ep5 蹂躙の始まり
『――続いてのニュースです。✕✕地方の警察組織の全警官が失踪したという信じがたい』
『――こちら現場の○○です。ご覧の通り、▽▽地域のコンビニが』
『――大変な事態となりました。まさか■■地方の温泉及び銭湯が無くなり』
『――専門家の意見によりますと、△▽地域における教育機関が消失したのは』
『――信じられない事態に発展しました。なんと全出版社のみならず所属している漫画家や小説家までも』
『――スタジオのみなさん。信じられない事態が起こりました。なんと、スポーツ選手全員が謎の失踪を』
『――まったく、いったいこの世に何が起こってるんでしょうね。いやもう人どころか物まで消失してるんでしょ? これはもう、犯罪組織とかの仕業とは思えないですよ。人にできるような所業じゃないですよ』
※
終末は、加速する。
ヒトの都合など。
どうでもいいと言いたげな勢いで。
※
「ッッッッ!?!?!? 聖川、慧斗ッッッッ」
自分の取り巻きがいつの間にやら全滅していて。
そしてこれまたいつの間にやら出現していた聖川を見て入來院が驚愕する。
というか僕も、そして志乃も驚いていた。
それ以前に、まるでDVDなどの映像をスキップするようにいろんな事が、いきなり変わっていて驚かないワケがない。
「そもそも……君は最初っから勘違いをしているよ」
お姫様抱っこした志乃を、僕へ託して。
そして改めて入來院と向き合いながら聖川は告げる。
「この世の支配者は君達じゃない。13000000000年前からね」
「「「????????」」」
しかしそれは、ワケが分からない内容で。
僕達は同時に、頭上に大量の疑問符を浮かべた。
「別に分からなくてもいいよ」
すると聖川は淡々とさらに告げた。
「私のグループが選んだ人以外は、もう終わりだから」
そして、次の瞬間だった。
僕の意識は、突然遠くなって――。
※
「あんた、何者なんだい?」
アルバイト要員として紹介された聖川へと、竹田はみんながいない中でこっそり訊ねた。
自分の中の経験則が、聖川を規格外の存在であると判断し。
そしてそれ故に、聖川がいったい何者であるのか気になってしょうがなかったのである。
「…………竹田さんは、この世の“本当の事”を知りたいですか?」
すると聖川は、質問を質問で返した。
竹田は一瞬、怒りを覚えたが……それが聖川からの警告であると察して、すぐに態度を軟化させ「上等だよ」と返した。
「こちとら八十越えのババアさ。今さらお迎えが来ようとも驚きはしないさ」
「分かりました。では……お話しします」
聖川は淡々と返した。
そして改めて竹田と向き合うと…………まず初めに、こう告げた。
「竹田さん。あなたは選ばれました。とある世界の神に……現在連続して発生している婚約破棄ブームを終わらせるための切り札として」
※
次の瞬間。
僕と志乃……いや、正確に言うと僕達だけじゃない。
僕と志乃のアルバイト仲間……さらには近所の人、それどころか見た事もない人達も。
謎の白い空間の中にいた。
いや、正確に言うと白だけの空間じゃない。
よく見ると周囲には、黒い四角の……まるで窓のような物が、いくつもあった。
それらは円を描くように僕達の周囲に展開していて。
僕らは自然と、いったい自分達の身に何が起こったのか……それを知りたくて、その黒い四角へと近付いて。
――地獄としか言いようのない光景を、黒い四角を見た人から目撃した。
※
入來院由華子は生まれた時から様々な力に恵まれていて。
その影響で彼女は、学校においては女帝も同然の存在と化していた。
そもそも彼女の血族からして、政財界を揺るがせられるほどの大きな影響を及ぼせる大物ばかりであり、そしてそんな血族が、立場が下の者達を顎で使うのを幼い時から見続け、それを真似して彼女自身も、血族が持つ全ての力を当たり前のように使い多くの人間を動かし……彼女が女帝の如き性格にならないワケがなかった。
ついでに言えば、彼女はその中身とは違い見た目は美少女だった。
しかもそれに加え、血族が持つありとあらゆる美にまつわる知識を以てしてその美しさに磨きをかけたため、視線を向けない人間は……逆によほどの嫌悪感を彼女へと抱いている事になる。
そしてだからこそ彼女は、自分を始めとする血族が万能だからこそ。
自分達の理解の及ばない出来事が連続して起こった事に我慢ならなかった。
「いったい、何が起こったの」
自分が狙っていた聖川は。
自分の取り巻きを全滅させた聖川は。
何やら変な事を言って。
そうしたかと思えば、いきなり目の前から……自分が下に見ていた人間達と共に消えた。
まるで、自分こそが万能の存在であるかのように。
入來院の血族の持つ力など、聖川の足元にも及ばないかのように。
しかし、混乱している場合ではなかった。
いやそれ以前に……誰もがもう逃げられやしなかった。
空から、何かが落ちてくる。
それも、いくつも…………数え切れないほどに。
そしてそれらは。
地球へと連続で降り注いだ。




