表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アスカニア大陸戦記 旅立ちの大空  作者: StarFox
第一章 準備学校
11/14

第十一話 第三席侯爵家の御曹司

-数日後。学校。


 休み時間。ゲオルグたち五人が廊下を歩いていると、廊下の一角に人だかりができていた。


 ゲオルグは、人だかりに気付いて呟く。


「なんだ? あれ?」


 ゾフィーはゲオルグの前に出て、足早に歩みを進めると、人だかりの中に割って入って行く。


「いったい、何事ですか!?」


 人だかりは、大勢で数人の男女を取り囲み、小突き回しているようでいった。


 取り囲んでいた者たちの一人が呟く。


「風紀委員!?」


 集団のリーダー格の者がゾフィーに告げる。


「こいつらは『逆賊』だ」


 ゾフィーは驚いて絶句する。


「逆賊!?」


 ゲオルグは、傍らのクラウディアに尋ねる。


「逆賊って?」


 クラウディアは、ゲオルグに耳打ちしながら説明する。


「逆賊っていうのは……」





 逆賊とは、ヴォギノ・オギノ・ラビホルが率いる革命党が引き起こした暴力革命の時に、帝室と帝国政府を裏切って革命党側に味方した者たちのことであった。


 十七年前の革命戦役で革命政府は倒され、皇帝に即位したラインハルトによって革命政府に加担した逆賊たちは処分されていた。


 十四歳になるゲオルグたちが生まれる以前に、既に決着が付いている事柄であった。





 小突かれていたグループの女の子が前に出て口を開く。


「私は逆賊ではありません! 信じてください!」


 リーダー格の男が口を開く。


「帝国に忠誠を誓っているというのか? なら、『忠誠の儀』だ! 靴に口付けして証明してみろ!」


 そう言うと、リーダー格の男は女の子を床の上に引きずり倒した。


「ううっ……」


 女の子は一呼吸の間、悔しさと屈辱で呻いていたが、意を決して靴にキスしようとする。


 すかさずゲオルグが間に割って入り、女の子の手を取って立ち上がらせる。


「よせ! 女の子に乱暴するなよ!」


 リーダー格の男は、ゲオルグに詰め寄ってくる。


「ほう? 逆賊の味方をするのか?」


 ゲオルグは、立ち上がらせた女の子をクラウディアに預けると、リーダー格の男に対峙して告げる。


「なんなんだ? 今頃『逆賊』って。そんなの、革命戦役の時にカタが付いていることだろ」


 リーダー格の男は、正面からゲオルグを睨んだまま、ゲオルグの顔に自分の顔を近づけて口を開く。


「帝国貴族が集う栄えある準備学校(ギムナジウム)に逆賊の者たちが潜り込むなど言語道断。叩き出してやるまでだ」


 ゲオルグも顔を近づけたまま、リーダー格の男の顔をにらみ返して口を開く。


「テメェ……父上の裁定が不満なのかよ?」


「父上だと?」


 リーダー格の男が怪訝な顔をする。


 ゾフィーは、ゲオルグの言葉にハッとして、慌ててゲオルグとリーダー格の男の間に割って入り、リーダー格の男の胸を押して後ろへ押し退ける。


「下がれ! 第四皇子ゲオルグ殿下に無礼であろう!」


 リーダー格の男は、ゾフィーに胸を押されて二歩三歩と後退ると短く舌打ちし、態度を豹変させてゲオルグに対して恭しく頭を下げる。


「チッ! これは……第四皇子殿下とは知らず、ご無礼致しました。ひらに御容赦賜りたく。皇帝陛下の裁定に不満など、あろうはずもなく……」


 ゲオルグが態度を豹変させたリーダー格の男を睨んでいると、ゾフィーが頭を下げているリーダー格の男にしたり顔で告げる。


「殿下は寛容であらせられる。下がれ」


「……皇子の正妃気取りか。ゾフィー・ゲキックス」


 リーダー格の男は小声で呟き、もう一段、頭を下げると、取り巻きたちに声を掛け、その場から去っていく。


「皆、行くぞ」






 ゲオルグは、去っていく集団を目線で追った後、呟く。


「なんだ? あいつ? 威張り散らして。偉そうに」


 ゾフィーがゲオルグに解説する。


「クレメンス・フォン・メルヒヴァイラー。第三席侯爵家。旧守派の貴族派閥を率いる大貴族メルヒヴァイラー侯爵家の御曹司です」


 クラウディアが感心しながら告げる。


「詳しいのね」


 ソフィーは、苦々しく答える。


「以前、あの人に言い寄られていたことがあるので」


 ゲオルグは少し驚きながら尋ねる。


「ゾフィーが、あいつに?」


 クラウディアは、トゲのある物言いでゾフィーにチクリと告げる。


「大貴族の御曹司よ。お似合いの相手じゃない?」


 ゾフィーは、吐き捨てるように苦々しく答える。


「お断りですよ! あの人は、私に好意があったのではなく、『皇太子正妃の妹』に関心があっただけです! 私を妃にして、私とお姉様を通した『皇太子殿下の義兄弟』になるつもりだったのでしょう。……虫唾が走ります!」


 ゲオルグは驚きを隠せずに口を開く。


「あいつが兄上の義兄弟になることを狙っていたって? なぜ、そんなことを?」


 クラウディアがしたり顔で答える。


「皇帝陛下によって政権運営から遠ざけられている『旧守派』だからでしょ。ゾフィーを正妃にして『皇太子殿下の義兄弟』になれば、大臣になって政権運営に加わることができるじゃない」


 ゲオルグはクラウディアの説明に納得する。


「なるほどなぁ……」


 ゲオルグは、帝国貴族の力関係としがらみについて、知っている知識を整理する。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ