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気に

「……(ごくり)」


 魔道具店の中に、三つの人影がある。

 生唾を飲み込みながら目の前にある首飾りをじっと見つめているのは、店主であるアリス。 そしてその後ろには、彼女の素材集めを手伝ってきたラケルとラインハルトの姿が見えている。


 彼女たちがここに集まったのは、とうとう完成したこの魔道具――『弱体の首飾り』の効果を確かめるためだ。

 この一ヶ月半の努力の結晶がどのような形になるのか、ドキドキとしながらアリスが首飾りを手に取る。


 素材としてびびっときた石を小さく割り、きれいに磨き上げたその首飾り。

 玄武岩のような光沢のある黒色をしたそれを首にかけようとするが、髪が引っかかってどうにも上手くいかない。


 ちらっと気付かれないようにラケルを見るが、彼はじっと首飾りに集中しておりアリスの視線には気付かなかった。


 皇帝として生きているせいもあり、こういう細かいところは全然気が利かないのだ。

 少しだけむすっとするアリスは自分一人で首飾りをつけ、気を取り直す。


「それじゃあ……いきます!」


 首飾りを装着した彼女の前にあるのは、採集を続けていた時に見つけた小石である。

 付与魔法を発動させると、いつもとは違うひっかかりのようなものがある。

 情報を読み取っていき、『可能性の枝』へとたどり着くと……


『腕力上昇(小)』

『アイスランス(小)』

『拳石化』


 の三つが現れた。

 (小)という単語は、今まで見たことがない。

 恐らく自分が弱体化したことで付与魔法の効力も落ち、作れる魔道具の効果が下がったのだろう。


 思い通りの結果が出たことに内心ではにかみながら、アリスは一番上の『腕力上昇(小)』を選び、魔力情報を刻み込んでいく。

 ふっと光が収まると、そこには新たな魔道具……『腕力上昇の小石』があった。

 二人にこくりと頷くと、彼女は告げる。


「効果は『腕力上昇(小)です』」


「試してみよう」


 そう言って一歩前に出るラケル。

 皇帝として多数の魔道具の献上品をもらったことのある彼は、『腕力上昇』の効果のついた魔道具を以前使用したことがあった。

 それと比べれば、大体の効果のほどもわかるだろう。


 ポケットを石の中に入れてから、ぐっと拳に力を入れる。

 空中に何度かジャブを打ち、そのまま腰に提げた剣の柄に手をかける。

 抜刀すると、剣筋が光の尾を引きながら現れては消えていく。

 彼は数度ほど剣を振ると、アリスの方を向いて、


「魔力使用型にしては少々効果が強すぎるが……高級志向の品ならこれくらいのものはある」


「えっと、つまりは……?」


「――これなら売り物として、世に出しても問題はないだろう」


「やっったあっっ!!」


 思わずガッツポーズを作ってしまうアリス。

 一番のボトルネックだった、自分の魔道具をそのままでは売り物にできないという状況。

 それを打破することができたのだ、こんなに嬉しいことはない。


「良かったな、アリス」


 彼女のこの一月半の頑張りを見てきたラケルは、そういってしきりに頷きながら笑っている。


 そしてそんな二人を一歩引いたところで見ているラインハルトは、二人を見て微笑を浮かべていた。


 こうして無事『アリスの変な魔道具ショップ』は最大の難所を乗り越え、今度こそしっかりとした売り物を揃えた状態でフルタイムの営業を再開するべく再始動を始めるのだった――。




「良かったな、なんとかなりそうで」


「そうだね、あとは知名度をしっかりつけることさえできれば問題はなさそうだ」


 ぴょんぴょんと飛び跳ねながら喜んでいたアリスに別れを告げ、二人は『アリスの変な魔道具ショップ』を後にした。

 ラケルの顔はいつもの凜としたものと比べるといくらか緩んでおり、対してラインハルトの方も笑みを浮かべていた。


 そろそろ帝城へ着くという頃合いで、ラインハルトはなんでもないような口調でラケルに告げる。


「僕、ちょっとアリスのことが気になってるみたいだ」

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