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Dランク冒険者のロック 後編


 通常怪我をした場合、それを治す方法は大別すると二つある。


 一つが回復魔法を使うか、回復効果の込められた魔道具を使用すること。

 そしてもう一つが、ポーションを使用することである。


 ポーションとは錬金術師や薬師が作成可能な、飲んでよしかけてよしの液体の薬である。

 低級のものであれば安価で手に取りやすいが、その反面、効果は回復魔法と比べると限定的になる。

 基本的には長い時間服用し続けることで状態を回復させていくような使い方が主になる。


 ロックが買っていたのは、Dランク冒険者であっても手の届く低級ポーション。

 何度も使っていたからこそ、その使用感はよく理解している。

 小さな傷を塞ぐことくらいはできても、現在の彼のような重傷だと治すまでに定期的な服用をする必要がある……はずだった。


 だが彼が『薬効上昇の竹冠』を使ってそのポーションを服用すると同時、ありえないことが起こった。


 なんとみるみるうちに怪我が治っていき――先ほどまでジクジクと痛んでいたはず傷跡が、一瞬で消えてしまったのだ!


「おいおい、なんだよこれ……」


 ロックは慌てて周囲を見渡した。

 今彼がいるのは、オークソルジャー達との激闘を繰り広げた洞穴の中。

 最深部までやってきているため、当然ながら周囲に人の気配はない。


 治している様子を見られなかったことにほっと安堵してから、治って以前よりぷるぷるになったように見える腕を触ってみる。

 動きを確認してみるが、問題ない。それどころか以前より感覚が鋭敏になっているような気すらしてくる。


 ちょっとでも効きが良くなればいいくらいの軽い気持ちで後払いでもらったものだったが……これはとんでもない代物だ。


「こいつぁ……やべぇな……」


 低級ポーションで重傷を完治させてしまう魔道具。

 その価値は計り知れない。


 たとえばこれを錬金術師ギルドあたりに卸してしまえば、とてつもない値段がつくことになるだろう。

 恐らくだが、一生遊ぶのに困らないくらいの金にはなるはずだ。


 一瞬、ロックの脳裏によこしまな考えがよぎる。

 けれど彼はぶんぶんと勢いよく頭を振って、邪気を頭の中から追い出した。


 そんなことをすれば間違いなく、あの魔道具店の店主であるアリスに迷惑をかけてしまう。

 命を助けてもらった恩義を感じているからこそ、ロックにはそんな不義理を働くことはできなかった。


(とりあえず……今回の依頼と貯金のいくらか包んで、店にもう一回行くか)


 オーク達の処理をして魔石を始めとした素材を採集してから、ロックは竹冠を外して再びベルトにくくりつける。


 先ほどまで冒険者引退の危機だと思っていたが……まさかこんなことになるとは。

 ひょっとすると自分はとんでもないことに足を突っ込んでいるのかもしれない。


 そんな予感を胸に、ロックは『アリスの変な魔道具ショップ』へと再び足を向けるのだった――。



「よぉ」


「あ、お久しぶりです!」


 数日ぶりにやってきた魔道具店は、相変わらず閑古鳥が鳴いていた。


 この店は大丈夫なのだろうか。

 というかなんであんなにすごい魔道具が作れるのに、この店はこんなに繁盛していないのだろうか。


 ロックの胸中は疑問でいっぱいだった。

 だが何はともあれ、まずはお代だ。


 彼は巾着袋を取り出すと、それをすっとアリスへと手渡す。

 中に入っているのは金貨が一枚と銀貨が数枚、それとじゃらじゃらと細かい銅貨がいくらか。

 これが今のロックの支払い能力で渡すことができる精一杯だった。


「これ、あの魔道具の代金だ。正直まだまだ足りないとは思ってるが……残りは今後、金に余裕ができた時に払う」


「いえいえ、お代はこれだけで結構ですよ」


 中身を見ずに、袋を軽く振っただけでそんなことを言う店主。

 もしかすると彼女はあまり金に頓着しない質なのかもしれない。

 だがそれではロックの方が納得ができない。


「馬鹿言わないでくれ、俺はあんたの魔道具に命を救われたんだ!」


「その声が聞けただけで、私は満足です」


 なぜかむふーっと鼻から息を吐きながら、自慢げなアリス。

 彼女を見てロックは思った。

 なんだか放っておけないと。


「でも、そうですね……それなら私の魔道具を使って、有名になってください。そうしたら巡り巡って、私のお店も有名になるはずですから」


 自分がわざわざそんなことをせずとも、あっという間に有名店になりそうなものだが……どうやら彼女は本気で言っているようだった。


 それならその期待に応えてみせる。

 ロックは決意を胸に秘める。

 この竹冠を使うのにふさわしいくらいに、立派な冒険者になろうと。


「ああ、任せてくれ! きっといつか、ロック御用達の魔道具店だと評判にしてみせるさ!」


「――はい、それじゃあよろしくお願いしますね、ロックさん」


 ロックはアリスとがっちりと握手を交わす。

 こうして『アリスの変な魔道具ショップ』に、初めてのお得意様ができるのだった――。


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