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アスカニア大陸戦記 旅立ちの大空  作者: StarFox
第二章 獣人荒野
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第十三話 確執と班分け

 冒険者志望のゲオルグは、素直に辺境行きを喜んでいた。


「よぉ〜し! クラウディア! 早速、辺境行きの装備を用意して荷造りをしないとな!」

 

 クラウディアは呆れたように答える。


「ゲオルグ、楽しそうね。辺境は危険な地域なのに」


 ゲオルグは笑顔で答える。


「あったりめえよ! オレは冒険者志望なんだぞ? 獣人(ビーストマン・)荒野(フィールド)の探検なんて、行くしかないだろ!」


 クラウディアは、呆れながらゲオルグに注意する。


「『探検』じゃなくて、『奉仕活動』よ! 難民の救済!」


「判ってるって! 難民に迫り来る小鬼(ゴブリン)犬鬼(コボルト)の群れは、こうやって、バタバタと切り倒して……」


 ゲオルグが剣を持たずに剣撃の素振りを見せると、ゾフィーがツッコミを入れる。


「ゲオルグ様。それは『冒険者』というより、『勇者』というべきでは……」


 ゾフィーの言葉を聞いて、ゲオルグは更に喜ぶ。


「おおっ!? 辺境で妖魔を討伐して『勇者』の二つ名を得るってか! いいね! 望むところだ!」


 辺境行きを喜ぶゲオルグに対して、クレメンスは沈痛な表情を浮かべていた。 


 傍らのゾフィーがゲオルグに呟く。


「クレメンスは、普段、威張っていても、辺境に行くのが怖いようですね」


 ゾフィーの呟きはクレメンスに聞こえ、クレメンスはいきり立ってゾフィーに詰め寄って来る。


「ゾフィー・ゲキックス! 貴様、この私を『臆病者』と侮辱するか!?」


 ゾフィーは、詰め寄ってきたクレメンスに臆することなく、対峙して言い返す。


「別に隠し立てすることはありませんよ。辺境行きが怖い臆病者なら『怖い』と辺境行きを断って、ベッドに入って毛布を被り、震えていれば良いじゃないですか」


「グググ……貴様! 殿下の前だからと、調子に乗りおって!」


 クレメンスは、歯軋りしながゾフィーを睨む。




 クラウディアは、ゾフィーと対峙するクレメンスの目を見てその本性に気付き、身体に悪寒を走らせる。


(この人。ここにゲオルグが居なかったら、ゾフィーに手を挙げている)


 同時にクラウディアは安心もする。


 皇子であるゲオルグがこの場にいる限り、その目前でクレメンスがゾフィーに手を挙げることはないだろう。


 軍事国家であるバレンシュテット帝国では、男性を臆病者と呼ぶことは侮辱であり、同様に、帝国の貴族社会では、男性が女性に対して暴力を振るうことは『恥ずべきこと』とされていた。 


 クレメンスは、旧守派と呼ばれる帝国貴族たちの重鎮である第三席侯爵家の御曹司であったが、第四皇子ゲオルグの目前で狼藉をはたらけるほどの権威権力は無い。


 絶対帝政を敷く帝国では、皇族と貴族の間には『越えられない壁』があった。




 喜んでいたゲオルグが対峙してにらみ合っているゾフィーとクレメンスの二人に気が付き、クレメンスに尋ねる。


「うん? 辺境行きが怖いなら、オレから父上に話してやろうか?」


 クレメンスは、即座に手の平を返してゲオルグに答える。


「滅相もない! 陛下からのお言葉に従い、帝国辺境での奉仕活動に従事致します。『高貴たる者の義務』、しかと務めさせていただく所存です」


 見事な掌返しを見せたクレメンスに対して、ゾフィーは呆れたようにため息を吐くと、クレメンスに軽蔑のまなざしを向ける。




 始業時間になると、講堂で教師たちが辺境での奉仕活動の内容について、説明を始める。


 行先は、帝国南方の辺境、獣人(ビーストマン・)荒野(フィールド)であること。


 獣人(ビーストマン・)荒野(フィールド)への移動は、帝国軍の大型輸送飛空艇を使うということ。


 難民収容施設での奉仕活動は、帝国軍部隊と共に行い、その補助作業(手伝い)であること。


 奉仕活動は、八人一組の班単位で行うこと。


 などなど、多岐に及んだ。


 教師による説明が終わると、生徒たちの関心と話題は『誰と班を組むか』ということであった。


 ゲオルグが呟く。


「『班分け』ねぇ……まず、オレ、マティス、オズワルドの三人だろ」


「ああ」


「うん」


 ゲオルグの言葉に悪友二人は頷く。


 すかさずゾフィーがゲオルグの傍らにやってきて、当然と言わんばかりに口を開く。


「ゲオルグ様の護衛である私も、ご一緒させて頂きます」


 クラウディアが三人の女の子を連れてくる。


「ねね。ゲオルグ。この子たちも一緒の班で良いでしょ?」


 クラウディアが連れてきたのは、ゲオルグに挨拶したエミリア、カタリナ、エリーゼの三人であった。


「いいよ」


 ゲオルグの答えを聞き、クラウディアが連れてきた三人は、ゲオルグと同じ班になれて大喜びする。


「やった! ゲオルグ様と一緒!」


「ありがとうございます!」


「よろしくお願いいたします!」 


 ゲオルグは、周囲を見回して呟く。


「男三人に、女の子が五人か……」


 クラウディアは、笑顔でゲオルグに告げる。


「この八人で決まりね!」


 マティスがゲオルグに告げる。


「くっ! ゲオルグ! いつの間にハーレムを作っていたんだ!?」


 オズワルドもゲオルグに告げる。


「そうだ! なんだよ、このハーレム展開は!?」


 悪友二人に攻め立てられ、ゲオルグは慌てて答える。


「おいおい! オレは何もしていないぞ!?」


 ゲオルグの言葉にクラウディアがツッコミを入れる。


「あら? 私と一緒にお風呂に入って、同じベッドで一緒に寝たじゃない」


 クラウディアの言葉に、エミリア、カタリナ、エリーゼの三人は驚く。


「ええっ!?」


「まぁ!」


「そうなのですか!?」


 ゲオルグは必死に答える。


「それは、昔の話だろ!」


 必死になるゲオルグを見て、クラウディアは口元に手を当ててクスクスと笑う。


 エミリア、カタリナ、エリーゼは、三人で顔を合わせてヒソヒソと話し合っていたが、意見が一致したのか、互いに頷きあうとゲオルグの前にやってくる。


 エミリアは恥じらいながらゲオルグに告げる。


「あの……私は、正妃でなくとも構いませんので、ゲオルグ様のお傍に……」


 カタリナも口を開く。


「私もです。ゲオルグ様のお傍において下さい」


 エリーゼも口を開く。


「私もです。ゲオルグ様」


 女の子たち三人の答えを聞いたマティスは、更にゲオルグにツッコミを入れる。


「ほらみろ! まごうことなき『ハーレム』じゃないか!」


 オズワルドもマティスに続いてゲオルグに告げる。


「そうだ! そうだ!」


 ゾフィーは、頬を赤く染めながら口を開く。


「『不純異性交遊』なんて不潔です!!」


 

 帝国は『一夫多妻制』であり、輿入れする女性にとって重要なのは『妃の序列』であった。


 公式な場では正妃をエスコートし、他の妃はその後ろに続く。


 上級貴族たちの政略結婚の場合、多くは『妃の序列』は出生身分順であったが、序列を決めるうえで最優先とされていたのは、『男女の関係を持った順番』であった。


 

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