくれました」
「まぁ、オレは皇子だからな」
ゾフィーは、照れくさそうに答えるゲオルグの笑顔に、影があることに気が付く。
「ゲオルグ様。イルマの言葉を気にされているのですか?」
図星であった。ゲオルグは言葉が見つからず、返答に困る。
ゾフィーが続ける。
「ゲオルグ様。ゲオルグ様が気を病まれることはありません。帝国本土に難民を入れたら、帝国本土の治安と経済は混乱して悪化します。かといって、難民を帝国外に追い返したら、あるのは戦乱と疫病、奴隷貿易と麻薬貿易。難民は、それらの犠牲になるだけです。……『少々、自由がなくとも難民は収容施設に集めて開拓農場に定住させる』という皇帝陛下やジーク様、帝国政府が推進する政策こそ適切なのです」
ゲオルグがゾフィーの話を聞いて考えこんでいると、ゾフィーはゲオルグの手に自分の手を重ねる。
「手を握っても、良いですか?」
「良いよ」
ゲオルグがゾフィーの手を握ると、ゾフィーはゲオルグに告げる。
「……今の私には、クラウディアの気持ちが判ります。『想い人に触れたい、抱かれたい、慰めてあげたい、交わりたい』……女の本能です。……もう少し、このままでいて良いですか?」
「……ああ」
やがて、半時ほどすると、ゲオルグが傍についていることに安心して、ゾフィーは穏やかな寝息を立てる。
ゲオルグは、ゾフィーを起こさないようにそっと手を離すと、静かに部屋を後にする。
ゲオルグがラウンジに戻ると、仲間たちは夕食を食べていた。
クラウディアは、席に戻ったゲオルグに尋ねる。
「彼女、どうだった?」
「落ち着いて眠ったよ」
「良かった」
ゲオルグは、夕食を食べながら仲間たちをねぎらう。
「初日なのに、いろいろあって、みんな、疲れただろ」
クラウディアは、ゲオルグを労う。
「ゲオルグは良くやったわ。私も、疲れちゃった」
エミリアは二人を労う。
「二人とも、良く頑張ってましたね」
カタリナは、クレメンスたちを批判する。
「それにしても、帝国貴族にあんなことをしている人たちがいるなんて。驚きました」
エリーゼもカタリナに続く。
「信じられませんね」
クラウディアは、したり顔で解説を始める。
「あの人、自慢げに私たちに『アレ』を見せつけていたけど、あんな『お粗末なモノ』を淑女に見せびらかさないで欲しいわ」
ゲオルグは苦笑いしながら聞き返す。
「オレは良く見ていなかったけど。……あいつ、そんな『お粗末なモノ』だったのか?」
クラウディアは力説する。
「そうよ! だって、これくらいなのよ!?」
そう言うと、食卓の上に乗っている燭台の小さな蝋燭を指で指し示す。
エミリアは、ハッと気付いて小物入れの巾着から巻尺を取り出すと、小さい蝋燭の寸法を測る。
「……八十五ミリ……ですか?」
マティスは笑いだすのを堪えながら口を開く。
「アレが元気になってて、八・五センチって!? 小さすぎだろ! ……オレのより小さいじゃん」
オズワルドもマティスに続く。
「……だな。元気になっていて八・五センチなら、オレのよりも小さい」
ゲオルグは、吹き出しそうになりながら問いただす。
「いや、ちょっと待て。あいつのアレ、そんなに小さかったのか?」
クラウディアは、断定しながら力説する。
「間違いないわ! しかも、半分しか頭が出ていないの! あんな『お粗末なモノ』を自慢げに淑女に見せびらかすなんて、あり得ないから!」
ゲオルグは、吹き出して笑い出すのを必死に堪える。
「プププ……何だよ。その『半剥け』って……」
オズワルドも吹き出して笑い出すのを必死に堪えながら続く。
「あいつ、『半剥けの八十五ミリ砲』を女の子たちに見せびらかしていたのか」
マティスもオズワルドと同様であった。
「ププッ! 『半剥け八十五』って。……そんなのを女の子に見せて自慢するって、恥ずかしい奴だな」
クラウディアは、人差し指を頬に当てて考えながら仮説を口にする。
「あの人、きっと、自信がないから難民の子で試そうとしたんだわ。そしたら、偶然、ゾフィーが入ってきて……」
ゲオルグは、納得したように答える。
「そういうことか」
エミリアたちは頬を染めながら一連の話を聞いていた。
こうして、ゾフィー強姦未遂事件を引き起こしたクレメンスには、『半剥け85mmGUN(八十五ミリ砲の意)』という不名誉な二つ名が付けられ、女の子たちの口伝てに準備学校内に広まっていった。




